超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「どこ行ってたんだよ」
「ちょっと外の風浴びに」
「……煙草とお酒の臭いしますけどぉ」
「あー……」
「おーまーえーはー」
「病院内では静かにな? な? ほら、ははは……」
「~~、はははじゃねぇやい……」
ぽんぽんとベッドを叩き、座るように促すユウコにエヌラスは従う事にした。大人しく腰を下ろすと、今度は握りしめていたシーツを投げてくる。
「めちゃくちゃ、心配したし不安だったんだから。少しは気を使えっての」
「俺も気を使ってるつもりなんだけどな」
「ど・こ・が!?」
「いや、だから病院では静かにな……」
病室を抜け出してドラッグシガーと黄金の蜂蜜酒を摂取した口で言えることではないが。
「……悪かったよ」
「うん……」
ユウコは隣に座ると、左手を重ねた。指先が触れる程度だったが、エヌラスは気づかない。腕を絡めるとそこで気づいたのか頭を預ける。
全身の感覚が鈍いということに勘付かれなければいいが、難しい話だ。
「──エヌラス」
「んー……?」
ユウコが頬に手を添えて、振り向かせる。顔をリンゴのように赤くしながら、ゆっくりと頭を近づけていた。
触れた唇をすぐに離すと息をぐっと呑んで、もう一度だけキスを繰り返す。
「────」
「……、」
自分のしていることをズルいと後ろめたく思いながらも、ユウコは離れようとはしなかった。息を止めて、十秒……それから数秒後、ようやく唇を離す。
「……私のこと、ズルいって思う?」
「なんでだよ」
「だって──」
エヌラスは女神が好きなのに。そんなことは分かりきっているのに。自分はまだ諦めきれなくて妬いている。この人のことは自分がよく知っているのだと思ってしまう。
頬を撫でて、唇をなぞって、首から肩に手を回して抱きしめる。手放したくないと、自分の心の底からそう思っていた。誰にも渡したくないとも思っている。このままずっと一緒にいれたらと、小さなわがまますら聞いてくれない。──そう考えるだけで、目頭が熱く、こみ上げてくるものがあった。
「だって、やな奴だよ私? 君のこと女神様になんか、渡したくないって。世界のことなんかどうでもいいって。邪神なんて女神様に任せておけばいいって。ぷるちゃんのことだってさ、きっとのわちゃん達がなんとかしてくれるから、だから……もう、いいじゃん。君がこんな戦いで傷つく必要なんてどこにもないって、ずっと思ってて──病院に運ばれた時もこのままユノスダスに連れて帰ろうかと思ったくらいだよ?」
「じゃあ、そうすればよかったじゃねぇか」
「……そんなことしたら、エヌラス怒るでしょ?」
「そりゃあな」
「やだもん、そんな……怒られたくないし」
誰かに嫌われるのが怖くて。とりわけそれが、自分の想い人からなのは耐えられない。
「──やだよ、私は。君に、嫌われたくなんかないよ……! だって、私……吸血鬼だよ? 人間じゃ、ないんだよ? こんなの、やだ……!」
「…………」
自分が慕われているのは、国王としての地位と権力があるから。
自分が親しまれているのは、ユノスダス国王として。
自分を愛している人は、人間は、きっと。誰も。あの世界には──。
「エヌラス──なんで、かな。なんで私、吸血鬼の適正なんてあったんだろ……化物になんか、なりたくなかったよ」
「そんなこと言ったら俺なんて生まれた時から化物だぞ?」
「知ってるよ。でもさ……君は、そんなの関係なしに誰とでも仲良くしてるじゃん」
「なんか嫌味っぽい言い方だな……」
「だって実際そうなんだもん……」
「いや、まぁ、そりゃそうなんだが」
今のユウコはすっかりネガティブモードなようだ。こうなると中々に手がかかる。
「俺はお前が人間でも吸血鬼でもどっちでもいいぞ?」
「……知ってるもん」
「それもそうか。知ってたな」
「だから……、君には嫌われたくないって、思ってるし」
