超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──商業国家ユノスダス。
カジノ都市アクア・エデンに蔓延る吸血鬼残党を狩り出すシルヴィオ。それに付き添うソラの二人の足元には無数の吸血鬼達が倒れていた。
通常、先天的な吸血鬼である真祖はほぼ不死身に近い。それに比べて死徒と呼ばれる後天的な吸血鬼は「超人に近い」というだけだ。仲間を増やせるという点は同じだが、不死身ではない。
「いや助かるよ、電脳国家国王」
「気にしないでください。こちらとしても火力テストはしたかったので」
「ははは、それを吸血鬼相手にともなると」
「むしろそれくらいでないと耐えてくれないでしょうし」
大型のマガジンを分散させて、ソラは新たにマガジンを装填する。
エヌラスのレイジングブルを参考にして改良を重ねた自動型拳銃。44口径。使用している火薬と材料と鉛玉に水銀を混ぜたもの。幾つか九龍アマルガム製の品も使っているが、相性は問題なかったようだ。
倒れていた吸血鬼が起き上がろうとするが、ソラは容赦なく背中から三発撃ち込む。何度か痙攣したかと思えば、動かなくなった。
「実戦に耐えられる強度なら合格、と」
「ざっと数十体はいたにしても流石は──」
シルヴィオが気配を感じ取り、街灯に向けて拳を振るう。レイピアのような鋭い刺突、虚空へ向けられていた拳圧は乾いた音と共に弾けた。
「──にひ~っ。おっつかれ、お二人さん♪」
「……ムルフェスト」
「なにか用?」
「やだなぁ、労いに来たのに。はいこれ、あげるねー」
ムルフェストが二人に向けて投げたのは市販の缶コーヒー。元はホットだったのだろうか、少し温くなっている。ソラは夜間用の眼鏡を直してから、一応手にした缶コーヒーを検査した。
チェック完了、成分表示問題なし。薬物チェックもオールクリア。
「どうも。飲んでも問題なさそうですよ」
「……ふん」
「ソラも最近頑張ってるねぇ? お国の方で色々あったのに」
「僕はいいんだよ。一段落ついたから、息抜きがてらユウコに恩も売れるし」
缶コーヒーを開けながら、ソラは中身を口に含む。微糖の甘さが程よい口当たり。
「流石の私でも食らったら無事じゃ済まないかもねー、その銃。なんでまた化け物狩り特化の武器を開発なんて始めたの? やっぱあれ? 邪神対策? いやぁ無理だと思うけどねぇその程度じゃ足りないよ」
「んじゃ君で火力テストしてみようか?」
「まず当たんないからやめといたら?」
シルヴィオも缶コーヒーを開けて飲み始める。
「それにしても、老齢で吸血鬼狩りなんてするものじゃないよ? シルヴィオ」
「言っていろ」
「大体、商業国家国王は吸血鬼でしょ。なんで従ってるの。狩猟対象じゃないの? んー?」
「……」
そういえば、言われてみればそうだ。ソラはコーヒーを飲み干しながらふと疑問に思った。だがそれにシルヴィオは鼻で笑ってみせる。
「
「……ん? なんで?」
「信じられるか、吸血姫。半生を吸血鬼狩りに費やしたこの私が、なぜ彼女を殺せなかったと思う? 答えは至極単純だ。彼女は、商業国家国王であるユウコは──吸血鬼としての適正が
「適正が、高過ぎた?」
今日、二人が相手にした吸血鬼は決して若輩者ではない。長い潜伏期間を経て一人前の吸血鬼として活動を続けてきたベテランばかりだ。
「彼女は、吸血鬼となったその日。私を指先一つで殺しかけた」
「…………」
「…………」
「おい、間の抜けた顔をするな。真面目な話だ」
「吸血鬼狩りの伝説ともあろう人が。銀狼とか呼ばれて生ける伝説のような人が?」
「通常、吸血鬼というものに変性した人間というものは時間がかかる。だが、彼女は……」
──忘れもしない。手負いの吸血鬼を逃したことから起きた悲劇。手当たり次第に人々を犠牲にした血の海。青い月の下で、心臓を銀の杭で貫いた。
