超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ラステイション教会、正面ホールへ強行突入したエヌラスとノワール。ユニの三人に続き、ケイも教会の入り口を獣狩達に任せて我が物顔で歩く傭兵達を蹴散らしていく。相手もまさかこんな手段で突入してくるとは思ってもみなかっただろう。
如何に教会の守りを強固にしたとしても必ずその突破口は存在する。今回は少々ナンセンスな突撃だったとしてもだ。
ノワールとケイの剣技が冴え渡る。ユニの銃撃も正確に相手を戦闘不能に追い込んでいく。一人また一人と確実に数を減らしていった。
「エヌラス、そっちは大丈夫!?」
視線を向ければ、倭刀を手にして傭兵が構えた銃を輪切りにし、瞬く間に三連撃。膝裏と肘を流れるように切り裂き、顎下を打ち抜く掌底。気絶した相手を盾にして死角から飛び出して確実に仕留めている。いつもならば大火力の魔術で薙ぎ払っている姿ばかりが思い浮かぶが、体術のレベルがそもそも規格外だ。伊達に九龍アマルガムでサイバネマフィア相手に喧嘩を売っていない。
銃弾を切り落として防弾コートを翻すと懐からレイジングジャッジを引き抜いて照星を合わせ、無遠慮に発砲した。
エヌラスと背中を合わせて、ノワールはため息を吐く。
「ちょっと、大丈夫なのって聞いてるんだけど」
「あ? なんだってよく聞こえねぇよ!」
「銃を撃つのやめなさいよ、もう!」
バゴォン! 怒鳴り声をかき消す銃声に、スイングアウトして即座にリロードを挟む。教会に鳴り渡る緊急警報に大勢の足音が迫ってきていた。その中に機械的なものも混じっている。
「あなたとこうしてるとあの時みたいね」
「とんでもねぇ大昔に思えて仕方ねぇけどな」
「わたしにとっては昨日のことみたいに思い出せるけど?」
「俺にとっても色褪せない思い出話だ。主に真っ赤で」
「ちょっと、笑えない冗談やめてよね」
「なんでだよ。今も大して変わってねぇだろ」
「そういうところが、ダメだって言ってるのよ! ほらよそ見しない!」
「テメェもな!」
二人が同時に接近してきた傭兵を蹴り飛ばし、打ちのめす。
「お姉ちゃんもエヌラスさんも、息ぴったりですね」
「こんな状況下でもイチャツイていられる余裕があるのは感心するよ」
「聞こえてるからなそこ二人!」
言っている間にまた一人がエヌラスの倭刀の餌食になっていた。後ろ回し蹴りで兵士が回転しながら床へ倒れ込む。また新たに現れた傭兵達に向けて防御魔術を展開し、ノワール達はそれに身を隠した。
ユニがライフルのマガジンを切り替え、赤い弾頭の弾丸を装填する。狙いをつけて、敵陣の中央に向けて引き金を引く。
射出された弾丸は赤い軌跡を描きながら発火し、着弾と同時に爆発した。陣形が崩れた相手めがけてノワールとケイが飛びかかり、相手を蹴散らしていく。
「……」
ユニは、呆然と自分が撃った弾を見つめていた。
銃から魔術を発動させるメカニズムは、エヌラスが曰く。銃器本体の強度も左右する。そのため作戦開始前に魔術で補強されていた。銃身のガタツキもない。立て続けに連射しても、反動で手が少し痺れるくらいだ。
自分が扱っているものが長物で、かつ威力を抑えている魔術弾頭だからいいものの──それを本来の威力で、二挺拳銃で撃ち放っているエヌラスの負担は如何ほどか。
全身を襲う不調の嵐に、しかし目に見えないところで奮闘している姿はいつもと変わりないように見える。
倭刀を手足のように自在に扱う、滑るように、流れるような動作で相手の死角に回り込んで一撃で倒していく姿は暗殺者のようだが、そちらが本来の戦闘スタイルだ。
「どうした、ユニ?」
「なんでもないです、行きましょう」
「援護は任せた」
頭をくしゃりと撫でて、エヌラスが先陣を切る。正面ホールを制圧すると、そのまま司令室を目指して駆け出した。
──勢いの止まらない相手に、傭兵組織のトップは不機嫌さを隠そうともしない。ここに辿り着くためにどれだけ苦労したと思っているのか。一生に一度あるかないかの天下人としての栄光だ。みすみす手放してなるものか。あの憎き守護女神ブラックハートに組織を壊滅させられてから同志を募り、こうして反撃の機会を窺っていたというのに。
それが、たった一日どころか、たった一度の突入を許しただけで無様を晒している。
虎の子の人型戦車も外では馬鹿騒ぎの乱痴気メイドに破壊されていた。なんなんだアレ。
既に巻き返せる状況ではない。教会を放棄して撤退するしかなかった。だが、このままでは終わらない。
「撤収だ! これ以上の被害は抑えろ!」
「軍部はどうされますか」
「知ったことか、後のことなど! アレだけは忘れるなよ!」
