超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
グリーンハートもエヌラス達の戦いを盗み見る。電撃の檻に閉じ込められて、目的である結晶の破壊に向かうことができないようだ。カオスエナジーを長期間蓄えていたアイリスハート・カオスに三人が苦戦している。
このままではジリ貧だ。ユウコに加勢しようにもインファイトの攻防に手を出すのは難しい。しかしまさか──イエローハート・カオスと互角に格闘戦ができるとは思いもしなかった。母は強しである。
ラッシュからの、フェイントを交えてハイキック。すんでのところで回避に成功したイエローハート・カオスが大きく飛び下がる。ウイングを広げて加速しながら高速で突撃し、今度は怒涛の連続攻撃にユウコが防戦一方となっていた。
拳を身体に引き寄せて、ガードを崩さないまま打ち込まれてくるクローに対してブロッキング。羽織っている赤いスカジャンもユノスダス製で過酷な環境に耐えられるように製造されているレジャー用品の一つ。登山だけでなく何かと多い戦闘がある日にも安心設計。耐刃繊維だけでなく防弾ジャケットも兼用。水洗いクリーニングもお手軽で手入れもしやすく、ご家庭に優しい一品。危険が多い登山や外出の普段着としてもオススメ。
なお──このスカジャンは「オシャレは、傷つかない」というキャッチコピーフレーズで売り出されているベストセラー商品でもある。
イエローハート・カオスのラッシュは、隙がない。左右交互、だけでなく蹴撃から尻尾まで活用し、全身を使った連撃。だが、それもユウコはしっかりと見極めて回避も交えていた。
拳をしっかりと握ったボクシング・スタイル。それはシルヴィオから教えてもらった戦い方であるし、ユウコの吸血鬼としての身体能力を十全に活かすためのものでもある。皮肉なことに、吸血鬼狩りとして名を馳せた銀狼の戦闘方法はベストマッチしていた。
商業国家国王になる以前、戦い方を見て学ぶべく格闘技観戦などもしていた時期がある。九龍アマルガムで開催されるサイバネ拳法家による「機門闘甲」杯は特に連日満席の大盛況で席の確保に手間取っていたものだ。外家・内家を問わず参加したサイバネ拳法家による血と汗と涙と迸る電磁パルスと飛び散る部品に機械油と、サイバネティクスパフォーマンス目当ての客も多い。余談だがエヌラスと大魔導師とシルヴィオは出場禁止を食らっている。理由は言わずもがな。
天性の格闘センスから繰り出される連撃、それを見極めてユウコが半身で避ける。右肩でクローを防ぎ、鼻っ柱にジャブを打ち込んだ。
「ひゃっ!」
ダメージよりも相手の視界を塞ぐことが目的。怯んだ隙に、更にもう一撃。威力が低いことにイエローハート・カオスが思い切って突っ込んでくる。クロスカウンターを狙った攻撃に、ユウコはそこでようやく動いた。身を思い切り屈めてかい潜り、下段からのアッパーが顎を打ち上げた。
「っしゃおらぁーい!」
かち上げた拳を引いて、続けてボディ。顔に牽制、本命はダメージを蓄積しやすい胴体にフックを叩き込む。だがそれもすぐにイエローハート・カオスは肘でブロックした。膝でユウコを押し出して、尻尾を振る。しかし、刃尾も拳で打ち返すと今度は一転してユウコが距離を詰めた。
ほとんど密着したような状況から執拗にボディブローを繰り返す。それを嫌がって離れようとする顎先に向けて、掠める形でフック。
避けたイエローハート・カオスがたたらを踏む。拳圧で殴られたことまでは計算に入れていなかった。
「お? お……?」
くらりとふらつく視界に、疑問が浮かんでいた。──確かに、イエローハート・カオスは他の追随を許さない格闘センスがある。だからこそ、互角の打ち合いにおける経験ではユウコに一日の長があった。
イエローハート・カオスの顔に、ネコが押しつけられる。
「ぴぃちゃん、今ならまだごめんなさいで許すよ」
「やだっ!」
「……そっかー」
構えは解いていないが、顎が落ち着いていない。
「一方的に殴られる痛さと怖さを教えてあげないとだめみたいだね」
身体が熱い。血が騒ぐ。呼吸を整えて、拳を引き絞る。
クローよりも先に、ユウコのグローブが足を叩いた。姿勢を崩してからの、連撃に次ぐ連撃。相手が反撃を試みようと動き、ダッキングからのフック。拳の速さ比べならば自分に分がある、そう考えたイエローハート・カオスだが、視界の端。何かが飛んでいった。──猫の顔がついたかわいらしいパペットグローブ。
丸腰の素手、吸血鬼の拳をそのまま受け止めるという事がどれだけ危険か。第六感の鋭さが仇となって、しかし、イエローハート・カオスは降参の意思を示すのが遅すぎた。一も二もなく、謝罪よりも先に拳が飛んでくる。
