超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──ヤーナム・シティに近づくにつれて霧が濃くなっていく。獣狩の背中を見失わないようにエヌラスとゴッドイーターの二人が続き、無言で歩いていたがその緊張感に耐えきれなくなったのか口を開いた。
「あの、獣狩さん。さっきの怪我は大丈夫ですか?」
問題ない、とでも言うように腕を突き出して拳を作ってみせる。かなりの深手を負ったように見えたが、足取りはしっかりしていた。言葉に嘘はないらしい。革製の厚いロングコートから血が滴り落ちていたが、血は止まっているようでコートの露払いをすると捌けていた。
「遠いのか?」
「いや……霧を抜ければすぐだ」
靴の裏から伝わってくる地面の感触が柔らかな土と不規則な石畳から、規則的なものに変わる。それと同じくして徐々に霧も晴れていった。鬱蒼とした森から抜けた先は、打ち捨てられた街。
石造の建築物やアンティーク調の街灯、無造作に道に置かれたランタンと文化が追いついていないように思われる。中世的とでも言えばいいだろうか。街の衛生はお世辞にも良いとは言えなかった。
「ここが、ヤーナム・シティですか……」
「その入口だ。拠点はもう少し奥になる」
「は、はい。行きましょう、エヌラスさん」
「…………随分とまぁ、血生臭い街だな」
地面の黒い染みは古い血液だろう。あちこちが汚れたまま放置されていたのか、何とも言葉にし難い不気味さがあった。エヌラスの言葉を無視して先導する獣狩が、ふと腰に下げていたノコ鉈とウッドストックの散弾銃を手にする。
明かりと共に、無数の足音が三人の行く手を阻んでいた。薄汚れたボロの服、正気を失ったような焦点の定まらない瞳、手にしているのは農具や斧。手入れも行き届いていないようななまくらばかりだった。
「……」
「片付けるか?」
エヌラスの短い問いに、獣狩は静かに頷く。ノコ鉈を振るい、群衆を散らしたところで各個撃破して片付ける二人の手並みは連携も何もない。ただ自分のスタンドプレーが噛み合っているだけだった。ゴッドイーターはその群衆の服と顔にどこか見覚えがある。
森の中で捨てられていた死体と同じような格好をしていることに気がついた。後ろから見守っていたが、遅れてやってきた群衆の一人の様子がおかしい。頭を左右にフラフラと揺らしながら、おぼつかない足取りだ。二人も気づいたのだろう。
頭を抱えたかと思った次の瞬間、頭部が弾け飛んだ。頭蓋を割って生える触手は蛇の群れ、即死して間違いない変態に、しかし男の足取りは止まらない。
手にしていた斧を振るいながら頭部の蛇が噛み付いてくる。
獣狩が散弾銃で迫る身体を押し留め、怯んだ隙にエヌラスが横から首を刎ねた。
「死んでろ」
レイジングジャッジと散弾銃を同時に撃ち込まれた頭部が血溜まりとなって消える。首から上を失った胴体は一歩、二歩と進んでから地面に倒れた。血振りを行ってから納刀するエヌラスに獣狩は小さく拍手している。
「名のある狩人か?」
「そういや自己紹介まだだったな。俺はエヌラス、そっちはゴッドイーター」
「ラステイション防衛軍極東支部第一部隊所属の新米神機使い、ゴッドイーターです。よろしくお願いします、獣狩さん」
「……」
左手を胸元に寄せながら、右手を横に差し出す簡易的な礼拝。紳士的な挨拶に、しかし自らの名を名乗るつもりはないのか背を向けた。
「お前の名前は?」
「……忘れた。獣狩でいい」
「んじゃ改めてよろしくな」
「そこ言及しないんですか!?」
「忘れてんなら仕方ねぇ」
「思い出せなくてな。生活に不便はない」
「いやいやいやおかしいですよね二人とも! そこ、なんか過去に色々あったから話してくれたりとかしないんですか獣狩さん!」
