超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ep.101 反撃開始。狼煙はぶっぱ
──ラステイション教会前。反女神派による武装勢力は、二体のメイドと軍服の女性に劣勢を強いられていた。
守護女神という国の象徴を失い、ゴールドサァドによる新しい統治が始まったゲイムギョウ界だが劇的に何かが変わったわけではない。主導者がすり替わったことでもそこに生きる国民達は存在を忘れているのだから。ラステイションではノワールが指名手配犯となり、エヌラスは既に生死不問で懸賞金まで掛けられた凶悪犯罪者とされている。しかしながら、問題は武装勢力がそれ以上の動きを見せなかった。
女神を排除しようと画策していたが、信仰を失ったところで戦闘の経験値は埋まらない。ならばクリスタルを、と。それも教祖が既に確保して姿を眩ませている。最後に目撃された禁域の森へ向かった部隊も連絡途絶、誰も戻ってこなかった。
女神ブラックハートの活躍によって壊滅させられた犯罪組織は数知れず。彼らの傭兵組織もまたそういった部類だった。
銃声。銃撃、砲撃。火線を縫うように駆け巡る紫電の剣閃。手にしていた武器だけを狙った綺麗な太刀筋を振るうのはワルキュリア。細剣に宿っている魂の具現化現象、有り体に言ってしまえば付喪神ないし、幽霊。だがその剣さばきは常軌を逸していた。光速の斬撃を見切れる人間がいるはずもなく、為す術もない。
ロングスカートをおもむろにたくし上げるツインテールのメイドに目が釘付けになる。白い太もも、すらりと伸びた長い足に、しかし目を奪われたのはその華奢な肢体を覆うかのような物騒極まりない硝煙の倉庫。
「ぶっっっ潰れろォッ!」
火砲による正面からの制圧、火力による暴力。そう呼ぶ他にないゼロ距離爆撃が絨毯を敷くように教会前の敷地を焼き払う。銃口から硝煙を漂わせるライフルをスカートにしまいこみ、裏生地に仕込んだ空間魔術の中で自動装填をしておく。口腔から白い吐息を漏らすスピカの顔は紅潮し、笑みを貼りつけていた。
虎の子の戦車を駆り出すものの、飛び出してきたミニスカートのポニテメイドが砲身を横から切り落とす。
無限に等しい魔力貯蔵機関を動力源とした二体のメイドだけでも手に余るというのに、光速で縦横無尽に刃を閃かせる軍服幽霊までいるとなっては武装勢力は数で押すしかなかった。
「ええい、テロリストを相手に何を手間取っている! 撃て、撃てー!」
「あーもー。どっちがテロリストなのかわかりませんね、っと!」
「もう面倒だから教会ごと消し飛ばしますか」
「スピカ姉、顔。顔やばい。乙女にあるまじき顔」
「一日一発限りではありますが、エヌラス様の螺旋砲塔に匹敵する呪術兵装がございます。許可をいただけますかワルキュリア様!」
「見てみたい気もしますがダメです! 今日はこの辺りにして撤退を!」
「…………チッ。こほん、失礼いたしました。そうですね。カルネ、退きますよ!」
かなり本気の舌打ちをこぼして、スピカはコントラバスケースでカバーすると撤退する。
ラステイション首都というだけあって防衛網をくぐり抜けるのも容易ではない。これで三度目の教会襲撃だが、内部へ入り込めずにいたのは防衛部隊の強固さがゆえだ。流石はゲイムギョウ界シェア一位を独占しているラステイションだけあって、その兵士の練度も他国とは比べ物にならないと素直に感心する。ハァド大戦のダメージもまだあるだろうに、頑張るものだ。
追撃部隊が送り出されるも、装甲車がロケットランチャーでひっくり返された挙げ句に手榴弾を投げ込まれて爆発と黒煙に遮られる。ダメ押しと言わんばかりに無反動砲までも繰り出してくるメイドには血の気が引いていた。どれだけの武器を内蔵しているのか、想像もつかない。
──こうして、ラステイションで何度目かになる教会を襲撃する暴走メイド隊の報道を街で聞いてノワールが重苦しいため息をつく。
指名手配で追われている身となったが、それもラステイション全域ではない。辺境まではその情報が行き届いていないのか、すんなりと行動できた。だが首都に近づくに連れてその警備も厳重になっている。だからこうして変装までして潜入できないかと試みていたのだが……。
「はぁ……この様子じゃ今回も無理そうね。出直しましょ」
タイミングはどうやら最悪だったらしく暴走メイド隊の襲撃と時間がかぶってしまった。おとなしく引き返すノワールの袖を小さくつかむ少女は、おずおずと後ろをついてくる。
「あ、あのノワールさん……本当に大丈夫なんですか?」
「ええ、いいのよ。その、ちょっとした知り合いだから。それよりごめんね、ケーシャ。帽子にコートまで貸してもらっちゃったのに」
「気にしないでください。わたしも力になりたいんです」
赤縁メガネは自前のものだ。直しながら人目を避けるようにノワールはケーシャとともに部屋へと戻る。
ラステイションの辺境で気が付き、なんとか首都を目指して徒歩で移動していた。その道中でユニと合流できたのも束の間、自分が指名手配犯になっていることに驚いた。だが幸いにも指名手配されたのは自分だけらしく、二手に別れて追手を振り切るも疲労から倒れた──そんなノワールを介抱したのがケーシャ。
