超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
一夜明けて、ついでに冷蔵庫の中身も空にして――エヌラスはユウコのいるであろう教会に顔を出した。旅支度を整えてユノスダスを後にする旨を知らせると、眠そうに目蓋を擦りながら頷く。
「ん~……」
「あんま目擦ると悪くなるぞ?」
「言われなくても知ってるよ、子供じゃないんだし……」
「ま、そんなわけだから。機会があったらまた来る」
「ちゃんと金返してよー?」
「へいへい」
テメェの方はどうなんだと言う気にはならなかった。早朝から復興作業に精を出すランス03は昨日に増してやる気を出している。お前のそのモチベーションはどっから来るんだと問い詰めたい。その額のねじり鉢巻は何のために用意したのだろうか。今時の新入社員でもそこまで仕事にやる気出さないぞと思いながら尻目にユノスダスを出て九龍アマルガムに向かう。
《ッシャオラー! 野郎ども、今日もやる気出してくぞー! 昨日の遅れを取り戻せー!》
『ウオオオオオオォォォッ!』
朝からやかましい。
移動方法が何故徒歩かと聞かれれば、プルルートの変身は全員で「ノー! 絶対にノー!」ということ。
「あ、なんか私変身出来そうかも! よーし、ちょっと試しにやってみようかな!」
「そんな気軽に変身していいものなのか?」
「結構頻繁に変身するわよ、私達」
「戦闘以外でも移動するのに変身しますよね」
「俺の苦労が馬鹿げてきた……」
そんなわけで、ネプテューヌはエヌラスの前で実際に変身してみせた。
「――へぇ、変身の感覚としてはゲイムギョウ界と変わらないみたいね」
「だれおま」
「目の前で変身してみせたのに聞くの? ネプテューヌよ。今は女神パープルハートだけど」
「……………………」
「エヌラス? どうしたの? 眉間押さえてどうかした?」
「どうしてこう、どうしてこうお前らってよぉ……! 変身する前と後でそんなに変わるんだよ! 一瞬誰だか分かんなくなるだろうが!」
「そんなキレられても困るわ……やっぱりロリの方がいいの」
「ちげぇよ!? 後、お前に関してはもうずっとそのままの方がいい」
言い終わるが早いか、ネプテューヌ=パープルハートは変身を解除した。
「残念だったなー、私だー。どやぁ!」
「さーて先行くか」
「ナチュラルに酷くない!? ねぇノワール、エヌラスって酷くない!?」
「だってアナタ、私達の中で一番変身のギャップすごいじゃない。むしろ尤もな反応よ」
「うわぁ~ん、ネプギアー。いじめるぅ、エロノワールがいじめるよぅ」
「ちょ、エロは余計よ……大体それを言ったらアナタの方がエロかったわよ!」
「ノワールちゃんも我慢してたもんねぇ~」
「ほらー、ぷるるんが言うんだからノワールはエロエロだー!」
「アナタねー! こら待ちなさいよ! 逃げるなー!」
「……頼むから、朝っぱらから騒ぐなよ……」
そのテンションに付き合わされる身にもなれ。エヌラスは心底苦労したため息を吐き出した。
犯罪国家。九龍アマルガム――これから向かう先ほどアダルトゲイムギョウ界で危険な場所もない。そんなところへ少女四人を連れて帰国するというのは犯罪王と呼ばれるエヌラスであっても無謀に等しかった。誰がどんな目に遭うか知れたものではないし、ただでさえ人口過密地帯の街中ではぐれたら何をされるか分からない。ただでさえ気が重いというのに……。
「やっぱ胸でご奉仕とかしちゃったんでしょー、そうなんでしょー。そこのところどうなのさぷるるん」
「エロエロだったよぉ~?」
「ちょちょ、ちょっと!?」
「かわいかったなぁ~ノワールちゃん」
「やめてってばぁ~!」
「…………」
女三人寄れば姦しいとは言うが、ネプテューヌ一人で騒がしいのに四人も集まったらただただやかましい。
「あの、エヌラスさん」
「なんだ、ネプギア」
「騒がしくってごめんなさい……」
「頭痛がしてきた……」
「そ、そういえば九龍アマルガムって何もない衛星写真見せてもらいましたけど――」
「ああ、そりゃそうだ。元・教会の時計塔残して後は全部俺がぶっ壊した。地下から地上に出てきたはいいが、それじゃあまりに他が迷惑ってんで国ごと潰したんだよ」
「……あの、自分の国。なんですよね? それ、自分で潰したって」
「上と下でちょっとしたすれ違いがあってな。同じ名前の同じ国だが敵同士っつぅ奇妙な関係が出来上がった」
