超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「この、すばしっこいんだから!」
ワイバーンの一匹が後ろに羽ばたき、ノワール=ブラックハートの剣を避ける。いい具合におちょくられ、その横から別なワイバーンが突進してきた。その首をネプテューヌ=パープルハートによって切り落とされる。
「久しぶりの戦闘で身体が鈍ってるんじゃない、ノワール」
「うるさいわね、つい最近まで地上ばかりで戦闘だったから感覚掴めてないの、よ!」
ネプテューヌ=パープルハートの背後で喉を膨らませていたワイバーンが腹を裂かれてブレスを暴発させた。その火球は別な一匹に当たり、同士討ちの形となって儲けものである。
「チョロチョロ這いつくばってばかりの爬虫類が、数だけ揃ってるわね」
地上でもプルルート=アイリスハートの蛇腹剣で逃げ惑うトカゲ達が薙ぎ払われていく。強靭な鱗も鞭の先端が叩き出す暴力には負けて弾かれるように吹き飛んでいた。
そこに、ドラグレイスの一撃で大きく吹き飛んだエヌラスが転がり込んでくる。――それを見てプルルート=アイリスハートの目が細くなった。青ざめるエヌラス。鞭が振り上げられて――!
「アッハハハハハハハハ!!」
「どぉわぁぁぁぁぁぁ!」
「ああ、エヌラスがぷるるんの餌場に!」
「餌場って……餌食の間違いじゃないの?」
哄笑と共に振り下ろされる蛇腹剣に巻き添えを食らってトカゲ達と一緒にエヌラスが逃げ惑う。だが、隣の一匹を殴りつけたかと思うと、腹の下に潜り込んで担ぎあげた。背中からトカゲの苦悶の声が聞こえてくる。背に腹は変えられない、すまん許せ。そう謝罪していた矢先に目の前にはドラグレイス。横一文字に構えた大剣の腹でエヌラスは殴り飛ばされた。
「遊んでいる場合か?」
「遊んでねーよ、命の危機だよ! むしろお前より先に殺されそうだったわ!」
指差す先には不満そうなプルルート=アイリスハート。今にも舌打ちしそうなほど眉を寄せていた。
ドラグレイスの持つ大剣が魔力の光を帯びる。それは陽炎のように揺らめいて、黄金の輝きを見せていた。
「――そうか」
「“それ”使うほどのことか、ドラグレイス」
「黙れよ、破壊神。この世界をこうしたのは貴様だ……」
「おいおい、夢に敗れて現実から目を背けるのは勘弁しろよ――そこにかつて夢見た“ティル・ナ・ノーグ”はないぜ?」
「――――」
溢れる殺意が瓦礫をさらに瓦解させる。粉塵となって舞う土埃すらドラグレイスの殺意に気圧されて近寄ろうともしない。
「貴様が――貴様が、貴様が……! 貴様が“殺した”のだ、エヌラス! 戦禍の破壊神! あの日貴様が次元連結装置を破壊してから全てが狂った! 俺が愛したかの地を、俺が愛した女を、生きる人全てが笑うあの黄金郷を、貴様が、貴様が殺した! 貴様が壊したァァァッ!」
やれやれ、と。呆れて物も言えないとでも言いたげにエヌラスは肩をすくめてみせた。
誰もが妄言だと言っていた。永遠があると。絶対の安住があると。そんな黄金郷があるのだと。だが一人。ただ一人だけがそこに辿り着いた――ドラグレイス。かつて国に仕える騎士であり教会職員であった彼は誰よりも先んじてその黄金郷に辿り着いた。だから“狂った”
戻ってきてからの人々を蔑み、世界が醜いものであると。こんな世界は起こり得てはならなかったのだと。
「だから俺は貴様の計画に乗った。俺は次元連結装置を用いての黄金郷を呼び出すつもりだったのだ! 貴様の言う、人々が笑顔で明日を迎える世界! そんなものは有り得ぬ!」
「――」
「貴様が言う人々とはなんだ? 善人か? 悪人か? 善悪の隔て無く人々が笑う世界など、狂っている! 狂っているのだ! 貴様は、狂っている! そんなデタラメな世界など、認められるものか――!」
「
一切の警告も予兆も予告もない、予備動作なくエヌラスは即座に変神した。背筋が凍りつくほどその瞳は赤く、紅く、血のように朱く輝いている。
「人は、笑うべきではない。涙を流さぬ世界こそが平穏ではないのか! 誰も彼もが笑顔であり続けられるほど、世界は……この、世界は美しくなどない!」
「ハンティングホラー。“轢き殺せ”」
鋼の魔獣が時速四百キロでドラグレイスの身体を跳ね飛ばした。光の如く一撃を与えた魔獣が飼い主の隣でスタンドを立てて止まる。その頭を撫でる。
「夢を、笑うな。人の夢を糾弾するなよ、嘆き喰らいの竜。テメェがどれだけ世界に絶望しようが憎もうが恨もうが、この世界はデタラメで荒唐無稽で何でもありの異常が日常の世界だ」
エヌラス=ブラッドソウルの手には偃月刀ではなく、変わらず倭刀が握られていた。変神しても魔術回路が補強されるわけではない。
「だから、俺は夢を見た。どこか別の世界なら、異世界なら、異次元との邂逅でこの世界は変えられるんじゃないかと。人々が笑って明日を迎えることの出来る世界にできるんじゃないかと。そんな世界があるんじゃないかと――だけどな、ぶち壊しにしちまった、壊されちまった」
「キサマが、壊したのだろうに!」
ドラグレイスの手にはシェアクリスタルが浮かび上がっていた。それが、体内に取り込まれていく――。
「俺が気づくのが遅かった。俺が悪いのさ。結局は同じことだろう? 俺がこの世界を破滅に追いやった」
