超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
獣狩は先に消えた軍服の女性の後を追う。だが、既にその姿はどこに消えたのか。マスクを緩めて空気を吸い込めば、焼けた空気の匂いに眉を寄せた。後を追って鴉羽も外套の露払いをする。
「相変わらずお節介だね、アンタは」
「……」
「なんだいその目。アタシになにか言いたいことでもあるのかい?」
「いいや、なにも……」
ペチペチと首を叩く二枚の刃に獣狩は一瞥もせず歩いていた。
「ババァのお節介が厄介だって言いたいのかい? 街に来たばかりのアンタに色々教えてあげたのが? それともなにかい、獣を狩るのが怖かった駆け出しの頃に手を貸したのが余計なお世話だって今更言うんじゃないだろうね? そこのところどうなんだい、新入り。ほら黙ってないでなんとか言いなよ。どうなんだい、黙ってるんじゃないよ」
「…………」
「放っておけばいいものを。死にかけたアタシに肩を貸して、あの人形に手当までさせて。それどころか、外からきたあの病人の神機使いまで担ぎ込んだじゃないか。アタシに比べれば、アンタの方がよっぽどお節介焼きじゃあないのかい。ほらなんとか言いな」
「頭が上がらない思いだ。足を向けて寝られない」
「それで。まだ夢を見るのかい、アンタは」
獣狩は、静かに首を横に振る。目を閉じても闇が広がるばかりだ。そこに一筋の光明も射すことはない。だが、夜明けを望む心はまだ朽ちていなかった。
外のゲイムギョウ界から来た神機使いを見つけた時は、ヤーナム・シティからまだ抜け出せる方法があるのだと希望を抱いた。だからまだ、この足は止まらない。
ただ、夜明けを求めて。目の前の獣を狩り続けるだけだ。
「……ひとり足りなかったな」
「なんの話だい、やぶからぼうに……って、ああ。そうだね。ま、学派の狩人なんてのは結局奇人変人の集まりじゃあないか。気にすることないだろう? それとも知り合いがいるとか言うんじゃないだろうね」
「心当たりがある」
「アンタ本当に、ヤーナム・シティ中を踏破したってんならよっぽど才能があるよ。ゲイムギョウ界に戻ったんなら一山当てて、二度と来るんじゃないよ。こんな街に」
目の前に、エヌラスを担いだ軍服の女性が滑り込んでくる。咄嗟に仕掛け武器を向けた反応速度は獣狩の方が早かった。遅れを取ったことに内心悔しがりながら、鴉羽は味方であることを確認すると刃を収める。
「すいません、迷いました! どっちに向かえば!?」
「……」
「……」
いい汗を流しながら、しかし満面の笑みで戦乙女は獣狩と鴉羽に道を無邪気に尋ねた。
拠点へと戻ってきた獣狩と、容態の急変したエヌラスを担いだ戦乙女を見てスピカとカルネがギョッとした表情を見せる。
「ごすずんさま!?」
「食べながら喋らない!」
「ごべんなっぶぉ!」
口からクッキーをスプラッシュしながらカルネが床に蹴倒された。人形がちりとりを手にすると箒で掃除を始める。使者達も一緒になっていた。
獣狩が事情を説明し、そして戦乙女もなぜ自分が勝手に顕現したのか考えている。
「うーん、おかしいですね……私は彼の意思がなければ自在に外に出られないはずなんですけれども。こうして私が外にいる、ということはつまり……」
「エヌラス様は、魔術が制御できていない?」
「どちらかと言えば、魂が抜けかかっている方かと」
「大魔導師様から聞いていた話が確かであれば、エヌラス様はゼロクリスタルが存在を繋ぎ止めていると。それが砕け散ってしまえば、消滅します。そんなことは起きないとばかり思っていましたが、こうして目の当たりにしてしまいますと。はて」
途方に暮れる他にない。銀鍵守護器官ですら自滅現象を引き止められないというのであれば、治療できそうなのは大魔導師くらいだ。しかし、その大魔導師ですら匙を投げている。ならばせめて戦線から引き離すことで消滅を先に伸ばすことしかできない。
「……一時の猶予もありませんね」
「ゴールドサァドからゲイムギョウ界を取り戻す!」
「そして黒幕の邪神を引きずり出す。女神の皆様の信仰もその過程で回復させられればいいのですが──まぁ、そこまで都合よく眠っていてくれるはずもありませんよね。エヌラス様は」
スピカとカルネは互いに頷く。
「人形様! 少々場所をお借りします!」
「構いません」
「ケイ様。教会の間取りを」
