超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
レオルドは早速メンテナンスを受ける。教会の一画に新たに設置された機体の整備室では、資源採掘用ロボットとして開発されたブラストの整備を一手に担うグラさんがスパナを持って待機していた。人体に有害な有用なエネルギー資源の採掘、それを動力源にもしている機体の整備士は影響を色濃く受ける。そのため、身体の一部が結晶化していた。だが本人はそれを仕事の勲章として誇っている。
《…………》
「うーし、そいじゃメンテするぞ。まったく、突然システムダウンってどういうことだ」
《いや、俺が聞きたいくらいっす》
先日どころか今朝の検診でも異常なしと判断されたはずなのに。
全身の装甲を取り外し、その隙間にケーブルを差し込んでグラさんがコンソールを叩く。
「エネルギー伝導率も異常なし。機体可動部も問題なし。特にこっちで異常は見当たらねぇな。となると、頭部ユニットか? 頭外すぞ」
《了解っす》
首元のネジを緩めて、接続部を取り外した。頭と胴体パーツを繋ぐ無数のコードはまるで血管のように緑色の液体を循環させている。
《……グラさん》
「火器管制装置異常なし、と。頭部カメラ問題なし。なんだー?」
《あの、俺って最初期に開発された機体っすよね?》
「そうだなー。初の完成形、それがお前だ。ただし、機体性能は控えめに設計されている」
《どうしてっすか? 武装企業からの資金援助の件もあって武装のアップデートとか、機体装甲の増強とかしたじゃないですか》
「色々あるんだよ、色々。条例とか、お前の機体ブランドはまずエネルギーの安定性を目指して設計されたんだからな。戦闘用に造られたのはシャニぐらいだ」
革新する紫の大地、プラネテューヌの技術力で造られたブラストはそれぞれの目的があって設計された。レオルドは動力源の安定性。だが機体自体が既に一世代ほど遅れている。それを潤沢な資金による強化プランに則って戦闘用に調整していた。
戦績が伸び悩んでいることにレオルド自身、疑問に考えている。なぜ他のみんなと違って自分は強化されてまだこんなにも弱いままなのだろう? 以前より活躍の場が増えているとは言え、結局は最下位のままだった。
「もっと強くなりたいってか」
《……そうっす》
「生憎と、お前ら全員分の機体強化プランで警備隊の資金は底をついてる。後は働いて返してくれよっと。っかしいな、どこも壊れてねぇぞ?」
太い腕で頭部のメンテナンスハッチをしめていき、グラさんは頭を掻く。
ブラスト強化プランニング──資源採掘用ロボットして開発されたレオルド達を、より戦闘用に調整するという設計図は資金難を理由に先延ばしにされてきた。その全てを実行した今となっては教会の管轄で運用されるプラネテューヌ警備隊として活躍する他にない。
レオルドの頭部を胴体に接続し、ケーブルを引き抜いていく。機体の動作チェックをしてみる。全身の稼働率に影響なし。
「まー、予期せぬエラーとか一回くらい起きるか。二度目はシステムの方だから記憶端末いじることになるがな」
《できれば勘弁したいっすね……》
レオルドは強襲武装パックを背負い、プラネテューヌの車道を走る。
ハネダシティから、コロシアムへ。そこでは、エキシビジョンマッチ決勝戦の開催中止の放送が行われていた。会場を後にする一般市民達。口々に不満を漏らしつつ、首を傾げながらリーンボックスのフェリーやルウィー行きの列車へ乗り込んでいた。
それをかき分けてレオルドはコロシアムを見て回る。四人で集まって話し合っているネプギア達を見つけ、駆け寄った。
《ネプギア様!》
「あ、レオルドさん! お姉ちゃんを見ませんでしたか!?」
《面目ないっす、俺も探しに来たんすけど……何が起きてるっすか》
「それが、わたし達にも何が何やら……」
エキシビジョンマッチ決勝戦、最後に残った四女神の戦闘が始まろうとしたその時、ゴールドサァドと名乗る四人組が乱入してきた。それからの記憶が曖昧になっている。光が広がったと思えばすでに四女神の姿はなく、ゴールドサァド達も姿を消していた。
