超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
謝罪するユウコを一瞥してから、ホワイトハートは戦斧を構え直した。だが、今のブラックハート・カオスの実力は二人掛かりでも厳しい。エヌラスもグリーンハート・カオスを相手にしているが、戦況は芳しくなかった。
ユウコの戦闘能力そのものは低くない。自衛に務めてもらえればこちらも専念できる。
「チッ……くそ、ノワール! お前自分が何してるか分かってんのか!?」
「ええ。それが分からないほどバカじゃないつもりだけど」
「その力は、女神化とは違うものなんだぞ! そんなの使ってまで、ゲイムギョウ界のシェアが欲しいってのかお前は!」
「別に? 今のラステイションがシェアトップなのに変わりはないし。私はそれが維持できれば、どうでもいいわ。私はラステイションがより良くなっていけばいいもの」
「だったらどうしてこんなことするんだよ! こんな、女神同士の戦闘だなんて誰が喜ぶんだ!」
「女神にもストレス発散は必要でしょ? モンスター退治で競争してるだけじゃない。国民の脅威を取り除いて、ついでに女神の仕事もできる。一石二鳥でしょ? なにか問題があるかしら」
その力は国民からの信頼を蔑ろにするものだ──ホワイトハートはそう叫びたかった。しかし一度はそれに自惚れたからこそ言葉が出ない。
「……ラステイションが、今のゲイムギョウ界で一番シェアを獲得しているってのは事実だ。ルウィーだって頑張ってるつもりだが、それとこれとじゃ話が違うんだよ! お前が今使っているその力は、国民の信頼に背く力なんだ! 目を覚ましやがれ、ノワール!」
「…………そう? なら、なんであなたはアイツと一緒にいるのかしら?」
「それは──」
「アイツがこっちのゲイムギョウ界で何をしたか忘れたとは言わせないわよ」
新興国家を一つ破壊した張本人。今や国際指名手配犯。あの騒動は忘れていない。ホワイトハートもまだ完全に許したわけではない、だが……。あの時に手を打っていなければ、いつか手遅れになっていたのだ。そうなってからでは遅いと気づいたのは一人だけ。
「……誤解だった、なんてわたしが言っても信じねぇもんな。ましてやエヌラスが言っても信じるわけねぇ、か……」
「誤解もなにも。アイツがゲイムギョウ界のシェアを滅茶苦茶にしたのは事実でしょ」
「そりゃそうだ。そのとおりだよ、ノワール。わたしが間違ってた」
きっと。
この先ずっとエヌラスは誤解されたままだ。アレは、壊すことでしか誰かを助けることができない魔人だ。それは必ず周囲に被害をもたらす。誰かが必ず悲しむ、だから──それを全部、一人で抱え込むことにした。
自分が悪いんだと、自分が諸悪の根源であり、倒されるべき敵なんだと。
そうすれば世界がうまく回るのだと信じて、戦って、傷ついて。
それで全部丸く収まってしまっているのがなおタチが悪い。それで、平気なフリをしているのが拍車をかける。どんなに傷ついても前を向いて挫けないのが困りものだ。
「エヌラスが、全部悪いんだ。だがそれに甘んじて、全部アイツに背負わせるのは何かが間違ってるって思わねぇのか! わたしだって今のノワールみたいにカオス化したさ! 暴走もした、別次元のルウィーに喧嘩を売った! それを止めたのはもうひとりのわたしと、ボロボロになっていたエヌラスだよ! だから今、ノワールとベールを止めようと必死になってんのも、全部アイツのせいなんだよ!」
「なによ、それ。今の私の姿に、この力に何の不満があるのよ! ブランだってこの力を使ったのなら分かるでしょ!? これなら誰にも負けないんじゃないかって、そう思わない?」
「嗚呼、わたしもそう思ったからこそ。もうひとりの自分に喧嘩を売りに行ったんだろうな……でもな! それに呑まれて戦うのは、女神失格だ! 守護女神としてのプライドがあるなら、そんなのに呑まれてんじゃねぇ、ノワール!」
ブラックハート・カオスが不快そうに大剣を振るうと、土埃が舞い上がる。
「……不愉快ね。女神失格だなんて笑わせてくれるわ」
思考にノイズが走った。痛む頭を押さえて、ホワイトハートへ切っ先を突きつける。
「この、カオス化? とかいう力が何なのか私にはどうでもいいのよ! これがあれば、負けないって。私が一番だって。……そうよ、プルルートにだって負けたりなんかしないんだから──!」
「なんでだよ……! なんで、こんなことになっちまうんだ!」
「私は、この力を使いこなしてみせるわよ! ブランとは女神の志が違うのよ、一緒にしないで! カオス化でもダーク化でもなんでも、私は……ッ!!」
頭痛が酷くなり、顔を歪めるブラックハート・カオスにホワイトハートは駆け寄ろうとするが、その身体から新型ウイルス種と同じような黒い霧があふれ出していた。守護女神を蝕むように。
「ノワール!」
「来ないでッ! 近づいたら、斬るわよ……いくらあなたでも、許さないんだから……!」
「……、もしかしてお前……ウイルスの進行が」
自分はまだ対処が早かった。暴走した結果、その原因をすぐに破壊できたからだ。しかし、ノワールは違う。ベール同様、新型ウイルス種の討伐数を競っていた。それを終えて教会に戻る日々を繰り返していたのなら、自分よりも症状が酷いはずだ。
もしも──このままノワールがカオス化したままになったのなら、ラステイションはどうなってしまうだろうか? きっと、国民の信仰を裏切る形になる。見放された女神がどんな末路を辿るのかは、歴史が証明していた。
ホワイトハートは、自分の胸元に手を当てる。苦悶の表情を浮かべるブラックハート・カオスを見つめていた。
──ノワールは、確かに同じ女神としてゲイムギョウ界のシェアを争う敵だ。だが、それ以上に仲間であり、友達だ。それを見捨ててまで国民の信仰を得たいとは決して思わない。
「……ユウコ。もしもわたしが、また暴走したらフライパンで思いっきりぶん殴ってくれ」
「えっ。なにするつもりなの?」
「わたしがどこまで使えるかわからねぇが、やってみる価値ありそうだ!」
「まさかとは思うんだけど……」
ニッと、少しだけ無理にホワイトハートはユウコに笑ってみせた。自分の不安を笑い飛ばすかのように。
「カオス化にはカオス化ぶつけんだよ!」
女神化するのと同じように、自分の胸元に浮かび上がった紋様に意識を集中させる。
もしも、これがカオス症状の源であるのなら──シェアを流し込めば何か変化があるはずだ。そしてそれはすぐに異変となってホワイトハートの身体に表れた。
「くッ、うぅ……!!」
身体の内側から止めどなく溢れ出てくる“何か”が心を蝕む。手放してしまえば楽になる理性を保ちながら、ホワイトハートは自分の正直な欲望を定める。
今はただ、力が欲しい。強い力が欲しい。ノワールに負けないだけの力が──!