嫌うはずがあるものか、と口で言ってしまえば納得してくれるだろうか。だが、こうなるとユウコはとことん自分に自信がなくなる。普段は明るく気前よく器量もいいが少しお金にうるさいものの、その本心は年相応の少女のソレとさほど変わりない。
吸血鬼としてあまりにも異例な存在で、普通の人間だったユウコには今もなお受け入れがたい現実だからこそ、振り返る度に耐えきれない。吸血鬼としての自分が。
ムルフェストは生粋の吸血姫。クロックサイコもまた、吸血鬼ではあるがあれは異常者だ。だがユウコは違う。そのどちらでもない。人間にも吸血鬼にもなりきれない半端な立ち位置。そこにあるのは、儚く脆い少女の心だけ。
こんな自分でも受け入れてくれる人がいるのか、ということだけ。吸血鬼の真祖ですら逸した異常な身体能力。ムルフェストですらユウコに一歩劣る。
──だからエヌラスだけが、心の拠り所だった。たった一度だけだが、自分を求めてくれた。身体を重ねて、愛してくれたから。それは嘘偽りのない、真実だ。
守護女神とであってから見向きもされなくなったことが怖い。もう自分に振り向いてくれないのではないかと恐れている。だから、少しだけ手が震えていた。
「……バカか、お前」
「なん……私は、本気で──」
「だから、バカか。俺がお前を嫌うわけねぇだろうが。見捨てたりなんかしないし、忘れもしねぇよ。言葉で足りなきゃ、俺にできそうなことと言えば……抱いてやるくらいか」
「……、ん」
コクリ、と。小さくユウコが頷く。
「それでも、いいよ……君からなら、なんでも──」
「……白状すると。初めてお前のこと抱いた時、シェアとかどうでもよかったんだよ」
妹を失い、恋人を奪われ、世界の全てをやり直すための切っ掛け。塔争の最中で、自分に味方してくれた唯一の──それが商業国家国王としての地位や立場であったとしても、エヌラスにとって最後の砦だった。
もしも。ユウコに裏切られていたら、あの戦いを放棄していた。
だけど、見捨てなかった。女神を助ける自分の背中を最後まで押してくれた。
その時から──絶対に、見捨てないと決めて。必ず救うと誓って。戦い続けてきた。それが次元神の玩具になることだろうと。
「ん……」
こんな身体でなければ。
こんな自分でなければ。
こんな運命でなければ。
──きっと。幸せにしてやると、誓えたのに。
例えどれだけの美辞麗句を並べて。例えどれだけの言葉を重ねても。例えどれだけの困難を乗り越えたとしても。たった一つの事実が突きつけられる。
自分が絶望の魔人であるということ。それだけが。
願わくば──もしも、それが叶うのならば。魔人に奇蹟が許されるというのなら──。
夜道を照らす月のように、正しく在りたい。
「……エヌラス。あの、さ──病院、だから。あんまり激しいのは、だめ、だよ?」
「知ってるよ。っていうか俺も怪我人なんだぞ?」
「ん……じゃあ、ほら……私ががんばる、から……なんでも言ってよ」
ベッドに押し倒されて、顔を真赤にしているユウコの服を一枚ずつ脱がせていく。
玉の肌が露わになり、胸を押さえていた。パンティだけはそのままにして、エヌラスが顔を近づけると何度めかのキスをするが、舌を出すとユウコもそれに応える。
「はぶっ……ん、っく……! んんぅ……、!」
口の中で絡み合う舌が、唾液を滲ませていく。
喉を鳴らしながらユウコはそれを飲み込んでいき、エヌラスも同じように唾液を貪っていた。口を離すと、熱い吐息と共に銀糸が引いている。
「~~~~!」
何か言いたげに、真っ赤な顔で訴えてくる目尻には涙が浮かんでいた。普段はあんなにも口うるさいのに、いざベッドの上になるとこんなにも大人しい。顎に手を添えて自分に向け、唇を塞ぐ。身体を強張らせていたが、やがて緊張が解れてきたのか首に腕を回して抱きしめてきた。
「……ん……あったかい……」
「胸、当たってんぞ」
「う……ぅっせぃやい……でかくて、悪かったね……」
「俺としては役得だから気にしなくていい」
「……君だって、おっきぃくせに……」
「どこが?」
「そりゃ──ぁ、ばか……言わせないでってば……」
顔を逸らすユウコが、たまらなく愛おしい。このまま獣欲の限りを尽くしたくなるほどに。