超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
重量級タイプ、そう呼称される個体は他の個体に比べて遥かに防御力が高い。四足の雄牛のような外見から、まるで闘牛を彷彿とさせる。その体構造の特性上から直線的な突進による攻撃に留意すれば何一つ恐るるに足らぬ相手だ。アルシュベイトの長刀が重量級タイプの膝元を断つと、呆気なく転んで息絶える。
もっとも厄介なのが砲撃タイプ。名のごとく、他にはない唯一の遠距離攻撃を有している。進行速度は他の個体より遅いが、その砲弾が数に物を言わせて撃ちこんでくるものだから爆撃に晒されているかのような脅威だ。拳大程もある結晶が空から落ちてくる。ランス03はそれを避けると、地面にめり込んだ。着弾地点で震えたかと思えば次の瞬間には石柱のように肥大化し、破裂する。周辺には柳葉状の破片が幾つも突き立つが、ランス03は長刀を交差させて被弾を最低限に抑えた。そこへランス01が加勢し、上空から降り注ぐ結晶を撃ち抜く。
「パープル、ブラック、アイリス! 上空のアレ、頼めるか!」
「飛行能力がないって不便ね」
「ああそうだな!」
ヤケクソ気味に叫びながらエヌラスが格闘型タイプの拳を避けて、逆にその腹へアクセル・ストライクを叩き込んでいた。軽々と吹っ飛んだ個体は他のタイプも巻き込んで大地に沈む。
ネプテューヌ=パープルハート達は空高く飛んで結晶の破壊を始め、砲撃の憂いがなくなったことによりアルシュベイト達の勢いは一気に増した。
「…………」
ドラグレイスはただその光景を遠巻きに眺める。魔法剣を担ぎ、ランス02が弾倉を交換していた。何故、こうなってしまったのだろう。エヌラスを討ち、ともすればこの世界の崩壊は収まるというのに――アルシュベイトを相手するのは得策とは言えなかった。その上、最強の親衛隊であるトライデントまでもが同伴となれば勝機は薄い。
残っていたワイバーン達が砲撃型の結晶に巻き込まれて落ちてくる。ドラグレイスは無感情にそれを切り捨てた。地を這うトカゲ達も重量級タイプに轢かれ、踏み潰され、中には小型タイプにまとわりつかれて死んでいく。
魔法剣が怒りを滲ませた陽炎を纏っていく。
「――
黄金の輝きが赤みを帯びていき、やがてそれは真紅の血色となった。切っ先から滴が垂れ落ちる。奇妙なことに、獲物を切ってすらいないはずの魔法剣からは血が滴っていた。ドラグレイスが剣を振り上げてエヌラス=ブラッドソウルに向けて振り下ろすと、その血は自らの意思を持つように尾を引いて進路上の全てを切り裂きながら爆ぜる。赤い魔力の爆発がヌルズ諸共にエヌラス=ブラッドソウルを呑み込んだ。
《ドラグレイス、貴様――!》
「……言ったはずだ、アルシュベイト。貴様との共闘はあの日までだとな。なぜ俺が貴様に命じられ、貴様のみならずエヌラスと轡を並べなければならん! 俺達は戦争をしているはずだ、それが何故手を組まねばならんのだ! このまま世界の崩壊に巻き込まれれば、全てが消えてなくなるのだぞ! “今まで”のように!」
《そのようなこと“識っている”とも》
「――――今、なんだと……?」
《エヌラス、九龍アマルガムへ急げ! この馬鹿は引き受けよう!》
魔力の波動を感じ取って防御態勢をとっていたエヌラス=ブラッドソウルは振り上げていた脚を下ろす。両腕の魔術回路が使えない今では両足の回路だけが頼みの綱であった。ヌルズの残党をトライデントが一匹残らず殲滅すると、アルシュベイトの隣に着地する。
“今までのように……? 識っているって……もしかして、あの二人”
ネプギアは、ユニから聞いた話を思い返していた。
アダルトゲイムギョウ界では戦いが繰り返されてきた――世界にシェアエネルギーを還元して均衡を保ち、平穏を守ってきた。だが、何か引っかかる。
「あの――ひゃわぁ!?」
そう口を開きかけた瞬間、身体が持ち上げられた。エヌラス=ブラッドソウルがネプギアを肩に担いで走りだす。ミスカトル大時計塔に向かってネプテューヌ=パープルハート達も急いでいた。
その背中に向けてセブンスを召喚し、発射して――トーネードに撃ち抜かれ、魔法陣に向けてトライデントが攻撃を加えると構成していた術式が光の粒となって消えた。
《何も驚くことはあるまい、ドラグレイス。地上最強の魔導師、その一番弟子の“
「貴様――!」
《そう睨むな。瞳のない貴様に睨まれるとゾッとするものでな――
ミスカトル大時計塔の扉を蹴破り、踏み入った内部はぜんまい仕掛けの機械仕掛、大小様々な歯車が“噛み合っていない”にも拘わらず“噛み合って”動いていた。チクタクと、カチカチと“デタラメ”で“規則的”に。足元がおぼつかない浮遊感に、ネプテューヌ達が眩暈を覚えてふらついた。
