超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──???
一人の少女が、手元に浮かべた結晶体を弄びながら嘲笑っていた。そこへ、シロトラが戻ってくる。崩壊した世界でありながら、巡回をしていたのは過去の記録による癖のようなものだった。そんなことを無意味で哀しいだけだと分かっているが、それでもやらずにはいられない。
「~~♪」
《機嫌が良さそうですが、何かいいことがありましたか》
「まぁね。俺としては満足のいく結果となったよ。ぶっつけ本番で失敗するわけにもいかないし、ちょうどいい実験にはなったかな」
《実験、ですか》
「あまり君には関係のないことだけど……まぁいいか。そろそろ彼も帰ってくる頃合いだろうし次は俺から動こうかなと思っててさ」
《……!》
「もちろん、協力してもらうよ。拒否権はない」
《願ってもないことです。私は貴方のためならば、ゲイムギョウ界の女神
ヌルズ・エクス・モルテスが残した結晶体。分け御霊とも言えるものだ。曰く、それが置いてあればこちらの次元へ戻ってくることが容易になるらしい。なにぶん特殊な事情を抱えた世界であるがゆえに、通常のアクセス方法では辿り着くことが困難だからだ。
「しかし、凄いなコレは。まさかああも簡単に女神を手玉に取るなんて……それだけ守護女神という存在がシェアエナジーに依るものだと痛感するよ。だからこそ、それさえどうにかしてしまえば容易に方向性が変わってしまう」
《善から悪に、ですか》
「そういうこと。人々の信仰を裏切る女神、カオス化はその切っ掛けだ。あとはそれを少し俺なりに手を加えれば完成だ」
《……後始末は》
「ああ、必要ないよ。どうせ近いうちに消えてしまうだろうからね」
《承知しました》
シロトラは頭を下げ、少女の言葉を待つ。背後からの気配に振り返ると、そこには不機嫌そうな顔をして包帯を巻いたマジェコンヌがいた。
「……さっきから貴様らは何の話をしているのだ?」
「やぁ。気がついたのかい? だいぶ長い間寝ていたみたいだけど」
「ふん、それもそこにいるロボットが私の邪魔をしていなければこんな怪我をせずに済んだのだ」
「ははっ、まぁそれはコイツに言ってくれよ」
《あの場における最善の方法を取ったまでだ》
「貴様自身の保身のためだろうが! まったく酷い目に遭った……一度くらいなら許してやるが、次はないと思えよ!」
帽子のツバを下げながらシロトラを睨む。だが、その視線はやがて瓦礫に座っている少女に向けられていた。この崩壊した次元には人っ子一人いない。モンスターは崩落した廃墟や遺跡に蔓延っているが、それから信仰を集めているわけではなかった。
「貴様……守護女神か?」
「だとしたら、何か問題かい?」
「……いいや」
「別にどうだっていいことじゃないか。俺が女神であろうが、なかろうが」
(女神だとして、どうやってこの次元で信仰を集めているのだ……いや、そもそもにして、コイツラは一体何なんだ?)
「君も俺たちに協力してくれる、ということで生かしておいてるんだ。そこは忘れないでくれよ。元はと言えば魔人が勝手に引き込んだ拾い物なんだから、いなくても別に構わない」
「ふん、言ってくれる。そもそも貴様の言う邪神とやらは今どうしているんだ」
「ちょっと怪我をしててね、療養中さ。そろそろ戻ってくる時期だと思うけどね」
言っている間にも、結晶体の輝きが増していく。それに頬を綻ばせていた。
「おっと、噂をすれば何とやらだ──」
──次元の狭間。セロンはいつものように差し入れの書物を読み耽っていた。だが、ふとした気配に振り返る。
玉座の背後、巨大な門がゆっくりと開かれていく。邪神達の蠢く外なる門、多次元宇宙へのアクセスを可能とする扉から姿を現したのは他ならぬ、絶望の邪神ヌルズ・エクス・モルテスだった。
首を慣らしながら、身体の感覚を確かめるようにしている。
「よぉ」
「……戻ってくるのが、だいぶ遅かったな?」
「なに。ちょっとした野暮用でな。こちらのアクセスにも手間取っていた……はて、何故だろうな次元神?」
「なんのことだか、私には見当もつかない」
「しらばっくれるな。私の帰還を先延ばしにさせていたのは貴様だろうに」
黒尽くめの衣装に黄金に輝く左眼は瞬きを繰り返して、赤い色彩を取り戻した。
「調子はどうだ?」
「長いこと身体を休めていたおかげでな、絶好調だ。こちらは変わりないか?」
「さしたる変化はない。お前の協力者がイタズラをしていたくらいでな」
「ふむ、そうか? アイツはどうなった」
「相変わらず無茶をしている」
「ははっ、そうか。死に急ぐくらいならばいっそのこと引導を渡してやるのが慈悲というもの。セロン、そちらに肩入れをしたのだからこちらにも何かあるだろう?」
