※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.88 断罪執行4

 

 

 

《──以上が、こちらからの報告になります》

「……」

 エスーシャは武装企業に依頼した剣客、アルシュベイトの撃破が失敗に終わったという報告に落胆の色を見せることなく静かにグラスを見つめていた。

 ハァド大戦の戦火に知人たちと巻き込まれた際に見た、武装企業代表取締役との戦闘。それは決して無視できない障害となる。エスーシャはそう判断していた。国内の執政は最低限取り仕切るが自分の目的の為にはまだ足りない。

 

「ああ、わかった」

《力不足で大変申し訳ありません》

「依頼したのはこちらだ。報酬は規定通り支払う」

《恐れ入ります》

 キャロラインとの淡々とした事務的な会話を切り、エスーシャは執務室の天井を見上げる。

 最初からアルシュベイトを撃退できるとは思っていない。これはあくまでも相手の後ろ盾を排するための依頼だ。あとはこちらからソルジャー部隊を派遣して徐々に戦力を奪っていけばいい。そうすればいずれは限界が訪れるはず……。

 不意に、眠気に襲われる。頭を振ってから、エスーシャはグラスを傍らのトレイに置いてまぶたを閉じた。

 

「…………イーシャ」

 今はもう、出会うことのない友人の名を呟いて。

 

 

 

 ──黄金の頂で武装企業が用意した戦力を一通り壊滅させてからアルシュベイトは跳躍ユニットで戦域から離脱する。

 はて困った。行くあてがない。市街は勿論のこと、かといって単独行動にも限界はある。

 突撃砲の弾薬もそうだが、跳躍ユニットの推進剤もそうだ。剛剣一本あれば事足りるが、備えておいて損はない。だからこそ困った。ゲイムギョウ界で変神するには難儀する。確かに不可能ではないだろうが、時間制限もあるだろう。こういう時に頼りになるのが大魔導師だったりするのだが現在電波の届かない場所にいる。エヌラスも以下同文。ソラも今は別次元にいるため音信不通。

 

《うーむ》

 腕を組みながら飛行していたアルシュベイトが遠方に望む大荒原を前にして着陸する。周辺に生体反応無し。安全を確認してから燃料の節約をするべく徒歩で移動を開始。

 見渡す限りの荒野を眺めて、思い出すのは塔争の最中、世界の終わりに消えていく軍事国家アゴウの面影。だがもはやその記憶は無用の代物だ。振り返り、リーンボックスだけでなく他のプラネテューヌ、ラステイション、ルウィーでも天を突く黄金の頂を気にしながらアルシュベイトは再び前を向いた。

 道は前にできるものだ。立ち止まっても仕方ない。

 

《さてどうするかな。まさか孤立無援になるとは思わなんだ……》

 いささか楽観視が過ぎただろうか? そんなことを思っていると、急接近してくる赤い機影が見えてきた。それは昼間に別れたばかりのバルバロスだった、すぐに再会することとなった相手に首を傾げている。

 

《どうした、アルシュベイト》

《おお。バルバロス。そうか、この辺り一帯はお前のテリトリーだったな。いや実はな……》

 朝令暮改というべきか、急転した事態の顛末を話す。

 

《それは……なんというか……気の毒なことに》

《うむ。故に困っている。はて、他に頼れそうな相手などは思い浮かばんしな……》

《ひとまず、私の拠点に身を隠してはどうか。立ち話もなんだ》

《それは助かる》

 

 バルバロスが拠点としている廃坑道の一角。機体の整備に必要な機材と、種類豊富な銃器がガンラックに立てかけられていた。ダイアルゼブラ荒原から地区開発のためと造られたトンネルだが、企業の妨害工作が続いて開発が頓挫したという経緯がある。

 アルシュベイトが突撃砲を降ろし、長刀を抜き放つと腰部ラックから砥石を取り出して研ぎ始めた。バルバロスも両手の銃と肩部のマイクロミサイルを収納する。

 冷えた空気が鋼鉄の肌に心地よい。空調も効いている。加えて、機体の整備に必要な道具も一通りは揃えてあった。元々武装企業から離反した一人だ、機体整備なども全て現地で行っている。

 

《──しかし、そんなことが》

《ああ。ハァド大戦で些か暴れすぎたか》

《そういえば貴方はルウィーからプラネテューヌ経由でリーンボックスまで移動した挙げ句、武装企業本社に殴り込み、かのプレジレントと一騎打ちして勝利を収めたのだったな……むしろそれで済んだのが奇跡的だ》

《おかげでうちの守護女神には叱られたがな……》

 

 “なんだアルシュベイト! 貴様、まさかこのおれに黙ってそんな楽しそうな事をしたのか! ずるいぞ! ゲイムギョウ界横断旅行などと……許せん、おれもやる!”──鉄拳制裁、のちに子供のような駄々のこね方をするものだから剣姫は手に負えない。

