超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
追跡してくる武装勢力ならびに正規軍を焼き払いながら、エヌラスとスピカ、カルネ、ワルキュリアの四人はなんとか魔術工房まで逃げ込むことに成功した。
「ふー、撒いたか……」
「流石に疲れました」
「お腹空きました……」
「お風呂入りたいですご主人様」
ゴンッ! ガンッ! ベチンッ!
スピカとカルネに拳骨、ワルキュリアにはチョップを一撃ずつ頭に叩き込む。
「てーめーえーらーは、三人揃って教会襲撃に失敗してんじゃねぇよ!? なんで失敗してんだよ馬鹿か!」
「だってそうは言いますがご主人様。相手はラステイション軍ですよ? 最近では二足歩行ロボットや人形戦車とかも導入されて大変なんです」
「身体鈍ったのか、お前ら。九龍アマルガムに帰れ」
「「そればかりはご勘弁ください」」
メイドがひれ伏した。それはそれは大変綺麗な土下座である。ワルキュリアだけはよくわかっていない顔で首を傾げていた。
「気がついたんですね、よかった。貴方に死なれると私も困るので、生きてくださいね」
「くたばり損なってばっかだ。というわけでユニ、ただいま」
「はい。おかえりなさい。スピカさん達も元気なようで何よりです」
「元気が一番!」
「仕事は二番!」
「うるせぇ」
今度は二人の脳天に踵落としが叩き込まれる。スピカは沈没し、カルネはいつものように頬を弛めていた。
「えへへ、うぇひへへへ……やっぱりご主人様の愛の鞭が一番ですぅ」
「……いつもよりキレが悪いか?」
「はい! もっと、こう。いつもなら殺意籠もってます!」
「わかった」
床を踏みしめ、整息。顎と拳を引き、気を練り上げてからエヌラスはカルネの頭に掌底を打ちこみ、発勁。床に頭をめり込ませて沈黙した。
「……久しぶりに発勁とかやったが、案外できるもんだな」
「あの、カルネさん大丈夫ですか?」
「本気でやったら今頃全身の回路ぶっ壊れてネジと歯車ぶちまけてる。大丈夫大丈夫。そんなことよりだ。いい加減あっちも本腰入れて動きを見せてくるだろ、お前たちの店も爆破されたし」
そのことに、スピカとワルキュリアが顔を見合わせる。
「それがですねエヌラス様。心当たりがとんとないのです」
「あんだけ教会襲撃しといて何を」
「いえ、そちらではなく。お店はここ最近開業してませんでした。私達も教会に襲撃を仕掛ける時以外は動いていなかったので、はて」
とぼけた調子だが、心当たりがないわけではない。しかし、そんなことをしても何の得もないはずだ。そうでなければ何か弱みでも握られているか。スピカは考えを巡らせるが、答えは出ない。自動人形でありながら独自の思考と人格によって自由に行動できるというのは、人間と大差ない性能だ。
「そうですね。エヌラス様とも合流できましたし、ノワール様へ連絡します」
「できるのか? っていうかアイツ携帯持って歩いてたっけ?」
「同居人の方に連絡先を渡しましたので、取り次いでいただきます」
──ケーシャは、銃器を収納すると買い物袋を抱えたまま女子寮へ戻ってくる。階段を上がり、廊下を歩いて部屋の鍵を開けた。
室内は真っ暗なままで、忍び足で部屋に入ると、ベッドで眠っているノワールの姿を見て頬を綻ばせる。その傍らには白い子猫も一緒だった。
起こしてしまうのも悪いかと思い、ケーシャは静かにベッドから離れる。買ってきた傷薬などをしまっていると、携帯電話が鳴った。
「……? 誰だろ──」
着信画面には登録したばかりの『スピカ』という名前が表示されている。それを見た瞬間、心臓が跳ね上がった。手にしていた買い物袋を落として、目眩すら覚えた。
そんなはずはない。あの距離だ。スコープ越しだったとはいえ、月を背にして逆光になるように位置取りもしていたはず。空しく鳴り響くコール音に、ケーシャは生唾を飲み込んで通話ボタンを押した。
「……も、もしもし?」
《もしもし。夜分遅くに申し訳ありません、ケーシャ様。スピカです。今どちらに?》
「わたし、ですか……? 買い物が終わって、寮に戻ってきたところです」
《あら、そうでしたか。ちょうどよかったです。実は──》
次の言葉を待つ。
嫌だ、と思う。今の静かな、普通の生活がなくなってしまうのだけは。自分が撃ったのだとバレていたのなら、次はない。今すぐにでも居場所を突き止めて始末しなくては。
《ノワール様にお取次ぎ願いたいのですが、いらっしゃいますか?》
「…………ぁ、えっと。ノワールさん、ですか?」
《ええ。ご一緒ではないのですか?》
「えっと、今寝ちゃってたみたいで」
《タイミングが悪かったですね。わかりました。では、目覚めましたらエヌラス様と合流できた、とだけお伝え下さい》
「あの、場所とかはいいのですか?」
