超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──少女が一人、鼻歌を歌っていた。楽しそうに。心の底から、世界の崩壊を前にして心を踊らせていた。
それとは対照的に、マジェコンヌは不服そうな顔をしている。腕を組み、瓦礫に背中を預けて帽子のツバで顔を隠しながら。
「……♪」
「本気で言っているのか? できるとでも?」
「できるさ。俺の力と、ゲハバーン。そして、彼が奪った次元神の力。その全てを使えば」
「バカバカしい。女神を消すだと? そんなことができるのか」
「普通はできないだろうね。守護女神は国民の信仰によって生まれる存在だ。彼女達の存在を消去するのなら、国民を消してしまえばいい」
「だが血眼になって守るだろうな。本末転倒だ」
「そこで、少しやり方を変えるのさ。守護女神に向けられる信仰の矛先を、別な対象に移し替えることで女神の力を削ぐ。たったそれだけで四人の守護女神は大幅に弱体化するのさ」
「……加えて、今は女神の転換期。時代が変革を望んでいる。おあつらえ向きの舞台さ。そのためにエキシビジョンマッチも開催される、お膳立ては十二分が過ぎるくらい」
「だが、肝心の女神達にどうするつもりだ?」
「簡単なことじゃないか。俺の力で「守護女神の歴史を改変する」、ゲハバーンで弱体化した守護女神を倒す、そして彼の力でゲイムギョウ界を終わらせる。もし、その全てが失敗に終わったとしてもこの次元と超次元を衝突させることで対消滅を引き起こす。策は万全だ」
「ふんっ。確かにな、それは私の力では出来んことだ。惚れ惚れする」
「それはどうも。下準備も済んでいる、果報は寝て待てってね」
マジェコンヌはどうにも気に食わない様子で視線を逸らす。瓦礫にちょこんと腰を下ろしているクロギアと目が合った。
「……貴様はあの小娘によく似ているが、双子かなにかか?」
「どう、なんでしょうね。私、自分のことよくわからなくて」
「足を引っ張らなければどうでもいいことか」
「──おっと、始まったみたいだ。それじゃあヌルズ。手はず通りに頼むよ」
「任せろ。──
左目が黄金の輝きを灯す。
そこへ、もう一組が姿を見せた。黒い蝶と、黒いパーカーを着た女性。
「ははは。こりゃ前代未聞の大事件だ、面白そうだな。ネプテューヌ!」
「もー、クロちゃんってばそんなはしゃいだりなんかして。わたしに内緒で勝手に話進めちゃうんだもん」
「でもお前はオレの力を使わなきゃここから出られないんだ。どちらにしろ協力するしかないんだぜ?」
「そうなんだよね~、いやー困っちゃった」
たははと笑う大人ネプテューヌだが、内心緊張感でいっぱいだった。こんな状況下でただの人間である自分にできることなど無い。ただ事態の行く末を見守ることしかできなかった。
「それじゃあ──女神大戦は失敗に終わった。だが前座で盛り上がったんだ、掴みは上々だろう? 次は本番だ。ゲイムギョウ界から、守護女神の痕跡の一切合財を消し去ってみせるよ」
……、次元の狭間でセロンは残された右目で事の顛末を見守っている。
口惜しい、と思いながら、やはり好奇心が勝っていた。不可能か? いいや可能だとも。なにせそれを引き起こさんとする存在が、守護女神その人であるのだから。
「貴様のやろうとしていることは、確かに。嗚呼、間違いなくゲイムギョウ界に破滅と混乱を引き起こすだろうな。転換期ゆえに躍起になっていた女神ほどそのダメージは大きい。守護女神が敗北し、選ばれたゴールドサァドが勝者となったその瞬間──超次元は、貴様に敗北した。それで十分だとも、致命の一突きはな」
セロンの右目が捉える光景。
エキシビジョンマッチの決勝戦、最後に残ったのはやはり四女神だった。ならば、とデスマッチで試合を始めようとした矢先にゴールドサァドが乱入してくる。接戦、しかし──激闘を制したのは、守護女神ではなくゴールドサァドだった。自分たち自身が勝利に戸惑いながらも、それが引き起こす超事件は守護女神の消滅のはず。
