超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「…………」
目を覚ますと、白い天井。またこのパターンか。エヌラスは自分がまた病院に担ぎ込まれたのだとすぐに理解した。
身体を起こして、自分の右腕に視線を向ける。病院で治せるはずもなく、エヌラスの右腕は人としての化けの皮が剥がれたままだった。それを不気味がって医者も近づきたいとは思わないのだろう、自分の手当も程々にされている。
点滴と輸血くらいだろうか。銀鍵守護器官による自己再生でなんとか持ち直したようだが、左目周囲に火傷の跡が残っていた。目蓋ごとふっ飛ばしたのだから無理もない。これはますます前髪で隠す必要が出てきた。
(なんとかして隠せねぇかな……)
そういえば。九龍アマルガムではガイノイド用のスキンケアアイテムとしてスプレータイプの補修用スキンがあった気がする。それを使えばなんとか隠せそうだが、あくまでサイボーグ用のアイテムなので生身の人間が使っても大丈夫かどうか。スピカ辺りにでも聞いてみるとしよう。
身体の具合は右腕以外はまずまずといったところだ。感覚が鈍いのは薬物で何とか持ち直すしかない。
まだ少し貧血気味の頭を押さえながら、エヌラスは服を着替えて病院を抜け出す。窓を開けて、縁に足を掛けて青空へ向けてジャンプ。アトラック・ナチャでラペリングしながら音もなく着地してプラネタワーを目指して歩く。できるだけ人通りを避けるようにして。
──まぁ案の定ユウコ達に怒られた。正座させられて非難轟々を右から左へ聞き流す。怒られるのも慣れたものだ。笑ってごまかす。許してくれメンズ。そんなはずもなく引っ叩かれた。
「──はぁ~、あぁもういいわ。言うだけ無駄だもの」
「はっはっは」
「笑い事じゃないってわかってるわけ!?」
ノワール怒髪天。こいつ毎回怒ってるな。そんな間の抜けたことを考えながらエヌラスが立ち上がると、小さなイストワールが飛んできた。
「エヌラスさん!(# ゚Д゚)」
「よぉ、ちびいーすん。どうしたそんなぷりぷり怒って」
「勝手に病院を抜け出してどうするんですか! ちゃんと身体を休めないとダメですよ! どうするんですかそんなことで!ヽ(`Д´)ノ」
「いつものこといつものこと、日常茶飯事だ」
「……(#^ω^)」
馬鹿に付ける薬はないとはこの事か。ノワールだけでなく、ブラン、ベール、ユウコ、あと鉄拳ちゃんが呆れたため息をつく。
プラネタワーだというのに、肝心の女神がいないことにエヌラスがプルルートとピーシェはどうしたのか尋ねた。結晶の破壊に成功してから、プルルートがまだ目を覚ましていないらしい。ピーシェもそれを不安がっていた。
ぽかぽかと小さなイストワールに頭を叩かれながら、エヌラスは自分の右腕に視線が集中していることに気づく。
「あなた、その腕……」
「右腕か? どうしようもねぇなコレ。動きゃいい」
「そんな適当な」
「自分の身体だから一番よくわかってる。絶対に治らないってな」
幸いなことに、あらかじめ施術されていた魔術回路のおかげで不自由はしない。感触はないが。服を着替える時に見た時は、右肩まで完全に剥がれていた。そのせいで魔術回路がむき出しの状態となっている。右手の甲の魔術刻印もくっきりと浮かび上がっていた。
「ただ見苦しいのはなんとかしたいから、ナノスキンスプレーで誤魔化せりゃいいな」
「……あなた、自分のことになると笑って誤魔化すのやめた方がいいわよ」
「いや、もう無理だろ」
「諦めないのが信条ではありませんでしたの?」
「それはそれ、これはこれ」
「これだからオトナってのは!」
変なところで思い切りがいいエヌラスにブランが不満を露わにしている。
「俺のことはいい。プルルート、大丈夫なのか?」
「あなたと違って頑丈じゃないですし」
「思いっきり顔殴ってたものね……」
「ああでもしなきゃ俺が死んでたからな」
「悪びれる素振り一つないのは、なんというかいっそ清々しいな……」
「プルルートさんですが。特に目立った怪我はしてませんでしたので、すぐに目を覚ますはずなんですが……(-_-;)」
「ちょっと様子見てくるか」
エヌラスが横をすり抜けようとして、全員に捕まった。
「ぐえっ、なにすんだ!?」
「あなたね、自分がプルルートに狙われてたって自覚ある!?」
「そうですわよ。部屋の惨状見たらドン引きですわ!」
「むしろカオス化したプルルートと出会ってまだ生きてた方が奇跡的なのよ?」
「そうですよ、エヌラスさんは近づかないほうがいいです!(;´∀`)」
「自殺志願者かおめーは!」
「どういうこと!?」
事情を小さなイストワールから聞くと、どうもカオス化してからというもの会いたがっていたらしい。その“モヤモヤ”の捌け口がどこになるかと言えば、当然ぬいぐるみなわけで……。それが無くなったらどこに矛先が向くか。百害あって一利なしのモンスター達だ。
