超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「はいはい、いつまでも遊んでないで真面目に作戦会議するわよ」
「真正面から正々堂々最大火力で蹂躙する」
「却下。まともに考えなさいよ!」
ノワールに怒られて、エヌラスは渋々といった様子で真面目にラステイション教会の攻略を考える。まずは相手の戦力と設置されている防衛ラインの把握だ。
スピカとカルネの再三に渡る作戦の失敗によって、三重の防衛線が築かれている。それを突破するにしても相当量の規模の戦力だ。兵士に罪はないので出来る限り人死にを出さないように、というノワールの言葉にエヌラスは苦言を呈する。
「女神を忘れた不敬罪で死刑はだめか?」
「貴方がそれを言うとシャレにならない罪状の数なんだけど」
「よし、この話はなかったことにしよう。だが実際問題、どうすんだこれ……」
いざ図面に起こすと一見不可能に見えるラステイション教会の奪還に、しかし獣狩とケイの二人が地図を見つめていた。
「正面からは俺が行く。この戦力なら問題ない、慣れている」
「いいのか?」
「仮に死んだとしても街に戻るだけだ。死ぬほど痛いが、そこは問題ない。慣れている」
「慣れで片付けんな」
「では、獣狩様を囮にして主戦力であるエヌラス様達は教会に突撃という形でどうでしょう」
しかし。流石に戦力差は歴然としている。それには暴走メイド隊を随伴させるという形で出来るだけ派手に暴れまわってもらうことにした。
教会に突入するのは、エヌラス、ノワール、ユニ、ケイの四人。だが、実質的にラステイションの支配者となっている武装勢力から教会を奪還したとして、その後はどうするか──、懸念するケイに、だが主目的は別だとエヌラスは断言する。スピカも思い当たる節があるようだ。
「そもそも、教会襲撃の目的はラステイションのゴールドサァドを引きずり出すためだ。流石に国の危機を前に黙ってるわけじゃないだろう」
「そうですね。それに相手方も切り札を隠し持っているようですし」
「仮にもお前らを苦戦させたってんだから、無視できないな」
「そのために守護女神がラステイションを襲撃するなんて、世も末だ。まぁ仕方ない。ボク個人としても逃げることしかできなかったのは根に持っているからね。それ相応に彼らには痛い目に遭ってもらおうか」
「ところでふと疑問に思ったんだが……、ラステイション教会になんか隠している兵器とかないよな?」
「彼らが武器庫をひっくり返していない保証はないよ。もしかするととんでもない厄ネタを引っ張り出しているかもしれない」
「例えば」
「女神の転換期を迎えたことで、ボクも色々調べ回っていた。その中に、対女神専用兵器なんてものもあったくらいだからね」
そんなの開発してたのか。もちろん、完成する前にしっかり破壊しておいた。だが、修理されていない保証もない。視野に入れておくことにした。
「他になにかあるか?」
「……禁域の森に、これまで見たことのないモンスターが侵入してきた。狩人連盟が相手しているが、どれほど持つか」
「例の魔獣、マガツビさ」
「そういえば、最近はラステイションでのモンスター被害が少なくなっているみたいです。ギルドの依頼も取り下げられているものが増えてました」
獣狩は仲間のことを心配する素振りを見せないが、どこか落ち着かない様子だ。
「どうした?」
「いや。アレ程の獣は見たことがないから、一刻も早く狩ってみたいと思ってな……」
「やめとけ、マジで。生半可な相手じゃないから」
「ますます狩りたくなる」
「おい、コイツ話通じねぇんだけど?」
「何言ってるのよエヌラス。あなただって普段からこんな感じよ」
「そうですね。お姉ちゃんの言う通りです」
「うん、鏡見たほうがいいよ」
「ご主人様が言えた義理ではまったくないです」
「おまいう」
カルネのふくらはぎに向けてエヌラスがノーモーションのローキックを繰り出す。すぱぁん!と小気味良い音を立て、カルネが涙目でその場に屈み込む。
「なんで……なんで私だけなんですかご主人様ぁ……!」
「不敬だから」
「そんなの今更じゃないですか、なにを言ってるんですご主人様!」
「よーしもう一発な」
「顔っ!!!」
容赦なく鉄拳がカルネの顔面を捉える。床に寝そべる姿に、ワルキュリアがつついていた。
「とりあえず二手に別れて、相手の戦力を分散。俺達が突入って形だな」
「こちらも機を見てそちらへ合流する」
「目的のゴールドサァドを発見した場合、どうするつもりだい?」
「当然、ラステイションを返してもらう」
「交渉に応じない場合は?」
「イエスと言うまでぶちのめす」
「やっていることが脅迫なんだけど……」
九龍アマルガムの交渉術。まずぶちのめす。しこたまぶちのめす。相手の気力と体力と戦力をゴッソリと奪い取ってから本題に入る。交渉成功。──以上。なお、世間一般的な常識という枠に当てはめないものとする。
「よーし今日はもう遅いし解散。閉廷、就寝。寝ろ。ノワールは戻らなくていいのか?」
「あら。こんな遅い時間に女の子帰らせるつもりかしら?」
「あーもー全員まとめて泊まってけ……」
