超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──グリーンハートの鋭い刺突、イエローハート・カオスは両手の篭手で捌きながら足を振り上げて引き戻す長槍に引っ掛ける。間合いを詰められるよりも先に、シレットスピアーを展開しながら素早く身を翻して距離を保とうとした。
しかし、大きな尻尾が延長して刃でグリーンハートを弾き飛ばす。
「ん、っしょ!」
イエローハート自身の格闘センスは天才的だ。そこに中距離に対応した刃尾が追加されたことでリーチの短さも補われている。
コードを巻き取るように尻尾が背面のプロセッサユニットへ戻り、イエローハート・カオスのお尻から垂れ下がっていた。
(くっ……さすがにピーシェちゃんが相手ではわたくしの槍さばきも鈍りますわね)
しかしそんな泣き言も言っていられない。
こちらもカオス化で対抗すべきか──グリーンハートは考えるが、自分と相手の力量と相性を冷静に考える。だが、カオス化した後の長槍は大鎌と兼用。一騎打ちよりも多勢を相手にする方が本領だ。テクニックでカバー、と言いたいがそれもイエローハート・カオスの反射神経と運動神経、格闘センスを相手にどれだけ有効的か。
「────」
「べるべる、こないの? それじゃあ、わたしからいくよっ!」
体を沈み込ませて、両足の爪で地面を蹴り出しながらイエローハート・カオスが踏み込む。
──ゆさっ。
「っ……!」
「それそれそれー!」
ゆさっゆさっ。
穂先でクローと刃尾の連携を捌き、サマーソルトキックを柄で防ぎつつ後方に下がる。
「むぅ~、べるべる当たんない!」
「──くっ、なんですかこの敗北感は! まだ勝敗が決まったわけではないというのに、目の前で遠慮もなくゆっさゆっさ、ゆっさゆっさたゆんたゆんと! わたくしの! 前で!」
「?」
「いくらピーシェちゃんと言えど許せませんわ!」
あどけない表情で小首を傾げているが、とりあえずグリーンハートがやる気を出してくれたことを素直に喜んでいた。
アイリスハート・カオスとホワイトハートの攻防も旗色は良くない。蛇腹剣と魔法の合わせ技による変則的な攻撃だけでなく、防御にも長けている。
「うふふ。ベールさんとピーシェちゃんも盛り上がっているし、こっちも負けていられないわよねぇ、ブランちゃん」
「誰が今のテメェになんか負けるかよ!」
「そうよねぇ。じゃあ、もうちょっと本気出しちゃってもいいってことよねぇ!」
(大見得切ったはいいが、これは流石のわたしも厳しいな……!)
一度感染したからか、アイリスハート・カオスの攻撃によって汚染されるようなことはないがそれでも底上げされた相手の戦闘能力に互角に持ち込むだけでも精一杯だ。
(やっぱわたしもカオス化して対抗するか……!)
ホワイトハートが自分の胸元に手を当てて息を整えるが、それを見てグリーンハートがイエロハート・カオスをあしらって止める。
「いけませんわ、ブラン。カオス化は控えた方が」
「なんでだよ、このままじゃ押し切られちまうぞ」
「確かに。そうかもしれませんが、まだ耐えられるでしょう?」
「……さっき怒りに任せた声が聞こえたような気がするんだけど、わたしの気のせいか?」
「き、気のせいではなくて!? まさかそんな、わたくしが? なにかの聞き間違いではなくて?」
「まぁ聞かなかったことにしといてやるよ」
アイリスハート・カオスの隣にイエローハート・カオスが並んだ。少しだけ頬を膨らませて不機嫌そうにしている。
「もー、べるべるったらすぐ逃げるんだから!」
「いつになく弱腰ねぇ、ベールさん? ブランちゃんも、口ばっかりで前とあんまり変わってないし……それにしても妙な話よねぇ。今までず~っとあたしからコソコソと隠れていたのに、急に遊びに来てくれるだなんて──もしかしてとは思うんだけど、なにか隠してたりしない?」
背筋が凍りつくような笑みを浮かべて、アイリスハート・カオスは蛇腹剣を鞭状に変形させると地面を叩いた。
「カオス化……カオス化、そうねぇ? 今のあたしとピーシェちゃんがその状態だって言うなら納得もいくわ」