「ここ……」
「時空が歪んでる?」
「俺の師匠が組んだ
「え、そんな無責任な!?」
「作った本人も分からないって、それ相当に危険じゃ……」
「不思議なことにそれに誰も疑問を抱かないってのが俺の師匠がすごいところだ。なにやってもおかしくねぇしなあの人。つうか“なんでもあり”だった、つーのが一番ヤバイ」
曰く、大魔導師は怪物であった。
曰く、大魔導師は化け物であった。
曰く、大魔導師は神ならざる神であった。
曰く、大魔導師は獣であった。
曰く、大魔導師は世界を終焉に導いた。
曰く――大魔導師は大いなる“C”の子息であった、等……例を挙げれば素っ頓狂でとんでもない話が彼の英雄譚であり怪奇譚のごとく語られる。それでも何一つ大魔導師の本質を語るに至らない、まさに深淵のような御仁であった。
「あの人“無限熱量”ぶちこまれて生きてたしな……やったの俺だけど」
「アナタ、自分の師匠になにやってるのよ……」
「というか無限熱量ってまた途方も無い技持ってるんですね」
「今は使えねぇけどな、っておーい、大丈夫かネプテューヌ」
「うぇ~~、ここ気持ち悪いよぉ~吐きそう~エヌラス~、私赤ちゃん出来ちゃう~」
「腹パン」
「無慈悲過ぎない!?」
ネプテューヌの悲鳴を無視してエヌラスは時計塔の中にある扉を前に立ち止まる。大時計塔と言われていたが、その中はゼンマイや歯車だけが詰められたただの時計塔で、中にあったのは巨大な門が一枚。その表面に描かれている紋様が全て魔術に関する構成術式であるというのはなんとなく分かったが、その情報量はまるで子供の落書きにも思えた。
「開けゴマって言えば開いたりするの?」
「正解。
「ホントにそれで開くんだ! セキュリティガバガバじゃん!」
「アホ言うな。コレ開けるのに失敗するだけで人間一人焼き切れるどころか世界が三回は滅ぶ」
「こわっ!?」
事実であるというのが何よりも恐ろしい。そんなものを組んだ大魔導師、エヌラスの師匠がどれほど常識という概念からぶっ飛んだ存在であるかを味わった。
カチ、カチ――――チク、タク。時計の針の音が一瞬だけ止まる。そして、それはすぐに高速で動き始めたかと思うとすぐに止まった。やがて、デタラメで規則的な歯車の音が鳴り響くと、浮遊感が消えていることに気づく。空間が固定されたのだ。それでも車酔いのような感覚が付きまとっている頭を振ると、すぐに治る。
「――ようこそ、犯罪国家九龍アマルガムへ」
心底嫌そうにエヌラスは皮肉をたっぷり込めた笑みで“門”を押し開けた。
――九龍アマルガム。地下帝国であり犯罪国家。エヌラスの治める国。
「死ねよやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃあああああ!!!」
「ヒャッハァァァ酒だぁぁぁ!!」
「金目のもん置いてけやぁ、あぁん!?」
「くたばれぇえええ!!!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
マフィアの抗争が起きていた。ひったくりがいた。強盗がいた。事件が起きていた。街はきらびやかに人々の活気で息づいていた。足を一歩踏み出す前にネプテューヌ達の前で三人くらいが死んでいる。車に轢かれて人が死んだ。まるで冗談のようにボンネットにぶつかって倒れた人間は歩道に戻される。
「バカヤロー! 勝手に出て来んじゃねぇ、くたばれ!」
いや今あなたが轢き殺しました。そんなことを言う前に中指を立てて運転手は走り去っていく。誰も止めなかった。いや、それどころではなかった。トンプソン機関銃を持って整列した黒スーツ姿の覆面達が一斉に引き金を引いている。逃げ惑う市民。荒れ狂う熱気と狂気。絶えることのない活気となって街を盛り上げていた。
顔面蒼白となって立ち止まっているネプテューヌ達。
大黄金にして大混乱にして大暗黒の町並み――スチームパンクの蒸気が人々の熱意なのではないかと卒倒しそうになる。と、そこへサイレンの音が幾つも重なって現場に急行した警察だと目を輝かせた。
「ヨォーホォーーー!」
「V8! V8!」
モヒカンだった。盗んだパトカー乗り回して事故ってポシャって死んだ。それを追っていた警察官らしき集団も、まさに世に情けなしという有りさまで車両から犯人を引きずり出して袋叩きにしている。そこにトラックが突っ込んできた。燃料をたっぷり詰めた装甲タンクローリーに流れ弾が当たって燃料が漏れ出し、次の瞬間に通行人が何気なく捨てたマッチに引火して大爆発が起きた。熱風と破片と衝撃にネプテューヌ達は身動き一つ出来ない。
「いやー、平和だな」
『どこがッ!?!?』
総ツッコミだった。