超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――九龍アマルガム・地表焼土。
ハンティングホラーでかっ飛ばし、何か途中で人を轢いたような気がするがみるからにやばげな人だったというのと人もどきと何かよくわからない怪物を轢いた気がするがエヌラスは何一つ気にしなかった。と、言うのも全部見覚えがあったからである。
「ねぇ、エヌラス。貴方、涼しい顔して普通に何人か轢いてなかった?」
「見覚えあるバカどもだった」
「普通に死人出てたわよ……」
「なぁに、生まれてきて地獄に落ちても役に立たねぇクズでも死んだ後には野菜の養分になって逆に生産性出てくる」
「アナタ死者に対する冒涜よそれ!?」
「俺の国で言うならむしろ死体の方が有用性ある。ほれ着いた」
「うわ、うわぁ……」
ドン引きを禁じ得ない発言にノワールが軽く身を引いた。
「ここが九龍アマルガムの地表……」
「見事に瓦礫しかないわね」
焼け野原には草木一本生えてすらいない。灰燼に帰した街の中を歩く。それでも君臨し続ける時計塔だけが無傷で雨風に晒されてきた歳月を感じさせない威厳で迎えていた。時折、トカゲの様な黒い生き物が視線を合わせるなり瓦礫の隙間に身を潜り込ませている。
「ねぇ、あの黒いトカゲみたいなのなに?」
「トカゲだろ?」
「私達が知っているトカゲとは明らかにサイズが違うんですけどー、人間大くらいあるんだけど。ていうかリザードマンと違うの?」
「丸焼きにして食うと中々美味くてなー。よく食ってた」
「アナタ本当に調理方法それしか知らないの!?」
「何言ってんだ、煮魚だって食うぞ!」
「丸煮込みじゃないそれ!?」
「調味料ぶっこんで煮て焼いて食えりゃいいんだよ俺は! 味はともかくな!」
「ほんっと、料理出来ないのねアナタ……」
「大体煮ても焼いても食えない食材なんて食材じゃねぇし、それもう暗黒物質だし。俺の師匠の料理スキル舐めんなよ。蒸しパンって言ってんのに虫の湧いたパン作るんだからな!」
「それもう料理って言葉知らないレベルじゃないの!?」
でもパンの作り方は知っている辺り、多分わざとだ。土埃を舞い上げる風が時々吹くものの、未だ動き続ける時計塔の針が昼過ぎを知らせている。誰も見るものはいなくても時は動き続け、いずれ止まるのだろう。
「カブトムシうめぇとか言って自分で食ってた」
「うわぁ、それは私も流石にないかなぁ……」
「あ、成虫の方な」
「その情報いらなかったよ!?」
エヌラスは郷愁の念もなく、笑いながら歩く。かつて自分が蹂躙した後の土を踏んでも乾いた灰が靴底に踏みにじられるだけだ。ふと、瓦礫の傍に落ちていたのは、恐らくは教会のシンボルである十字架。そのサイズから、小さな教会だったのだろうと容易に推測出来た。今はもう、それが何処に建っていたのかさえ分からない。覚えてすらいなかった。
『――確かにお前は破壊神だ。善悪の関係もなく暴れまわる、ただの嵐だ。戦禍を巻き起こし、平和を蹂躙する自然災害だ。だが、人はそんな超常に晒されても決して屈しない。何故か分かるか? ……だからお前は負けたのだ。ただの魔導師であるこの俺にな』
「…………」
時計塔を見上げる。――ミスカトル大時計塔。傷一つつかなかった、九龍アマルガムのシンボルは、その師匠が建てた。そこにどのような荒唐無稽でデタラメな術式を組み込んだのかさえ分からない。だが、自分は確かに負けた。この、ただの時計塔を破壊することすら叶わなかった。
『そんなお前が、どうしたら俺に勝てると思う? 簡単だ。だが、誰でも出来るわけじゃない。心せよ。胸に刻め。俺からの最初の
それからどれだけの日々を共にしただろう。どれだけの地獄を味わっただろう。どれだけの苦楽を共にしただろうか。もう覚えてすらいない。だが、一つだけ覚えているのは――諦めないこと。
『――ああ、そうだ。それでいい。エヌラス……絶望に身を焦がして、憎悪に灼けたお前の心でも……“諦めなかった”からこそ、俺に刃が届いた。それを忘れるな……』
ふと、時計塔に近づいていた足が止まる。
「エヌラス? どうしたの?」
「……ああ、いや、悪い。なんでもねぇよ」
どこかで立ち止まってしまえば、きっと二度と歩き出せなくなる。だから、どんなに惨めでもどんなにみっともなくてもどんなに情けなくても歩くことを“諦めない”のだ。大事なのは足を止めないことではない。前に進むことでもない。その一歩。
『俺から最後の教えだ……お前が、もし……本当に誰かを守りたいと願い、何かを守りたいと祈るのなら……悪の限りを尽くしたお前は、あらゆる邪悪と戦える。それなら“諦めないお前”が、必ず勝つ――俺は……少し、疲れたよ。エヌラス……もう、やすませてくれ――――』
