※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.104 宵闇裂く倭刀。撃鉄唸る徹甲弾。逃走メイド隊

 

 ──ラステイションの夜風を浴びながら、エヌラスは工場の屋根伝いに街を移動していた。できるだけ魔力の消耗を抑えるために軽身功で跳躍する。音もなく着地すると、そのまま足音を殺して廃棄された工場地帯へ突入した。

 長らく使うことがなかった廃工場を改造した魔術工房兼自宅の前に飛び降りると、周囲を警戒する。敵影なし、人の気配なし、どうやらノーマークらしい。ひとまずそのことに胸を撫で下ろすとレイジングジャッジを懐にしまう。

 家の鍵を開けて無人の工房内に入る。手つかずの魔術工房にまさかこんな形で活用することになるとは思いもしなかったが、準備はしておくものだ。エヌラスはひとまずソファーに腰を下ろす。

 灯りをつけずにD-Phoneを取り出してネプギア達にメールを送った。

 情報交換を試みると、間もなく返信がくる。

 

 ネプギアはネプテューヌに言われてリーンボックスでベールの手伝いをしているらしい。アルシュベイトもいるようだが、訳あって別行動中だ。

 ロムとラムもブランと合流に成功している。大魔導師が日がな一日温泉協会を盛り上げようとしている以外は大体平和らしい。三人はハンター協会で世話になっているようだ。

 ユニも首都から離れて情報収集をしていた。エヌラスが今魔術工房にいると連絡すると、こちらへ向かってくるとすぐに返信される。

 プラネテューヌはアイエフの携帯にメールを送った。どうやらレオルド達が頑張っているらしく特に問題はないと返ってくる。不安要素はゴールドサァドの正体だろうか。

 判明しているのは今のところはリーンボックスのエスーシャだけだ。そちらはネプギアやアルシュベイトに考えがあるらしく、任せることにした。

 ユニが到着するまでの間、エヌラスは工房の中に備蓄してある火薬や弾丸を持ち出して調合を始める。

 少しでも気休めに手を動かしていなければ、焦燥感に駆られてしまう。

 スピードローダーに、マガジンをひとつふたつと用意していると、D-Phoneに着信があった。

 

 魔術工房の扉を微かに開けると、ユニが顔を覗かせる。お互いに無事を確認して頷き、すぐに中へ招き入れた。

 

「お久しぶりです、エヌラスさん」

「ああ。ユニも、怪我はないか?」

「はい」

「ノワールはどうしてるんだ」

「あたしと別れてからは、誰かに匿ってもらっているみたいです。最後に会ったのは……二日くらい前ですけど」

「元気にしてたか?」

「そうですね。でもやっぱり、教会を取り戻せていないこと気にしてるみたいで……」

「なら、早くあの連中を一人残らずぶちのめして強制退去させないとな」

 度重なる教会の襲撃にその防衛線も警備が厳重になっている。その原因が誰かはもはや聞かずともわかる。あのメイド達はまたそういう余計な仕事を増やしてくれるものだ。

 今となっては教会前はちょっとした戦争状態となっている。重戦車や迫撃砲まで持ち出している始末だ。そこまでやってラステイション教会にまだ突入が成功していないのは、物量もあるが練度もそうだろう。正規軍と武装勢力が手を組んでいるのだから悪夢この上ない。そして、このまま小競り合いを続けたところで埒が明かないのもまた明白だ。

 

「ユニ、ライフルの弾は持ってるか?」

「勿論です。常備してます」

「ちょっと貸してくれ。何発かそっちにも作っておくから」

「電気点けないんですか?」

「俺は生死問わず指名手配されてるんだぞ?」

「……そういえばそうでしたね」

 昼間に動いたら即座に捕捉されるだろう。流石にラステイション軍と消耗戦を繰り広げるつもりはない。ひとまず今夜は戦闘の準備に留めておく。

 ソファーに座り、手持ち無沙汰にしているユニは作業に没頭するエヌラスの背中をじっと見つめていた。

 

「……あの、エヌラスさん」

「なんだ?」

「身体は大丈夫なんですか。右手、とか」

「……あんま、大丈夫じゃねぇな」

 柄にもなく素直に答える。

 

「なら休んでいてくださいよ。その作業、後でもできるじゃないですか」

「生憎と、俺に残された時間は少なくてな。多少強引だが、ラステイションのゴールドサァドを引きずり出す」

「どうするんですか」

「あのポンコツメイド達も同じこと言っただろうな。教会襲撃する」

「他に何かないんですか……」

 半ば呆れたような口調でユニが肩をすくめた。

 

「このままゴールドサァドが黙っていてくれればいいんだが……三回も襲撃してるからには何か対策打ってくるだろうな」

 そうエヌラスが言った直後、夜のラステイションが揺れる。地響きにも似た振動だったが、すぐに収まった。ユニが外の様子を眺めると、夜空に黒煙が上がっている。

 

「エヌラスさん、向こうで爆発があったみたいです」

「言った側からこれか! ユニはここで待ってろ、すぐ戻る!」

「でも!」

「いいから言うこと聞いてくれ!」

 止める暇もなく駆け出し、夜の街へと飛び去ってしまう。行き場のない手を抱きしめて、ユニはソファーに座り込んだ。

 

「……あたしだって、心配してるのに」

 

 

 

 ──突如爆発が起きたのは、一軒のバー。黒煙の下、瓦礫を押しのけて何事もなく立ち上がる二人のメイド。そして軍服の女性は這い出てくると瓦礫に座り込んで鼻をすすった。

 

