超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
キャロラインからの厚意によって武装企業を活動拠点としているアルシュベイトは、チカの護衛も兼ねていた。あくまでも傭兵として雇われている。
弾薬も跳躍ユニットの推進剤も報酬から引き落としという形で支払われていた。
ナイルスを膝の上に座らせているフィオナもまさかあれほど敵対していた武装企業の厄介になるとは思わなかったらしく、少しだけ戸惑っている。しかし大事の前の小事、ということでキャロラインも特に言及しようとも敵対しようともしなかった。気まずさを含めた空気に耐えかねてネプギアが会話を切り出す。
「そ、そういえばキャロラインさん」
「はい? なにか?」
「本社の復興作業はどれくらい進んでいるんですか?」
「そうですね、現在は三割程度でしょうか。製造ラインも今は止めてあるので、現状稼働している社員達の修理と補給のみです。その節は大変お世話になりました、プラネテューヌの女神候補生」
「あ、あはは……お姉ちゃん達がすいません」
「いいえ、構いません。それが社長の願いでもありましたから」
むしろ今のゲイムギョウ界を見たらプレジレントは大いに嘆くだろう。だがすぐに切り替えてゴールドサァド相手に商売を始めるに違いない。キャロラインもそうだと思ったからこそ、リーンボックスのゴールドサァド、エスーシャと商談を取り付けたのだ。成功したと言ってもいい。むしろ統治者として、他のゴールドサァドと比べれば上手くやっている。
守護女神に成り代わって国家運営をしているだけあって、転換期に乗じて動く反女神派などの連中はことごとくが武装企業の手によって撃退されていた。エスーシャ自身は別な目的があって動いているようだが、それでも最低限は国の運用に携わっている。
もっとも、チカにはそれが一番気に食わないようだが……。その愚痴を武装企業で保護されてから連日連夜聞かされているキャロラインとしては「業務の邪魔です」と一蹴していた。
その結果、どこに矛先が向けられるのか。当然ながらアルシュベイトである。
「ひどいと思いませんこと!?」
《うむ》
「あたくしの話を聞いていますか!」
《応。しかと聞いている。安心して話すがいい》
「ですから──」
《うむうむ》
「ベールお姉さまが──」
《確かに姿が見えないのは不安だが──》
(アルシュベイトさん、チカさんの扱いに手慣れてるなぁ……)
ベールお姉さまトークにも真摯に向き合って何度も相槌を打っていた。武装企業の剣客として活躍する一方で、こうしてチカのストレス発散にも付き合っている。アゴウに帰れない状況だというのになんと寛大なことか。
「さて。それではナイルス。ならびに専属オペレーターのお二人に折り入って話がございます」
「なんですか」
「武装企業最高傑作と銘打って過言ではない、ホワイトグリム。貴方の専用機でしたね、ナイルス……しかしながらその機体は既に海中に没しました。断言してしまえば、今の武装企業にかつての機体を再現することは不可能です」
実に残念なことです、と付け加える。
「──しかしながら、先の大戦における貴方の活躍は目を見張るものでした」
「何が言いたいんですか……」
「我々武装企業の技術の粋を再結集し、かつての“最強”を再び駆りたいと思いませんか?」
「そんなこと……!」
フィオナの意思とは反対に、ナイルスは乗り気だった。耳を立ててキャロラインの話に身を乗り出している。スミカだけは腕を組み、足を組み替えながら面白くなさそうに話を聞いていた。
「なるほどな。それで我々に協力をしろ、と?」
「端的に言ってしまえばそうなります」
「気に食わないな。だがわたし達の戦力は、コイツだけだ」
「スミさん」
「分かっている。コイツがいなくなるのは私も困る。だから決めかねているのだ──とはいえ当人がやる気なのが問題だな」
結局は、ナイルス次第。キャロラインはオフィスのコンソールから社内の管制AIに呼びかけ、治療に当てるための準備を申請した。間もなくして受理される。
「まずは彼の治療です。機体の設計などは既に開発部が進めています」
「使いもしない機体に手が早いことだな」