「うんっ、すっご~く身体が軽くって楽しい!」
「わかったぁ♪ 二人もできるんでしょ。その様子じゃ、ノワールちゃんも楽しませてくれそうねぇ? 最近相手してくれなくて寂しかったのよ?」
「……いい気なもんだな。その力がどれだけ危険かも知らねぇで」
「危険? あらぁ、そうなの。知らなかったわ♪ 教えてくれてありがと、ブランちゃん」
「人をバカにしやがって……」
「ブラン。落ち着いてください。プルルートの挑発に乗ったらそれこそ思う壺です」
感情任せにカオス化したところで制御できるはずがない。ホワイトハートは一度呼吸を整えた。
「ま、あたしには別にどっちでもいいは・な・し♪ もうちょっと遅かったらこっちから会いに行っていたところだもの。来てくれて嬉しいのは本当の話よ」
「わたくし達は、カオス化の原因を探していたのです。ですがそれも元凶がわかった以上、現状を放置しておくわけにはいきません」
「へぇ、そうなの。でも、今の二人じゃあたしとピーシェちゃんに勝ち目は薄いんじゃないかしら? ノワールちゃんを待たなくていいの? 三人まとめてでもいいわよ、そっちのが盛り上がるじゃなぁい。だ・か・ら、カオス化……してもいいのよ?」
この場で少しでも二人を消耗させるべきか。ホワイトハートとグリーンハートが悩む間に、頬を膨らませてイエローハート・カオスが地団駄を踏み始めた。どうやら話し合っていた三人に交ざれず退屈したらしい。
両手のクローを地面に突き刺し、両足の爪で地面を噛みしめる。尻尾をしならせてアンカーのように自分の身体を固定すると、プロセッサユニットの翼を広げてフレアを噴射した。発射前のロケットのようにその場で踏み止まる。
「お話ししてないで、わたしも遊ぶー!」
「ベールッ!!」
イエローハート・カオスが突撃してきた。その目標がグリーンハートだったことに気づいたホワイトハートが戦斧を斜に構えて突き出される両手のクローをしのぐが、続く飛び蹴りからの尻尾までは防ぎきれずに地面を転がる。グリーンハートがそちらに気を取られた隙を突くようにアイリスハート・カオスの蛇腹剣が身体に巻き付き、地面に叩きつけた。
「二人をイジメてれば、ノワールちゃんもすぐ来てくれるかしらね~?」
「え~、もうちょっと遊びたーい。ねーぷるると、いいでしょ」
「じゃあ──」
鞭を巻取り、剣の状態から切っ先を倒れた二人に向ける。魔法を準備するアイリスハート・カオスに寒気すら覚えた。
「この一撃に耐えた方を、ピーシェちゃんに分けてあげるわ」
「よーしっ、どっちかな♪ わくわく、ワクワク♪」
放たれるアイリスハート・カオスの魔法が二人を吹き飛ばす、その直前に──遠くからバイクのエンジン音が駆け抜ける。グリーンハートとホワイトハートの身体を抱えて土煙と共に停車するハンティングホラーを見て目を白黒させていた。
「──なんだ、思いの外苦戦してたみたいだな二人とも」
「……エヌラス!? おまえ、何してんだここで!?」
「やっほー、二人とも。いやゴメンね。こいつ言っても聞かなくて」
「ユウコまで」
「────」
「あーっ!! ユウコだー♪ 久しぶり、ねぇね! ドーンッてやっていい? いい?」
アイリスハート・カオスはまだ驚いた表情をしている。その傍ら、止める暇もなくイエローハート・カオスはハンティングホラーから降りたユウコに向けて飛びかかろうとしていた。
「せーのっ!」
飛びかかるイエローハート・カオスは無邪気な笑みを浮かべたままだが、ユウコは油断せずに戦闘用のフライパンを構えて爪を防ぐ。だが、底面を突き破って鼻先で止めていた。それにはお互いが驚いている。
「むっ。てーいっ!」
まるで布でも引き裂くようにフライパンを爪でちぎり捨てたが、首を傾げていた。防がれたことが疑問らしい。それでも、自分の攻撃を受け止めてくれたことが嬉しいのかやはり満面の笑みを浮かべている。
「ぴぃちゃん、今のすっごく危なかったよ? 怪我したらどうするの?」
「うゆ? でも本気じゃなかったよ? ユウコなら大丈夫!」
