超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
アルシュベイトが向かった先では、分断されたソルジャー部隊がモンスターの群れを相手に後退していた。その中に一機、見覚えのあるロボットがいる。
ダイアルゼブラ荒原でかつて戦ったバルバロスが軽量機体の機動力を活かして敵を撹乱していた。その動きに翻弄されるモンスターから退くようにソルジャー達は後退する。
モンスターの中に一匹だけ、他とは違うオーラを纏う個体がいた。バルバロスの銃撃とミサイルの連射を物ともしていない。
《チェェストォォッ!!》
《貴方は──》
《久しいな、バルバロス! 今は目の前の脅威を片付けるぞ!》
《気をつけろ。あの個体は通常のモンスターとは違う》
アルシュベイトが上空から剛剣で一撃を与えて群れに吹き飛ばすが、難なく起き上がった。そこへシレットスピアーが突き立てられる。
《ふむ、手応えは確かにあったのだがな……》
「言っている場合ですか!?」
《おう。無事だったか!》
「お久しぶりですわ、アルシュベイト」
《しかし何事だ、このモンスターの群れは》
「わたくしにも何が起きているのかは……」
アルシュベイトとバルバロス、そしてベールの三人が先陣に立ってソルジャー部隊を撤退させるまでの時間を稼ぐ。
《ハッハッハ! こうも多勢に無勢とあらば遠慮はいらんな!》
《相変わらず剛毅なことだな!》
《あの個体は俺とベールに任せろ。いけるな》
「ええ、当然ですわ。他の部隊の皆様を撤退させてくださいませ」
《承知した。そちらは私に任せてくれ》
ベールの長槍とアルシュベイトの剛剣による攻撃を受けて猛争モンスターが怯んだ隙に、バルバロスはソルジャー部隊の退路を確保していた。
「やはり手強いですわね……」
《女神化しても厳しいか?》
「残念なことに、今は女神の力が失われていまして」
《エヌラスがいればよかったのだが、俺で悪いな! ハッハッハ!》
「いえ、そんなことはありませんわ」
《それとも御姫のが良かったか、チェストォォォッ!!》
一撃。再び脳天に強烈な打ち下ろしが叩き込まれ、弾かれるように持ち上げられた剛剣を跳躍ユニットを吹かしながらすかさず二撃目を打ち込む。これにはたまらず猛争モンスターも断末魔の悲鳴を上げて倒れた。ベールも槍を縦横無尽に振るいながら敵の勢いを削いでいく。
ひとまずの危機は脱した。残りの雑魚を片付け、周囲の安全を確保してからアルシュベイトは武器を背負う。
「ふぅ……助かりましたわ」
《まさかここで会うとはな。ちょうど探していたのだ》
「まぁ、わたくしを?」
《うむ。しかし、なぜソルジャー達と共に行動を?》
「ゲイムギョウ界を覆う危機に、失われた女神の信仰。これを探るためには直接ゴールドサァドと接触するのが最適と思ったからですわ。リーンボックスの統治者、ゴールドサァドのエスーシャは国家運営に興味を示しておりませんもの。もっとなにか……別な目的で動いているようです」
《今の権力に興味はないか》
「わたくしもソルジャーの一員として働きながら情報を探っておりますわ」
《何か情報は得られたか?》
「そうですわね……今のところは特に。強いて挙げるなら、手当が厚いくらいでしょうか。ソルジャー生活も悪くありませんわね」
今はホテルで寝泊まりをしているらしい。出動の際も支給されている携帯にメールが届く。
《ベールの無事と所在が確認できたのなら、今回は十分な収穫だ。それにしても、あのオーラを纏ったモンスターは中々歯ごたえがある》
「あれは“猛争モンスター”と呼ばれる新種ですわ。最近ゲイムギョウ界で出没するようになったらしく、ソルジャー達も苦戦させられているみたいです」
《討伐は厳しいか……》
「ですから、時折武装企業に救援を要請してますわ」
傭兵派遣会社としては商売繁盛で何よりなことだろう。しかしその報酬と予算は教会から出ているだけにベールも複雑な顔をしていた。
《次から猛争モンスターが出没した時は優先的に俺が出るように掛け合っておこう》
「助かりますわ」
《むしろ、ああも手強いと俺も腕が鳴る! アゴウに帰れないのは心残りだが、いずれ時が解決してくれよう。武者修行と考えれば、うむ、これも悪くないな》
「つるちゃんに負けず劣らずポジティブですわね」
むしろ似た者同士と言うべきか。
──アルシュベイトはベールと別れた後、撤退していたソルジャー部隊を護衛していたバルバロスと合流した。一度は敵対したが、今回は共闘する身。奇縁なものだ、そう考えながら互いに視線を交わす。
《ハァド大戦以来か。機体も無事修復されたようで何よりだ、バルバロス》
《貴方こそ。武装企業が剣客を招き入れたという噂は本当でしたか》
《今回は災難だったな》
《まさかダイアルゼブラ荒原でモンスターが大量発生するとは……被害はそれほど大きくないようで助かった》
