超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ブラックハート・カオスの剣撃に互角に渡り合うバルザイの偃月刀を振るうブラッドソウルに、悔し涙が浮かぶ。
女神化だけでなくカオス化までしているというのに、それでもまだ埋まらない実力差がそこにはあった。それが──どうしようもなく腹立たしい。こちらの攻撃は通っているはずなのに。
どれだけ打ちのめされようと立ち上がる。自分の身体など意に介していない。
その真っ直ぐな目が。その戦いが、守護女神としてのあるべき姿のようで。今の自分が否定されているような気分で不愉快に感じる。
大剣を捌き、紫電を纏わせた蹴撃で距離を取ると両手に拳銃を握りしめて引き金を引いた。
白銀の魔弾と深紅の魔弾が迫る。その全てをブラックハート・カオスは凌いだ。その場から一気に踏み込んでブラッドソウルとの距離を詰める。
クトゥグアを偃月刀に切り替えようとするが、ブラッドソウルの手から銃がこぼれ落ちる。それをやぶれかぶれで蹴り出し、目眩ましとして切り替えた。自分の右手がどうなっているか気づいていないのか、一瞥してからようやく銀鍵守護器官によって再生させる。
「ふんっ!」
左手で右拳を掴んだかと思うと、それを元通りに折り曲げて治した。血の気が引くような荒療治に、しかしブラックハート・カオスは焦燥感に駆られるまま加速して大剣を振り下ろす。バルザイの偃月刀を間一髪のところで鍛造すると、今度は二刀流で振るった。
「っ……」
「いい加減、目を覚ませっての……!」
「うる、さいっ! 私は」
──カオス化してまで得ようとした力は、友達を止めたかっただけだ。だが、それがどうしてこうも上手くいかないのだろう。しかも相手は全力も出せないような状態だというのに。
力任せの一撃によってブラッドソウルがたたらを踏み、なんとか堪える。しかし、黒い霧に呑まれたブラックハート・カオスの大剣にカオスエナジーが収束していく。
神速の連撃──ケイオス・インフィニティスラッシュを捌いていたブラッドソウルだが、左側からの斬撃を一撃もらった。立て直す暇を与えずにブラックハート・カオスの剣はますます速さを増していく。
防御魔術でなんとか凌いでいたが、それも程なくして限界を迎えた。防御が崩れると同時に、カオスエナジーによって形成した巨大な刃をブラッドソウルに全身を使って振り下ろす。
地面へと叩きつけられると、すぐに変神が解除された。咳き込み、血を吐き出しながらも、まだ立ち上がろうとする姿にブラックハート・カオスが剣を構えると戦斧が飛んでくる。
ホワイトハートがキャッチしてすぐにエヌラスを庇うように前に出た。それから遅れてグリーンハートもユウコを連れてブラックハート・カオスに穂先を突きつける。
「おい、エヌラス。大丈夫か?」
「まだ死んでねえよ……」
身体を起こしたエヌラスだが、たった一度の変神でシェアの残量が尽きてしまっていた。変神を維持できる時間も、引き上げられるはずの戦闘能力も以前より大幅に低下している。ゼロクリスタルの損傷が予想以上に自分の能力に制限を掛けていた。このままでは、自己の存在が消滅するのも時間の問題だ──。
「……ブラン、ベール。あなた達までそいつの肩を持つの?」
「ああ。今のお前を味方するのなんてゴメンだ」
「残念ながらノワール、わたくしもブランと同意見です。そのカオス化を使い続ける限りは」
「なによ。プルルートを元に戻すために今まで一緒に戦ってきたのに──!」
「目を覚ましたらどうですか。今の貴方は、ラステイションの為に力を振るっているわけではないでしょう」
「私はッ!」
ラステイションの為に、戦ってきた。守護女神として。だが……だが──今はどうして戦っているのか、自分に問いかけても答えが口から出てこない。
「……、プルルートを元に戻す為に。この力を手に入れた! 新種のモンスター退治も、ラステイションの執政も全部、やってきたのに! それでも私が間違っているって言うの!? あなた達だってそれに賛同して今日までやってきたはずなのに──また、そいつが……!」
「落ち着いて聞いてください、ノワール。貴方が今使っているその力は、国民の信仰に背きながら得た力です。それを振るうことが女神として正しいかどうか、貴方ならよく分かっているはずではないのですか?」
「それがどうして──……」
「──ちが、う……。私は、そんなつもりでこの力を使ってたわけじゃない……カオス化だって、元はプルルートが……! あの子を、助けたくて……今のままじゃ、勝てないって……! だから私は──私は、強くならなきゃって……!!」
