※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

663 / 814
ep.98 同盟と書いてふれんず

 人形の待つ館へと戻ってきた獣狩は、ゴッドイーターと何やら世間話をしていた鴉羽に怪訝な表情で近づく。

 

「おや、戻ってきたかい」

「……なにかあったのか」

「まぁね。あの新顔は? 一緒じゃないのかい」

「俺は先に丸薬を持ってきただけだ」

「そうかい、それはまずいね……実は暇を持て余していた狩人達がいっちまってねぇ……」

 狩人帽子を直しながら、獣狩が嘆息する。ゴッドイーターもその話を鴉羽から聞いたばかりだ。

 

「連盟長がふっと口にしたもんだから、止める暇もなかったよ。よほど獣を狩るのに飽きたのかねぇ……アタシとしちゃ、そっち専門だから構いやしないけどね」

「あの、連盟の狩人の方々はどんな……」

「それぞれの派閥があって、そいつらをまとめてるのが連盟長。獣喰らいさ。他には火薬庫とかいろんな奴等がいるよ」

「何人向かった?」

「火薬庫。教会。黄衣、それと……学派だね」

「厄介なのに目をつけられたものだ」

 そばで話を聞いていたスピカとカルネが顔を見合わせる。自分たちも止めに行くべきだろうか。

 

「鴉羽様、私達も」

「いやいいよ。そっちで教祖様の世話をしてな。血に酔った狩人を狩るのが今のアタシの仕事さね……くたばり損なっちまったからね。そこの新入りのせいで」

「……」

「まぁいいさ。ほらグズグズしてないで行くよ」

 鴉羽の象徴的なマントを翻しながら獣狩を顎で促すと、静かにうなずく。だが、壁に掛けた仕掛け武器の前に立ち止まるといくつかを手にして使者達に手渡す。そのままどこかへと消えていく姿を見送ってから、獣狩は鴉羽と肩を並べてエヌラスの元へと急いだ。

 

 

 

 武器を手にした群衆を一通り地に伏せてから、血振りをして刀を収める。周囲を引き続き警戒するエヌラスが、不意に殺気を感じて咄嗟に剣指を立てた。左手で防御魔法を展開すると立て続けに銃弾が撃ち込まれる。

 その場から飛び退くと、屋根から降りてきた二つの人影が迫った。

 獣狩が振るっていたものと同型のノコギリ鉈、片方は長柄の斧を携えている。

 

「──貴公、よい狩人だな!」

「俺が狩られる側になる理由が思いつかないんだが?」

「獣を狩るのが我らの使命。ならば、いずれ獣となる狩人を狩るのもまた“獣狩り”だ」

 随分な歓迎の仕方をしてくれる、そう舌打ちとともに毒づきながらエヌラスは居合の構えで黄衣の狩人衣装を纏った相手を牽制した。

 相手は三人。手練の狩人達が襲いかかってくる。

 千景でノコギリ鉈を受け止め、斧を脚で捌きながら二人の顔を同時に蹴り飛ばす。装填音に顔を上げて、携帯型ガトリング砲を構える狩人の射線から逃れるように街灯を足場にしながらエヌラスは遮蔽物へと身を隠した。

 何度か弾丸を受け止めた遮蔽物に魔術で補強を加えて時間を稼ぐ。しかし、斧を地面にこすりつけて火花を散らしながら雄叫びと共に振るわれてエヌラスは砕かれた瓦礫と共に地面に身を投げ打った。鼻先に突き立つ投げナイフから更に逃れる。

 

「ほう、あれを凌ぐか……」

「火薬庫、手を止めるな」

「そう言うな、黄衣。神父も加減してやれ、今のはマズかったぞ?」

「この程度で狩られるならば、その程度の狩人だろう。外の世界も忘れて久しい、どれほどか試させてもらう」

「仲良し三人組め」

「別に、仲が良いわけではない。目的が合致したというだけだ」

 顔に包帯を巻いたくたびれた神父服姿の狩人は笑みを浮かべて斧で肩を叩いていた。命令を受けたわけでもなく、興味本位で狩りにきただけだ。

 血刃を纏う千景と、倭刀を手にした二刀流で黄衣と神父の二人組による連携攻撃を凌ぐ。それは間に合わせの連携などではなく、確かな信頼による隙のないコンビネーションだった。そして、火薬庫と呼ばれた灰色の狩人は不必要に手を出してこない。

 数の不利は言うまでもなく、だが有象無象と無視できるほどの相手でもなかった。農具を手にした素人の群衆が相手だとは話が違う。

 二人の攻勢を崩し、反撃に転じようとしたエヌラスが不意に歪む視界にたたらを踏んだ。息がつまり、心臓の鼓動を抑えつけられるような発作に冷や汗が溢れ出す。しかし、その好機を逃すほど彼らもまた人情というものを持ち合わせてなどいなかった。