顎に手をやり、しばらく考え込む素振りを見せていた獣狩が青ざめた空を見上げる。
「……何も?」
「だそうだ。先を急ぐぞ」
「えぇぇ~……」
大丈夫かな、この人達。せめて自分だけは正気でいようと固く決意を固めるゴッドイーターが二人に続いた。
ふと、獣狩が灯りの消えた吊りランダンに近づく。ポケットを探り、輝く硬貨を弾くとその音に誘われて小さな白い生物が群がり、灯りを点けた。何をするでもなく灯りに群がっているだけの様子に獣狩が手招きする。
のっぺりとした顔に、口から定かではない言語をもらす生き物は緩やかな動きで灯りに夢中になっていた。
「なんだコイツら、気持ち悪」
「灯りの使者達だ」
「へー……キモ可愛いですね。ヤーナム・シティのマスコットですか?」
「……そんなところだ」
「で? なんでここの灯りを点けたんだ」
獣狩が言うには、チェックポイントのようなものらしい。誰かが時々点けないと使者達が勝手に消してしまうようだ。灯りが点いていない周辺では狩人の目を逃れて動く不届き者が多い、犯罪防止の面で必要なことらしい。
「そろそろ着く」
広場を抜けて、大橋の扉を叩く。内鍵を開けられて、中を通るがそこには誰もいなかった。寒気に身体を震わせるゴッドイーターだったが二人は何も言わず先に進んでいく。
「あの、ちょっとそろそろいいですか? お二人とも、なんかおかしいことについて疑問とかないんですか!? わたしさっきから怖い思いしてるんですけど完全にスルーしてますよね!?」
『…………?』
「二人揃って腕を組みながら「なにが?」みたいな顔しないでくださいよ!? なんで中に誰も居ないのにここの扉が開いたのとか考えないんですか?」
「考えたこともない」
「自動ドアとかだろ」
「もうやだこの人達ー!」
霊安室を抜けて階段を登り、見上げた先にある教会とおぼしき建物へ入るとそこには獣狩以外の狩人達が壁によりかかって身体を休めていた。見慣れない来客に気が付き、真っ先に歩み寄ってきたのは鴉を模した衣装の狩人。
「なんだい、最近は随分と賑やかだね」
「今戻った。具合は?」
「だいぶ良くなったよ。アンタのおかげさね。それで? そっちの二人は何だってヤーナム・シティに? ははあ……さては教祖様の件かい」
察しが良くて助かる。嘴の仮面を付けた狩人は声から女性だと判別できた。獣狩はさっさと先に行ってしまう。だが、他の狩人達に挨拶をして回っていた。
「名乗るほどの間柄じゃないだろうし、アンタ達だってそうだろう? 最近、外の様子がおかしくてねぇ。その影響か、今じゃこのヤーナム・シティもだいぶおかしくなっちまったよ」
「元からでは? ──んぴゃあっ!?」
エヌラスはゴッドイーターの脇腹をこづく。
「昔はもうちょっとマシだったよ」
「そ、そうでしたか……すいません」
「そんで、教祖様とバカメイド二人を探してるんだ。知らないか?」
「ああ、それならここじゃない場所さ。先を急ぐのは分かるけど、まずはアタシ達をまとめあげる長に挨拶してきな」
鴉羽の狩人が嘴で示した先には、きっちりした軍服を着た男性がいた。杖をついているが、儀礼用の物だろうか。
「……なんでバケツかぶってんだ?」
「アタシが知るわけないだろう」
いいから行け、と催促される。エヌラスとゴッドイーターの二人が教会の入口あたりで待機していた長に近づくと会釈された。こちらも頭を下げる。
「おぉ、ヤーナム・シティに来るとはまた珍妙な来客だ」
「どうも。アンタがここをまとめあげてると聞いたんだが」
「いかにも。私は狩人の長……とはいえ名ばかりの連盟長だ。狩人連盟「
「ど、どうも……」
「そちらのお嬢さんは……神機使いか」
「どうして分かるんですか?」
「その腕輪。特別製だろう? 普通の物と色が違うようだ」