《はい。実は、ケーシャ様と別れたあとにお店の方で武装勢力に襲撃されまして。大変な目に遭いました。そちらに被害が出なかっただけ喜ばしいと思います》
スピカの言葉に、ケーシャは生返事で答えるしかなかった。
《あの武装勢力はどうやら隠し玉を用意しているようですね、油断なりません》
「……気をつけてくださいね」
《ええ。ケーシャ様も。それでは、頼みましたよ》
通話を切り、背中を預けてそのままへたり込む。まるで生きた心地がしない。膝を抱えてうずくまると、頭を垂らす。
強かった。戦車の装甲を撃ち抜く対物ライフルを持ち出したというのに、それを凌いだ。ただの楽器ケースではないと思っていたが、それ以上に自動人形であることが。闇の中を音速で飛ぶ弾丸を切り払ってみせたカルネの動体視力にも度肝を抜かれた。
「……わたしは、ただ普通の生活が送りたかったのに。友達になりたかっただけなのに……なんでこんなことに……」
傭兵組織で育てられたエージェント。だが、敵地への潜入任務から戻ってくると転換期に乗じて計画を進めていた拠点は守護女神ブラックハートの手によって壊滅的被害を受けていた。
女神信仰が強まったのは、それから。その強さに。美しさに。凛々しさに心奪われた。元々傭兵としての生活に嫌気が差してきたのもある。そのどさくさで姿を眩ませて、ラステイションの女子学校に転入した。
自分には、そんな普通の生活すら許されないのかと思うと、無性に涙が出てくる。
こんなとき、誰に助けを求めればいいのかが分からない。クラスメイトになんて絶対に言えなかった。ましてや、スピカ達にだって。お店を爆破したのは他でもない自分なのに。
ノワールには尚更だ。守護女神の力を奪ったのも自分だ。まさかこんなことになるなんて夢にも思わなかった。だが、なぜだろう。
「……ケーシャ? 帰ってきてたの?」
「の、ノワールさん!? ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」
「ちょっと、喉が乾いちゃって。泣いてたの?」
「なんでもないんです! ほんとうに、なんでも……」
「そう。でも、何かあったら言ってちょうだいね。あなたに世話になってるんだから、悩み事くらいは聞いてあげるわ」
優しい言葉が胸に染み渡る。余計に涙が溢れそうで、堪えきれなくなりそうで──自分の心を閉ざすことにした。
息を吸い込み、四秒待つ。息を吐き出し、四秒。喉まできていた嗚咽を飲み込み、ケーシャは笑顔を向けた。
「お腹、空いてませんか? 傷薬もちゃんと買ってきたんです。安かったから、ちょっと多く買い込み過ぎちゃったかもしれませんけど……」
「そうね、ちょっとお腹減ってるかしら」
「それじゃあ、すぐにご飯作っちゃいますね」
携帯電話をポケットにしまい、夕飯の支度をするケーシャは先程のスピカの電話の件を伝えるべきか考える。悩むまでもないはずだ。しかし──、ひとりになるのかと思うと言葉が出てこない。
「ケーシャ?」
「……あの、ノワールさん。さっきスピカさんから電話があって」
「そうなの? それで、何の電話だったの?」
「エヌラスさんと合流できたそうです」
「ほんと!? まったく、心配かけるんだから……」
ノワールの表情が一気に柔らかくなる。そんな顔、自分と一緒にいる時は見せてくれなかったのにな、そんなことを考えて、少しだけ暗い気持ちになった。
「それなら、明日の予定は決まったわね。エヌラスと合流しないと。ケーシャは大丈夫?」
「あ……わたし、明日は学校もありますし、もしかすると遅くなっちゃうかもしれないので。ノワールさんだけで行ってきていいですよ。邪魔しちゃ悪いですし……」
「そんな風に気を遣わなくていいのに」
どうしたらそんな風に明るい表情を自分に向けてくれるだろうか。そんなことを考えながらケーシャは食材を調理していく。
──ラステイション教会・会議室。
教会を占拠してから、一週間あまり。実質ラステイションを掌握したも同然だ。守護女神を引きずり落とし、我が物顔で軍部を動かしているにも関わらず、まるで成果がないことに上官達は苛立ちを隠しきれずにいた。
一体いつになったら成果が出るのか。たかがメイドが二人に教祖が一人。加えて、力を失った守護女神が一人。たった四人すらまともに捕らえられないのかと激昂しながらテーブルを叩く。反論が返ってくるでもなく、ただ重い沈黙だけが部屋に響いていた。
どれだけの兵力を犠牲にしていると思っているのか。
かくなる上は、こちらからも打って出るしかない。
最後に目撃されたのは禁域の森だ。接触禁止種のモンスターが数多く生息するという危険地帯に兵士を派遣する。
行方を眩ませたラステイション教祖、神宮寺ケイもヤーナム・シティで匿われているはずだ。普通であれば辿り着くのも至難の業だろう。だがこちらも手段は選んでもいられない。
森ごと焼き払え。それが上層部の決定だった。