超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ラステイションの学校からの帰り道、ケーシャに声をかけるクラスメイト達。
「ケーシャちゃーん、あの音ゲー新曲追加されたんだって」
「そうなんだ。じゃあ、ゲームセンターに寄ろうかな」
「よかったらわたしも一緒に行ってもいいかな。好きなアーティストさんなんだ」
「うん、いいよ」
数人のクラスメイト達に囲まれながら、ケーシャはラステイションにあるゲームセンターへ向かう。何気ない日常、変わらない毎日、ありきたりな平凡。これでいい。自分が欲しかった“普通”がそこにはあった。
「また最高難易度でパーフェクト狙い?」
「もちろん、フルコンプ目指してるから」
「ケーシャちゃん、音ゲー得意だもんね。偶々見かけた時は驚いちゃった」
クラスメイト達と笑いあいながらゲームセンターへ向かう。だが、ポケットに入れていた携帯電話が震える。
着信画面を確認すると、非通知設定になっていた。なにか嫌な予感がする──だが、ケーシャはクラスメイト達に一言断りを入れてから電話を取った。
「もしもし?」
《────……シャ──……》
「……?」
ノイズがひどい。いたずら電話かとも思ったが、よく耳を澄ませると背後から轟音が聞こえてくる。戦闘の影響で相手の電波状況が悪いようだ。
《──ケーシャ……聞こえるか》
「……なんですか?」
《我々はもう持たん。だが、格納庫の対女神専用兵器だけは何としても……》
「わたしにはもう関係ないはずです」
《ラステイションのゴールドサァドであるお前なら、できるはずだ。教会を占拠した時にこちらが入手したデータを送る》
「だから、わたしにはもう関係がないと──」
平凡な毎日が欲しかった。それは少しだけ思っていたものと違ったけれども、ずっと求めていたもの。
ケーシャの脳裏に蘇るのは、過酷な訓練と危険な任務の日々。そして、仲間たちの顔。
非情に徹するのは任務だけで十分だ。切り捨てるにはあまりに長く付き合いすぎた。戦場を共に駆け抜けた仲間たちを失うことに、ケーシャは心が痛んだ。
《既に地下の脱出路から対女神専用兵器は黄金の頂へ搬送している。だが、アイツ等が追いつくのは時間の問題だ》
「……」
対女神専用兵器──いつからそんな物に手を出すようになってしまったのだろう。傭兵組織を創立したボスは、守護女神に対抗心を燃やしていた。しかし、決して排そうとはしなかったはずだ。
自分達の手で、自分達の戦いをしようと。女神への信仰を捨てようとはしなかった。
「必要ありません」
《なに?》
「対女神専用兵器なんて、もう必要ない。わたしがやります」
電話を切るとケーシャは一度だけ呼吸を整える。
「ごめん、みんな。ちょっと急用ができちゃった」
「えー、ケーシャちゃんの譜面コンプ見たかったなぁ」
「また今度ね」
クラスメイト達と別れて、ケーシャは街を走った。
傭兵組織ヘイヴンは“
──エヌラス達がアーセナルシェルター跡地へ突入を開始してから小一時間。既に残党の半数以上が戦闘不能に陥っている。
拠点内に仕掛けられたトラップの数々をスピカが看破し、カルネが無防備となった通路を走り抜けた。カバーポジションから姿を見せなかった傭兵達をミニスカートが翻るのもかまわず足技で気絶させていく。
「スピカ姉ー、終わったよー」
「よくやりました愚妹。もう少しお淑やかにできないのですか?」
「私の性格上無理!」
「ですよね知ってました」
「ところでさースピカ姉、ワルキュリア様どう思う?」
「どう、とは」
「だぁってかぶるんだもぉん! わんこ系として!」
「ワルキュリア様は忠犬あるいは軍用犬タイプ。私は忠犬タイプ。カルネはバカ犬タイプ。ほらかぶっていないでしょう?」
「犬かぶってるー!」
「ネコでしょうに」