その結果として、上下関係が生まれた。土地としても、国としても。地下からの発展で地上に進出したものの結局は失敗だったということだ。基点は地下。上にある時計塔は教会の名残。
「でも、どうしてそんなことしたんですか?」
「…………俺の師匠の話、したか?」
「えーっと、とりあえずトンデモナイ人ですよね?」
「……とんでもないの領域ぶっ飛んでたんだよなぁあの人……あぁ嫌だ思い出したくねぇ……」
「エヌラスのお師匠さんってどんな人だったの? やっぱクズの極みなの?」
「お前、師匠生きてたら殺されてるぞ。本来、地下帝国の九龍アマルガム治めてたのは俺の師匠だ。厳密に言えばそうだな、俺も一時期ネプギアみたいな時があったんだ。国王候補生、みたいな感じでよ」
「じゃあ、正式な手続きを踏んで継承したのね」
「いや。殺して奪った」
「……アナタ、身の回りの人死んだり殺し過ぎじゃない?」
「だから九龍アマルガムには帰りたくねぇって言ってんだろうが。大体俺の恋人寝取ったの師匠だしな。んで、地上に出てきた時に“国ごと潰した”」
時計塔だけはどういうわけか傷一つつかなかったらしい。だが、そのお陰で地上と地下を自由に行き来できる人間は限られる。業者と、国王であるエヌラスだけだ。
「結局はまぁ、師弟関係の拗れが痴情のもつれで国一つ滅んだってこと」
「とんだ師弟喧嘩があったものね……」
「ていうか、国一つ滅ぼすって……」
「しょうがねぇだろ。俺の師匠、全長六十メートルあるロボット“生身で殴り飛ばす”んだから」
「いや、その全長六十メートルって尺の時点でおかしいから。光の巨人じみた体長じゃない。ていうかそれどっから出てくるのよ」
「俺が使ってた」
『えぇっ!?』
「もう二度と使わねぇって決めたけどな」
左胸を指して、それから魔術回路がそのロボットの技術を流用したものであることを話す。無尽蔵の魔力貯蔵庫――のはずなのだが、回路が焼き付いて使えなければ宝の持ち腐れでしかない。
「でも、魔術回路とかそういうのなくても、私達は普通に魔法使えますよ?」
「俺が色々と特殊なだけだ」
「そりゃそんな巨大ロボ使ったら国一つ滅ぼせるわよ……」
「でもそれ使ったら普通に勝てるんじゃない?」
「使えたらな。今の俺じゃ使い物にならねぇよ。使用条件限られてるし」
そう言いながらエヌラスは段差を飛び降り、ネプテューヌに潰され、ノワールに踏まれ、立ち上がろうとしてプルルートに潰された。ネプギアは隣に着地する。
「あ、ごめんエヌラス」
「ゴメンじゃねぇよ!? ノワール、普通に踏みやがったな!?」
「だ、だって突然足場なくなるんだもの!」
「俺だってこんな段差出来てたの初めて知ったわ! ったく……」
ぶつくさ言いながらプルルートをそのまま背負い、エヌラスが眉を寄せた。――段差?
振り返れば、確かに出来ていた。二メートルほどの段差が。等身大の地層の盛り上がりに首を傾げる。はて、こんなのがあっただろうか? 記憶を辿っても思い当たる節がない。
「……妙だな。こんなんなかったのに」
「あー、エヌラス。ぷるるんおぶさってずるいよー! 私も楽したーい」
「えへ~、だめだよぉ~ねぷちゃん。エヌラスはあたし用だもんねぇ~」
「いつから俺はお前専用になったプルルート」
「……聞きたい?」
「言わなくていいです」
「教えてあげよっかぁ~」
「聞きたくないです……」
「え~っとねぇ~」
「ヤメロォ!」
「――はぷっ」
「ぬぉわぁ!?」
耳に近づけていた口が、耳たぶを甘咬みすると吐息を吹きかけて離れた。じろりと睨めば何も知らぬニコニコ笑顔。
「にこ~」
「……こんにゃろめ」
「ぶーぶー。朝からイチャつくなんてズルいぞーぷるるん」
「いいじゃ~ん。昨日はねぷちゃんが独り占めだったんだからぁ~」
「でも、一緒にお風呂入ってたじゃない」
「……――ぷる~」
顔を赤くして押し黙るプルルートに首を絞められてエヌラスの顔が青ざめていく。
「プルルート、タンマ、ストップ……! 死ぬ……!」
「歩いていたら何日くらいでつくのさー。疲れたよぉ」
「三日も歩けば着くだろ。何もなけりゃあな」
「絶対何かあるわよねそれ。はい提案。私とネプテューヌが変身して、ネプギアを連れて飛ぶからエヌラスはプルルートとハンティングホラーで来たらいいじゃない」
「――――、――――!」
「わぁぁぁぁぷるるん、待って! エヌラスやばい! ほんと死んじゃう! 離したげて!?」
タップしていても照れ隠しのあまり気づいていないプルルートを引き剥がし、ノワールの提案を採用した。