「俺は教会周辺の偵察をしてからヤーナム・シティへ戻る。鴉羽達が気がかりだ」
獣狩だけは身支度を整えていた。丸薬や輸血パック、見慣れない小さな鉄球など、ショルダーバッグの中身を確認してから頷き、片手を挙げて魔術工房を出ていく。その背中に再会の言葉を投げかけると、静かに拳を持ち上げる。
緊張感が解けて気が緩んだのか、ユニがうつらうつらと頭を揺らし始めていた。ノワールも眠そうにしている。
「風呂入って先に寝てろよ、お前らは。すげぇ眠そうだぞ」
「んー……そうさせてもらうわ……」
「ごめんなさい、先にお風呂いただきますね……」
「お背中流しましょうか、ユニ様? ケイ様もよろしければ。浴場は特に力を入れましたので、問題なくご利用できるかと」
「そうだね。ボクも汗を流したかったんだ。頼めるかい、スピカ」
「もちろんですとも。ではこちらへ」
ノワール達が浴場へ向かい、エヌラスが腰を落ち着かせて天井を仰いだ。その顔を覗き込むワルキュリアは、にんまりと笑う。
「……なに笑ってんだお前」
「いえ、さっきのが面白かったので」
「さっきの?」
「はい。メイドさん達とワイワイしてたのが」
「いつものことだ」
まぶたを閉じて深く息を吐き出す。長く垂れた髪が頬をくすぐる。気を緩めると、すぐに眠気が訪れた。意識が持っていかれそうになる。
きっと、眠りに落ちれば二度と目が覚めない。そんな気がしていた。銀鍵守護器官の回転数を上げておくことで無理やり意識を繋ぎ止める。目を開けると、目と鼻の先。瞳に映る自分の顔が見えるほどワルキュリアの顔が近づいていた。
「……なんだ?」
「貴方はどうして、そこまでして戦うんですか」
「ツケを払ってるだけだ。今まで悪さしてきたぶんの請求書、全部清算しないとな」
「正直、私は貴方のことをよく知りません。ですが、なんででしょうね。嫌いにはなれないと思います」
「……もし俺が死んだら、お前はどうなる。一応俺が所有者ということになってるんだろ?」
「そうですね。大魔導師に権限を移されましたから」
「それなら──」
「手を離さないでください。今もまだ、貴方の魂が壊れていないのは、私達が繋ぎ止めているからですよ」
大魔導師は言っていた。“魂の補強くらいにはなるだろう”と。つまりは、そういうことだ。
限界ギリギリまで切羽詰まって、機神の腕を失って、いつ砕け散ってもおかしくない自分の身体と心を繋ぎ止めているのは魂だ。腰に帯びた赤い直刀が僅かに照らされる。
「私達を使って誰かの命を奪えば、貴方の身体も少しはマシになりますよ。そうしないんですか」
「……そうだな。此処じゃ、ちょっとやりたくねぇな。おかしな話だ」
自嘲気味に笑うエヌラスの顔は、疲労が滲んでいた。
「今まで、散々自分の都合で人を殺してきたのに。数えきれないくらいに殺したってのに、今更止めるなんてのは虫の良すぎる話だ。わかってるんだけどな……ノワールに怒られたくねぇし、それでくたばるってんなら、これほど自業自得な話はない」
「そうだとしても。人は自分勝手に生きるものです」
「俺は人間じゃねぇんだよ。好き勝手に生きれるものか」
然るべき目的があって。然るべき理由があって。これまでずっと戦ってきた。生きてきた。そこに選択の余地はなかったはずだ。
自分が正しいと思った選択肢は、果たして本当に正しかったことなのだろうか。
あの時はただ──ただ、友達を助けたかった。世界の理不尽に堪えきれない怒りを覚えたから選んだ。必ず助けると誓って。必ず全員ハッピーエンドに導くと。それこそが傲慢に過ぎなかったというのに。
今となっては、このザマだ。自分の選択に、自滅の道を歩んでいる。これまで犯してきた罪の数は数え切れないほどだ。いっそ生まれていなければよかったのにとさえ思う。きっと、あの邪神も同じことを考えているはずだ。
お前がいなければ生まれていなかった。こんなことにはならなかったのだと現実を突きつけられる度に、そうだと肯定する。だが、だからこそと否定する。
死者を殺すことはできないが、生まれてきたのならば必ず死ぬはずだ。必ずこの手で、バッドエンドもデッドエンドも再殺せしめる。そうすれば残るのはハッピーエンドのはずなのだから。
鼻先を触れ合わせて、ワルキュリアは目を細める。
「……“次”があるなら、どう生きたいですか?」
「俺は……そうだな。俺に、“次”が許されるのなら──」
考えたこともなかった。聞かれるとも、思っていなかった。だが、本当に、
「笑って、胸張って生きてみてぇな。アイツ等と」
「──それなら、私達もお手伝いしますよ。だから、もう少しがんばってくださいね。ご主人様」
「お前に言われるとなんかむず痒いからやめろ」
「あれ、違いました? 私の所有者ですし、いうなれば所有物ですので、ご主人様では?」
「その緩みきったツラやめろやテメェ……!」
「いふぁいれふっれぇ~!」
なんだか照れくさくなって、エヌラスはワルキュリアのにやけた頬を引っ張った。ついでに顔を引き離す。両手で赤くなった頬を擦りながら涙目で睨んでくる軍服の少女に胸中で礼を述べ、教会奪還に向けてエヌラスは下準備を進めることにした。