超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネテューヌを後にして、ルウィーへと戻ってきたエヌラスとユウコは腰を落ち着かせた。なにしろ今回の一件でほとんど休む暇もなくゲイムギョウ界を巡り歩いている。流石に疲れた。
ブラン達からの当たりも心なしか柔らかくなっているが、ノワールだけは向こうと変わらず素直になれないらしく、最初は強く当たってくる。ツンデレめ。
鉄拳ちゃんとの約束通り、身体の調子を確かめるついでに組手をしていたエヌラスを見ていたブラン達がルウィー製の饅頭を頬張る。
「それにしても、今回は助かったわ……」
「ブランちゃんが向こうに来てなかったら今頃どうなってたことか。考えるのも怖いよ」
「事件の発端はプルルートでしたが、解決の糸口は暴力的なブランのおかげでしたし」
「おい、誰が暴力的だって……?」
「あら? だってそうではありませんか。まさか次元を越えてまで喧嘩を売りに行く行動力の化身のような勢い。驚きを隠せませんわ」
「そういえばあそこのゲート。開きっぱなしなのよね……いい加減直さないと」
「でもあれを閉じたらわたくし達も遊びに行けませんわよ? それにエヌラスも今はこちらへ移動するのも自在というわけにはいかないみたいですし」
組手を終えたのか、エヌラスが戻ってきた。汗ばんだ身体に、ユウコがタオルと水を投げる。それをキャッチしようとして、空を掴んだ。落ちていくタオルを足で拾い上げて、右手で取ると顔を拭く。
左目の損傷もあるのか、遠近感覚が微妙に掴めていないらしい。それも組手で多少距離感を持ち直したのだが、以前のようにはいかないようだ。
「やれやれ、不甲斐ないな。なんの話してたんだ?」
「事件が解決して一件落着という話でしたわ。お手柄ですわね、エヌラス」
「んー、まー……そうなんだが、そもそも事件の発端が俺の不始末だしなぁ……マッチポンプ感半端ないっていうか、素直に喜べないっていうか……」
「ですがそのおかげでわたくし達もカオス化、という新しい力を手にすることができましたし、そこまで気に病むことはありませんわ。こちらへ来て身体を休めるといいですわよ、さぁさぁ」
縁側に座り込んだベールに引き込まれて、エヌラスがその豊満な胸に抱きしめられる。それを真横で目撃したノワールがお茶を吹き出した。
「ぶっほっ!? なにしてるのよベール!?」
「あら? わたくしはただ、疲れているエヌラスを癒やして差し上げようかと思っただけですわ。たっぷり甘えてくださっていいんですわよ~」
「ふごー……もごもご……」
「あんっ。そんなおっぱいの中で口を動かされては変な声が……」
「そのたゆんたゆんもいい加減目障りになってきたな……!」
「ふふ。貧者のひがみですわね?」
「んだとぉ!? テメェ表にでろこらぁ!! さすがにキレちまったよ!」
「はいはいはい、みんな喧嘩しなーい。べるちゃんもエヌラス離した離した」
ユウコに言われて渋々といった様子でエヌラスを解放する。
「はー助かった」
「もう。死ぬ時はおっきいおっぱいが一番幸せではありませんの?」
「いや確かにそれはそれで悪くない死に場所だが……」
「…………」
「待てブラン。俺をそんな目で見るな。別に他意はない」
何か言いたそうに自分の胸を見てから、隣を見比べて。ついでに鉄拳ちゃんも……。
「……ちくしょう、どいつもこいつもたゆんたゆんで鬱陶しいことこの上ないぜ……!」
「いや、私はこの中では控えめな方よ……? 確かにスタイルは自信あるけど」
「ぐぬぬ…………!」
「やめとけノワール。ブランに今は何を言っても怒りの燃料にしかならん」
「そうね。触らぬ神に祟りなし」
ノワールは素直に引っ込んだ。
「だけど、こっちと向こうのゲイムギョウ界が繋がったままのゲートは閉じた方がいいだろうな。どうにかしないと」
「でもそれを閉じたら、アクセスできないんじゃ……イストワールの力を借りるのにも限度はありますし」
「……」
「……」
エヌラスとユウコが顔を見合わせる。そういう高次元・高等技術力の話題になると真っ先に思い浮かぶ相手は一人しかいなかった。
「ソラに連絡して、なんとかこっちとアクセス可能な次元ポータルの設置でも頼んでみるか」
「それが一番無難だよねぇ」