「だがひとつだけ、貴様らは誤算があったな? 世界には、崩壊を免れるための楔が存在する。それこそが“抑止力”と呼ばれるものだ。信仰の対象が、女神に向かなくなった超次元は自壊するだろう。ならば、どうなると思う──答えは、すげ替えられるだけだ。新たな時代を導くのはゴールドサァドだ。そうすることであの世界は崩壊を一時は免れるだろうな」
だが、それだけだ。四女神が不在となった超次元の歴史修正によって世界は改竄される。邪神の思惑通りに。人々の記憶からも守護女神という存在は消えるだろう。
一部の邪悪な組織、或いは強い信仰心。守護女神の加護を受けている者たちは、今この瞬間からゲイムギョウ界の全てを敵にした。
「────はっ──はっ、はっはっ。ハッハッハッハッハ! いや、実に、面白い! そうこなくてはな! こうでなくては、私も退屈しのぎにならない! 貴様の勝利だ、ヌルズ・エクス・モルテス! しかしな、勝って兜の緒を締めよ、そんな言葉があるな? まだ分からん。嗚呼、まだわからんぞ、どうなるか! 貴様の敵を思い出せ!」
鏡写しの自分。瓜二つの存在。出来損ないの絶望。例え、世界の全てが敵になってもあの男は立ち止まらないだろう。諦めることはしないのだろう。何故ならそう作られたのだから。
プラネテューヌに。ラステイションに。リーンボックスに。ルウィーに。黄金の塔がそびえ立つ──それこそが、ゲイムギョウ界の抑止力。
アダルトゲイムギョウ界において、キンジ塔と呼ばれる最後の楔だ。
「黄金の頂を目指すがいい、守護女神。神格者。貴様らの戦いを私はここで見守ろう」
楽しませておくれ。かつてこれほどまでに心を躍らせる展開など、私には許されなかったのだから。どうか無聊の慰みとして楽しませてくれ──。
ゲイムギョウ界が改竄されるその時、誰もが我が目を疑った。そして、誰もが疑わなかった。
その黄金の塔は、まるで古くからそこにあったかのように君臨していた。
プラネテューヌに。ラステイションに。リーンボックスに。ルウィーに。
「──なんなんだ……!! なんなんだ、何だこれはッ!! ふざけんじゃねぇぞ、ふざっけんな……っ、ド畜生がぁぁぁぁ!!!!」
ラステイションで怒りのままに吼える一人の破壊神がいた。激情のままに、抜身の感情を吐き出してまだ止まない。
「……ほう? ほう、そうくるか……ふっ……ふふ、ははは。ふははははははははは、面白い! 興が乗った!! 貴様の用意した舞台に私も乗ってやる! せいぜい楽しませてみせろ!」
ルウィーの温泉宿で愉悦に表情を歪ませる一人の大魔導師がいた。人生の一分一秒、その全てが暇と退屈で色褪せ、枯渇した既知感に苛まれていた。だが、今この瞬間に、その瞳に黄金の輝きが戻る。あれほど飽いた塔争だというのに、なぜだろう──こんなにも心昂ぶるのは。
《なに? これは……まさかな……》
リーンボックスで一人の機人が驚愕に満ちた電子音声を唸らせる。浄水施設を占拠していた害虫駆除を終えた直後の出来事だった。状況把握が先決か。情報収集、および報告のために腰部の跳躍ユニットでその場から飛び去っていく。
「……じょーだん、キッツイなぁ。勘弁してくれよ、面倒事に巻き込まれるのは大嫌いなんだ」
プラネテューヌで一人の青年がぼやきながらメガネを直した。傍らの小さな教祖様は沈痛な面持ちをしている。無理もない話だ。さて、これは困った事になったがどう行動するべきか。琴霧ソラは一寸、頭を悩ませて、それからすぐに自分の作業を最優先にした。情報が出揃っていない今の状況で動くのは早計と判断する。予定通りに神次元側のプラネテューヌへと移動し、そこからラステイションへと向かうことにした。
──かくして。黄金の塔争が幕を開ける。