超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──ラステイション教会。
武装勢力によって制圧された教会。軍部は掌握され、情報も改竄されて女神関係者達は追われる身となっていた。
ラステイション教会の留置所にて身柄を拘束されていたナイルスもまた、ゲイムギョウ界の異変に気がついている。ノワールの厚意によって教会でフィオナともどもラステイションに貢献する形であれば保護するという名目で身を置いていたが、今の教会にそこまでの義理はない。
なんとか牢屋から抜け出せないかと考える。しかし彼はただの獣。牢を壊す力もない。ただ機体操縦に関してはその獣性が遺憾なく発揮される。
近づく足音に顔を上げると、そこには武装勢力を率いるリーダーが仲間を連れて立っていた。
「ふん、最強の傭兵と名高い首輪つきもこうなってしまえばただのペットだな」
「…………」
「ラステイションだけでなく、リーンボックスにも名を馳せた傭兵を一目見ておこうと思ったが存外つまらん獣のようだ」
──ナイルスの赤い首輪から、直接フィオナから無線が繋げられる。
《ナイルス、聞こえる? 私とスミさんでラステイションのセキュリティを解除するわ。貴方の機体も、修理してあるものが格納庫にあるはずよ。合図を出したら、すぐに走って》
「……」
フィオナからの通信にナイルスは静かに合図を待つ。
司令室では、スミカとアイコンタクトを取ってから二人が同時に緊急警報を鳴らすと同時に牢屋の電子ロックを解除した。突然のことに狼狽する警備員達の足元をすり抜けるようにナイルスは四足歩行で駆け出す。
「な、何事だ!?」
《襲撃者です!》
次の瞬間、教会がにわかに揺れた。
「首輪つきが脱走したぞ!」
「格納庫に向かわれたら手に負えん、捕らえろ!」
「はっ!」
見計らったかのような襲撃に次いで、ナイルスの脱走。誰かが手引きしたものと見たが、既に隔壁も部隊を分断されている。
ラステイション教会の格納庫に辿り着いたナイルスは小さな身体を活かして閉所から滑り込むようにして馴染みの機体へ搭乗した。
古臭い第三世代の機体だが、頑強さはお墨付きだ。再び教会が振動する。警備部隊がガードロボを引き連れて出撃するものの敵対勢力との交戦で苦戦していた。
機体の動作チェックを済ませると、武装も満足に用意せず手短なマシンガンとライフルだけを手にして格納庫の扉を体当たりでこじ開ける。
ラステイション教会から黒煙が上がり、そこから飛び出してきた機体は両手にフィオナとスミカを抱えていた。
ナイルスは目の前を阻む警備部隊とガードロボを散らしながらラステイションを抜ける。
──リーンボックス国境を臨む立ち入り禁止区域、アーク領域まで到達したところでナイルスは教会を襲撃した機体と合流した。
それはハァド大戦の折に行方不明となっていた戦争屋、古王だった。フィオナとスミカを降ろすと、ナイルスが銃口を突きつける。
「待って、ナイルス。今回は彼の手引きがあったからこそ成功したのよ」
《そういうことだ。感謝してくれよ、相棒》
「ゲイムギョウ界を包むこの異変。その影響を受けている人達は無数にいる。幸い、私とスミさんに……ナイルス、貴方もでしょう? 古王もその一人」
「まったく忌々しいものだ。女神の記憶を奪うなど」
腕を組み、不愉快そうにするスミカをフィオナがなだめた。
「でも、どうして。貴方が私達を助けたの」
《刺激が欲しいだけさ。俺は武装企業に追われる身だが、ラステイションじゃそうでもない》
「狂ってるよ、貴様は」
《あの社長ですらそうだったんだ。今はいないが》
「それよりもこれからどうしますか、スミさん」
「アークに長居はあまり良策とは言えないな……」
《なら、武装企業に厄介になればいいさ。あの秘書さんは多忙だろうからな》
現状そのくらいしか厄介になれる場所はない。だが、その為には国境を超える必要があるもののナイルスの機体は水場に非常に弱かった。第四世代の機体と違い、ブースト容量も限界がある。
パーツの調達も出来ない。密航も難しいだろう。
「だけど……」
《相棒。持っていきな、餞別だ》
古王がぞんざいに放置されていたビニールシートを剥がすと、その下にはフロート型の脚部が用意されていた。第三世代の弱点である水辺を克服するために少数ながら生産されたものだ。
換装するために必要な資材も道具もこの周辺にはありふれている。これなら──。
「ありがとう、古王。だけどどうしてそこまで……?」
《お前には期待しているのさ、相棒。こちらで何か動きがあればお前に知らせる。それじゃあな》
機体のメインスラスターを吹かして古王はその場を去っていく。
お膳立てされているのならば、断る理由など無い。早速スミカはナイルスの機体をフロートタイプに換装して、頭部にしがみつく。メインブースターはフロートシステムと衝突するため取り外された。武装も多く積載できないだけに、機動力は第三世代機の中ではずば抜けて高い。
ラステイション海洋から、リーンボックスへ向けてナイルスは海上を走らせる。しかし、沿岸警備隊である武装企業の機体に加えて艦艇も多数接近していた。
その中に、純白の機体であるジェラルドがいる。
《止まれ、そこの機体!》
「ジェラルド! 私です! 傭兵組織アークのフィオナです!」
《なに? ──となれば、その機体はナイルス。キミなのか》
「私もいるのだが、無視を決め込むとはいい度胸だ武装企業役員ナンバー4」
