超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
フォクシーの太刀筋は鋭く、速く、迷いがない。だが、それだけだった。機械的な挙動が拭えない。動作そのものは機敏ではあるしそれが何よりも驚異的ではあるが、人間を基準にすればの話である。今目前に迫っているのは守護女神であり、ラステイション教祖であり、魔人だ。一介のニンジャサイボーグの手に余る。
ノワールが二度、三度と高周波ブレードを弾き、ユニがその隙を突いてフォクシーを狙い撃つ。手首を返して刃を踊らせると着弾する前に切り落とした。しかし魔術弾頭が炸裂し、衝撃に後ずさる。頭部ユニットのセンサーが一瞬ノイズに支配され、すぐに復旧するもエヌラスが切迫するには十分すぎる隙だった。
「おぉっ──!!」
一手を凌ぎ、二手を弾き、三手を防ぐ。四手で反撃に転じる、が、しかし。
“ゆらり”と開いた徒手が不意に胴体へ押し当てられる。次の瞬間にはフォクシーは稼働停止していた。“紫電”鬼哭掌。
「……一応それ、最新鋭兵器なんだけど。一撃で倒されるとは思ってなかったよ」
「俺を相手にサイボーグ出すのは悪手が過ぎる。こちとら特攻技持ってんだ」
「相変わらず末恐ろしいわよね、それ」
「……それと、思いの外内臓にダメージきた。ごふっ」
「あなたね……」
体内電流を電磁パルスにまで昇華させて放つ鬼哭掌は、魔術で増幅させているとはいえ内傷は避けて通れない。そう何度も撃てるものでもないが、どこかで練気功をしくじったらしく内臓が悲鳴を上げていた。軽い吐血で済んだからいいものの下手をしたら自爆している。
(いやこりゃ、本当にまっずいな……)
気を練るのも一苦労だ。一度鍛錬を積み直した方が良いかもしれない。そんなことを思いながらエヌラスは口元の血を拭い、司令室の扉を蹴り破った。中は案の定、もぬけの殻になっている。
「逃げ足が速いな、流石は傭兵組織の生き残りだけある」
「褒めてる場合か」
「管制室はボクの方で何とかするけれど。さて、当面の問題は……」
ラステイション教祖としての立場からどれだけ世論を動かせるか。今回の教会不法占拠の一件について国民に理解を示すには、少々厳しい。守護女神が歴史から消えたとしても教祖の記憶は無事な以上、政治的な立場は変わらなかった。
反抗勢力のリーダー、ということにされているがそれを払拭するにはどうするか。
あくまでも合理的に波風の立たない方向で舵を切るのならば、そう難しいことではない。しかしそれをノワールとユニが認めるかどうか。
「ラステイションの政治的な問題か?」
「まぁね」
「なら、俺を上手く使えば済むだろ」
「それが一番無難だけど、ほら。ノワールがすごい目で睨んでるよ」
「他に方法あるなら言ってみれ」
守護女神の力量不足、とは言うまい。むしろ相手の底力と執念が凄まじかったという話だ。ノワールに非はない。
「どうせ俺も生死問わずの指名手配犯だ」
「だからこそキミの扱いも大変なんだけど、そこは腕の見せ所か」
「アレの手引きをしたってことにすりゃいいだろ、それじゃダメか」
「キミ、一応教会で管理運用しているって体裁だからね……いや、待てよ。そういうことなら……うん……なんとかなるかもしれない。彼らはキミを狙って教会を襲撃、占拠したということにすればいいかな。その対応に追われ、一時撤退した件については再発防止に誠心誠意尽力致しますってことで。うん、防衛費に回す口実もできた。この方針で行こう、異論は?」
「俺は無いな」
「……それで済むなら、わたしも」
「あたしもです」
「決まりだ。ノワールの指名手配も取り下げよう、その方が都合がいい」
エヌラスのD-Phoneが着信を通知する。すぐに取り出すと、スピカの名前が表示されていた。
「どうした、そっちに何か動きがあったか?」
《ああ、エヌラス様。傭兵と思わしき一団が何やらトラックで教会から離脱されていきましたがよろしいのでしょうか?》
「ぶちかませ」
《事後報告になりますが、取り逃がしました》
「おい」
《手持ちにある限りの対物ライフルや迫撃砲で狙ったものの、相手のドライバーは良い腕をしておりますね》
「なんのためにハンティングホラー貸してると思ってんだ、まったく」
