超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──システム再起動。オペレーティングシステム起動確認。火器管制装置アンロック。
《…………はっ!? あれ、俺もしかして今システムダウンしてた!?》
プラネテューヌで交通整理をしていたレオルドが突然シャットアウトされた機体のシステムを再起動させて周囲を見渡す。
一分に満たない映像記録の空白。周囲に異常なし。点滅する信号機に、レオルドは歩道に移動した。プラネテューヌに異常なし──プラネタワーを見上げ、そして。
そびえ立つ黄金の塔にレオルドは首を傾げる。
《……? あんなのいつからあったっけ?》
データスキャン開始。該当なし。記録なし。
『レオルド、どうしたの? こちらで映像が乱れたみたいだけど』
《ちっひーさん。あの塔、なんだか解りますか?》
『塔?』
《黄金の……》
レオルドの疑問に、守護女神近衛機兵団のオペレーターであるチヒロが疑問符で問い返した。
『なにを言っているの?
《────へ?》
『仕事に戻ってください』
《えー、あー……了解っす》
交通整理。街の清掃。しかし、何か圧倒的な違和感にレオルドが首を傾げる。
何かが足りない。決定的な認識の齟齬に、落ち着かなかった。そこへ、守護女神近衛機兵団の面々が集まってくる。
《おーい、レオルド。どうした》
《ディルさん。何か変な感じしないっすか?》
《変な感じ? どんなだ?》
《なんというか……こう……足りない感じが》
《うん? 特に何も。まぁそれはいい、コンビニに行くぞ。今日はビニ本の入荷日だ》
《マジっすか。買いに行くんですか、白昼堂々》
《ハッハッハ当然だ! 西に新刊あれば西へ行き、東に新刊あれば東へ行く。雨にも負けず風にも負けず、規制に負けず性癖に従いシコる姿は淀みなし》
《アンタ最近大人しいとか思ったけどやっぱりアレっすね。セインの同僚だけありますわ》
丸みを帯びた重量級のフォルム、太い親指を立ててディルはレオルドを連れてコンビニへ向かっていた。そこでは既にシュラが待機している。いつもならばジーンも同行しているはずだが、今日は別行動中だ。
《俺らが白昼堂々ビニ本を買うとか不敬者にも程があるでしょうに》
《何を言う。日頃からプラネ国民の皆様のために身を粉にして働いている俺達へ自分の懐からご褒美を買い与えることのどこに不敬成分があると》
《いや、俺ら守護女神近衛機兵団が──》
《……守護女神》
《近衛機兵団?》
《アンタら自分の職務もほっぽって何を》
《なんの話だ、レオルド? 俺達はプラネテューヌの警備員だろう?》
《というか守護女神ってなんだ》
《プラネテューヌの統治者はゴールドサァドだ。お前そこまでポンコツになったのか》
《────》
言葉を失い、レオルドは意気揚々とコンビニへ入店する三人を見送る。
《ち、ちっひーさん。少しいいっすか!?》
『どうしたの、レオルド?』
《あの、俺らって守護女神近衛機兵団として女神不在のプラネテューヌを警備しているんですよね? ちょっとそれを確認したくて》
『私達は教会お抱えのプラネテューヌ警備隊。それがどうかした?』
《あ、いや、あの、えーっと……俺が隊長でいいんすよね?》
『本当に大丈夫? 一度教会に戻ってグラさんに整備してもらったほうがいいと思いますが』
《あー……了解っす。仕事を切り上げて一度戻ります》
何かがおかしい。致命的な常識の欠落が起きていた。しかもそれは、自分だけが気づいているようで他の皆は店内でビニ本コーナーへ足取りをまっすぐ向けている。見慣れないロボットと遭遇して何やら話し合っている様子を店の外から見ていたレオルドの前で、その機体は突然走って店から出てきた。
《失礼するでござるぅぅぅ!》
《えっ!? いや、ちょっと!?》
《逃がすなレオルド! あの野郎不審者だ、とっ捕まえろ!》
《すまんディル、買っといて! はい小銭!》