「うわーん、私のオムライスー!」

「ご無事ですかワルキュリア様!」

「スピカ姉、私は!?」

「言語道断問答無用で生存確認!」

「わーい死ぬとは欠片も思ってもらってなーい」

「まだ半分しか食べてないのに……」

「ケチャップついてますよ」

 口元のケチャップを拭いながら怪我一つなく立ち上がるワルキュリアは、肉体のダメージよりも食べていたオムライスを台無しにされたことのほうがショックらしい。半泣きになりながら細剣を抜いている。

 

「一体どこの誰ですか、私の密かな楽しみにしていたご飯の時間を爆破したのは!」

「武装勢力しか思い当たりませんね」

「許すまじ! 今すぐ一人残らず細切れにしてやります!」

「落ち着いてください」

 スピカが無造作に瓦礫に手を突っ込み、埋まっていたコントラバスケースを引っ張り出すとそのまま自分達を庇うように持ち上げた。夜闇を裂いて迫る銃弾を防ぐと、カルネとワルキュリアが武器に手をかける。

 カルネが視覚レンズの倍率を上げると、月明かりを背負った人影がビルの屋上で狙撃銃を構えていた。手入れの行き届いた軍用ライフルに、カルネはしっかりと足を踏ん張る。コントラバスケースで遮ると、手が痺れるほどの衝撃力に苦悶の表情を見せた。

 

「ただの弾頭ではないようですね……!」

「スピカ姉、大丈夫?」

「くっ! この衝撃、この重み、弾丸の質量! そして、この香り……! 徹甲弾っ!」

「いや弾丸ソムリエやってなくていいから!」

「あの距離は、流石の私も難しいですね」

 バギャンッ! 徹甲弾を防いでいたコントラバスケースの持ち手が破損し、バランスを崩した。次の弾丸を防ぐ手段が崩れ落ちたことで狙撃手は息を止めて引き金に指をかける。

 その視線が火花を散らし、徹甲弾がスピカの額めがけて放たれた。 

 両手を交差させて直撃を免れようとするが、それでは弾丸の威力を捌けない。しかし、手首のカフスを外すと腕が開く。無数の鋼線を網状に構えて、射線を逸らした。

 頭部に直撃するはずだった徹甲弾は頬を掠め、瓦礫に突き刺さる。暗器の鋼線も何本か千切れ飛んでいた。腕のカバーを閉じると、次発を避ける。

 

「カルネ!」

「まかせんしゃーおらーいッ! 重っ!」

 緋色の太刀を抜き放ってカルネが入れ替わりで徹甲弾を弾くが、たたらを踏んだ。足場が悪いのもある。

 騒ぎを聞きつけたのか、武装勢力が近づきつつあるようだ。サイレンだけでなく、戦車のキャタピラ音が聞こえてくる。

 

「いや、おっも! スピカ姉、なにこれ、ちょっ、重っ! あ、でもご主人様の拳よりは軽い!」

「ならまだいけますね」

「愛がないと、やだ! っせぉらぁいっ、っしゃー見切ったぁ!」

 上段からの振り下ろし。完全に見切ったのか、徹甲弾を叩き落とした。ライトアップされた三人は完全に包囲される。無数の銃口を向けられると、今度は狙撃手が姿を消した。随分と手慣れた動きにスピカは目を細める。

 

「さぁ観念しろキテレツメイド隊! 貴様らは完全に包囲された! 大人しくしろ!」

「誰が天才美少女メイド隊ですか! もっと褒め称えなさい!」

「こんな状況下でふざけている余裕があるのか!?」

「お黙りなさい! この程度、九龍アマルガムじゃ朝飯前どころか日常茶飯事です! 私達を包囲したければせめてこの三倍は用意なさい! もしくはご主人様か国王様を連れてくることですね! まぁ連れてきたら町の地図を書き換えることになりますが!」

 毎秒更新される地図アプリの配信など九龍アマルガムくらいだろう。自信満々に胸を張るツインテールのメイドに、しかし武装勢力は銃を構え直していた。可能ならば捕らえろ、という命令を受けている。

 

「撃──」

 ワルキュリアが剣を抜こうとするが、不意に接近してくる気配に月を見上げた。

 戦車に着地する黒い人影に視線が殺到する。砲身を切り落とされ、流れるように刃を踊らせて手短な相手を戦闘不能に追い込む。

 瞬く間に地に伏せる兵士たちの背中を踏みつけて、部隊長である相手に倭刀の切っ先を突きつける。その姿を見た瞬間、スピカとカルネの顔色が明るくなった。だが、その鋭い目つきにすぐ頬を引きつらせる。

 

「ほらー、スピカ姉が呼ぶから……」

「よ、呼んでません!」

「とりあえずテメェ等あとでぶん殴るわ」

 柄頭で部隊長の鼻っ柱を叩きつけ、顎先を横薙ぎに拳で掠めて気絶させたエヌラスはそのまま包囲していた武装勢力を片端から切り捨てていった。反撃した兵士の身体を倭刀で貫き、身動きを封じて盾にするとそのまま投げ捨てて次の相手に斬りかかる。

 

「おらバカども! 見てねぇでさっさと逃げるぞ!」

「はい! ご主人様!」

「すごい、引き際をわきまえてるエヌラス様とか別人みたっぱぁぉっ!?」

 スピカの顔面にエヌラスの後ろ回し蹴りが叩き込まれ、瓦礫の上に倒れた。すぐさま起き上がると、取っ手の壊れたコントラバスケースを肩に担ぎ上げてエヌラス達の後に続く。

 

「逃がすな、追え! 追えー!」

「スピカなんとかしろ!」

「無反動砲で良いですか? 良いですね? いきますよ? 本当にいいんですね?」

「テメェのツインテールで縄跳びされてぇか」

 無言でコントラバスケースから無反動砲を取り出すと、スピカは先頭車両の装甲車を爆破した。

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