「反省の色なし。人に迷惑かけたり、危ないことしたらごめんなさいは!?」
「むーっ! 大丈夫ったら大丈夫だもん!」
「危なかったから私は怒ってるの! ぴぃちゃん悪い子!」
「わたし悪くないッ! そこまで言うなら、相手がユウコでも戦うよ!」
「……ぴぃちゃん」
イエローハート・カオスが眉をつり上げて、構えていた。ユウコの頼みの綱であるフライパンも壊れてしまっている。グリーンハートが加勢しようとするが、まだ身体にしびれが残っていた。
唇を尖らせながらフライパンを捨てて、ユウコが準備体操を始める。
──最初から、そんな気はしていた。都合よくピーシェだけが汚染されていないなんてことは無いと。ただ、多少、自分の想定を超えてイエローハート・カオスの能力が上回っていただけ。だから今日はいつものスカートではなく動きやすいジャケットにパンツルックで決めてきた。
「えーっと、どっちか……ほんのちょっとだけ、血を分けてくれると助かるんだけど……」
「わたくしか、ブランの?」
「それはかまわねぇけど……勝てんのかよ……あのピーシェだぞ」
「いやぁ、ほら、なんていうか。悪い子にはちゃんとお仕置きしたげないと」
グリーンハートとホワイトハートが顔を見合わせ、頷く。その後ろでエヌラスはドラッグシガーを咥えたままアイリスハート・カオスに向けて歩み寄っていた。
「──うっふふふ……久しぶりね、エヌラス?」
「あいっかわらず絶好調なようで心配して損した気分だ」
「あたしは今、ものすっごくご機嫌よ♪ 歌でも歌いたい気分だわ」
恍惚とした表情で、絶好の獲物を見つめるプラネテューヌの守護女神に対して、エヌラスの顔色はあまり優れない。
「ちょっと見ない間に、また男前になってるわねぇ」
「そりゃどうも。褒め言葉として受け取っておくが」
「──でも、誰に怪我をさせられたのかしら。
「聞きたいか? そりゃあ聞きたいだろうが、ダメだ。許可できないな」
「左目も、右腕も、全部あたしの物のはずなのにねぇ。いくら優しさに定評のあるあたしでも、自分のモノを傷物にされて黙っていられるわけないじゃない?」
「あーそうかよ。俺も似たような気分で最ッ悪だ」
ヂリヂリとドラッグシガーを吸いながら、紫煙を吐き出す。
「人の女神をおかしくさせやがって。どこのどいつだ、次元の果てまで追い詰めてぶっ殺してやりてぇ気分でいっぱいだ。胸糞悪ぃ」
「そんな怒らないでもいいでしょ? 気に入らなかったかしら、この衣装は」
「いいや、そっちもそっちで似合ってる。俺が言ってんのは──」
左手で煙草を消し炭にしてバルザイの偃月刀を肩に担ぐ。右腕の魔術回路を総動員させて片腕をカバーするように展開させた。
「テメェがそうなるまで気づかなかった自分と、その元凶を呼び寄せたのが他でもねぇ自分だってことだ」
「ええ、そうね♪ あたしも──これ以上あなたが他の誰かに傷物にされるのは黙って見てるわけにはいかなくなっちゃったわ」
アイリスハート・カオスの放つ多様な魔術を複製した偃月刀で防ぎ、相殺させながらエヌラスが距離を詰める。蛇腹剣とバルザイの偃月刀がせめぎ合い、打ち合い、火花を散らしながら鍔迫り合いに持ち込むと鼻先が触れるほど互いの顔を近づけて睨み合っていた。
女神のシンボルでもあるシェアマークの瞳、その奥に潜むカオスエナジーの妖しい輝き。妖艶な笑みを浮かべ、恍惚とした表情で頬に手を添えるアイリスハート・カオスが熱い吐息をこぼす。
「あぁでも……一度でいいから、本気で
「剣よりベッドの上がご所望ならいつでも付き合うが?」
──シェアクリスタルを取り出そうとして、エヌラスは躊躇した。自分に残された時間は、決して短くない。だが、今やそれも自分の身体を蝕む毒となり得る選択肢だ。
それでも眼前のアイリスハート・カオスを見て、一寸考える。たったそれだけ。
それでも、自分の命を天秤にかけて、どちらを優先すべきかなど答えは決まっていた。今は悩む時間すら惜しいのだから。
「──
「そうこなくっちゃ、盛り上がらないわよねぇ、あっははははは!!」