超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ラステイション特殊防衛軍、通称『RDF』の部隊は夜間警備にあまり乗り気ではなかった。教会の襲撃を三度も許したことで上層部からは非難轟々だ。やれ税金泥棒だの数ばかり揃ったトーシロだのと好き勝手言ってくれる。
重装甲外骨格に身を包んだ巨体の兵装、フェンサー部隊は落胆した様子で肩を落とした。レンジャー部隊も口をへの字に曲げている。
上は好き勝手言ってくれるが、突如武装したそれなりに美人のメイドが二人もやけにノリノリでロックンローラーばりのテンションで突っ込んでこられたら誰でも狼狽える。その上恐ろしく強いのだから手の施しようがない。こちらは精一杯防御陣形を構えるだけの時間稼ぎくらいのものだ。
今回は特別に市街地戦でありながら人型二足歩行戦車の使用も許可されている。
「はぁ~……帰って美味いメシ屋に行きてぇ……」
「裏駅バー、爆破されたらしいな」
「なんだって。上も随分好き勝手やるもんだ」
「まったくだ。ラステイションの統治者面しやがってるくせに、結局の所指名手配犯一人とっ捕まえられない無能ばかりだ。結局苦労するのは現場の俺達じゃないか」
「あーあー、もしもーし。こちらレンジャー部隊、エリア551防衛部隊だ。異常なし、どうぞ」
《こちらエリア334防衛部隊。異常なしだ》
「了解、警戒を続ける」
定時連絡を済ませて、レンジャーの一人が装備コンテナに腰を下ろした。ガシャリ、とアサルトライフルも一緒に立て掛ける。
指名手配されている自称女神、ノワールの噂は彼らも耳にしていた。時折街で人助けをしているらしい。ギルドの依頼でも目撃情報があった。しかし、彼らはあくまでも防衛部隊。自分たちから火中に飛び込もうとはしなかった。給料据え置き、世も末である。
「今夜も来るのかなぁ、あのメイド達……」
「この一週間で三回も来たからな。流石にもう来ないだろう」
「ははは、まったくだ。今度来たら俺達も全力で迎え撃たないとな」
仲間たちと笑い合っていた一団が、突如爆発した。衝撃に、誰もが臨戦態勢を整える。
その場にいた誰もが敵襲だと疑わなかった。完全なる不意打ちに、しかしエリア551防衛部隊は即座に仲間達に背中を預ける。
「敵襲だと、どこからだ!」
「くそ、どうせあのメイドだろうから敢えて聞いてやる! どこのどいつだ!!」
「──なんだかんだと聞かれたらッ!!!」
カァンッ!!
その声は、夜のラステイションに響き渡った。耳にするだけで背筋が汗ばむ。ヒールを高らかに鳴らして、月をバックにポニーテールのメイドが緋色の太刀を構える。
その隣には、同じくポニーテールの金髪の女性。軍服姿であるが、何故か同じようなポーズを決めている。
「答えてあげ──「ない、ロケットランチャー!!」
「敵襲ーーーーーー!!!」
名乗りが終わる前に無反動砲が防衛部隊の指揮車を爆破した。突如指揮系統が乱されて一時的に混乱するRDFを尻目に、カルネとワルキュリアが頬を膨らませて使い捨てロケットランチャーを捨てるスピカをにらみつける。
「ちょっとースピカ姉。まだ名乗り終わってないんだけど!」
「そうですよ、こういうのインパクト大事じゃないですか!」
「ご主人様からはできるだけ派手にって言われましたし、ハンティングホラーも借りたんですからここらで“ババーンッ!”と」
「バカーンの間違いでは? いいから暴れますよ」
そんな三人に付き合わされる獣狩はと言うと、顎に手を当てて何やら考え込む素振りを見せた。すると、おもむろに左手を垂直に挙げる。右手は水平に、踵を揃えて直立不動の姿勢。
「獣狩様、今決めポーズは取らなくて大丈夫ですよ?」
「すまない。ノリに合わせようと思ったんだ」