その日、その場所で、吸血鬼の手に掛けられて起き上がった無垢な少女がいた。自分の周囲で起きた惨状に、現実を受け止めきれずに茫然自失としていた。しかし吸血鬼となった相手を逃せば必ず被害が増える。シルヴィオは心を鬼にして、少女の頭を貫こうとしたが──避けられた。前代未聞の事態に狼狽えたのは他ならぬシルヴィオ自身。
吸血鬼となって一時間足らずにして、
咄嗟にこちらを突き飛ばした、たったそれだけでシルヴィオは半殺しにされた。だが、中身はあまりに少女のままだったからこそ──涙ながらに駆け寄ってきて、へたり込むなり謝罪の言葉を繰り返されて、自分の復讐心が砕けた音を聞いた。
「ユウコは、吸血鬼という種族で見るなら確かにこの上ない欠陥だろう。だが彼女の本当の恐ろしさはそこではない。吸血行為によって仲間が増えない。その代わりに、自身の身体能力が上乗せされる」
「ちょっと待った? 上乗せ? 増幅じゃなくて?」
沈痛な面持ちで、シルヴィオは頷く。本来増やす仲間を、代わりに自分の身体能力に上乗せするという能力がどれほど恐ろしいのか。
「一人からは一人。二人からは二人。吸血衝動さえ抑制していれば、超人のような身体能力だけで済むが……一度吸血鬼として覚醒すれば凄まじい」
「……あー……そういや僕、ユウコが吸血したところ見たことないや」
「見なくてよかったね。ユウコはすっごいよー、そりゃもう暴れん坊プリンセス様様。私ですら手を焼くくらいなんだから」
塔争の歴史において、ムルフェストとユウコが正面からぶつかったのはただの一度だけ。真祖を倒せるだけの道具を用いずに勝てるはずもなく、かといって負けるわけでもなかったが──降参するまで殴られるのだけは二度とゴメンだ。
「真祖である私ですらもー降参するまでタコ殴りにされたね、うん。いや物理的に」
「それはそうとムルフェスト。貴様、月の裏側で何をコソコソしている」
「ひーみーつでーす」
「そういや最近大人しいと思ってたけど、なに企んでいるんだい?」
「べぇっつにぃ~? むーちゃんは今のアダルトゲイムギョウ界が好きなので、そのためにコソコソしてるだけだもーん」
シルヴィオとソラが飲み終えた缶コーヒーを上空に放り投げて、同時にムルフェスト目掛けて攻撃する。しかし、指を鳴らすだけで銀の弾丸と銀の杭を弾き落としてみせた。舌を出して月を背後にニコニコと笑っている。
「輪廻の歯車が狂った世界の方が、面白いじゃん? 繰り返されない日常のほうがずっと楽しい。だから私は私なりにやってるだけですしぃ? ソラだってそうでしょ」
「…………」
「邪神に魔神に、次元神。神様バーゲンセールも大概にしてほしいね、私達みたいな“成り上がり神様”には荷が重いってもの。だからこそ──守護女神の皆を微力ながらお手伝いしなきゃ」
「そのために、なにが出来る? 僕ではなく、君に」
ムルフェストは笑ったまま首を傾げる。
「さぁ? 事と次第によっては、何でもやれるよ。私一人じゃ無理だけど」
「……ほんっと、君だけはよく分からないな。いや大魔導師も大概わからないけどさ、アイツはエヌラスのこと考えて動いてる節あるし」
「えっ」
「……えっ!? 気づいてなかったのかよ!?」
「ま、そんなわけだからさ。別に私のことなんて放っておいてよ。みだりに世を乱すわけでもなしなんだからさー、シルヴィオ」
「二度と私の前に顔を出さぬと言うならな」
「にゃひー、キビシーお言葉。そいじゃね」
街灯の上から消え去るムルフェストに、ソラは腰に手を当てて呆れたため息をついた。そこへ、インタースカイから通信が入る。
「シルヴィオさん。自分はこれで。急ぎ、国に戻らなきゃいけなくなったので」
「そうか。達者でな」
「ええ。そちらも」
意識を失って以来、目を覚まさなかった魔神が気がついた。同時に、ゲハバーンと呼ばれる剣の解析作業も進展が見られたということ。
それに、ソラは何か嫌な予感のようなものを感じていた。
焦燥感に駆り立てられるままに先を急ぐ。
──こういう時に限ってなんで居ないんだ、等と愚痴をこぼしながら。