《任せろ! すいませんコレください!》
《ボサッとするな、見失うぞ!》
シュラに肩を叩かれて、わけもわからないままレオルドは腰部スラスターを吹かしてプラネテューヌの街を走る青い機体を追いかける。
見慣れない機体だ。自分たちとは恐らく別な企業が手がけたのだろう。しかし足が速い上にレーダーの反応も薄い。忍者のような細身のシルエットの機影に向けてシュラが背面の武装パックからホバーマインを取り出した。
《街中で爆発物使うつもりっすか!?》
《そんなわけがあるかウスラバカハゲチャピンボンクラ万年ビリケツドベ太郎!》
《十文字以内で収めて!》
《食らいやがれぇぇぇぇっ!!》
シュラの華麗なアンダースローで地面を滑るホバーマインは加速し、忍者のような機体の足元に潜り込む。それを踏みつけてその場に転倒したロボットをレオルドはとりあえず拘束した。
《御用だ!》
《せ、拙者なにもしていないでござるよ!?》
《えっと、事情もわからず捕えたんだけどどうしたっすか?》
《この野郎は俺達の予定していたビニ本の最後の一冊を手にしようとしていた》
《そんなくだらねぇ理由で!?》
途端に申し訳なくなったが、ディルがそこへコンビニの袋を片手に追いついてくる。
《くっ、将軍のお使いもこなせずお縄とは……無念にござる……!》
《いやー、あの、なんかとっ捕まえて申し訳ないっす……》
《ふっふっふ。俺が逃がすと思うか。重量級機体として設計されたドスコイロボットのこの俺から逃げられると思うなよドスケベロボット》
《ムッツリドスケベロボット捕獲完了》
《いやあんたら人のこと言えないでしょうに……》
《俺はオープンなスケベだ!》
《恥じてくれ頼むから!》
往来の人の目もあるということで、レオルド、ディル、シュラの三人はとっ捕まえた機体を人目の少ない路地裏へ連行した。
《ひ、ひぃぃ……拙者、お金なんて持ってないでござる……カツアゲされても……!》
《まぁ待て落ち着け。まずは名前を聞かせてもらおう。この辺りじゃ見ない顔だからな》
《……せ、拙者はステマックスでござる》
《スケベマックス?》
《もう名前からしてドスケベ否めないな》
《ステマックスでござるッ!!!》
忍者風の機体、ステマックスの猛抗議を笑って流し、レオルド達は自己紹介をする──自分たちを教会お抱えのプラネテューヌ警備隊として。
《ビニ本のお使いと言ったなスケベマックス》
《一体だれから頼まれたんだドスケベマックス》
《事と次第によってはお前をわいせつ罪で連行しなきゃならないんだぞドスケベックス》
《素直に答えろドエロスケベマックス》
《もうやだ拙者のライフポイントはゼロにござる!!!》
《イジメてあげるな二人とも! すいません。コイツラなんか頭のネジちょっと抜けてるんで》
《グスン……かたじけない》
古風な喋り方をするステマックスを落ち着かせて、レオルドは改めて事情聴取を再開した。
《この辺りじゃ見ない機体っすけど、どこから?》
《そ、それはちょっと言えないでござる……》
《なるほど。将軍、というのは?》
《それも言えないでござる……面目ない》
《そっかぁ。その人のお使いでビニ本を買ってこいと》
《今月号はどうしても逃せない特集があるとかで、拙者も探してたでござる。しかしながら、他のコンビニは全滅。唯一見つけた最後の一冊……それを手にした瞬間に、その二人が》
レオルドがしきりに頷き、二人を睨む。ディルとシュラはそっぽを向いていた。
《こっちが全面的に悪いみたいっすね。隊長として謝罪するっす……ごめんなさい》
《かくなる上は、拙者は他の店舗を回ることにするでござる……こちらこそ面倒を掛けてしまったようで》
《待てぇい、ステマックス。俺がお前を捕えたのは話がしたかったからだ》
《いや、捕まえたの俺なんすけど……》
《お使いと言えどこのビニ本に目をつけるとは大した慧眼。流石と言わざるを得ない。死んだ仲間が言っていた──
