超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──プラネテューヌへ戻ってきたネプテューヌ達は、その足で教会へ向かう。だがプラネ商店街の騒がしさに何事かと顔を覗かせると、ワレチューが性懲りもなく悪事を働いていた。
「あ、ワレチューだ」
「最近世間を騒がせてるから、いい加減とっちめたいところなんだけどそっちまで手が回らないのよね」
「アイエフさん、ずっと忙しそうでしたもんね」
逃げ出そうとするワレチューだったが、その前に立ちはだかるのは仮面を付けた少女──プラネテューヌの希望の星、人呼んでブレスト仮面が退路を断つ。
「待てー! そこの悪事を働くモンスターめ! このブレスト仮面が退治してやる!」
「ぢゅー、また出たっチュね! いつもいつも邪魔をするなっチュ!」
「わ! なんか出てきたけど!? あれ誰!?」
「あー、ブレスト仮面ね。ねぷ子がいない間、プラネテューヌの平和を守ってくれた正義の味方よ。子供限定だけど」
「そうなんだ」
しばらく動向を見守っていると、一悶着あった後にワレチューを撃退したものの取り逃がしてしまったようだ。それから遅れてプラネテューヌ警備隊のディルが現場に到着する。
《ひとーつ、世のため人のため! ふたーつ、悪は絶対許さなくもない。みーっつ、おやつはひとり三百クレジットまで! プラネテューヌ警備隊、参上! あ、終わってた? お疲れ様っしたー! じゃ、俺帰るんで》
「待たんかぁぁぁーーーーいっ!!!」
《げぇっ、アイエフさん!》
「“げぇっ”ってなによ“げぇっ”って!? あんたまたなんかやましいことしてたんじゃないでしょうね!?」
《いやらしいことは考えてます、男の子なので!》
「公言すな! っていうか来るのが遅いわよ、ブレスト仮面が解決しちゃったじゃない」
《いやぁ、はっはっは。自分、重量級なんで》
「はぁ……」
ダメだこいつ。アイエフが頭を悩ませていると、ブレスト仮面が歩み寄ってきた。
《ブレスト仮面、お疲れ様であります》
「うむ、苦しゅうない!」
《ジュースどうぞ》
「わーい、ありがとう。いただきまーす」
《いやぁすいません。本当は自分達がやるべき仕事なのに》
「いーのいーの。ブレスト仮面は子どもたちのヒーローなんだから」
《仮面、外さないんですか?》
「あ、忘れてた。でもほら、謎の仮面ヒーローだから正体はばれないようにしないと……こっそり外してくるね」
《いってらっしゃーい》
ブレスト仮面が走り去ると、それから少しして同じ路地から瓜二つの少女が出てくる。手にはディルからの差し入れのジュースを持っていた。
「あれ!? ブレスト仮面は!?」
「ねぷ子、あんた本気で言ってる?」
「え?」
「……もういいわ、なんかツッコミ疲れたし」
「アイエフさん、お疲れ様です……」
いい加減身が持たないのだろう。ディルがアイエフ達に気が付き、和やかに話し合っていた少女を背中に乗せて近づいてきた。その少女を見て美少女センサーが反応したのか、ミリオンアーサーの目が輝いている。脇腹をチーカマに殴られて悶絶したが。
「くおぉ……! な、何をするチーカマ、今のはいいところに入ったぞ……!?」
「初対面の子に飛びつこうとしたアーサーが悪い。こっちのことは気にしないで、いつものことだから」
《どーもー、プラネテューヌ警備隊のどすこい系ロボット。ディルでーす》
「わたしはビーシャだよー!」
「いつもお疲れ様、ブレスト仮面……じゃなくてビーシャ。悪いわね、自警団みたいな真似させてて。でもいつも言ってるけど、危ないと思ったらすぐ逃げなさいよ」
「あれ? あいちゃん、知り合いなの?」
「ええ、まぁね……といってもこいつらのおかげなんだけど」
プラネテューヌ諜報部の管轄で運用されているロボット警備隊、その破天荒な活動と言動と行動によって巻き起こる波乱の嵐に日々付き合わされているアイエフの心労は計り知れない。最近学んだことは程々に付き合うことだ。いくら注意しようが何を言おうが絶対に学ばない。学習機能がついていないのかと疑問に思うことはあったが、どうやらプログラム自体は標準搭載されているようだ。彼らの専属メカニックが言うには全機問題なく稼働中らしい。
《ちなみにこちらのビーシャちゃんはプラネテューヌ警備隊(候補)ですので、よしなに》
