超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
禁域の森の中は接触禁止種が繁殖しており、二人は鬱蒼として入り組んだ森の中を進む。方向感覚を狂わせるような、似たような獣道ばかりが続く中をエヌラスはずんずんと先に歩いていた。その後ろをついて歩くゴッドイーターははぐれないようについていく。
「あの、エヌラスさん」
「なんだ」
「道わかるんですか?」
「いいや、全然」
「えぇー……本当に大丈夫なんですよね?」
「俺としては、むしろなんで此処はこんなにモンスターが繁殖してるのかが気になるんだが」
「現地のハンター達も周辺の安全は確保してるはずですけど……」
迷いのない足取りだが、ヤーナム・シティに通じる獣道は未だ誰も知らない。交通の便が出ているという話も聞いたことがなかった。そもそもどうやって生活をしているのかも知らない。
地面から隆起した木の根を飛び越えて、二人は禁域の森を歩いた。
「あっ」
「なんだ、どうした」
「あそこにいる水棲モンスター、見えますか?」
「陸クジラか?」
「話によると、癖がありますけれど陸クジラの肉も食べられるらしいです。確か、カツにするのが特に美味だとか」
「……ゴッドイーター」
「はい」
「パン粉持ってるか?」
「残念ですが持ってません、というかここで食べる気ですか!?」
「そんな話聞いたら食いたくなるに決まってんだろ。海産物は苦手だが」
暗闇に目が慣れてきた頃に、エヌラスが眉を寄せる。木の幹に混じって、石碑のようなものがいくつも建てられていた。傍まで近づき、そこに刻まれている文字を読み取ろうとするが見たことのない文字の羅列に解読できず断念するものの、人工物があるということは人の手が届くということだ。となれば、ヤーナム・シティに近づいているということだろうか。
「エヌラスさん。あそこ、なにか灯りみたいなものが見えませんか」
「……? 確かに……灯りっぽいな」
ゴッドイーターの示した先、小さな青白い灯りが見える。その周囲にはモンスターも近づかないのか、開けた場所となっていた。だがそこへ通じる石橋の前に小型モンスターと大型モンスターが徘徊している。エヌラスが手首を慣らし、魔術回路に魔力を通した。
「まず灯りまで突破するぞ。見たところそこに通じる道は石橋だけだ、反転して一気に叩く」
「分かりました」
最短ルートで石橋まで駆け抜け、エヌラスとゴッドイーターに気づいたモンスター達が殺到してくる。バルザイの偃月刀を多重投影して遮蔽物代わりにすると、先行したゴッドイーターが石橋にスタングレネードを落として灯りに辿り着いた。エヌラスも無事に通過した直後に背後から強烈な閃光が弾け、モンスター達の視界を奪う。
神機を変形させて、スラグ弾に切り替えると手近な相手から撃破していく。クトゥグアとイタクァを連射して石橋を渡ろうとするモンスター達を倒していくうちに、敵わないと見たのか少しずつ追ってくる数が減ってきた。
「さすがにちょっと、数が多いですね!」
「──神銃形態」
「えっ」
ノーモーションで発動されたエヌラスの魔術が禁域の森を焼き払う。破壊の爪痕に残された炎に怯えて残りのモンスター達が逃げ出した。呆然としているゴッドイーターの前で、白い息を吐き出して身体をクールダウンさせる。
「静かになったな」
「……そうですね」
身の丈を超える神機を持ちながら灯りに近づき、ゴッドイーターは置かれているランタンを手にした。持ち上げて周囲を照らしてみると、壊れかけた石畳が続いている。嗅ぎ慣れない匂いに鼻を鳴らして振り返って、エヌラスが小瓶とドラッグシガーを空けているのを見て眉を寄せた。
「それ、なんですか?」
「魔力回復アイテムと煙草」
「良い匂いしますけど、美味しいんですか?」
「両方とも劇薬だからオススメしない」
「そんなの摂取しちゃダメですって!」
「そうは言われてもな、コレで今は何とかしてる状態なんだよ」
ドラッグシガーを咥えたままエヌラスは照らされた石畳を見下ろし、指を這わせる。だいぶ劣化しており、長く人の手が入っていないことが分かる。泥や土に埋もれて踏み慣らされた石畳の道は茂みに続いていた。