「ソラ……ってあのメガネよね?」
「ああ。メガネくんですね」
「メガネのこと?」
(よかったなソラ。お前の認識メガネだとよ……)
本人が聞いたら複雑な表情を浮かべたことだろう。
「設置場所は……プラネテューヌは辞めといた方がいいな。イストワールいるし」
「それなら、ラステイションなんてどうかしら。技術力は自信あるわよ」
「あら。それでしたらリーンボックスも負けておりませんわよ」
「ラステイションな」
「そんな!?」
リーンボックスはどうにも嫌な予感しかしなかった。それと交通便の関係もある。となれば安定したラステイションに設置するのが一番最適だろうというのがエヌラスの考え。ルウィーは景観を損なう、というブランの意見により却下された。
「それじゃ、そういう方針で先にソラのやつに連絡しておくか」
「ちゃんと向こうのノワちゃんにも電話しなよ?」
「わぁかってるっての」
D-Phoneを取り出して、エヌラスが電話帳からソラの名前を探す。どこにいった? 一度スクロールしてから、再度電話帳を頭から見直した。電脳国家国王、と登録していたからか見逃していたらしい。あとで編集して「クソメガネ」に直しておこう。
「………………」
通話ボタンを押して、数秒。眉を寄せながら耳から離した。再び電話を掛ける。
「どうしたの?」
「……いや、なんか。電話が繋がらないんだよ」
「え~? そんなことある、だってあのクソメガネだよ? 通信機器の取扱できなくなったら瓶底眼鏡に格下げなんだけど」
「お前ボロックソに言ってやるなよ、アイツ泣くぞ……」
というかクソメガネの方が格上なのか。再三、電話を掛けてみるが──現在お繋ぎできませんのアナウンスにエヌラスが顔をしかめた。
多忙なら留守電サービスに繋がるはずだ。電脳国家のメンテナンスで通信不通状態なら、その報せくらいはしてくる。そのどれでもないということは、何か突発的なトラブルに巻き込まれて電話に出れない状態なのだろう。
繋がらない以上は仕方ない、先にノワールに連絡を入れておこうと電話をかけるものの、こちらも電話に出てくれない。ユニに電話をかけることにした。
《はい、もしもし。あたしですけど?》
「ユニか。今ノワールに電話してみたんだが、アイツどうしてる?」
《お姉ちゃんですか? 今はちょっと忙しいみたいで……それはそうと、どうしたんですか?》
「あー、いや。こっちの事件解決したから戻ろうと思っててな、その報告だけでも先に」
《わかりました。あたしからお姉ちゃんに伝えておきます。それはそうと、もうエキシビジョンマッチの開催、明日に迫ってるんですから急いで帰ってきてくださいよ。相当気が揉んでいるみたいなので……》
「ああ、わかった。それじゃ、明日な」
簡潔に用件を伝えたところで、エヌラスは一度だけソラへメールを送る。
──『なにかあったのか?』とだけ。
結局、その日のうちにメールの返信が来ることはなかった。
(────)
クロギアが目を覚ましたとき、自分が拘束された状態でベッドに寝かせられているのだとすぐに気がついた。それから、自分がどうしてここにいるのかを思い出す。
魔人と神格者達の戦闘に敗北して、それから──それから、どうして自分がまだ生かされているのか分からなかった。生かしておいても仕方ないのに。そんなことを考えながら呆然と真っ白で清潔な天井を眺めていると、両手の拘束が解除された。
不思議に思いつつ、ベッドから降りて室内を見渡す。殺風景な医務室、ベッドが部屋にポツンと置かれているだけの簡素な作り。ガラスの向こうからメガネを掛けた神格者、琴霧ソラがデータタブレット端末を開きながら入室してくる。
「やぁ、おはよう。気分の方は?」
「……悪くない、です」
「こちらの方で色々とデータは取らせてもらった。血液検査とか諸々」
自分が着ている患者服に気づいて、クロギアが少しだけ顔を赤らめて自分の身体を掻き抱いた。
「魔神、というからどんなデータが採れるのかと思いきや。実際のところは人間とさほど変わらなかったのはちょっと肩透かしを食らった気分だ。ただし、君の扱っているクリスタルについては別だし、君の持っていた剣、ゲハバーンについてもまだ不明瞭な点は残るけど、粗方解析済み」
「…………」
「ああ。君の服ならこちらで預かってるけれど。着替える?」