「……ノワール」
「お待ちになって、ブラン。なにか様子が」
歩み寄ろうとしたホワイトハートをグリーンハートが止める。右足の太もも、紋様が発光していた。ブラックハート・カオスの全身を包み込む霧の濃度が深くなっていた。それは、守護女神であるよりも魔神としての波長に近くなっていく。エヌラスはそこで、血を吐き捨てて立ち上がった。
「ちょ、ちょっとエヌラス!?」
「ブラン、ベール! ノワールを任せたぞ!」
「おい!? テメェはどうするつもりだ!」
「この際、四の五の手段を選んでもいられるかッ!!」
背を向けて駆け出し、ハンティングホラーが影から飛び出す。並走していたが、すぐに飛び乗るとアクセルを踏んでギアを全開にした。あっという間に遠ざかる姿に、ラステイションがそびえ立っている。
「アイツ、まさか教会を襲撃するつもりか!?」
「そんなことをすれば……、止めにいきたいところですがこちらも目を離すわけにはいかないみたいですわ、ブラン!」
ブラックハート・カオスが笑いながら大剣を拾い上げて、二人に向かって振り下ろした。ホワイトハートが受け止めるが、その場から後退る。グリーンハートの長槍も難なく避けてみせた。
「あっ──はははははは! あはははは! あぁ、もう……! そうよ、私が、二人を倒せばきっと──きっと、あなた達の力も、私が……!」
「……わたくしたちも、ああなっていたかもしれないと考えるとゾッとしますわね」
「ああ、だな……まるで力の亡者だ。勘弁してほしいぜ、まったくよぉ!」
──ハンティングホラーのハンドルを握る手が震える。銀鍵守護器官によって臓腑が焼け付くほど再生に回すが、それでも身体が万全の状態になっているかも分からない。全身の感覚が正気を失ったような錯覚にエヌラスは歯を食い縛った。奥歯を噛み締め、過剰に再生される肉体から湯気が立ち込めている。口腔からも白い息が漏れ出していた。
ラステイションの城壁がぐんぐん近づいてくる。心臓の鼓動が跳ねる──ゼロクリスタルが鳴いていた。それは、自己防衛本能とも言うべき衝動に近い。
“自分以外の全てを破壊する”という欲求に駆られる。それを抑え込む。その脅威対象である守護女神達は遙か後方に置き去りにしてきた。
(──勘弁、しろよ)
涙がこみ上げてくる。一刻も早く、事態は一刻を争う緊急事態だ。だというのに、自分の身体はこんなにも壊れかけている。年貢の納め時が来たらしい……生憎とこちとら無一文の万年無職だ。納める税金も踏み倒して上等の最低野郎。今更取り立てに来られても時すでに遅し。
「──」
叫び出したい衝動に駆られる。だが、魔力を暴走させてしまおうかとしたその時。ハンティングホラーの轍が魔術文字を地面に刻んでいく。
『“さらばヴァルハラ。光輝に満ちた世界よ──”』
「ッ……ォォォオオオオ、“
これまでずっと、沈黙を貫いていた。意思を持った獣が吠える。
ただ一人、手綱を握ることを認めた主の想いに答えた。
……闇の中から自分を救ってくれた。闇を狩る獣として生まれ変わらせてくれた。
だから、覚めない闇が迫ってくるのなら。その全てを置き去りにして光へ導くのが自分の役目。
さらば栄華を誇る神々の栄光よ。
──この人だけは、二度と地獄に落とさない。
「ニ、ヴルヘイム……ッ!!」
『──Fenriswolf!』
次の瞬間。エヌラスとハンティングホラーは一条の光となってラステイション城壁を粉砕し、教会までの距離を瞬く間に駆け抜けた。光速の最中でありながら、エヌラスは自分の本能に突き動かされるようにハンドルを切る。
ラステイション教会、その上層階である執務室から発せられる結晶目掛けて流星が駆け抜けた。
教会の職員達は何が起きたかすらも知覚できなかった。理解の範疇を超えた速度で何かが激突した、としか認識していない。教会が揺れて、転倒して立ち上がってからようやくそこで女神の居城たるラステイション教会が襲撃されたのだと間の抜けたことに気づく。
衛兵達を連れて上層階にたどり着いた時、そこは見るも無残な惨状だったという。
城壁は破壊され、突風によって街に少なからず被害をもたらし、教会の倉庫に保管していた結晶は打ち砕かれ、滅茶苦茶な有様である。
何よりも驚いたのは、その破壊をもたらした張本人が、すでに瀕死の重傷を負っていたということだ。教会の職員たちは酷く狼狽し、ひとまずエヌラスを確保してすぐに病院へ移送する。
それから間もなくして、ホワイトハートとグリーンハートが気を失ったノワールを運んできたものだからラステイションではちょっとした騒動になった。