「変な事件に巻き込んで怪我だけはさせないようにしなさいよ?」
《わかってますって。アイエフさん達はサクラナミキからのお帰りですか?》
「ええ、そうよ。疲れてるから、できれば面倒事を起こさないでちょうだい……」
《了解しました。ではビーシャちゃんは自分と街の巡回に行きますか》
「オッケー! 出発進行ー!」
「あぁ~、せっかくの美少女がぁ~……!」
「ていやっ」
まさかの二撃必殺、再びミリオンアーサーがチーカマの肘打ちによって悶絶する。ディルが背中にビーシャを乗せたまま車道を走り始めた。遠ざかる二人を見送り、ネプテューヌ達は教会に戻ってイストワールへ報告に向かう。
「はぁ~~~~……」
「おかえりなさい、アイエフさん。お疲れ様です」
「はい、ただいま戻りました。イストワール様」
「何やら疲れている様子ですが……なにかありました?」
アイエフは心底疲れた様子でサクラナミキで起きた出来事を話し始めた。
マジェコンヌと魔神クロギアと遭遇したこと、空間操作によって新種のモンスターを続々と召喚したこと、レオルドがアンロックさせたシステムによってなんとか窮地を脱したこと。だが、その結果として機体がオーバーヒートし、システムダウンしている。ゲイムギョウ界から守護女神への信仰が失われていることも含めてネプテューヌ達と確認を取っていた。
「そっか、やっぱりわたしのシェアが無くなっちゃってるのかぁ」
「守護女神のシェアがゲイムギョウ界から消失している状態です。女神化しても本来の力が発揮できないでしょう」
「はい。いつもの力が全然出ませんでした……」
「ですが、わたしだけでなく守護女神の記憶を保持したままの方もいます。その僅かな信仰心で何とか保っている状態となります。今のネプテューヌさん達が戦うのは普段以上の危険に晒されることになるので、気をつけてください」
「はーい」
「なぁに。安心してくれ、ネプテューヌ。わたしやチーカマだけでなく、アイエフ達もいるんだ。大船に乗ったつもりでいてくれ」
「うん! 頼りにしてるよー、ミリアサちゃん! コンパもあいちゃんもね!」
「ねぷねぷはわたし達で守ってあげるです」
「そうね……」
「あいちゃん? どうしたです?」
「はぁ……。まさかねぷ子のことを忘れていたとかショックだわ」
どうやら思いの外、尾を引いているらしい。ゲイムギョウ界を覆う未曾有の事件にイストワールも困惑していた。
「わたしはみんながいるからいいけど……ブランもロムちゃんとラムちゃんがいるし、ノワールにはユニちゃんもエヌラスもいるし……ベールが心配だなぁ。女神候補生がいないからきっとひとりだよ」
「でもリーンボックスにはアルシュベイトさんがいるんじゃ……?」
「あの国王様がいるなら大丈夫じゃない?」
「え~、だけどきっと寂しがってるよ。ルウィーにも大魔導師がいるからいいけど、これじゃ戦力が偏っちゃってて不安っていうか……」
「ならどうするのよ」
「でも、確かにベールさんが心配です……」
プラネテューヌに戦力が偏っていることもある。
「ネプギア。リーンボックスに行って、ベールを助けてあげてくれない?」
「ちょっとねぷ子、せっかくネプギアと再会できたっていうのに本気で言ってるの?」
「う~ん、わたしだって本当はネプギアと一緒にいたいよ。だけどここは心を鬼にして最愛の妹を送りだすよー! これも女神の修行なんだから」
「本当かしら……」
「でもわたしもベールさんが気がかりですし……」
「そういうことなら気をつけてね。イストワール様、他の教祖様と連絡は?」
「……残念ながら」
ラステイションの神宮寺ケイは教会に乗り込んできた反女神派によって連絡つかず。
ルウィーの西沢ミナも同様に。
リーンボックスの箱崎チカも今は武装企業に匿ってもらっているようだ。
ゴールドサァドによって守護女神が力を失い、仲間と分断された状況。その隙に乗じて反女神派と魔人達が攻めてきている。
その情勢は守護女神のみならず、教祖たちをも危機に晒していた──。
──ラステイション教会から逃げるように走る神宮寺ケイ。先導しているのはカルネ、殿をスピカが務めていた。コントラバスケースを開き、中から無数の古風な銃器を取り出すと追跡してくる反女神派の武装勢力に対し容赦なく発砲する。無数の銃火と砲声が鳴り響く中を走り、追手の足を止めてからスピカがケイと並走していた。