爆音と共に青空を疾走してきたのは、ラステイションからハンティングホラーで飛んできたエヌラス。その表情は険しい。
「何が起きてんだ! どうなってやがる、ネプテューヌ達は!?」
「そ、それが……」
《俺も今来たところっす。どうやら会場にはいないみたいで……》
「あの黄金の塔はなんだ!」
「わ、わからないです。わたし達も初めて見るので」
「ッ……クソッタレ。どこのどいつだか知らねぇが、やろうってんなら徹底的に相手してやる」
いつにも増して殺意と敵意を剥き出しにしているエヌラスに、ロムとラムが怯えていた。ネプギアにはその気持ちが痛いほど分かる。
かつて、自分をあれほど苦しめた黄金の塔、キンジ塔に似て非なる存在がゲイムギョウ界に現れたのだ。次元神との契約で消し去ったはずのものを再び目の当たりにすれば荒れもしよう。
「エヌラスさん、落ち着いてください」
「これが、落ち着いていられるかッ! もう二度と。絶対に、見ることがないと思っていた黄金の塔がゲイムギョウ界にあるんだぞ!?」
「でも、まだあれがキンジ塔だと決まったわけじゃないです」
「なんでそんなに殺気立ってるんですか? 確かに、お姉ちゃん達も姿を消してしまいましたけどきっと無事なはずです」
「────」
冷静さを欠いているのは、エヌラスも自覚している。深く息を吸い込んで、吐き出す。煮え立つ臓腑の怒りを魔術的思考でクールダウンさせた。ようやく自分が平常心を取り戻しつつあることを自覚したところで、これからどうするかを話し合う。
「レオルドはどうしてここに?」
《俺はイストワール様から女神様を探すように命令されたっす。なんでも、女神のシェアが消失したとかで……》
「何ですって!?」
「そんな……!」
《この機に乗じて、教会に反女神派が乗り込んでこないか警戒するようにも言われたっす。プラネテューヌは俺の仲間がいるから大丈夫っすけど……》
「こうしちゃいられないわね、ネプギア。ロムラム、急いで教会に戻らないと」
「う、うん……!」
「お姉ちゃんのシェアクリスタルをわたしたちで守らないと!」
「いや、もしそうだとしたらお前たちのも怪しいな。幸い、ルウィーには師匠がいる。なんでかは聞くな。俺もあんま言いたくねぇ。リーンボックスもアルシュベイトがいる。あっちは任せて大丈夫だろう。ネプギアはレオルドと一緒にネプテューヌを探してくれ。ロムとラムも、無理しないでブランと合流してくれ。ついでに師匠を見張っといてくれれば助かる」
「あたしとエヌラスさんでラステイションに戻るんですか?」
「ケイさんはダメイドが護衛しているから大丈夫だろうとは思うが、ノワールが心配だ」
特に、転換期対策に注力していたラステイションでは抑圧されていた反女神派の動きもより活性化していると考えられた。となれば、出来る限りそちらへ向けて動くべきだろう。
「リーンボックスは俺からアルシュベイトに連絡しておく。こっちが落ち着いたら俺から改めて連絡する! 何か動きがあったら報告してくれ」
「はい! レオルドさん、わたし達も」
《了解っす!》
「行こ、ラムちゃん」
「うん!」
《あ、それと一つだけ気になることがあるっす。どうも、みんな守護女神の事を忘れているみたいで……イストワール様が、歴史書からも痕跡が消えていると》
「なっ──!?」
「お前、それは真っ先に言うべきことだろうが……あーもう、怒りが一周回って逆に冷静になってきた。乗れ、ユニ。ラステイションの途中で下ろす。俺は極東支部に協力を仰ぐ」
「は、はい!」
ハンティングホラーの後部座席にユニが乗り込み、エヌラスにしがみついた。アクセルターンでラステイション方面に向けると、アクセルを全開にして突風を置き去りにして走り去る。
ロムとラムも頷きあって女神化するとルウィーへ向けて飛び去っていった。
ネプギアとレオルドもプラネテューヌへ向けて移動を始める。
──しかし、一体全体なにが起きているのかレオルドもネプギアも皆目見当がつかなかった。