「……ブラン……!?」
「わ、たしは……負けねぇ──!! こんな力に! カオス化なんかに……!! テメェにだって負けて……た・ま・る・かぁぁぁっ!!!」
ドス黒い霧がホワイトハートの全身を包み込み、それが爆ぜた。その風圧にブラックハート・カオスもグリーンハート・カオスも目を丸くしている。
エヌラスは弾き飛ばれた状態から地面にブルースシミターを突き刺して海に落ちるのを防ぐが、顔を上げてため息をついた。
「……マジかよ」
「驚きですわ。いったいいつからわたくし達の一歩先を?」
「さぁな。気合と根性だろ」
「それでどうにかなるものでしたか、この力は」
「俺がそうなんだから、女神もそうだろ」
──そう都合よく使いこなせるものではないとホワイトハートは思っていた。事実、カオス化に成功した今でも、少しでも気を緩めると呑まれそうになる。
自分の中で破壊衝動のようなものがせめぎ合っていた。見境なく暴れだしたくなる衝動を抑えながら、ホワイトハート・カオスは黒く染まった戦斧を担ぎ直す。
「ッ……! でき、た……! なんだ、へへ……やればできるじゃねーか、わたしも。これでテメェと互角に張り合えるってわけだ!」
「……やるじゃない。見直したわ。だけどそんな付け焼き刃のカオス化で私に勝てると思わないことね!」
「ハッ! そりゃこっちの台詞だ。負けて泣いても承知しねぇからな、ノワール!! 覚悟しやがれ!」
ホワイトハート・カオスとブラックハート・カオスの女神武器が衝突し、今度は戦斧に軍配が上がった。その手応えに笑みを浮かべながら、続けて身体を回して振り下ろす。だが、地面に亀裂を入れるだけに留まった。
素早く飛び下がったブラックハート・カオスは自分の身体に不調をきたしているのを感じ、顔をしかめる。
「……、ベール。今日のところは勝負を預けるわよ!」
「わたくしはかまいませんわ。またいつでもどうぞ」
「あ、テメェ! 逃げるつもりかノワール!」
「次はあなたもただで済むと思わないことね、ブラン!」
爆音と共に青空を駆け抜ける姿は、あっという間に飛び去ってしまった。それに舌打ちを漏らすホワイトハート・カオスだったが、グリーンハート・カオスに向き直る。
「おい、テメェはどうすんだベール。わたし達を相手にするか、話し合いにするかぐらいは聞いてやるぜ」
「……数の不利もありますし、わたくしはご遠慮させていただきますわ。ブランがこのカオス化を扱えるとは想定外でしたもの」
「賢明な判断だな。勝負するってならその邪魔そうな胸肉を叩き潰してやってたところだ」
「相変わらず冗談が上手いですね、ブランは。まぁいいですけど」
穂先を下ろし、グリーンハート・カオスは玉のような汗を流すエヌラスを見やり、それからホワイトハート・カオスを見つめると頬に手を当てた。カオス化しても自分の優位性を崩すような立ち回り方をしないのは、それだけ順応しているということか。
「そうですね、今なら多少なりとも話を聞いてあげてもよろしくてよ?」
「こういう時はテメェの態度に感謝するぜ、ベール。リーンボックスに異常はねぇんだろうな」
「わたくしを誰だとお思いですか。ノワールと一緒にしないでください」
エヌラスは深く息を吐いて、その場に腰を下ろした。それにユウコが駆け寄ると、手を貸して立ち上がらせる。
「そんなんで大丈夫?」
「あー、まぁなんとか」
「本音は?」
「ごめん、やっぱ辛ぇわ……」
怪我は全て銀鍵守護器官で治療しているとはいえ、それだけ魔力の消耗量も増える。そうなれば右腕の感覚も鈍くなり、動きが悪かった。その隙を突かれてグリーンハート・カオス相手にだいぶ苦戦していたようだがブラックハート・カオスが撤退したことで事なきを得る。
「では、積もる話はリーンボックスで聞かせていただきますわ」
その言葉に、エヌラス達は深く頷いた。