「そのままの素敵な貴方でいてください。私達はこういった感じで行きますので、フィーリングでついてきてください」
「わかった。相手も本腰を入れて迎撃体制を整えているようだ、気合を入れていこう」
獣狩は飾り羽のついた帽子を押さえてビルの屋上から飛び降りる。その後に続くようにしてワルキュリアが飛び降り、その身体が紫電と共にかき消えたかと思えば着地地点で待ち構えていた防衛部隊を瞬く間に蹴散らした。落下してくる獣狩の身体を受け止め、二人が背中を合わせる。
その頭上、ビルから飛び出すのは鋼鉄の魔獣。ハンティングホラーがご機嫌なエンジン音を夜空に轟かせながら防衛部隊の補給地点めがけて突撃していく。
緋太刀の切っ先が道路と擦れる度に火花を上げる。その後ろでコントラバスケースを肩に担ぎ上げたメイドが無数の銃を自動砲台の如く展開していた。その全ての引き金に鋼糸を巻きつけて、指先一つで全弾発射が可能な状態にされている。
「“待”ってたぜぇ、この“
「やったれやったれスピカ姉ー!! いやっほーう!」
「“
「もうダメだ手に負えねぇ、なんなんだこのメイド達はぁぁぁぁっ!!!」
レンジャー部隊の悲痛な叫びと爆炎、爆発、紫電が夜の闇に飲み込まれていく。
ラステイション教会に、防衛部隊の壊滅的な被害状況が続々と押し寄せていた。
「こちら教会本部! 状況を詳しく報告せよ!」
《──、………! ──ド──!!》
「電波状況が悪い! もう一度だ! 聞こえるかレンジャー部隊!」
《──メイ……──! ザザッ…………、メイドが──!》
「一体何と戦っているんだお前たちは!? ええい!」
苛立ちを募らせてデスクを叩きつけた。偶然か、はたまた。その衝撃によって無線が繋がる。だが聞こえてきたのはレンジャー部隊の絶叫だった。
《──サ、サンダーーーーー!!!》
「……いや本当に何と戦っているんだお前たちは!?」
しかし、次の瞬間に落雷が街に落ちる。あーうん雷と戦ってるのね君らーふーん。教会で待機している武装勢力の面々はなるべく深く考えないことにした。
「例の、なんかこう形容しがたいテンションのメイド部隊(二名+α)がエリア551防衛部隊と交戦中! 救援を要請しています! エリア334防衛部隊を向かわせますか、指揮官」
「やむを得まい。可能な限り戦力を投入しろ!」
「ヤーナム・シティの狩人も確認! どうされますか!」
「かまわん!」
「人型二足歩行戦車撃沈! どうされますか!」
「かまわん!」
「そこはかまってくださいよ!? こちら教会本部! エリア334防衛部隊は至急エリア551防衛部隊の救援に向かえ! ……聞こえるか! おい! 誰か聞こえないのか!」
「今度はなんだ!?」
「エリア334部隊との連絡途絶!」
「教会に接近してくる反応があります!」
「モニターに映せ!」
RDF指揮官の檄に、すぐに通信士はカメラの映像をモニターへ切り替える。
遠方では、エリア334防衛部隊が落雷と交戦中。のみならず、昼間のように照らされる街に夜空へ立ち込める黒煙が星空を隠していた。何の悪夢か、月に照らされてメイドが二人。ライフルと緋太刀を手にしてバイクを乗り回している。
ライトアップされたのは、まるで夜の散歩のような気軽さで教会へ向かってのんびりと歩いているラステイション教祖の神宮寺ケイ、その人だった。手にはメカニカルソードを携えて、背筋を伸ばして緩やかに接近している。
まさか。よもや、この国の指導者が。教会の真正面から堂々と大手を振って戻ってくるとは夢にも思わなかった。
ラステイション教会、その最終防衛ライン。殿を務めているのは武装勢力の傭兵たちがほとんどだった。正規軍達は主に前線へ駆り出されている。
「神宮寺ケイ……!? 戻ってきたのか、しかしなぜ今になって」