今は学校の女子寮、ケーシャの部屋で傷を癒やしながら世話になっているのが現状だ。
「はぁ……それにしても、なーんかこの状況見覚えあるのよね……」
「そうなんですか?」
「ええ。なんかアイツの気持ちがちょっとわかる気がするわ。よくこんなの続いて今まで生き延びれたわね」
「どんな人なんですか?」
「そうねぇ」
ノワールが頬に指を当てて考え込む素振りを見せる。そういえば最近姿を見せていない。エキシビジョンマッチも結局来てくれなかったことに若干腹を立てながら、考えた。
「度し難い、クズみたいな奴よ。他に言葉が思い浮かばないわ」
「……ヒモですか?」
「他人の善意や厚意、面倒を見てもらわないと生きていけないって点では間違いないわ」
「ノワールさん、その人と付き合うの辞めたほうが良いと思いますけど」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、そうもいかないのよね。誰かが目を光らせておかないと自分一人でどこまでも突っ走っていっちゃうから」
心底呆れたため息と共に肩を落とすノワールだが、その頬が緩んでいることにケーシャは少しだけ唇を尖らせる。
「だから、ちゃんと面倒見てあげないと」
「そんな人、放っておけばいいじゃないですか。ノワールさんも大変なのに……」
「それができたら本当に苦労しないのよ……連絡も繋がらないし、本当にどこ行ったのかしら」
スピカとカルネに接触できれば、居場所くらいは聞き出せるだろうか。だがあの二人が拠点としている場所も分からない。
(ユニも大丈夫かしら……心配だわ。わたしと違って追われていないから平気だと思うけど)
「身体の調子は大丈夫ですか? 疲れたら言ってくださいね」
「気遣ってくれてありがと。あなたの手当のおかげでだいぶ良くなったわ」
「無理はしないでください。あ、そういえばこの近くに美味しいデザートがあるってクラスメイトから聞いたんです。よかったら行ってみませんか?」
「本当? でも、そんな悪いわ。わたし今は手持ちがないから。それにお世話になりっぱなしで」
「そんなの気にしないでください。わたしが
「う~ん、どうしようかしら……」
ちょっとくらいなら……。そう考えたノワールが、ふと我に返る。
これではエヌラスのことを強く言えない。あれよあれよと言う間にケーシャの厚意に甘えてばかりで悪い、気を引き締めて断腸の思いで誘いを断る。確かにデザートも気になるが、それ以上に会話でふと思い出したことがあった。
あそこなら、まさかとは思うが隠れ家にうってつけだろう。
「折角の誘いだけれど、やっぱりやめておくわ。ごめんね、ケーシャ」
「残念です……」
「そんながっかりした顔しないで。それに、わたしも一つ思い出したことがあるのよ。よかったら一緒に来てくれないかしら」
「はい、勿論です。でもどちらに?」
「さっきのメイド達の拠点。もしや、と思う場所が一箇所だけあるわ。そこにいなかったらすぐ帰るわ」
──ノワールがケーシャと向かった場所は、寂れた一軒のバーだった。現在は『閉店中』とだけ軒先に看板を置いている。
初めて来た場所に疑問符を浮かべるケーシャと違い、ノワールは木造の扉を軽く数回ノックして数歩後ろに下がった。
「あの、ノワールさん。ここは?」
「一時期口コミで噂になったのよ。メイドが経営する隠れ家的なショットバーが」
「ここが……?」
「わたしも知らないところで営業してたのよね。この
数秒の沈黙が続き、内鍵が外れる音がすると扉がゆっくりと開けられる。ノワールが入り、ケーシャはどうするか迷っていたが、やがてその後ろに続いた。
中は灯りも点けていないのか薄っすらと内装の輪郭が見える程度だった。こぢんまりとした店内のバーを進むと、やがて背後からの気配にケーシャが咄嗟に腰に手を伸ばして振り返る。
同時に額に銃口を突きつけ、撃鉄を起こしたところでノワールが驚いて二人を止めた。
「ちょちょ、ちょっと何してるのよ!?」
「あら、失礼いたしましたノワール様。ご無沙汰しております」
「…………」
「ケーシャも、どこから出したのよ。その銃」
「あ。こ、これはですね、その……つい癖で」
「癖?」
「あの、えっと。で、デジタル通信教育の!」
「そんなのあるのね……まぁいいわ。ひさしぶりね、スピカ。カルネも」
「よく私達の場所がわかりましたね」
「この子のおかげよ。二人がバーを経営してたのを思い出したの。この子はケーシャ、わたしの命の恩人よ」
「そ、そんな大層なものじゃ……」
「ツインテールがスピカ、ポニーテールがカルネよ。それで、そっちの軍服の人はわたし知らないんだけど、どちら様?」
「はい、私も貴方のことをよく知りません!」
たはー、と悩みのなさそうな快活な笑みを浮かべる女性は敬礼すると、緊張感の欠片もなくノワールに手を差し出す。
「……一応、先に尋ねておきたいけど。エヌラスの関係者?」
「はい。彼の関係者です」
「…………そう。会ったら話すことが一つ増えたわね」
あー、これはマズイやつだ。スピカは顔に出さなかったが何となく察する。カルネは客人をもてなすために早速シェイカーボトルを用意していたが、昼間から酒は控えるようにと注意されておとなしく全員分のグラスを準備してオレンジジュースを注いだ。