その結果、どうなるか──プラネテューヌ周囲のモンスターが一匹残らず駆除されている現状である。恋する乙女は何とやら。人の恋路を邪魔する奴も何とやら。
「……なるほど?」
「あ、こいつわかってねー顔だ」
「いや。だって、なぁ? 会いたくて会いたくてそうなってんなら、俺が会いに行けば丸く収まるってことにならないか?」
「会いたくて会いたくて殺して回ってた相手に会おうと思えるあなたの肝っ玉に驚きが隠せないわよ……」
「でも、もしかしたらそれでプルルート様も目を覚ますかもしれませんし。もし何かあったらわたし達もすぐ駆けつけることができると思いますけど……」
女神勢揃いの中で、おずおずと手を挙げて発言する鉄拳ちゃんの意見にも一理ある。プルルートの容態も気になっていた。
身の危険を感じたらすぐに戻ってくるように、とエヌラスに一言添えてから送り出す。
「ごめんね、べるちゃん。せっかく治療費出してもらったのに……」
「気にしなくてもいいですわ。とはいえ病院に連絡はしておきませんと」
「それならわたしもご一緒します(゚∀゚)」
「そうですわね。イストワールと一緒なら説明も早いでしょうし。お願いできますか?」
今度リーンボックスに何か持っていこう。ユウコはプラネタワーを後にするベールを見送った。
「……結晶が壊されてから、特に異常はない? ブラン」
「ええ。わたしはいつもどおりよ。あなたは?」
「そうね。最初は倦怠感みたいなのがあったけど、今は何でもないわ」
「なら一過性のものだったのね。時間が経てばわたし達の身体に残っているカオス化の残留も薄れていくはずよ……」
「…………」
「惜しいって顔をしているわね」
「それは、まぁ……あれだけの力を引き出せるなら手放すのはちょっと心残りがあるわよ。ちょっとだけ……」
あれなら、どんな敵が相手でも負ける気がしない。ただ手放すのは勿体無い。
「……何とか、自分の物にできないかしら」
「上手くシェアと折り合いをつければ、なんとかなるんじゃないかしら。元々シェアエナジーに依存した力だもの」
「それもそうよね」
ブランの言う通り、シェアに依存した力ならばまたそのうち使えるかもしれないとノワールは考えることにした。
──ベールが言っていた部屋の惨状とはこのことか。エヌラスはプルルートの寝室に入るなり、部屋中に飛び散った綿を見て察した。ぬいぐるみが大惨事だ。猟奇的ファンシー溢れるグリム童話ばりのスプラッタな事になっている。せっかく作ったものも自分で台無しにしては作り直すのも大変だろうに。
しかし、ベッドで眠るプルルートの寝顔は安らかそのもの。安堵しきった無防備な寝顔は見ているだけでこちらの心が和む。小さな寝息を立てながら眠り続けるプルルートのベッドに腰を下ろして、左手で頭を撫でる。
寝癖でくしゃくしゃになっていた髪の手触りを楽しみながら、ゆっくりと梳いていく。
ひときわ酷い損傷の黒いぬいぐるみに、プルルートのぬいぐるみが添えられていた。部屋の中をよく見ると、裁縫セットが置いてある。何かを作りかけていた途中だったのか、裁ちばさみが出したままになっていた。危ないのでちゃんとしまっておく。
「すぅ……すぅ……」
眠っているプルルートの横で、エヌラスはぬいぐるみを縫い始めた。右手の感覚がないので何度か手を刺しつつも、綿を詰めて自分のぬいぐるみを補修していく。
「いてっ。いっつ……ちくしょう。動けっての、このポンコツめ」
「……んぅ~……むにゃ……」
「ん?」
縫い物をしていると、寝返りを打ったプルルートが腰にしがみついてきていた。自分に抱き寄せようとしているが、逆に自分から抱きつく形となっている。寝息を立てる姿を起こさないようにしつつ、エヌラスは自分のぬいぐるみを直し終わった。
右腕は黒い布一色。左目を隠すように前髪の布も縫い合わせておく。しかし予想外に大きい。他のぬいぐるみも直してやりたいところだが、時間がなかった。
抱きついてくるプルルートに直した自分のぬいぐるみを代わりに渡して、エヌラスはぬいぐるみをもう一体だけ直す。
それから、幸せそうな寝顔に一度だけキスをしてから部屋を静かに後にした。
プルルートが目を覚ましたのは、エヌラスとユウコがプラネテューヌを去ってからのこと。イライラが積もって、うっかり壊したぬいぐるみが直っていることに首を傾げながら、寝ぼけ眼をこすって部屋を見渡した。
「……んぅ~……エヌラス……?」
バラバラになったぬいぐるみの中で、もうひとつだけ元通りに直されたものがある。
自分のぬいぐるみに、張り紙がされていた。──『大事にすること』と、走り書きのような一文が添えられている。
自分のことを一番大事にしない相手に言われても……。プルルートは頬を膨らませながらも、その隣にエヌラスのぬいぐるみを置いて笑った。
「ちゃんと~、みんなチクチクしてあげないとぉ~……」
次に会う時までに、友達のぬいぐるみを全部直しておこう。まずは部屋の綿掃除から。それから仲直りだ。