そもそも、何故ランタンが道のど真ん中にポツンと置かれているのか。
「ゴッドイーター」
「はい」
「多分、罠だ」
「どうしてそう思うんですか?」
「そのランタンだけ手入れされてる。拾ってください、なんてご丁寧に言ってるようなものだ」
「じゃあ……」
「この暗闇に紛れて、その灯りを目印に襲ってくるつもりだろうな」
周囲を見渡し、人の気配がないか探知してみる。だが、流石は現地の狩人。何が目的かは分からないが、探す手間が省ける。
「俺が灯りを持つ。はぐれるなよ」
壊れた石畳が続く道を歩き、周囲を警戒しながら先へ進む。禁域の森の空気は重く澱んでいる、呼吸が重苦しく感じるほどだ。生い茂っている木々も不気味に蠢いているようにさえ見える。
エヌラスが突然立ち止まって、背中にゴッドイーターがぶつかった。
「きゃふっ。どうかしたんですか?」
「……」
茂みから何か、触手の塊のようなものが出てきている。見たこともない物体に二人が首を傾げてよく見ると、それは蛇が団子状に絡まったモンスターだった。
「蛇団子だな」
「蛇団子ですね……見事にこんがらがってますけど」
「……蛇も食えるよな」
「もしかしてお腹減ってます?」
ヤーナム・シティ特有のモンスターを観察するが、特にこちらへ向けて襲いかかってくる様子はない。近づきさえしなければ襲いかかってこないようだ。
「蛇って丸焼きで食えるんだったか」
「食べ歩きに来たわけじゃないですよね」
大木の影から、巨大な蛇団子が現れる。見上げるほど巨大な蛇が絡まりあったモンスターは人間ですら丸呑みにしてしまいそうなサイズは動くだけで地面が揺れていた。
「……あれも食べたいと思います?」
「なんか、アレはマズそうだな。食えるだろうけど」
(でも食べるんだ……)
エヌラスとゴッドイーターは巨大な蛇団子と目が合う。顔を見るなり、牙を剥き出しにして威嚇してきた。毒液を吐き出しながら二人に迫る。
バルザイの偃月刀を投てきして蛇団子の中心部に突き刺すと、クトゥグアの炎熱で焼き尽くす。だが、身悶えするだけで勢いが衰える気配はなかった。無数の蛇が絡まった団子状のモンスターは毒液を吐き散らしながら追ってくる。
「よーし逃げるか」
「た、倒さないんですか!?」
「面倒!」
「率直ですね!」
ランタンを持ちながらエヌラスが走り、ゴッドイーターと禁域の森を走る。だが、その鳴き声を聞きつけて他の蛇団子達も迫っていた。
「でかい方の蛇団子、一匹だけじゃなかったみたいですね!? まだ追ってきますよ!」
「とんでもねぇ森だな! こんなとこでどうやって生活してんだ狩人達は!?」
──動く灯りを見つけて、頭上から飛び降りてくる人影。その落下地点にいた蛇団子達の急所を突き刺して仕留める。背後の異変に二人が立ち止まると、そこには全身ローブ姿の狩人が三人立っていた。
無言でこちらを見つめてくる三人組にゴッドイーターがお礼を言おうとしたが、エヌラスは肩を掴んで引き止める。明確な敵意をぶつけてくる狩人達は静かに歩み寄ってきていた。
「……どうします、エヌラスさん」
「逃してくれそうにはないな」
相手は三人、こちらは二人。刀を持った二人が距離を詰めてくる。
エヌラスも倭刀を手にして一人と切り結ぶ。ゴッドイーターはその場から飛び下がり、ショットガンに切り替えた神機で応戦する。残りの一人は後方支援に徹しているのか、近づいてくる気配はない。
(こいつら……、ヤーナム・シティの狩人か。以前見かけた奴とは随分と毛色が違うな)
話が通じるような相手でもなさそうだ。半ば正気を失っているかのように唸っている相手を蹴り飛ばし、レイジングジャッジを腹に向けて撃ち込む。衝撃にたたらを踏んだ狩人を袈裟斬りにするが、傷口が開くのも厭わず反撃してくる。捨て身の攻撃に驚きながらも、魔術で防御しながら一度距離を取った。
腕をしならせて狩人が刀を振るうと、鞭のように伸びて逆袈裟にコートを斬りつける。鮮血が溢れ、エヌラスが顔をしかめた。
「っ……!?」