「使えるものはいますよ。ただ一人だけ」
「……コイツはまだ承諾していない」
「お忘れですか? 我が社の地下最下層には、かの戦乙女が眠っていることを」
ナイルス達の拠点、アークの地下施設から回収された戦乙女。封印されていた機体は今、武装企業の手によって管理されている。それがどんな目的のために奪われたものなのかまでフィオナ達はまだ知らなかった。
「ええ。彼女に、使わせるという手もあります」
「そんなことが可能なのか?」
「理論上は可能でしょう。そして、もしそうなれば……守護女神に善戦する程度までの脅威となりえるでしょうね」
あくまでも理論上ですが。と一言添えて、キャロラインは淡々と告げる。
「ビジネスの話を進めたところでリーンボックスは変わらない。そういう世界です。──アルシュベイト様、緊急の依頼をよろしいでしょうか」
《俺も御姫にはほとほと──応、なんだ》
チカとの会話を中断して、アルシュベイトがキャロラインの話に耳を傾けた。
「ダイアルゼブラ荒原にてソルジャー部隊がモンスターの群れと交戦、旗色が悪いそうです。こちらから援護を向かわせてほしいそうです」
《かまわん。ならば俺は少しここを離れるぞ》
「任せましたよ。報酬はいつもの通り」
「それなら、わたしも!」
《いや、ネプギアは此処で待つべきだ。プラネテューヌの女神候補生がリーンボックスで救援に駆けつけたとあれば何かと面倒だろう》
「そのとおりですね。ここは彼に任せておきましょう」
《もしベールの姿を見かけたら報せよう。吉報を待て》
武装企業のカタパルトから射出されたアルシュベイトが跳躍ユニットで更に距離を稼ぎ、ダイアルゼブラ荒原へ向けて一直線に滑空する。その姿を眺めていたネプギアの目が輝いていた。
「わぁ……♪」
「……ご興味がおありですか?」
「はい!」
「わかりました。社内見学を取り付けておきましょう。社内であれば、ご自由に歩いていただいて結構ですよ」
「本当ですか、ありがとうございます! じゃあ早速で悪いんですが、失礼しますね」
お辞儀をしてからネプギアはキャロラインが案内するよりも早く部屋を後にしている。とりあえず、管制AIに音声アナウンスを任せた。
──ダイアルゼブラ荒原。
アルシュベイトがその上空から交戦しているソルジャー部隊を発見し、モンスターの群れを切り崩す。
「あ、アンタは!?」
《武装企業より派遣された傭兵国王だ、片付けるぞ!》
「傭兵なのに国王なのか!?」
《少々込み入った事情ゆえにな、チェェェストォォォッ!!!》
剛剣で周囲を一閃すると、剣圧によって初速を挫かれたモンスター達が怯んだ。その隙を逃さず気概を削られた相手めがけてアルシュベイトが先陣を切って活路を切り開く。
ソルジャー部隊が見ている前で、正面からモンスターを粉砕しながら進撃していく背中に奮い立たされてどうにか窮地を脱した。なんとか危機は乗り越えたが、へたり込むソルジャー部隊は疲労困憊といった様子だ。このままでは帰還も困難だろう。
《ひとまずの危機は脱した。何が起きたのか報告してもらえないだろうか?》
「は、はい。我々はエスーシャ様の命令によってモンスター討伐の任務を受けました。最初こそ良かったのですが、強力なモンスターが現れて、それからは部隊は散り散りに」
《他の部隊もいるのか》
「ええ……」
《ふむ。そちらが心配だな。あいわかった。俺が残りの部隊を救助しよう。そちらは疲労が癒えたら急ぎゴールドサァドへ報告するといい》
「わ、わかりました。助けていただき、ありがとうございます」
《それでは、帰路も油断しないようにな》
アルシュベイトは素早く踵を返してから駆け出し、離れたところで跳躍ユニットを起動させて遠ざかる。その後姿を眺めていたソルジャー部隊は小さくガッツポーズをしていた。
「……やっぱロボットっていいな」
「わかるわ」
「それな」
「ってそうじゃない! 急いで教会に報告に向かわなければ!」
「そうだった! 例の“猛争モンスター”が出没したんだ!」
「でもあのロボット王様大丈夫なのか?」
「さっきの戦いを見ただろ? 大丈夫に違いない」
救助されたソルジャー部隊は急ぎ、リーンボックス教会で待つゴールドサァドのエスーシャへ報告に走る。