 バルバロスが自分とコンタクトを図るプライベート回線を取る。相手は匿名だ。

 

《こちらは傭兵、バルバロス。そちらは?》

《──用件は簡潔に伝えます》

《武装企業秘書官……?》

 声紋反応から、バルバロスは即座に相手を特定する。その言葉にアルシュベイトは視線だけを向けた。

 

《今、そちらに元武装企業剣客が来訪していますね?》

《何故それを……、とは無粋か。リーンボックスの観測衛星を使えばその程度容易いことだな》

《彼の補給に必要な弾薬と燃料をそちらに送ります。役立ててください》

《当然──》

《もちろん。無料で提供というわけにはいきません。こちらから貴方に依頼があります、受諾していただけますね?》

《……かの剣客は私の窮地の恩人でもある。断るわけにはいかない。承ろう。詳細を》

《助かります。貴方に依頼するのは、リーンボックスに出現する猛争モンスターの観測データの提出。付け加えてラステイション製ロボットの出処の調査となります》

《了解した。報酬は後払いか?》

《前払いで三割提供します。彼にもその旨を伝えてください──それでは、頼みましたよ》

 匿名無線が切断される。バルバロスはアルシュベイトに、今入った依頼内容を伝えた。研ぎ終えた長刀を背面ラックに収納すると、腕を組む。

 武装企業秘書官、キャロラインによる匿名の依頼。それをバルバロスに伝えたということは、自分の居場所を掴んでいるのだろう。そして、どうにも内容から察するにエスーシャの動きに対してなにか不信感を抱いているようだ。

 武装企業に属した時からリーンボックスの情報は耳に入れている。猛争モンスターの観測は、恐らく国内での被害を食い止めるため。だがラステイションからの侵攻を受けているという話だけはどうにも腑に落ちなかった。そちらの戦闘は主に私設部隊であるソルジャー達が行っている。

 

《思えば、ソルジャー部隊の救援も猛争モンスターが出現した時のみだったな。戦闘後の処理もゴールドサァド管轄で行われていた。残骸の回収および解析などやっている暇がない》

《そうすると、秘書官……いや、今は社長代理のキャロラインは》

《ああ。エスーシャに対して企業の力を振るって反抗しようというのだろう。幸いにしてあちらには教祖チカもいれば、プラネテューヌの女神候補生も匿っている。もののついでに言えば、ナイルスもな》

《……!! ナイルスまでもが。それは頼もしい限りだ》

《あとは……こちらがどう動くかだな》

 接近してくる飛行体の反応に、バルバロスが立ち上がった。どうやら武装企業からの前払い報酬が到着したらしい。相変わらず仕事が早い。

 

《私が積荷を受け取ってくる。あなたはここに》

 間もなくしてアルシュベイト用の弾薬と推進剤が詰められたコンテナがトロッコで運ばれる。元々坑道だったこともあってこうした荷物の運搬も楽にできるのが利点だとバルバロスは話した。確かにこれは便利なものだ。

 ひとまず、消耗した弾薬と跳躍ユニットの燃料を補充する。

 

《しかし、いいのか。俺を匿っていると知られたら貴様も追われるぞ》

《このバルバロスには夢がある。まだ朽ちるわけにはいかない》

《その夢とは?》

《リーンボックスは緑の大地と謳われている。だが、この大荒原は草木の生えない不毛の大地だ。そのせいか、武器の性能試験場としても扱われる時がある。緑地化プロジェクトを進めているこちらとしては頭の痛い話だ》

 見渡す限りの大荒原を緑地化させたい、その一心でバルバロスは武装企業から離反した。そしてフリーランスの傭兵として活動を続けている。性能試験の妨害活動をしている以上は、その企業からの攻撃も計算に入れている。

 

《もし、この拠点が破壊されたとしても他の拠点を使うだけだ。俺の身を案ずるな》

《この恩は忘れん》

《貴方に助けられた、だから今回の件で借りを返している。互いに背負うのは武器だけだ》

 ガンラックからライフルとマシンガンを取り出し、制御盤を操作して両肩に武器を背負った。

 

《他の拠点データもそちらに送信しておく。活用してくれ》

《恩に着る》

《近隣の見回りをしてくる。そちらの行動は日没後だ》

《それまで待機する》

 バルバロスが坑道拠点から出撃後、アルシュベイトは思案する。

 何よりも気がかりなのは、音信不通のエヌラスのことだ。なんとか連絡したいところだが、難しいだろうか。

 

《……こんな時、一番頼りになるのはユウコなのだがなぁ》

 唯一利用できそうな教会も、プラネテューヌくらいのものだろう。かといってこちらから移動しようとすれば敵対することとなった武装企業ならびにゴールドサァドの攻撃が待っている。焦ることはない、果報は寝て待つものだ。

 アルシュベイトは日没までの間、仮眠を摂ることにした。

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