“……なぁ、師匠。アンタは一体、何と戦っていたんだ……俺と戦ってた時にアンタは俺以外の何かと戦ってた”
それが“何”なのかまでは、知らなかった。教えてもらえなかった。最後まで。エヌラスの凶刃によって
――気がつけば、立ち止まっていた。先に歩いていたネプテューヌ達が心配そうに振り返って待っている。感傷に浸っていたらいつの間にか置いていかれていた。
エヌラスは、何気なく自分の背後を振り返る。そこには誰もいなかった。だけど――師匠の、鼻で笑う声が聞こえた気がする。それに背中を押されてエヌラスは歩き出した。
「なんだよ? 俺の後ろに誰かいたか?」
「何言ってるの、エヌラスがセンチメンタルに立ち止まったんじゃーん」
「そうよ。ほら早くしなさいってば」
「エヌラスさんが道案内してくれないと分からないですし」
「早くぅ~」
「……そりゃそうか。悪いな」
ああ、また結局自分はこうしてネプテューヌ達に助けられている。情けないと思いながらも、頭を掻いてエヌラスは四人を素通りして先頭を歩き始めた。
その先に――ミスカトル大時計塔。地上最強の魔導師であり国王であった男の築いた一世一代の大仕掛。
時計の針が動き出す。デタラメに、めちゃくちゃに、それでも時間は正確に流れていく。
――その時、竜の羽ばたきを聞いた。エヌラスが立ち止まり、空を見上げる。ネプテューヌ達も釣られて見上げると、太陽の光を遮って一匹の竜が飛び去っていった。
「悪竜ジャバウォック――?」
「……いや、ちげぇな。アイツは」
光の中から黒い影が飛び降りてくる。その輪郭が徐々にハッキリとしてくる。
空から落ちてきたのは、ドラグレイス――竜を模した西洋鎧に一分の隙もなく全身を包んだ神格者の一人。その傍らに魔法で鍛えあげられた大剣が突き刺さる。
「なんの用だよ、ドラグレイス。忘れ物でも届けに来たか?」
「忘れ物か。ああ、相違ないな――受け取れ、エヌラス。殺し損ねたあの日の殺意、二つの心臓に突き立ててやる」
「つまらねぇもの持ってきやがって、返品だ。わざわざついてこなくてもいいだろうに」
言ってる間に踏み込んだ一刀が振り下ろされていた。エヌラスはそれを後ろへ跳んで避ける。
「ほざけ。貴様の足取りが掴め、更にはユノスダスを離れるとあればこれほどの好機はあるまい? いざ仰げ、我が眷属よ」
「……もしかしなくてもこのトカゲ共、テメェのか」
「それがどうした?」
「いや、丸焼きにして食ったら中々美味かったもんでな。今度ユノスダスの店に仕入れてくれ」
「貴様ァァァァーー!!!」
ドラグレイスの一声に、隠れ潜んでいたトカゲ達が集まり、立ち上がる。そしてその変異はすぐに表れた。背中が膨張したかと思えば、次の瞬間には新たに翼を生やして飛び上がっている。頭上を覆う黒い影の群れは百や二百ではきかないだろう。地上にも変異をしないまま四足で威嚇するトカゲがいた。
「俺は! 貴様のそういうすっとぼけた所が嫌いなのだ!」
「俺はテメェのそういうこすっからい所が嫌いだけどな。まぁいいぜ、相手してやる。ワリィが雑魚は任せるぞ」
ドラグレイスは恐らく、エヌラスの不調を知っている。仮にも共闘していた立場だ、心配を装って診断記録を覗くことなど造作も無い。今、この世界で最も焦っているのがドラグレイスだろう。
持つべき国を持たず、ユノスダスでなければ孤独な神格者。ムルフェストのように自由奔放でもなければクロックサイコのようにサバイバルバトルに興味が無いわけでもない。明確な目的を持っていながら、いまだ誰ひとりとして脱落していない現状に危機感を覚えている。なりふり構ってもいられない。
エヌラスは倭刀を召喚して構えた。それに大剣を持ち上げて、ドラグレイスが応じる。
「よーっし、それじゃ私達もパパっと片付けちゃおっか」
「それもそうね。一度共闘した身とはいえ、容赦しないわよ!」
「じゃ~、あたしはこっちでがんばるねぇ~」
「地上は私に任せてください」
「見事に少女揃いだな、このロリコンめが」
「テメェちょっとマジで殺させろ!」
地上に戦風が吹き荒れた。空では変身したネプテューヌ=パープルハートとノワール=ブラックハートがワイバーンを相手に。地上では変身したプルルート=アイリスハートとネプギアが黒いトカゲを相手にしていた。
そして、エヌラスは神格者、ドラグレイスと剣戟を鳴らしている。
「貴様は、いつもそうだな! 大人しく認めろ、このロリコン!」
「じゃかぁしぃわこのトカゲ野郎! 丸めて焼いて食っちまうぞ!」
「だったら喰ってみろ、腹を壊してやる」
「やってみやがれ。俺の鋼の胃袋舐めんじゃねぇ」
ふざけているようだが、二人は大真面目で刃を滑らせていた。