守護女神に対し、強い思いを抱いているものは歴史改変の影響が弱いのか、三人だけでなく武装組織の残党達が結託して乗り込んできている。結果、守護女神の記憶を失った職員達では為す術もなく教会を制圧されてしまった。
守護女神の記憶を有したままの教祖、神宮寺ケイとその秘書である武装メイドはノワール同様にラステイションから追われる身となっていた。
「ケイ様、大丈夫ですか?」
「なんとかね。まったく、折角のビジネスチャンスが台無しだよ」
「いたぞ、こっちだ!」
「はい邪魔ぁ!! カルネちゃん通りまーす、通ります、通りゃんせー!!」
機動力では一歩抜きん出ているのか、カルネが緋色の太刀で進路を阻む武装組織を薙ぎ払う。倒れた相手を飛び越えてケイ、スピカの順番で通過した。
「さて、いかがなさいましょうか」
「軍部も掌握されている、ラステイション全域から追われる身となったのは初めてだ」
「追うより追われる女になりたいですけど、こういうのはご勘弁ですねぇ」
「人目につく場所は避けるべきでしょう。軍の目もあります」
「そうなると……極東支部も怪しいところだ。奴らのことだ、ボク達を指名手配して徹底的に追い込んでくるに違いない」
「ですけどー、ケイ様。そんな都合の良い場所あるんですか?」
「ふむ……そうだねぇ……おっと、失礼するよ!」
カルネが銃弾を弾き、ケイが宙返りで進路を阻む兵士を飛び越え、身を翻しながら細剣で斬りつける。体勢を崩された一人をコントラバスケースで殴り飛ばしながらスピカが通った。
「一箇所だけ。人目につかず、同時に軍の介入もない。だが同時にそこは教会でも調査の進んでいない謎の多い危険な場所だ」
「あ、スピカ姉! カルネちゃん天才的発想! ご主人様に救援要請は!?」
「ラステイション軍の皆様含めて消し炭にしかねない今のエヌラス様に助けを乞うとか狂気の沙汰ですか?」
「さすがにそれは勘弁してほしいな。ハァド大戦で甚大な被害を受けた軍部の立て直しに予算も余裕がないからね。できれば武装勢力だけに留めておきたい。だけどそれはそれとして、彼に連絡をしておいた方がいいだろうね」
「了解でっす!」
カルネがD-Phoneを取り出し、エヌラスと通話を試みる。
『あぁ!? どこのバカだ、今取り込み中だぶっ殺すぞ!!!』
「私ですご主人様! カルネです! 現在ケイ様とラステイション軍ならびに反女神派の武装組織から逃亡中です!」
『今どこだ! ラステイション軍もろとも壊滅させてやる!』
「いえできることなら反抗勢力だけにしてください!」
『見分けつくわけねぇだろバァァァカッ!!! 目につく全部片っ端からぶっ壊してやる! 邪魔すんじゃねぇぇぇ!!!』
「……わーぉ絶好調ですねご主人様」
斬撃音、砲撃音、無数の魔術による圧倒的な暴力、暴風と荒れ狂う嵐。カルネが受話口から思わず耳を離したくなるような人々の悲鳴と破壊音がケイとスピカにも聞こえていた。
「あ、あのですねご主人様! えっとカルネのお話に耳を傾けていただけます?」
『ちょっと待ってろ、黙らせる──神獣形態!!!』
「……ご主人様を先に止めた方がいいかと思ってきました」
「ボクもだよ……」
「私もです」
『おう、静かになったぞ。なんだって? なに起きてんだテメェ、寝てろバカ、ぶっ殺すぞ』
鈍い打撃音。恐らく倒れている相手を蹴飛ばしたのだろう。エヌラスの声がやけに鮮明に聞こえてきた。後ろの静けさがかえって恐ろしい。
「えーと、ケイ様に代わりますね?」
「もしもし、エヌラス? 何やらだいぶはしゃいでるみたいだけど」
『今どのへんだ、焼け野原にしてやる』
「これからボク達は“禁域の森”に隠されたヤーナム・シティに逃げ込む。折を見てキミも合流してくれ──その前に、ひとつだけ。できるだけラステイション軍に被害は出さないように」
『……チッ』
「舌打ちされたんだけど」
「エヌラス様に代わり、謝罪いたします。どうも、その……破壊活動が趣味なところがありましてですね?」
『聞こえてんぞスピカ。テメェも後で殴る。カルネは問答無用でぶん殴る──あ? 悪い、増援が来た。ヤーナム・シティに迎えばいいんだな?』
「くれぐれもラステイション軍には……あ、切られた」