「覚えてる限りだけどね。何をするつもりだい? なんとなく、察しはつくけれども……」
「ラステイション教会から!」
「武装勢力を排除します!」
『ご主人様に代わって!』
「たった二人で行くつもりですか!?」
それは、無理が過ぎるだろう。ゴッドイーターが引き留めようとするが、戦乙女もまた細剣を手にしていた。
「二人ではありませんね。彼が消えると、私も少し困るので」
「なにか問題が?」
「いやー……たはは……今は彼が依り代なので、消えると私も行き場がなくなります。“彼女”も一緒に」
もう一振り。わずかに熱を持つ直刀も腰に差して戦乙女は困ったように笑う。
「お三方、騒がれますと折角眠っている彼が起きてしまいます」
「行動力の塊のような意思は尊重するけども、肝心のゴールドサァドが誰なのか分からないままじゃ空回りだと思うんだけども?」
「……暴れ回ってあぶり出します!」
「時々、本当に彼のメイドなんだと感心させられるね……」
ケイもまた、エヌラスの寝顔に視線を向ける。もしもこのまま、戦いが終わるまで眠り続けていてくれたのなら……ノワール達も安心して戦うことができるのだろうか、と。
「……夜の間だけだ」
「はい?」
「夜だけは、俺もゲイムギョウ界を出歩ける。朝になれば、ヤーナム・シティに引き戻されるからな……」
「わ、わたしも! わたしも、できる限りのことをします!」
獣狩に続いて、ゴッドイーターも名乗り出る。肩をすくめて鴉羽は首を横に振った。呆れるほどのお節介に、付き合いきれないとだけ。
スピカとカルネがケイの情報をもとに簡略化させた教会の見取り図を描いていく。獣狩も外出の下準備をしていた。
「狩人様」
「少し空ける。その間、彼らの世話は任せた」
「はい。お任せください。どうぞお気をつけて」
人形が深く頭を下げ、獣狩が館を後にする。灯りの使者達も揃って顔を見せると、手を振って見送っていた。
「外は、もう夜になっているみたいですね……私はもう時間の流れなど忘れてしまいましたが……狩人様はそれを覚えているようです」
「えっ。そんな時間になっているんですか?」
「はい」
淡々と、素っ気なく人形は答える。スピカとカルネも同じく自動人形なので昼夜を問わず活動していた。ケイは仮眠を摂りながら、時折目を覚ましたユウ隊長も作戦会議に耳を傾ける。
作戦目標は、ラステイション教会を占拠した武装勢力の排除が最優先。ゴッドイーターは一度拠点へ状況報告に向かう。獣狩は夜間のみの行動だが、敵勢力の偵察だ。
「では突入方法ですが」
「正面から正々堂々と最高火力でぶちかますのはどう、スピカ姉!」
「教会が倒壊するので却下ですバカルネ」
「できれば再建費用がかからない方向で頼むよ。ハァド大戦のせいで資金のやりくり大変なんだから、そこも考慮してくれないかな?」
「では武装勢力に限定して排除。ケイ様、死人はいくら出てもかまいませんね!?」
「かまうからね?」
「では峰打ちの方向で!」
「銃で?」
「膝に銃弾を受けた程度なら死にはしないでしょう! 確実に膝下を狙い撃ちます!」
「私はアキレス腱を集中的に狙います!」
「だんだん不安になってきたんだけど、本当に任せていいのかな……教会奪還」
ストッパーがいないとこんなにも暴走するものなのか、と。ケイは不安に駆られていた。普段ならばもう少し大人しいのだが、エヌラスが意識不明の状態になっているから余計に暴走しているのだろう。
「まぁまぁ、お二人とも。できるだけ周囲への被害を抑えましょう」
「ワルキュリア様がそう言うのなら」
「ですね。稀に買い出し手伝ってもらったりしましたし……」
「つまりそれ以外は自由ということで!」
「なるほど!」
「エヌラス。エヌラス、起きて。今ラステイションが第二の危機に直面してる。主に君のメイドとかで。ボクじゃ止められそうにないから、早く!」
ケイが何度もエヌラスの身体を揺さぶるが、起きる気配は一向になかった。暴走する善意を止めるには制御不能の悪意でしかない。酷なことを言っている自覚はあるが、それでもこんなくだらない理由でラステイションが崩壊するのは見ていられない。見たくもない。だからせめて、一刻も早くエヌラスに目覚めてほしい一心だった。
──ケイの願いも空しく、数日に渡る作戦会議の末に教会奪還作戦は決行される。
結局、その間にエヌラスは一度も目覚めなかった。