「わかりました! 総員撤退!」
「足止めに例のサイボーグも稼働させておけ」
「はっ!」
それは傭兵組織の切り札に等しい戦力だった。だが、それ以上に今は完成した対女神専用兵器を確保しておくことが最優先であることに違いはない。
傭兵達が一斉に教会から姿を消すのを見送るのは、暗闇に身を隠していた一体のサイボーグ。物陰に溶け込むようにその場を後にすると、司令室は無人となった。
──傭兵組織が撤退し始めたのか、相手の抵抗が弱まってくる。
「どうやら、一段落と言ったところかな?」
「こんだけやって出てこねぇってことは、ゴールドサァドも逃げの一手か?」
「どうかしらね」
「まだ戦いは終わってないんだ。油断しないように」
ケイの一声に、三人が頷く。廊下を駆け抜けると、司令室まで目前だ。
しかし、エヌラスが先頭を走るケイの襟首を掴んで引き止める。
「ぅわっ!? き、急に何をするんだ!?」
「なんかいる」
「随分不正確な言い方をするね……」
「しょうがねぇだろ、よく見えねぇんだから」
「何を言っているのよ? 何もいないじゃない」
「ユニ。ちょっと一発撃ってくれ」
「え? でも……いいんですか?」
目の前には無人の空間が広がっていた。廊下を照らしている灯りも足元の非常灯くらいである。だが、エヌラスは何かの気配を感じ取っていた。まるで爬虫類のような、まとわりつく視線のようなものを。
訝しみながらも、ユニはマガジンを切り替えて通常のライフル弾を廊下に向ける。
虚空へ向けて撃たれた弾丸は、壁に激突する前に空中で弾き落とされて床へ落ちた。その弾頭が真っ二つに切断されている。
「まさか、光学迷彩……完成していたのか」
「とんでもねぇもの開発してんじゃねぇよ!」
「何を言っているんだ、ステルス戦闘機や戦闘ヘリが配備できたらこれからのラステイションは飛躍的に安全が保証されることになる。当然開発費用も相応に注ぎ込んだんだから完成したら喜ぶのは当然じゃないか!」
「金かよ!!!」
それもこれも全部リーンボックスの愛国者、プレジレントが悪い。あの大戦で各国の動きが活発となったのだから。その張本人は既に機能停止しているというのにはた迷惑な話である。
「そこにいるのは誰、姿を見せなさい!」
ノワールの言葉に素直に応じる姿無き敵は、光学迷彩を切ると全貌を露わにした。
全身をのっぺりとした流線型のアーマーで覆った機械的な人型。それは、エヌラスと同じくらいの背丈だろうか。ラステイションにおける最新鋭技術をありったけ注ぎ込んだ人型兵器にケイは驚きながらも自慢げに口を開いた。
「ラステイションが誇るニンジャサイボーグじゃないか!? ハウンド:
「なんで左肩だけ赤いんだよ」
「右肩も塗っておいた方がよかったかな?」
「そうじゃねぇ!?」
「一体いくら開発費に注ぎ込んだと思っているんだ! 敵地潜入に特化した空気抵抗の少ない素体にフィットした流線型アーマー! 戦車の正面装甲も切り裂く高周波ブレード! 技術を躍進させるために必要なのは開発経費、どうしてキミにはそれがわからない!」
「嫌というほど骨身に染みとるわぁ!! 俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて、なんでそんなのが此処に、しかも俺達の敵になってるのかって話だ!」
「悪用されたからだね、頑張って」
ポン、と他人事のように肩を叩かれてエヌラスの顔が引きつる。
頭部と思わしき場所には、目も鼻も口もない。単眼のレンズが一門、こちらを無機質に見つめていた。頭頂部には大きな音響センサーが一対、キツネの耳のように生えている。
そして何より、背面に背負った直刀の高周波ブレードが一本。武装はそれだけのようだ。
「……ケイ。さっき、お前なんて言った?」
「技術を躍進させるのに必要なのは開発経費?」
「その、もうちょっと前だ」
「ラステイションが誇るニンジャサイボーグ」
「それだ。なんかこう、もっと情報ないか」
右肩から突き出たブレードの柄を握りしめ、ゆっくりと引き抜くニンジャサイボーグ、フォクシーは切っ先をこちらへ向けてピクリとも動かない。
「ボクは資金を運用しただけで開発に携わったわけじゃないからね。ただ……」
「ただ?」
「戦闘プログラムはキミとノワールを参考にしたから剣術の腕だけは一級品らしいよ。あと運動性はお墨付き。シロガネ研究所とリトルアイランドプロダクションの共同開発だ。それと電力の過剰供給で形態変化するらしいから、気をつけてね」
「ニンジャ殺すべし! 慈悲はない! なんでもありかよラステイション!」
「なんでもはできないよ。
「来るわよ、気をつけて!」