 

(ッ、あー……クソッタレ。こりゃ、マジで時間がねぇな……)

 黄衣の狩人がノコギリ鉈を振るわず、投げナイフに留めたのは警戒心からだ。急所を外した小型のナイフがエヌラスの身体に突き立つ前に、それは空中で金属音と共に弾き落とされる。

 外套を翻す音、地面にナイフが落ち、踏み砕きながら接近する二つの人影。

 

「そこまでにしときな、三人。これ以上やるならアタシも見過ごすわけにはいかないね」

「……、鴉羽」

 獣狩もまた、神父の斧を伸長させたノコで制していた。帽子の鍔から互いの視線が交差し、睨み合う。

 

「一度で飽き足らないか」

「ははは……匂い立つなぁ……!」

「これで数の不利は打ち消されたわけだ、さてどうする」

「アタシらは止めに来たんだよ。息の根まで止められたくなかったら引きな」

 手にしていた歪んだナイフを別けて、刃を黄衣の首元に当てる。鴉羽は、狩人狩りに特化した経験者だ。それを身をもって知っているだけに、これ以上は躊躇われる。

 

「おかしくなっちまったアンタの友人を止めたのは新入りだろう。ま、その時はアタシは巻き込まれた立場だったけどね。こんな形で幕を引きたくないじゃないか? それこそ後味悪いじゃあないか……」

「……そうだな、そうだったな」

「そら、火薬庫もだよ。自慢の浪漫武器壊されたくなかったら早く収めな」

「相変わらず容赦のない……」

 火薬庫の狩人は呆れたように肩をすくませた。神父もまた、斧を力任せに短縮させると落胆している。

 

「大丈夫か……?」

 振り返る獣狩の前で、エヌラスは身体を傾かせるとそのまま石畳の上に倒れた。受け身も取らずただ無防備に横たわる肩を揺さぶるが、呼吸が止まっている。その焦りが鴉羽に伝わったのか、途端に殺気立つと三人が後ろへ飛んだ。

 

「アンタ達、外の客人に迷惑かけんのはこれで二人目だよ。懲りないね」

「い、いや待ってくれ鴉羽……!」

「……そうだった。二人じゃないね、そっちの新入り含めたらこれで三回目か。覚悟しな!」

「火薬庫! お前からもなにか言ってくれ!」

「あいつなら弾の補充に帰ったぞ」

「なぜ引き止めなかった、なぜ引き止めなかった!?」

 鴉羽のナイフから逃げ惑う黄衣に、神父は笑っている。獣狩は強心剤を懐から取り出してエヌラスに打ち込み、心音を確認していた。聞こえるはずの鼓動も止まっている。

 

「……死んではいないはずだ。呼吸も、心臓も止まっているが」

「ああ、だろうな。人ではないのだろう? 獣でもないが、人でもない血の臭いがするからな」

 左腕に紫電が迸り、視界が焼けるほどの光が収まったかと思えば、エヌラスの傍らには軍服の女性が片膝をついていた。自分でも驚いているのか、何度も手を握っている。

 

「──なに、が」

「…………彼の知り合いか? 手を貸してくれ」

「え? あ、はい!」

 呆気に取られた獣狩だが、今は非常事態だ。理解よりも先に、救援を乞う。すると困惑しながらもすぐにエヌラスの身体を肩に担いだ。

 

「どちらに向かえば!」

「向こ──……消えたぞ」

「消えたな」

 瞬きしている間に、獣狩と神父の前から軍服の女性は消えている。足元に紫電の轍を残して。

 その背後では黄衣が鴉羽に追われていた。

 

「ええいチョコマカ逃げるんじゃないよ!」

「なら追わないでもらおうか!?」

「アンタが立ち止まれば解決するんだよ、そら止まりな!」

「息の根を止めようとしてたではないか! 獣狩、助けてくれ!」

「鐘を鳴らされなければ助ける義理はない」

「すまんな、黄衣。それが盟約だ。さて、街の巡回に戻るか」

「俺も館に戻る。彼の容態が気がかりだからな。鴉羽、先に戻るぞ」

 誰一人、黄衣の味方はいない。しかし意を決したのか鴉羽と火花を散らした。

 投げナイフを弾き落とし、懐に手を入れると小さな骨を取り出す。それを握った鴉羽の踏み込みが加速した。一瞬にして嫌な汗が吹き出す黄衣は、目と鼻の先を通り過ぎる刃に姿勢を崩す。

 両手を振り上げる鴉羽だが、獣狩が指を鳴らして呼んだ灯りの使者達が足にしがみついた。動きを阻まれて逸れた軌跡が黄衣の頭ひとつ分、横にずれる。

 

「…………」

「……黄衣。これに懲りたら、次はないと思いな」

「新入り、助かった……礼と謝罪を……」

 獣狩は帽子を直して、首だけで振り返って頷いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。