超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
アルシュベイトが話を聞くと、ニトロプラスはゲイムギョウ界とはまた別な大陸、ぴーしー大陸と呼ばれる場所から来たようだ。そこでは守護女神が存在せず、人々が暮らしているという。そこから逃げ出した大罪人を追ってゲイムギョウ界。リーンボックスの地に入ったようだ。だが向こうと勝手の違うことが少なからずあるようで、多少不便しているらしい。
《ふむ。かくいう俺も現地人ではないからな……》
「そうなの? ここにいるロボットはどれもこれも似たようなもので、アタシはてっきり」
《今は傭兵会社の剣客として勤めているからな》
「……国王なのに?」
《恥ずかしながら資金難でな》
「富国強兵。国が富まなきゃ強い兵は育たないか。そういうものよね」
《しかし、ニトロプラスだったか……》
「なに?」
《いや。俺の好敵手によく似ている、と思っただけだ。気にするな》
「へぇ……軍事国家の王様の好敵手と聞いたらちょっと興味あるわね。どんなやつなの?」
《一言で言うならば、度し難いクズだ》
「……前言撤回してもいい?」
《女にだらしなく、罪を犯すことを厭わず、借金は踏み倒し、破壊活動を躊躇わない》
「ねぇ、生かしておくべきではないと思うんだけどいいの? むしろアタシの中で追っている大罪人と同格かそれ以上の犯罪者じゃない? 処す? 処す?」
《だが、それを補って余りある活躍をしているからな》
なんとも複雑な顔をしてみせるニトロプラスは、左手の指にトリガーガードを引っ掛けながら銃をくるくると器用に回していた。やがてグリップを握るとホルスターに収める。
「ま、いいか。会ってから斬るべきか判断するわ」
《間違いなく出会って三秒即抜刀だと思うが……喧嘩を売るのは止めておけ》
敵対するのは非推奨だ。アルシュベイトの助言を聞き流しながら、緋太刀も納刀する。
「少なくともアタシよりアンタの方がリーンボックスでの生活は長いでしょ? 協力してくれるのなら助かるんだけど」
《そうしたいところだが、生憎と俺も手が離せぬことばかりでな……》
「だけど、後ろ盾の企業はかなり大きいんじゃない?」
《確かにな。武装企業が持つ情報網、兵力、いずれも大きな助けとなるだろう》
だが、それを得るには企業傘下に入らなければならない。それはニトロプラスもあまり良い顔をしなかった。
《よし、こうしよう。俺が個人的にそちらへ協力する。その中で必要とあれば企業に話を取りつける》
「アルシュベイトが仲介役ってわけね」
もちろんその手数料は自分の働きの中から引き落とされることとなる。目の前の相手を助けずに保身を考慮することなど剣姫は良しとしないだろう。事の顛末がどう転ぼうと、その時に成そうとした善を己の損得で判断しない。
ニトロプラスとアルシュベイトが路地裏から出てリーンボックスの街を歩いていると、ほどなくしてソルジャーとして一仕事を終えたベールを見つけた。これは僥倖と、アルシュベイトが声をかける。
《ちょうどよいところに。ベール、少しいいだろうか?》
「あら? アルシュベイトではありませんか。どうかされました?」
「知り合いなの? 見た目ロボットなのに結構手が広いのね」
《エヌラスには遠く及ばん》
「……やっぱそいつ、斬ったほうが世のためよね」
「うーん、ですがわたくしとしては、あまり敵対していただきたくないですわ」
「どうして?」
「そうですわねぇ……わたくしが甘えられる数少ない相手、とだけ」
頬を赤らめるベールに対してニトロプラスは半目でアルシュベイトを睨む。
──やっぱり斬るべきでは?