《シリアスになるべきかギャグなのか判断にすげぇ困るんすけど》
《その将軍のお使いとあらば、ここで共に読まないか? その後でコレはお前に譲ろう》
《い、いいんでござるか!? しかしなぜ路地裏で……》
《バカお前、ばか! スケベ! こんなの公の場で警備員が読んでたら問題だろうが! だからこうしてこっそり街中で読むんだよ……スリリングだろう? 自宅とはまた違った趣があるぞ》
ステマックスと肩を組み、ディルとシュラが買ったばかりのビニ本を広げる。最初は戸惑い、抵抗しようとしていたステマックスだが過激な今月号の内容に釘付けとなっていた。
《……おぉ……おぉぉ……!》
《いや流石最新号。山に捨てられている古本と印刷の発色が段違いだ……》
《こ、これほどとは拙者も予想外にござる……!》
《次、早く次のページ!》
《バカ待てお前。もっとここ読ませろ──》
《……よくわからないっすけど、意気投合したみたいで何よりっす。俺、先に教会に戻るんで後は任せたっすよ》
三人が無言でサムズアップをしてレオルドの背中を送る。ページをめくるたびに隠しきれない興奮の声をこぼしていた。
プラネタワーへと戻ってきたレオルドは、報告書も程々にメンテナンスルームへ向かう。その前に、教祖であるイストワールの元へと足を運んでいた。
普段から国の執政を担っていた教祖の顔は暗く沈んでいる。
《失礼するっす、教祖様》
「レオルドさん。どうかしたんですか?」
《ちょっと、聞きたいことがありまして……時間、いいですか?》
「はい。かまいません、なんでしょうか」
《……あの、黄金の塔について。教祖様は何かご存知ないですか。あんなのがあったなんて記録、今までなかったっす。それに俺以外の皆が守護女神のことも忘れてて……こんなの、絶対におかしいです》
「──! レオルドさんは、ネプテューヌさん達の事を覚えているんですか!?」
《え、ええ……その様子じゃ、教祖様も?》
「はい……明らかに、異常です。ゲイムギョウ界の、プラネテューヌの歴史から守護女神に関する記述が消えているんです。あの黄金の塔もいったい何のために存在するのか、まだわかりません」
《女神様達は、無事なんすか?》
「無事だといいんですが……ただ、ひとつだけはっきりと分かることがあります。レオルドさん、わたしについてきてください」
イストワールに案内されるまま、プラネタワーの最上階へ。そこでレオルドに見せられたものはプラネテューヌの守護女神、パープルハートことネプテューヌのシェアクリスタルだった。
その輝きが鈍くなっている。同時に、グラフも見せられた。それは、急速にシェアエナジーが下落した事を示している。ほぼ最底辺と言ってもいい。辛うじて保っている状態だ。
《これは──》
「教会で保管している、ネプテューヌさんのシェアクリスタルです。このグラフを見てもらって分かる通り、あの黄金の塔の出現と同時に女神のシェアが一瞬にして消滅しました。推測に過ぎませんが、女神の力を奪われたと見ていいでしょう」
《そんな、それじゃあ……》
「今のネプテューヌさん達は女神化したとしても、恐らく変身するのが精一杯かと思われます。そこで、レオルドさんにお願いがあります。ネプテューヌさんを捜索し、教会まで無事に連れてきてもらえないでしょうか?」
《了解っす。何が起きてるか全然まだ理解してませんけど、ゲイムギョウ界の危機に黙っていられないです。出来る限りの事をします》
「お願いしますよ。その間、わたしの方でも何が起きているか調査を進めておきます」
《グラさんのメンテナンスが終了次第、行動開始するっす》
「……それと、これは出来る限りわたし達だけの秘密にしておきましょう。女神の転換期に乗じたこの異変。それに付け込んだ反女神派の動きもより活発になると思われます。できるだけ急いでください」
レオルドは静かに、だが力強く首を縦に振る。