ただの狩人だと思っていたが、違う。明らかに人間として異常な身体機能だ。刀にヤスリを擦り付けると発火させて近づいてくる。生半可な一撃で止まらないのならば、一発で仕留めるくらいが丁度いい。
刀を防ぎ、手元で倭刀をバルザイの偃月刀に変化させる。
「!?」
「じゃあな」
相手の腹部を貫いて、銃で頭を撃ち抜く。姿勢が崩れた狩人の腹から頭に向けて一気に斬り上げた。二つに別れた頭部に向けて、さらに打ち下ろす。真っ二つに裂かれた狩人の身体が崩れ落ち、そのまま霧になって消えていく。
不意に明るくなり、エヌラスがその場から転がり避けると、炎が投げつけられていた。
ゴッドイーターも狩人に向けてロングブレードを振るい、飛びかかりながら足元を払う。回避際に足元を刈られた相手を蹴りつけて、神機を変形させて頭に突きつけると吹き飛ばした。
「よしっ……えっ!?」
頭部に散弾を撃ち込まれた相手が身体を痙攣させたと思うと、身体の中から何かが食い破って出てくる。それは触手のようで、目を凝らして見ると蛇の幼体だった。──ここまで来るのに見た蛇の塊を思い出してゴッドイーターは背筋が凍る。
何事も無かったかのように立ち上がる狩人に思わず後ずさり、恐怖心をグッと飲み込もうとするが顔の見えない相手に気を取られて足元の木の根に尻もちをついてしまった。
何かが手に触れて、恐る恐る視線をやると獣じみた形相の死人が転がっている。その傷口は鋭利な刃物であったり、食い散らかされたようなものばかりだった。この禁域の森の中に足を踏み入れて帰ってこなかった外部の人間だったのだろうか。或いは、この森から抜け出そうとしたヤーナム・シティの人々だろう。
背後からの足音に、ゴッドイーターがいよいよ万事休すかと涙を堪えると、横を駆け抜けて身体から蛇を生やした黒い全身ローブ姿の狩人に向けて斬りかかっていた。
ノコギリのような刃物で殴りつけて、相手も負けじと刀で反撃してくるが保身を捨てたかのような攻防は血みどろになっている。蛇に噛みつかれて後退るロングコートの狩人に向けて両手で刀を構えた相手が振り下ろそうとする──が、その腹部に散弾銃を叩き込まれて身体をくの字にする。姿勢の崩れた相手に向けて、狩人が手刀を腹部に突き刺した。
「アアアァァァアアアッ!!!」
獣のような雄叫びとともに、臓腑を引きずり出しながら相手を吹き飛ばすとノコギリをナタに変形させて倒れた相手に歩み寄る。身体を引きずる相手の背中を踏みつけて逃さないようにすると頭部をかち割って仕留めた。腕を伸ばし、逃れようとするが狩人は息絶えて霧となって消える。
血塗れの狩人と、ゴッドイーターの視線が合った。粘りつくような血の付いた手をコートの裾で拭うと、手を差し出す。尻もちをついたままだったことを思い出して、恐る恐る差し出された手を取った。
「あ……ありがとう、ございます」
「……災難だったな」
小さく、短くそれだけを告げると狩人はもうひとりに視線を向ける。
エヌラスが距離を詰めて、最後の一人を頭頂部からの踵落としで地面に叩き伏せるとクトゥグアとイタクァを容赦なく倒れた相手に撃ち込んでいく。痙攣する相手の身体から蛇が飛び出すがお構いなしにアクセル・インパクトで地面ごと埋没させて絶命させた。
「ゴッドイーター、そっちは大丈夫か」
「なんていうか、手慣れてますねエヌラスさん……わたしは何とか」
「獣狩か。この森はどうなってんだ? っていうかコイツラなんなんだ」
「……狩人狩りだ」
「そんなプレイヤーキラーキラーみたいな」
獣を狩るだけに飽き足らず、狩人を狩ることに楽しみを見出した連中らしい。ヤーナム・シティに身を置けなくなった爪弾き者の集団だったようだ。
「この森に、何の用だ」
「用事があるのはヤーナム・シティの方だ。ラステイションの教祖がアホ面のメイド二人連れて転がり込まなかったか?」
「……ついてこい」
飾り羽の付いた帽子を目深に下ろしながら、獣狩は禁域の森を歩き始める。エヌラスとゴッドイーターはその後におとなしくついていった。
──血溜まりの中から這い出した小さな虫が、蛇団子に食べられて消える。