「えっ……と……あの、お願いします」
「りょーかい。あとお腹減ってない? 軽い食事程度ならすぐ準備できるよ」
「……食事は」
くぅ~……。虫の鳴くようなか細い声に、顔を少しだけ赤くしてお腹を押さえる。ソラはタブレットを操作して食事の準備と着替えを用意させて病室を後にした。
黒いセーラーワンピースに着替えたクロギアは、サンドイッチと紅茶のセットを食べながらソラの話に耳を傾ける。
あれから自分がだいぶ長い間眠っていたこと。その治療関連をソラが引き受けたこと。現在のアダルトゲイムギョウ界、ゲイムギョウ界で起きていること。
それらの概要をつまんで大雑把に話す。
「もぐ、もぐ……」
「味は保証するけど、どう?」
「サンドイッチ。おいしい、です……もぐ……」
「気に入ってくれたならよかった。だが悪いけれど、まだキミを解放するわけにはいかない」
「わかってます……でも、意味はないと思いますよ」
「それはどうして?」
「……ごちそうさまでした」
小さく両手を合わせて、頭を下げるクロギアの言葉の続きにソラは嫌な予感がしていた。──そして、電脳国家インタースカイのゲートが一つ、接近する生体反応をキャッチする。
モニター監視していた映像から、ソラは我が目を疑った。
絶望の邪神、ヌルズ・エクス・モルテスが真正面から正々堂々とインタースカイへと入国を果たそうとしている。だが、ここで防衛システムを起動させたところで足止めにもならない。救援を呼ぶかとも考えたが、また国内で暴れられても困る。
ソラは結局、ヌルズをそのまま素通りさせることにした。
──エヌラスからの通話に出るわけにもいかず、ソラはヌルズと直接対話することとなった。
「……僕の国に、何か用事か。邪神」
「なに、貴様らが預かっているものを返してもらおうと思ってな」
「それで直接顔を出しに来るなんて、随分と律儀だこと」
「貴様らとは直接話がしたくてな。それで? どうなんだ、電脳国家インタースカイ国王。琴霧ソラ。こちらの望みは先程伝えた通りだ」
「断る、と言いたいところだが。僕としてはお前と交渉決裂した挙げ句に国で暴れられるのは非常に不本意で不愉快極まりない。戦力差は歴然。比べるまでもないだろうからね」
「それで?」
「クロギアちゃんをそちらに引き渡す。こちらからの条件は、そのまま速やかに立ち去ってくれ」
「ああ、いいだろう。おとなしく身柄を引き渡すというのであればな?」
インタースカイ教会から歩み出てきたクロギアの背中を軽く押して、ヌルズへと引き渡す。
「約束通り、そのまま僕の国から消えてくれ。二度と来るな」
「ゲハバーンはどうした?」
「それは交渉のうちに入っていなかっただろう?」
「あれがなければ、この魔神を連れて歩く意味がなくなる。よこせ。貴様を殺した後でも俺にとっては大差ない話だがな」
ソラは肩をすくめて、ヌルズの指示に従った。
ガードロボがゲハバーンを持っていくと、それをクロギアが受け取る。
「こちらから渡すものは渡したんだ。さっさと帰ってくれ、一分一秒でも早く。頼むから。金輪際インタースカイに近づくな、ヌルズ・エクス・モルテス」
「はんっ、こんな何もない国など壊す価値もない。貴様の取り柄らしいものなど、その次元通信設備くらいのものだろうに。貴様個人の戦略的価値などアダルトゲイムギョウ界においては最弱に等しいものだ」
「事実として受け止めているよ。お前の言う通り、僕は強くないからね。だがそれはそれとして改めて言われるとめちゃくちゃ腹立つな」
「憂さ晴らしでもするか?」
「やめとくよ、時間の無駄だ」
メガネを直しながら、ソラはおとなしくインタースカイから立ち去ろうとする二人の背中を見送っていた。
黒い渦の中へ入り、姿が見えなくなったヌルズに胸を撫で下ろす。だが、クロギアが一度だけ立ち止まって振り返ると、深々と頭を下げた。
「あの……」
「ん?」
「──あの、お世話に、なりました。サンドイッチ、美味しかったです…………ごめんなさい」
「別に。僕はキミを押しつけられたから最善を尽くしただけだ。敵であることに変わりない」
背を向けて去っていく二人が完全に消えてから、ソラは深く息を吐き出す。
「……生きた心地しねぇー……」
しかし、よっぽど気に入ってくれたらしい。それなら悪い気はしなかった。