超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラスとゴッドイーターは長旅だったということもあり、ひとまず疲れを取るために工房で身体を休める。カルネが紅茶を用意して茶菓子と共に振る舞うが、獣狩は丁重に断って懐から取り出した輸血パックにストローを挿して飲み始めた。
「……それ、なんだ?」
「野菜ジュース」
「そうか……」
あえて色々と無視する。腰を落ち着かせたところで、話を整理することにした。
「ヤーナム・シティから外に出る方法ってあるのか?」
「……外界とは、夜にならなければ出られない。こちらへ入ってくるのは昼夜問わないが」
「なんで狩人は外に出ないんだ」
「正確には、出られない」
ずぞー、と野菜ジュースを吸いながら獣狩は淡々と話す。
「ヤーナム・シティに入る時に霧の中を通っただろう。あれは“悪夢の霧”と呼ばれる。狩人はみな悪夢に囚われているんだ。決して明けない獣狩りの夜に」
「そういえば……ずっと暗いですよね、この街」
昼頃に到着したはずなのに、日が暮れている。今は夜になっているが、月も雲に隠れていた。
「じゃあここの狩人さん達は皆ずっと……」
「ああ。このヤーナム・シティから出れないままだ。外の世界が夜明けを迎えると、どういうわけか霧の中へ戻される。だから、ずっと獣を狩り続けている。この悪夢を終わらせるために」
「だからヤーナム・シティは調査が入らなかったんですね」
「俺達が外に出る時は問題ないのか?」
「……恐らくな」
いまいち歯切れの悪い言葉にゴッドイーターが不安な表情を見せる。そもそも来客がこんなにも増えたことはヤーナム・シティでも前代未聞だった。
「そもそも、ここから出れたやつはいるのか?」
「……いいや。何度か試したが、夜明けを迎えると共に悪夢の霧に囚われる。どこにいてもだ」
街の中や洞窟。様々な場所でヤーナム・シティから外へ出てみるが、必ず朝が近づくとどこからともなく悪夢の霧に包まれて街の中へ戻ってくる。あの連盟長も鴉羽も、その他にもいる狩人の仲間達も例外ではない。
「だが、お前たちは獣の病に冒されていない。治療を目的に訪れたわけではないのなら……出入りは自由のはずだ」
「ただし、あの禁域の森を抜けなきゃならない?」
頷き、獣狩は顎に手を当てて何か考えていた。
「灯りの使者達に送っていってもらえれば早いが……」
「使えるのか……?」
「…………」
人形に目配せをする獣狩だが、静かに首を横に振られる。
「狩人様でなければ使者達は応えてくれないでしょう」
「だそうだ」
「ま、それならそれでバイク飛ばすだけだ」
ひとまず出入りは禁域の森さえどうにかできればないようだ。カルネの淹れた紅茶を飲んでからエヌラスは壁に掛けられた装甲の破損している神機に触れる。
ゴッドイーターの持っている神機とは色合いが異なるようだが、基本的な構造は変わらないようだ。破損した装甲部分も参考にすれば修理は可能だろう。
「元の材質がわからない以上は独自のものになるから勝手は違うだろうが……」
「隊長なら大丈夫ですよ」
「バックラーに切り替えるか。そっちのほうが素材も少なく済む」
神機修理の目処も立ったところで、獣狩の持つ仕掛け武器にエヌラスの興味が移った。近接武器と、銃器。木造のものが目立つが中には金属製の物もある。工房道具にも視線を向けると、獣狩はそれに気づいたのか椅子から立ち上がって銃と弾丸を見せてくれた。
水銀と獣の血を混ぜ込んだ弾丸。それを用いた猟銃。なんで大砲とガトリング銃があるのかは敢えて聞かないものとする。
「ふむ……血に依存した弾丸ってところか」
「見ただけで分かるのか」
「色々とやってるからな……これくらいなら俺でも作れそうだ」
「道具ならそこにある」
「なら早速」
──試行錯誤を繰り返すこと四回。エヌラスは獣狩が扱う水銀弾と全く相違ないものを作ってみせる。それだけでなく、自分の血液が魔力を含むことからそれを用いた属性弾も試作した。興味深そうに属性弾を観察する獣狩は短銃に弾を込めて外へ向けて発砲する。着弾すると地面が凍りついた。それに驚いた顔をして興味深く見つめる。
「使えそうか?」
「……十発だけでいい。頼めるか」