鎧が膨れ上がっていく。だが、ゴムのように、まるでそれが意思を持つ肉体であるかのようにドラグレイスの体が徐々に人ではない姿へと変神していった。
それは、竜。全身を鎧で覆った竜。もはや騎士ではない一生物としてのドラゴンであった。
「次元連結装置は最終段階まで誰の手も加えられていなかった」
担いでいた大剣をまるで片手剣のように振り下ろす。エヌラス=ブラッドソウルはそれを避けて、ハンティングホラーが着地地点に回りこんでいた。ハンドルを掴み、スロットルを回す。
「誰が手を加えたと思う? 俺たち神格者の誰にも気づかれることなく、次元連結装置に」
「グルルルル……」
「あー駄目だこりゃ。いっぺんぶっ飛ばさねぇと話通じねぇ」
理性を失いかけて狂暴化しているドラグレイスに、頭を掻いて面倒そうに舌打ちを漏らした。体長は三メートル。ナイトロシステム使用不可。超電磁抜刀術使用不可。二挺拳銃使用不可。絶望的に決め手に欠ける。――“
ワイバーン達が、トカゲ達が嘶く。キィキィと賞賛の声を浴びせかけている。白銀の竜、ドラグレイス=シルバーソウルは吼えた。目につく世界の全てが敵であると。
「ペンドラゴンにでもなったつもりかよ、笑えねぇ」
「どうするんですか?」
「いつもどおりぶっ飛ばす。吹き飛ばされねぇように気をつけろ」
とはいうものの――今、ドラグレイスが翼を広げて展開する魔法陣。その数にして七つ。
「――イ、ケ……ワガ、七姉妹――」
顕現するは七つの
「ハンティングホラー!」
《YES_》
「
主の号令に魔獣が応じる。大型自動二輪が変異していく。機械から魔導へ。鋼鉄の魔獣が獣へと変貌していく。前脚が生えた。後ろ脚が生えた。短い尾が跳ねる。カウルが引き締まり、鋼鉄の体躯を覆う。
「“ティンダロス”、喰い破れ!」
七つの突撃槍が発射されるのと、ティンダロスへと変貌したハンティングホラーが瓦礫の隙間へと身を滑らせて消えたのは同時だった。
ネプテューヌ=パープルハートとノワール=ブラックハートに向けて発射されたのは二つ。だが、それは単調な動きで直線的だ。あっさりと回避してみせる。
「あんなデカイだけの――」
カンッ。カカンッ。
「――?」
空中で“何かに”“反射する音”を聞いて、ネプテューヌ=パープルハートが振り向いて目を丸くした。
「ノワール、避けなさい!」
「え?」
突撃槍が“反転”して来ている。間一髪のところで二人が避けると、ビリヤードのように空中で衝突した二つの突撃槍が更に何もない宙で反射して再度、二人に襲いかかってきた。
プルルート=アイリスハートもそれを横目で見ていたが、どうやら当たるまで追尾してくる性質を持っているらしい。蛇腹剣で弾いて、地面に突き刺さった突撃槍がドリルのように瓦礫に突き刺さり、止まった。
「ふ~ん、回転してたのね」
腕が痺れている。女神化してもこれを防ぐのは一苦労するであろう――そして、ネプギアに視線を向けると案の定、苦戦している。
避けても追ってくる。かといって防げるほどの防御力も今は望めない。
「ネプギア!?」
脚を瓦礫に引っ掛けて尻もちを着いたそこへ、突撃槍が迫り“ありえない角度”からティンダロスが突撃槍を横から喰らいついて消える。
「――今」
何が起きたのか。呆気に取られていると、トカゲが更にネプギアに迫る。慌てて立ち上がり、ビームソードを構えて――またティンダロスが“足元”から突然現れてトカゲの喉笛を引き裂いた。その身体にトカゲ達が鋭い爪を振り下ろすと、今度は倒れたトカゲと地面の隙間に“身体を滑り込ませて”消える。そしてまた、不定形の角度から次々とトカゲ達を食い荒らしていく。口元から血を滴らせる猟犬には、貌が無かった。眼も鼻もない。だが口だけが存在して牙をむき出しにしている。まるでドーベルマンのようにしなやかで強靭な鋼鉄の体躯はネプギアの隣にチョコンと座ると一声、鳴いた。小さな尻尾が揺れている。
「……ありがとう、ございます」
恐る恐る頭に触れると、機械のように冷たかった。それでも、確かにハンティングホラーは生きている。人ならざるモノの人ならざる形で。
残り三本の突撃槍は全てエヌラスへ向けて飛翔していた。その内の二本は既に地面に突き刺さって停止している。だが最後の一本だけ動きが他と違っていた。
直角に反射するわけでもなければ、鋭角に反転するわけでもなく、曲線的に曲がってエヌラス=ブラッドソウルを追尾している。
“コイツ――!”
魔術文字の解読に全力を注いだ。高速で回転している突撃槍はまるで止まって見えるが――解読していた一文に刻まれている意味は『嫉妬』である。
「解呪完了――!」
相手の魔術文字にこちらから魔力を反転させて消滅させる――だが、今は両手の回路が焼き切れている為に使い物にならない。ならば、と。
エヌラスは両足に紫電を奔らせて、蹴り飛ばした。バチッ、と突撃槍に紫電が移ったかと思った瞬間、それは構成してた術式を逆算されて光の粒となって消えていく。
「地上最強の魔導師の一番弟子、舐めんな。あの程度の術式解除、ティータイムでも出来る」
「……グルルル……!」
かつて、九龍アマルガムを支配していた地上最強の魔導師にして国王
その男の名は、彼の偉大なる名を称えて“