ネプテューヌを捜索し始めて、すでに日が暮れ始めている。コロシアムからプラネテューヌへのアクセス線を頼りに街で聞き込みをしながら移動していたが、手がかりは全く無かった。
「──ありがとうございました」
《収穫なしっすね》
「そうですね……でも、お姉ちゃんならきっと無事だって信じてます」
《当然っす。なんてったってネプテューヌ様っすもんね、それにミリアサさん達だってこの異変に気づいて探してくれているはずです》
結局、首都にまで戻ってきたがネプテューヌが見つからない。
夕焼けに染まるプラネテューヌの公園で意気消沈しているネプギアに、レオルドが自販機で買ってきた飲み物を差し出した。
がっくりと肩を落としていたネプギアの耳に、聞き慣れた声が届く。顔を上げれば、ミリオンアーサーがチーカマと共に息を切らして駆け寄ってきた。
「ネプギア、無事だったか!」
「ミリアサさん! お姉ちゃんを知りませんか!?」
「う、うぅむ……すまぬ。わたしも探してはみたのだが、まだ見つからないんだ」
「ギルドで仕事をしながら探してたんだけどね。バーチャフォレストの方もサクラナミキにもいなかったわ」
《……というか、ミリアサさんは女神様のこと覚えてるんすね》
「当然だろう、わたしも伊達に居候をしていなかったからな!」
「胸を張って言えることじゃないんだけど」
ともあれ、こちらは人材不足に悩まされることはなさそうだ。
「お姉ちゃんのことですから、ひょっこり帰ってくるかもしれません」
《ネプギア様は一度教会に戻って休んでください。俺はこのまま夜の捜索に出ます》
「でも……」
《大丈夫っす! これでも子猫探しとかで夜間労働も慣れてるんで!》
「便利なやつだな……」
「ロボットだから疲れないだろうし、そうしてもらった方がいいんじゃない? 今日はひとまず身体を休めないと」
「じゃあ……レオルドさん、すいません。お願いします」
《一応俺の仲間にも連絡しておくっす》
迷い人、ネプテューヌ求む。身体的特徴などを共有して、プラネテューヌ警備隊は隊長からの命令に頷いた。見かけたら報告するように念を押しておく。
ハネダシティでも喫茶店マグメルを経営しているジンガに伝達しておいた。
レオルドは一晩中プラネテューヌから近隣までくまなく捜索し、それから二日後──。
「レオルドだ、やっほーい! よかったー。聞いてよ散々な目に遭ったんだよ? 女神化しようとしたらシェアが無くて思ったように力は出ないし、黄金の塔は扉が開かなくて門前払いだし、も~クタクタなんだから~! あと誰もわたしのこと覚えてないっぽいんだよね」
《……おっっそろしいほどポジティブマイペースで俺も安心したっす》
ハネダシティ近隣で、ようやくネプテューヌを発見することができた。どうやら出現した黄金の塔に向かっていたらしい。怖いもの知らずというか好奇心旺盛というか。流石は主人公オブ主人公と言うべきか。肝が据わっている。
《お腹空いてないっすか?》
「も~お腹ペコペコだよぉ! 山盛りバケツプリンを要求するよー!」
《それならジンガさんのとこに寄りましょう。プラネテューヌまで俺が護衛しますので。プリンくらいだったら奢るっす》
「本当に! やったー、ありがとうレオルド。プリンを食べれば元気万倍ねぷ子さんだよ!」
カフェテリア、マグメルでネプテューヌの要望通りにバケツプリンを注文し、レオルドはプラネテューヌ警備隊に探し人が見つかった旨を連絡した。今のところ街に異常は起きていないようだが近隣で不審者を見かけたとの報告が入る。その調査にアイエフが向かったらしい。
「ん~、今のわたしは女神火力発電所! いくらでも食べられちゃいそう」
《プリン食べたらプラネテューヌに行きましょう》
「え~、もう一個くらい食べた~い」
《すいません、ジンガさん。バケツプリンもう一個いいっすか……》
《よく食べるなぁ……》
テーブルにどんと置かれたバケツプリンを頬張るネプテューヌに、ジンガもレオルドも驚愕を隠せなかった。