「了解。三種類十発ずつ用意する、少し待ってくれ」
氷。炎。雷。血を立て続けに抜いたからか、エヌラスが少しだけ貧血に頭を悩ませた。
合計三十発を製造して手渡す。
「そんなもんで足りるか?」
「感謝する」
思い出したように保管箱を開けて、獣狩は何かを探し始める。やがて中から取り出したのは青い薬だった。
「これは?」
「それを飲めば、自分の身体を消すことができる。ただし、動かずにいるときだけだ」
「便利な薬だな」
懐に入れて、それならばとエヌラスは黄金の蜂蜜酒と交換する。怪訝な表情で何度も中身を確認する獣狩がマスクを外して匂いを嗅ぎ、慣れない香りにしかめっ面をした。だが一口だけ飲むと頭を押さえている。
「軽い酩酊状態になるが、すぐ落ち着く」
「……、啓蒙が高まる味だ」
「褒められてるのか……?」
「冒涜的な神秘だ……」
「なぁおい、それは褒めてるのか?」
「脳に瞳でも授かってるのか?」
「褒めてるんだよなぁお前それ!?」
微妙に褒めていない気がしてならなかった。
「狩人様と気が合いますね」
「今の褒めてるんだよな!? なぁ!?」
無表情で小首を傾げる人形に、エヌラスは腑に落ちない表情で懐からドラッグシガーを取り出して一服し始める。そちらも興味をそそるのか獣狩が覗き込んできた。試しに一本。
獣狩が深く息を吐き出すと、紫煙が工房内を漂う。やがて何処からともなく吹く風によってかき消された。エヌラスがふと、壁の仕掛け武器の中で一振りだけ見慣れたものがあることに気づく。
それは普段から愛用している倭刀にも似た反りの薄い刀だった。
「これが気になるのか?」
「ああ……見せてくれるか」
「……その煙草と交換だ」
「いいのかよ」
「俺には扱いきれない代物だ」
刀そのものに難しい仕掛けはない。だが、獣狩が鞘に収めるとおびただしい出血と共に刀身が凝固した血液に覆われた。そのまま刀を振るってみせると刃の軌跡をなぞるように鋭い血が流れる。血振りを行うと、一滴の汚れもなく元通りになっていた。
「……とまぁ、こういった具合だ」
「ははぁ。俺向きだな」
「ご主人様の刃物好きにも困ったものです」
「そうですね。扱いきれないのに」
「スカートの中身が乙女の火薬庫になってるテメェに言われたくねぇぞ」
「あら? 私は全部扱いますよ?」
「俺だって全部使うわ」
「手が二本しかありませんのに?」
「指が十本と手が二本あれば道具使うのに事足りるんだよ」
千景と呼ばれるその刀を譲り受けるが、どうやら水盆で商人ごっこをしている使者達が交換してくれるらしい。だったら新しい方を譲ってくれればいいものを。だが、獣狩は「渡した方が強化してるぶん使いやすい」とのこと。顔に似合わず気が利くようだ。
「さて……と。それじゃあそろそろ動くか、獣狩」
「ああ。また出てくるぞ」
「いってらっしゃいませ、狩人様。良い狩りを」
「あの! わたしは……」
「ゴッドイーターはケイ達を診ててやってくれ。折角の再会に水を差すのも悪いしな」
エヌラスと獣狩が支度を済ませてヤーナム・シティへ出ると、ゴッドイーターは椅子に腰を下ろす。その顔を左右からスピカとカルネが覗き込んだ。
「は、はい? なんでしょうか!?」
「いえ、ゴッドイーター様はどういったご関係なのかと思いまして」
「はい。ご主人様は女性の人間関係がとても幅広い方なので」
『そこのところ、どうなのかと』
「べ、べべ別に変なアレはないですって! 任務で同行してるだけですし、隊長も見つかって用事はなくなったというか……あとは長年謎だったヤーナム・シティの現地調査くらいで」
「あら、そうでしたか」
「へぇ、そうなのですね」
「本当にそれだけですってば!」
何やら変な勘ぐりを入れる二人も、ケイの一声で素早く身を翻す。
「しかし、ボク達はともかくとして……ノワール達の方が気がかりかな。無事ならいいんだけど」
「ラステイションの軍部も掌握されている状態で、エヌラスさんも指名手配。この先、ゲイムギョウ界はどうなっちゃうんでしょうか……」
「ま、女神様たちが何とかしてくれるさ」
少し投げやりだが、そこには信頼が寄せられていた。
ゴッドイーターの視線は、ベッドで身体を休ませる隊長に向けられる。まだ少しだけ寝苦しそうに寝息を繰り返す姿に胸が痛んだ。