──ムルフェスト曰く「死ぬほど痛い」とのコメント。なにか特殊な効果があるわけでもなく、ただただ速い。そして痛い。なまじ特殊防御力が高いとなお痛みが長引く。なにより
「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!」
そうするとどうなるか。文字通り、手も足も出ない状態で拳が叩き込まれる。乱打からの、デンプシーロール。えぐりこむようなボディブローから、くの字に曲がった相手の頭に向けて脳天から拳を叩き込むという徹底ぶり。地面に頭から突っ込み、足を掴まれて更に背中から地面に叩きつけられたイエローハート・カオスは茫然自失と青空を眺めていた。
「ぴぃちゃんっ!」
「…………」
びしっと拳を向けると、ようやくそこで意識が追いついてきたのかじわりと涙が浮かんでくる。
「ごめんなさいは!? また“ごっつん”するよ!」
「──ふえ……ごめんなさぁーい!」
「もうやっちゃダメだからね。おーよしよし、痛かったでしょ。ごめんねー」
──絶対にユウコには逆らわないようにしよう。グリーンハートは固く誓った。
「さて、こちらはユウコのおかげでなんとかなりましたが……あちらはジリ貧ですね」
「ねぇぴぃちゃん。私達、キラキラ壊しに来たんだけど、どこにあるか知ってる?」
「わかんない……」
「だよねー……」
「……仕方ありませんね。わたくしはプラネテューヌへ向かいます、あちらをノワール達が足止めしている今がチャンスですもの」
せめて場所だけでも探ることができれば恩の字だ。
「うーん、あの電流デスマッチ状態。なんとかできれば、こっちから助けにいけるんだけど」
「あんな状態では近づくこともできませんし……」
「……外から衝撃を与えれば電流が弱まるかな」
とはいえインファイター二人にはどうすることもできない。グリーンハートならば魔法でなんとかなるが……、結晶の破壊は女神以外でなければならない。万が一ユウコが破壊したとしても、それで女神同様にカオス化してしまったら元も子もなくなってしまう。やはりエヌラスをアイリスハート手製電流デスマッチから救出するべきか。
グリーンハートがひとまずその場を離れてプラネテューヌへ向かおうと空を飛ぶ。プラネタワーを目指して移動を始めて、間もなく人影が視界の端に止まった。
モンスターを格闘で打倒している少女へ近づく。
「もし、そこの貴方。腕に覚えはありますか? 少し力を貸していただきたいのですが」
「へ? わ、わたしですか!?」
──電流デスマッチ状態のアイリスハート・カオスとの戦闘は、飛行能力を封じられて持ち前の機動力を発揮できないブラックハート・カオスの戦闘能力も削ぐ形となっていた。
ホワイトハート・カオスの大振りな一撃を軽やかな動きで避け、カウンターとなる形で剣を振るうがそれを庇ったのはバルザイの偃月刀。すぐさま距離を取って防御体勢に移ると、間もなくして魔弾が連射された。
二種類の属性の魔弾を防ぐのは容易だが、避けるとなると途端に難易度が跳ね上がる。防御に徹したアイリスハート・カオスに背後から二人が斬りかかるが、蛇腹剣で絡め取られて防がれた。
「あっはははは! いい、いいわぁ! 堪らないわねぇ! もっと愉しませてちょうだい!」
「ったく、相変わらず絶好調だな!」
「あなたも随分と調子良さそうじゃない!」
「なんかもう、バカらしくなってきてな! 吹っ切れた!」
バルザイの偃月刀による連撃から、至近距離でクトゥグアを発砲する。防がれるが、衝撃で蛇腹剣が跳ね上げられた。そのままエヌラスはアクセル・ストライクでアイリスハート・カオスを蹴り飛ばす。だが、同時に蹴りを放っていた相手と顔を蹴りつける形となった。
「エヌラス、大丈夫か」
「痛くも痒くもねぇな!」
「シャレになってねぇぞ。しっかし、プルルートのやつめ……!」
「カオス化してもいつも通りで安心した」
「どこがだ、ったくイチャつくのも大概にしろ!」
ホワイトハート・カオスが愚痴をこぼし、戦斧を握り直してブラックハート・カオスと共に接近する。エヌラスは自分の右腕に視線を落とした。
(……いやまったく、つくづく思い知らされる)
自分があらゆる次元世界からの爪弾きものであることを。
カオス化した女神たちの乱舞に、エヌラスが参戦しようとした矢先に身体が不調を訴える。
──遠くから、妹の声が聞こえた気がした。死神の声がこんなにも優しさと愛しさに溢れているのなら、自分の命を委ねてしまってもいいのかもしれない。兄さま、と。そう呼ぶ声を、今だけは振り払う。まだ終わらない。まだ終われない、立ち止まれない。
すまない、と胸中で一度だけ謝罪する。せめてもうひとり。最後の一人を助けるまでは保ってくれと願いながらエヌラスはバルザイの偃月刀を握りしめた。