──すまんがやめてくれ。
目で会話する二人だが、アルシュベイトがキャロラインからの通信を取る。
《アルシュベイトだ。どうした》
《こちら武装企業、キャロラインです。追加の依頼が発生しました。どうしますか?》
《承ろう。詳細を頼む》
《了解。ヘリを向かわせます、移動中に説明しますので弾薬の補給なども兼ねてください》
《助かる──。と、いうわけだ。すまんがベール、ニトロプラスを頼んだぞ》
「ええ。貴方もお気をつけてくださいまし」
「ありがと、アルシュベイト。一応お礼は言っておくわ」
気にするな、と深く頷いてから跳躍ユニットでビルの屋上まで上昇すると間もなくして武装企業から派遣された武装ヘリが飛んで来た。フックで両肩を固定して宙吊り状態になるとそのまま何処かへと運び去られていく。
「しかし、あの国王様も大変みたいね。ゲイムギョウ界のロボットじゃないのにわざわざ出稼ぎにきているなんて」
「ニトロプラスちゃんはいつ頃リーンボックスへ?」
「つい最近。あの黄金の塔はなに?」
「実はわたくしも詳しく知りませんわ。その情報を探るために、今はリーンボックスの統治者であるゴールドサァドのエスーシャの下で働いているんですの」
「へぇ、そうだったの。……その両手のお菓子とジュースとエナドリは?」
「これは徹ゲーのための備蓄ですわ。備えあれば憂い無しですもの♪」
「……情報収集してるんじゃなかったの? まぁいいか。色々教えてくれると助かるわ」
「ええ。リーンボックスの守護女神が手取り足取り教えてさしあげますわ」
「お手柔らかにね」
──武装企業から休む暇もなく追加の依頼。
任務の場所は、黄金の頂近隣区域。なにが起きているのか。緊急の依頼ということで移動のついでに弾薬と推進剤の補給を済ませてアルシュベイトは上空から投下される。
落下の衝撃を跳躍ユニットを噴射させて軽減させると着地した。しかし、周辺に特に異常は見られない。どういうことか、キャロラインへ尋ねる。
《こちらアルシュベイト。現地に到着した。特に異常は見当たらないようだが》
《……偽りの依頼、失礼しました。ですがこちらもビジネスですので》
《ほう。この俺を謀るか。理由を聞かせてもらおうか》
《先程述べた通りです。ビジネスですが、何か問題が?》
《いいや》
《これは、あくまでも独り言ですが──ゴールドサァドのエスーシャはアルシュベイトを警戒しています。かのハァド大戦を経験したゲイムギョウ界の住人であれば軍事国家アゴウの兵力は侮れないものと察するでしょう。それゆえに彼女は教会へ貴方と教祖を近づけさせない》
理に適っている。アルシュベイトのセンサーが接近してくる敵対勢力を捕捉していた。
武装ヘリ、誘導された複数のモンスター、自動砲台に機械系モンスターまで引き連れている。
《ふむ》
と、一言。アルシュベイトは唸った。とくにこれといった感慨もなく。
《よって、私が下した判断は簡潔なものです。武装企業剣客、アルシュベイトを野に放つこと。ですが貴方個人へ対する支援活動は仲介役を挟んで、匿名で行いますのでそのつもりで》
《了解した。受けて立つ!》
《……社長のご友人である貴方にこのような仕打ち。無礼をお許しください》
《俺は一向に構わん。それに──》
──思い出すのは、守護女神への信仰と愛国心で世界を敵に回した孤独なパトリオット。口惜しい、名残惜しい。戦火の一幕間で済ませるにはあまりに鮮烈な男だった。願わくば、共に戦場を駆けたかったものだ。
《あの男ならこういうだろう。“天下を回す金の力に貴賎なし!”とな》
《違いありませんね》
《それがビジネスライクと言うのなら、良かろう。だが俺のビジネスはこれ一本あれば事足りる話だ! 存分にかかってこい、武装企業!》
アルシュベイトめがけて殺到する武装企業が派遣した刺客達は瞬く間に撃破されていく。その討伐速度に目を見張りながら、キャロラインはモニターの前で静かに目を閉じていた。
果たして。
自分は、あの人の代わりにこの会社を動かせているだろうか。ゲイムギョウ界の情勢に流されてはいないだろうか。時代を自らの手で作り出すほどの財力と権力、兵力を任されていながら甘んじてはいないか。そんな懸念がキャロラインの中にはあった。
(……私も、何かできることをしなければいけませんね)
何故なら──今の私は武装企業代表取締役代理なのだから。