狩人連盟の長は右腕にはめられた神機使いの証である腕輪のことを知っているようだ。それにゴッドイーターが驚いている。他の狩人と違い、連盟長の服装は戦闘よりも象徴的な色合いが濃い。
「ふむ……ここへ足を運んだのも何かの縁か……実は教祖様を匿うより以前、ヤーナム・シティではもうひとり怪我人を保護している。その者も君と同じ神機使いだ」
「──それって、もしかして」
「ここへ運ばれる時には酷い怪我を負っていたが、安心したまえ。彼は生きている」
こみあげてくる涙を堪えながら、ゴッドイーターは彼が何処にいるのかを尋ねる。今はケイ達と同じ場所で身体を休めているようだ。
「ありがとう、ございます……!」
「ただし──彼に会うのは止めておきたまえ」
「どうしてですか」
「病を患っている。我々でも手を尽くしたものの、治療には至らなかった。接触感染に留まっているのが幸いか」
「……教祖様に会わせてくれ。俺の目的はそっちだ」
「わかった。案内しよう」
連盟長の案内で、二人が向かった先は教会から離れた古ぼけた工房だった。遅れて獣狩も挨拶回りを終えてエヌラスと合流する。
ポツンと佇むゴスロリ衣装に身を包んだ人形を目印に、獣狩とエヌラス、ゴッドイーターの三人が進むが連盟長は立ち止まった。疑問に思い、振り返ると背中を見送っている。
「この先に私は進めない。気にしないで行きたまえ」
「? ああ……」
人形に近づく。遠方からでは分からなかったが、かなりの長身だ。エヌラスですら見上げるほどの背丈は二メートルはある。獣狩が頭を下げるとそれに応じるようにお辞儀をした。
「……おかえりなさい、狩人様」
「ただいま」
「喋った!」
「人形が喋っても俺は驚かない」
「時々あなたの常識を疑いたくなります、エヌラスさん……」
非常識が日常の非合法と犯罪の渦巻く街で生活していれば倫理観など生ゴミに劣る。人形はエヌラスとゴッドイーターの二人を見て、静かに頭を下げた。
「この上だ」
獣狩に言われ、石段を登って扉を開ける。
そこでは、ベッドに身体を横たえていたケイがさらしを巻いていた。目がばっちり合って固まること数秒、事態を把握して顔を真赤にしながら胸を隠す。
「の、ノックくらいしたらどうだい!?」
「……悪い、着替え中だったか」
──殺気。
エヌラスがすかさず後ろ回し蹴りを叩き込むと、背後から忍び寄っていたカルネが足を踏み外して石段から転げ落ちていく。メイド服が土埃で汚れ、そのままピクリともしない。
「ケイ、変なことされてないか?」
「変な目で見られはしたけど、何もされてないよ。あと早く閉めてくれないかな?」
扉を閉めて、エヌラスが起き上がるカルネの肩を叩く。
「ごすずんっ!」
「宣言通りまずは一発!」
振り返った瞬間、とりあえず顔面に拳を叩き込んだ。
「ノルマ達成」
「大丈夫ですかメイドさん!? エヌラスさん、いくらなんでも酷すぎませんか!?」
「ゴッドイーター。そいつの顔見てみろ」
「うへへへ、ご主人様の拳久しぶり……」
「すごい……悦に浸ってます……」
「そういうことだ」
正直言って、ドン引きである。獣狩と人形もそんな二人のやり取りを一部始終眺めていた。
「狩人様。あれはいったい……」
「……俺にもわからない」
「外の世界では、ああいった娯楽があるのでしょうか?」
「理解し難い」
「いや、あれは理解しなくていいと思います」
スピカが水を汲んできたのか、バケツを持っている。だが、薄汚れた愚妹の姿を見かねたのか容赦なく冷水を浴びせかけて濡れ鼠にしていた。
「あらエヌラス様。お早い合流ですね」
「思いの外順調な道のりでな」
「水も滴る良いメイド、カルネちゃんです」
「うるせぇ水汲んでこい」
「はい……」
「ほら行きますよカルネ。詳しい話はまた後ほど」