話を聞くと、ダイアルゼブラ荒原の緑地化プロジェクトにバルバロスは参加しているらしい。その出資のためにあの辺り一帯を縄張りにしているようだ。ソルジャー部隊が派遣されたのも、バルバロスが真っ先にゴールドサァドに情報を提供したかららしい。
《しかし、俺を剣客とはな。悪い気はせんが》
《それほど長大な刃を振るうのは貴方くらいだ。リーンボックスでも評判になっている》
《それは知らなんだ》
《……刀と言えば、ひとつ耳に入れた話が》
《ほう? 詳しく》
なんでも、最近リーンボックスで悪さをしている組織がいるようだ。反女神派というわけではないが、ゲイムギョウ界にとってあまり良い連中ではないらしい。それを追う少女がいる、というものだった。
《──なんでも、赤い刀を持っているとか》
《ふむ。気にかかる話だな……武装企業へ戻りがてら、そちらの情報も集めてみるか》
《貴方に限り、余計な世話かもしれないが。くれぐれも油断しないように》
《バルバロスもな。また何かあればいつでも呼ぶといい》
頷き、拳を軽く突き合わせて二人は別れる。リーンボックスに広がる大荒原の緑地化プロジェクトは途方もない金額と時間が必要になるだろう。だが、バルバロスはそれを良しとした道を選んだことにアルシュベイトは深く感銘を受ける。いつか戦火を知らぬ緑の大地が広がる日が来るまで無事を祈りながら、街の中へと戻った。
赤い刀を持つ少女。犯罪組織を追っているという目撃情報を頼りに聞き込みをしていると武装企業から通信が繋げられる。
《アルシュベイト様、キャロラインです》
《応。どうした》
《今はどちらに?》
《少しばかり気にかかる噂を耳にしてな、その聞き込み中だ。任務は終えている》
《そうでしたか。それで、噂というのは?》
《犯罪組織を追っているという少女の話だ。なにか知らないか?》
《なにぶん業務が人一倍多いもので。興味深いですね、こちらでも探ってみましょう》
《頼めるか。折を見て帰還する》
《日が暮れる前にお戻りください。それでは》
淡々とした業務連絡に、アルシュベイトは通信を切った。
街の人の目撃情報もまばらだが、最近違法ソフトをバラ撒いている影が見られることだけは確かなようだ。
顎に手を当てて考え込む素振りを見せていると、子どもたちが寄ってくる。ロマン求めて大人達もチラホラ。
「一枚いいですか! 俺、ロボットに目がなくて!」
《かまわんとも》
「サムズアップでお願いします!」
《こうか。いえーい》
「イェーイ! ありがとうございました!」
《うむ。達者でなー》
肩車をしたり、記念撮影をしたりと交流を深めているアルシュベイトの周囲に人だかりができていた。それには目もくれず、凛とした雰囲気の少女が横切る。
黒い髪。炎のような髪飾り。黒と白のゴシック風の衣装。前を見据える瞳に強い意思を感じ取ってアルシュベイトはその視線の先を追った。
一瞬だったが、路地裏へ消える尻尾のようなものが見える。
その横顔が、とても良く知る好敵手を思わせる面影にアルシュベイトは声を掛けるのを忘れてしまった。それより先に少女は尻尾が消えた路地裏へ向けて曲がる。
《盛り上がるところ失礼する。また機会があれば》
その後姿を追って路地裏へ入ろうとするが、なにぶん狭い道だ。出っ張った両肩の装甲が引っかかりそうになる。その場に屈み込んでから、垂直に上昇すると跳躍ユニットを使ってビルの屋上から後を追った。
少女の姿を発見すると、音響センサーが戦闘音を捉えた。重苦しい発砲音、鋭い風切り音。打撃音まで聞こえてくる。自分でも通れそうな幅の道まで来てアルシュベイトは飛び降りた。
そこで見たものは無数のネズミが倒れた現場に立つ黒い髪の少女。壁には銃痕やヒビ割れた痕が残っている。背後の気配に振り向きもせず、左手のマグナムリボルバーを突きつけて警戒した。
「誰?」
《俺は敵ではない。軍事国家アゴウ国王、アルシュベイトだ》
「……王様がアタシに何か用?」
《気になる噂を耳にした。真偽を確かめようと思ってな》
こうも早く見つかるとは思わなかった、僥倖だ。そう付け加えると、少女もアルシュベイトから敵意が感じられないと悟ったのか銃を下ろす。しかし、警戒心だけは緩めなかった。
「アンタもこいつらの仲間? にしては随分とメカメカしいけど」
《知り合いにげっ歯類はいない》
化物ならいるが。
「そう。それで? アタシに用がないなら行かせてもらうけど」
《こちらは名乗ったのだ。そちらの名を聞かせてもらおう》
「勝手に名乗ったのに?」
《礼儀というのはそういうものだ。面倒とは思うが、頼めないだろうか》
「……ま、敵じゃなさそうだしいいけど。アタシはニトロプラス。こっちは相棒の生肉」
《生肉》
「ええ。生肉。かわいいでしょ」
《生肉》
「よろしくにく」
言われて飛び出る生肉に、アルシュベイトは空を仰いだ。
世界は広いな──。思考を切り替える。