「そもそも貴様には左眼を
「出不精め。まぁいい」
さした問題でもない。ヌルズは肩を回し、セロンの横を通り過ぎる。
「どこへ行く、とだけ聞いてやる」
「なに。俺の帰りを待っている女神のもとにな。今度は、もう少し楽しませてやれそうだ」
過去に負った傷から衰えていた力も全て取り戻した邪神の姿に、セロンは鼻で笑った。エヌラスが長きに渡り、削りに削った能力も完治している。その傷を癒やすためにいったいどれだけの犠牲者を出したのか。しかしそれも気にかけるようなことではない。なにせ管轄外だ。
「──今度は以前のような遅れは取らんさ」
「だろうな、今のお前を止めるには四女神であろうと不足はなかろうさ」
次元の狭間から立ち去るヌルズを見送り、セロンは開かれた門に振り返る。光すら無い闇黒の世界。ふと思う時がある。
エヌラスとの問答の最中で、その妹の存在だけが不思議でならないと。あらゆる次元世界の観測が可能である自分の権能で持ってしても確認できないとなれば、やはり答えは一つしかなかった。
扉の向こう側、それ以外に考えられない。
「……遊びすぎるなよ、ヌルズ・エクス・モルテス」
──ヌルズ・エクス・モルテスは預けていたビーコン代わりの結晶体を頼りに次元を移動する。一部の上位存在のみが可能とする次元移動だが、今となってはエヌラスもそれを失っていた。それだけでも十分に魔人側の面汚しだが、何よりも腹立たしいのはまだ生きているということだ。
忌々しい出来損ないめ、そう思いながら降り立った次元で、少女が変わらぬ笑みを浮かべて小さく手を振る。どことなく人を食ったような笑い方だが、さして不快感はなかった。
「やぁ、待ってたよ。おかえり」
「随分と長いこと不在にしていたが、どんな塩梅だ?」
「そうだねぇ、簡単に近況報告だけしておこうか。任せたよ」
《はっ。では私から──》
シロトラは、ヌルズが不在の間に起きた出来事について報告を始める。
魔人連合であるクロギア、オルタ、マガツビが敗北したこと。現在は行方不明だ。しかし居場所は見当がついている。続けて。少女がちょっとした悪戯で別次元の女神を争わせたこと。次に、新たな協力者が増えたことを報告した。
「ああ。見慣れない顔が増えていると思ったらそういうことか」
《ゲイムギョウ界ではその筋で割と有名人だ》
「ほう?」
《ナス農家として》
「おい待て貴様! 私はこれでも四女神を囚えたこともある犯罪神マジェコンヌだ! よりにもよってなぜそれをチョイスした!?」
《…………ああ》
「さては忘れていたな!? 記憶になかったな貴様! すっとぼけても無駄だぞ! ロボットの分際で忌々しい奴め! そもそも私の怪我だって貴様の裏切りが原因だろうが!」
《あの場において貴様を生かすにはああする以外になかっただけだ。最善の処置をとったまで》
「ふん。どこまで本気だかわからんが、忘れんからな!」
鼻を鳴らしてそっぽを向くマジェコンヌに、ヌルズは腕を組む。
「農家の協力を仰いでもな」
「貴様も大概にしろ、話を聞いていたか!?」
「はは、冗談だ。さてまずは──あいつ等を回収するか」
「戻ってきて早速かい?」
「肩慣らし程度にはちょうどいい仕事だ。勝手知ったる人の庭だしな」
少女が差し出した結晶体を受け取り、迷うことなく粉砕する。溢れ出す穢れた瘴気を掌に吸い込むと一振りの刀となった。
「ああそうだ、次は俺が動くよ。君にばかり任せても悪いしさ。楽しみにしてくれ」
「ほう? それなら、今少しお前に任せるとするか」
「気をつけて行ってくるといいさ」
ヌルズはその場に黒い渦を作り出し、アダルトゲイムギョウ界へと消えていく。それを見ていたマジェコンヌがギョッとした顔をしていた。
「な、なんなのだアイツは……!?」
「言ったはずだよ。邪神だって。あらゆる世界を壊して回った、終焉の凶兆。絶望の邪神、ヌルズ・エクス・モルテス。それが俺たちの協力者であり、首謀者。君の願いでもある世界の破壊も容易だろうね──これでわかったろう?」
思わず身震いしてしまう。しかし、願ってもない話だ。魔人達からの話だけでは眉唾ものだったが、いざ本物を目の当たりにすると不可能ではないと思える。
「ああ……いいだろう。改めて貴様らに協力を申し込んでやる」
「それは有り難い。協力者は多いほうがいいからね、こちらの仕込みも上々だ」
少女は壊れた空を仰ぐ。
カオス化による女神同士の戦争は思わぬ方向に転がったが、元から実験だ。シェアエナジーの汚染によって巻き起こる騒乱こそが目的。ならば、次の一手はもっと上手くいくだろう。
世界に望まぬ終焉を。終わらぬ復讐を果たすまで止まらない。
「──次は、もっと面白くなると思うよ?」
ポツリと呟いて、感情を欠いたような笑みを向ける少女の横顔にマジェコンヌは背筋が薄ら寒くなった。