──思い返せば、何もかもが突然の出来事だった。だが、シェアクリスタルを手にして逃げの一手を選んだことは最善の策だったとケイは信じて疑わない。ビジネス最優先ではあるが、そこには当然ながら保身も含まれる。
守護女神がゲイムギョウ界から忘れ去られたとしても、自分がラステイションの教祖であることに変わりはない。それ故に、必要に迫られているのは教会を不法占拠しているのが国家転覆を目論む犯罪者の集まりであることを公にすること。自分が反抗勢力のリーダーとして情報操作されたところで、どうにでもなる。相手に突きつける物的証拠も証言も山程、懐の書類とUSBメモリに記憶して保存してあった。
ラステイションのゴールドサァドが正しく統治しないというのなら、このままシェアは低下していくばかりだ。そればかりは我慢ならない。国益が最優先だ。そのためにも、ラステイションはゲイムギョウ界一のシェアを持つというアドバンテージを確保していなくてはこの先のビジネスがやりにくくなる。ブランドは力だ。
だからこそ、今。
神宮寺ケイは剣を手にしてラステイション教会へと戻ってきた。
自分なりの愛国心を示すために。
「止まれ! ラステイション教祖、神宮寺ケイ!」
「やれやれ。ボクを呼び捨てにするなんて、最近の犯罪者はマナーがなってない」
「貴様何のつもりだ! 真正面から、それもたった一人で教会にやってくるなど! 正気か!?」
「そこはボクの職場だ。裏口から入らなきゃならない理由があるのかい? ああ勿論、キミ達に一切手加減するつもりはないから、そのつもりで頼むよ」
入り口を固める傭兵部隊に、ラステイション製の人型ロボットまで動員されている。その圧倒的なまでの戦力差に優越感に浸っていられるのも今のうちだ。
「ふむ。教会の防衛にしては悪くないかな。それだけの戦力を用意できたのは、褒めてあげるよ」
「そちらこそ。単騎で戻ってきたことは賞賛に値する!」
「だけどまぁなんというか、ご愁傷さま。相手が悪かったとしか言いようがない」
その言葉の意味を相手が理解するよりも先に、ケイは駆け出していた。自分に向けられた銃口が一斉にマズルフラッシュを焚く。だが、その場から横飛びに避けた姿を捉えようとするものの既に姿を消していた。
どこに、と口にする前にケイは肉薄し、銃を真っ二つにする。同士討ちを恐れて引き金が鈍った隙に、ケイは次々と小柄な身体を生かして傭兵部隊を無力化していった。
「ここまでお膳立てすればいいかな……」
ポツリと呟き、教会の正面ホールへ突入するかに見せて大きく飛び退く。その姿に、無事だった傭兵達が再び銃を向けた。
「馬鹿め、今の勢いで教会に突入していればよかったものを──」
「それじゃあ突撃よろしく。キミの専売特許だろ?」
「──おうよ、任せろ。一人残らずぶちのめしてやる」
その声は低く、静かに、だが確かに耳に届いていた。ノワールとユニの二人を抱きかかえて、エヌラスは教会の敷地ギリギリで身を屈めている。
その両足は紫電が纏っていた。“
正面ホールへと一直線に突撃したエヌラスの飛び蹴りが人型ロボットの胴体を粉砕し、無数のジャンク品へと形を変えながら扉を蹴破ってラステイション教会へと侵入した。
唖然としている傭兵部隊達だったが、そこへ接近してくるのはエンジン音とは思えぬ魔獣の唸り声。悪夢の爆走メイド隊が教会の前へ到着した。
「出前一丁!」
「豆腐は二丁!」
「此処は地獄の三丁目!」
「防衛部隊は片付けた。しばらく大丈夫だろう」
「お見事。流石敏腕秘書官」
「え、ビンビン秘書官? どこがです?」
「んー、強いて言うなら毒電波かなー。さておき、本格的に反撃開始だ! 教会の被害請求書は全額キミ達の組織に送りつけるからその気で行こうか!」
「ビジネスの鬼か貴様ぁぁぁぁっ!?」
傭兵部隊が血の滲むような絶叫を挙げる。だが、獣狩を筆頭にケイ達は一切容赦しなかった。