《バカルネが意気揚々と声高らかに爆走中です。明日には珍走団一名として朝刊に載るかと》
「今すぐ引きずり落とせあのバカを!」
《相手方の反撃も手を弛めず、いやはやまったくラステイション防衛部隊はとても素晴らしい練度です。こちらも腕が鳴りますね。ええ、九龍アマルガムのお掃除係としての腕が》
「加減しろー? 死人出すなよー? お前はできるメイドだろー? なー?」
《…………多分、死んでいないと思います》
「おいッ!? 今そっち戻るから待ってろバカども! ……というわけで様子見てくる、こっちは任せていいな?」
静かに頷くケイ達に、心底行きたくない顔をしながらエヌラスは通ってきた道を引き返す。足元に倒れていたフォクシーを八つ当たりで軽く蹴飛ばしながら。
“ラステイション教会を取り返す”──そう言って、ノワールは部屋を後にした。
女子寮の一室、ケーシャは部屋の電気を点けずにベッドに寝転がりながら天井を仰ぐ。傍らには白い子猫が丸くなって眠っていた。
大丈夫だろうか。怪我なんてしていないだろうか。自分も何か手助けができないか、と。そんな考えばかりが頭の中で巡っている。しかし、その思考も非通知設定の着信に遮られた。
「もしもし?」
《……ケーシャか》
「──、何か用ですか」
できることなら、声も聞きたくない。もう組織はなくなったのに連絡をしてきた上官に、ケーシャは静かに冷たい声色で尋ねた。
《緊急の依頼を頼みたい》
「……報酬は?」
《日々の平穏、とでも言っておこう》
「任務内容は」
《教会前の脅威排除》
「……了解。作戦行動に移る」
携帯の電源を落とし、ケーシャはぼんやりと眺めていた天井から視線を移して窓を眺める。夜のラステイションを照らす戦闘行動に、吐息をこぼした。
ベッドで眠っていた白い子猫だけが、暗い室内に取り残される。
ラステイション製ロボットの関節部を覆うチューブへ向けて獣狩がノコギリ鉈を振り下ろす。獣の肉を引き裂く小さな刃の波が伝導体を傷つけ、腕の稼働率が激減した。素早く身を翻しながら頭部のカメラに向けて散弾銃を突きつける。指に挟み込んでいた硬貨を弾くと、使者達が地面から姿を見せた。その手には長物の柄が握られており、獣狩は得物を切り替える。
それは、金槌だった。燃え盛るような小型の炉を叩く撃鉄を左肩で起こし、しっかりと踏み込んで下から叩き上げる。爆炎と共にロボットが打ち上げられ、それを待ち構えていたかのように背中に落雷が突き立てられた。胴体を細剣で貫き、全身の回路をショートさせるとワルキュリアは体重を感じさせない軽やかな動きで次の相手へと斬りかかる。
「ふぅ……キリがありませんね」
「問題ない。狩るだけだ」
「あちらの二人は、心配いらないみたいですけど」
「ああ。良い狩人だ」
「……メイドでは?」
教会に傭兵部隊を近づけさせまいとしていた二人のもとへ、エヌラスが駆け寄ってきた。
「こっちはどんな調子だ」
「お前か」
「ずっとあんな調子です」
ワルキュリアが呆れながら指し示した先。
コントラバスケースから飛び出す無数の銃器を撃ちながら敵陣深くに突撃して乱射している銀髪ツインテールのメイドが一名。
大型バイクを片腕で操舵しながら緋太刀を振るい、すれ違いざまに装甲車両を布のように切り裂いていく銀髪ポニーテールのメイドが一名。
総勢二名が大暴れしている現場に、エヌラスは深く肩を落とした。
「なんであいつらあんな元気なんだ……」
「お前と一緒だからではないか。少なくとも教祖様と一緒の時はあそこまで高揚していなかった」
「うんうん、乙女乙女。素晴らしいですね」
「被害総額に換算したくねぇ乙女心だな」
仕方なく二人を止めようとエヌラスが二人から離れて前に出る。だが、獣狩が不意になにかの気配を察知した。それは狩人として研ぎ澄まされた勘でしかなかったが、エヌラスの背中を押す。
「おーい、お前ら! そこらでいい加減に──」
夜闇に響く銃声。
獣狩の頭が爆ぜる。前のめりに倒れていなければ、そうなっていたであろうエヌラスが目を見開いていた。
──ワルキュリアの隣で、仰向けに倒れる獣狩の身体の輪郭が薄れていく。その姿に集まる使者達が地面の中へ引き込んでいくと、何事もなかったかのように消えた。