スミカに睨まれて言葉を濁らせるジェラルドだが、ナイルスは機体のレーダーに高速で接近してくる生体反応を捉えていた。
プラネテューヌ方面から飛来する相手に対してリーンボックス海軍が必死に迎撃に当たっているようだが、掠りもしていない。だが回避に一杯なのか、思うように進軍できないようだ。
「あれは……?」
《こちらリーンボックス沿岸警備隊、武装企業のジェラルドだ。応援は必要か……いや、待て……あれはまさか……すまない、ナイルス。同行を頼めるか》
ジェラルドと共にナイルスはリーンボックス海洋を進む侵入者に迫る。
それは、あろうことかプラネテューヌの女神候補生であるパープルシスターだった。
「ジェラルドさん!?」
《プラネテューヌのパープルシスター様が何故此処に?》
「実は、お姉ちゃんに頼まれて……ベールさんが一人で心細いんじゃないかと」
《なるほど、そうでしたか。しかしそれならば普通にフェリーをご利用いただければ》
「今のゲイムギョウ界じゃ誰を信用していいか分かりませんし」
「確かに、その通りですね。安心してください、私達はあなた達守護女神と事を荒立てるつもりはありませんから」
《……わかりました、こうしましょう。武装企業に貴方がたを連行します。ひとまず、従っていただけますか》
「建前上はその方が波風も立たないだろう。私は構わないが?」
「はい、わたしもです」
《リーンボックスの軍部と我々武装企業は別働隊です。あなた達の身柄を我々に預けていただければ、ひとまず入国はできますが……》
「後はわたし達次第、ですね」
パープルシスターとナイルス達はジェラルドの提案を受け入れ、形だけの拘束と連行によっていまだ大打撃を受けて修復作業を続けている武装企業アームドソウルス本社へと移送される。
──しかし、そこで合流したのは思いがけない人物であった。
「アルシュベイトさん!?」
《む? そちらは……ナイルスに、ネプギアか。どうした》
「ど、どうしたはこっちの台詞ですよ! なんでゲイムギョウ界に……」
《武装企業からの依頼を片付けていた時に異変に巻き込まれてな。アダルトゲイムギョウ界に戻ろうにも教祖と教会のポータルを利用できなければ戻れん。俺も困っているのだが、放ってもおけない話だ》
武装企業本社、一階エントランスで待機していたのは軍事国家アゴウ国王その人。そしてその隣に立っているのはリーンボックス教祖の箱崎チカ。さらにもうひとり、小柄な少女が立っている。
武装企業社長
「武装企業へようこそ。我々はあなた方を歓迎します。……盛大に」
「心底嫌そうに言われても」
「歓迎は盛大に、とは社長のモットーの一つでもありましたので。さて、積もる話もございましょう、それにナイルス。替えの機体についても専属オペレーター共々お話がございます」
キャロラインからの話によれば、現在リーンボックスを支配しているのはゴールドサァドのひとり、エスーシャという人物らしい。国内の執政は最低限執り行い、独自の実働部隊であるソルジャーと呼ばれる兵士達を抱えているようだ。その話の中でチカだけはあまり面白くない顔をしているが、理由を尋ねるとどうにも教会を占拠していることが許せないらしい。
「あたくしとベールお姉様の憩いの場を奪うゴールドサァドは許せませんわ! 断じて!」
「あ、あはは……」
《そう騒ぐと持病に障る。あまり語気を荒げるな》
「そうは言われましてもベールお姉様の足取りも掴めておりませんし……ああ嘆かわしいですわぁ……ぐすん」
「話を戻しましょう。ゴールドサァドのエスーシャとの交渉によって、我々武装企業から傭兵派遣サービスを行っています。現在のリーンボックスはラステイションから密かに侵略を受けていますので」
《そちらは俺に任せておくがいい。ひとまず、守護女神の足取りが掴めなくては話にならんのだろう?》
「はい。まずはベールさんを探さないと……」
「あたくしからもお願いします。そして見つけたら誰よりも先に光の速さでご連絡くださいね、あの男よりも先にベールお姉さまを確保します」
「あの男……?」
「黒髪で、赤くて、凶悪そうなあの犯罪者!」
「ああ、エヌラスさんですね!」
《アイツが聞いたら怒るだろうな……》
そのエヌラスもフィオナからの話で、ラステイションで追われる身となっている事が分かると納得したように一同が頷く。今は行方を眩ませているようだ。身を隠すのも上手いが、そうでなくてもたった一人でラステイション軍に打撃を与えている報告が多数上がっている。
「相変わらずだなぁ、エヌラスさん……」
《うむ。変わらんようで安心した》
「彼の戦闘能力は実に興味深い。我が社も大打撃を受けました」
「そんな狂犬が野放しになっている今のゲイムギョウ界の先行きが不安でなりませんけれど?」
チカの意見はともかくとして。アルシュベイトがもう一つ思い出したように手を叩いた。
《先行き不安で思い出した事がある。ルウィーには大魔導師がいるそうだが、そちらの情報は何かないか? 耳にすることがなくて心配だ》
「ご安心ください。ルウィーでは我々と大差ない状況です。アズナ=ルブなる人物が教会を占拠しており、ゴールドサァドの統治が機能していないだけで。それとハンター制度が導入されているだけで特に目立った話は──ああ、ひとつだけ小耳に挟んだ話によると、温泉協会が盛り上がっているみたいですよ?」
「…………」
《…………》
──あの御仁は、本当に何をしているのだろう?
ネプギアとアルシュベイトは同じことを思っていた。