スピカがライフルをノールックで撃つと、銃を持ち上げようとしていた傭兵の手からライフルが吹き飛ばされた。スピンコッキングで排莢を済ませると、コントラバスケースへ投げ入れる。
「制圧完了、次の区画に行きますよ」
「りょーかーい、っしゃおらぁー!」
「エヌラス様は大丈夫でしょうか?」
「ハンティングホラーも返しましたし、大丈夫! おらそこぉ!」
扉越しにカルネが刀を突き入れ、待ち伏せしていた一人の肩を貫く。続けて拳を壁に叩き込んで引きずり出すと通路の壁に投げ飛ばした。そのまま気絶したのか、力なく倒れる。
「……はぁ。ですからもう少し淑女らしく振る舞えないのですか?」
「ご主人様の目の届かない場所くらい自由に振る舞いたい!」
「目が届く場所でも自由に振る舞っているでしょうに」
「ありのままの私を愛されたい!」
「もう何言っても聞かないバカのことをバカと言うのですね、このバカルネ」
二人が辿り着いたのはアーセナルシェルター最奥部、格納庫前。スピカの義眼が捉えた波長と、カルネの直感で対女神専用兵器が保管されていると見た。
分厚い隔壁を前にして、スピカがコントラバスケースを振り回す。内蔵している銃火器は取っ手から触れている指で操作できる。
「カルネ、斬れますか?」
「無理!」
「わかりました。ぶち抜くことにしましょう」
「生体反応なーし!」
「術式魔砲起動──」
コントラバスケースを展開、取り出したのは身の丈を越える巨大な杭打機。
対質量兵器魔砲。“
砲身、機関部、鉄杭に至るまで余すところなく魔術文字が淡い光を放つ。九龍アマルガムにおいては“対機神専用兵器”とまで言わしめた火力を誇る。大魔導師が手がけただけにその威力はお墨付きだ。
一抱えほどもある鉄杭が回転し、隔壁に撃ち込まれる。貫通し、触れた鉄扉から魔術文字が更に刻まれた。魔術文字が起動する。鉄が錆びついたように崩れていく、その崩壊は留まることを知らずに隔壁全体へ広がっていった。そして、一瞬の静寂。
スピカとカルネの道を阻んでいた隔壁は跡形もなく鉄屑となる。
役目を終えた魔術文字が輝きを失い、コントラバスケースに収納するとスカートに付着した鉄屑を払い落として格納庫へ踏み入る。──その横でカルネは鉄粉の山を作っていたので頭を殴っておいた。
非常灯に照らされた広大な格納庫には、何もなかった。対女神専用兵器も既に運び出された後であることは火を見るより明らかで、二人は肩をすくめて落胆の意志を隠さない。
「どうも、残滓だけが残っていたようですね。あまり良くない空気です」
「スピカ姉ー、スピカねー。これ、地下の脱出路じゃない?」
「そのようですね。カルネ、開けますよ」
地下へと続く両開きの緊急搬出路への扉をこじ開けて、二人は斜行エレベーターを発見する。
「はぁ。これですから傭兵を相手するのは嫌いなんです……用意周到で、逃げ足が早くて、そのくせ手間だけはかかるんですから」
「んー……スピカ姉、なんか車輪の音聞こえる。遠ざかってる」
「なるほど? まだそれほど遠くへ逃げていないようですね」
「私が追いかける?」
「そうですね、足の速さだけなら貴方に分があるし」
「んじゃ行ってきまーす!」
斜行エレベーターを両断して、カルネはそのまま地下の闇へ向けて飛び降りた。スピカは携帯を操作してエヌラスへと電話をかける。
「もしもし、エヌラス様ですか。例の兵器、既に運び出された後のようです。今はカルネが追跡に向かいました」
《はい、ワルキュリアです! 今ちょっとエヌラスさん手が離せないようなので代わりに用件を伺います!》
「これは失礼を。先程のをエヌラス様にお伝え下さい」
《わかりました》
「……エヌラス様は大丈夫ですか?」
《ええ。まだ、なんとか》
その言葉にスピカが胸中に不安を覚えた。
──見たことないはずの景色が記憶のどこかに引っかかる。
銃声が聞こえる。だが、金属音が響き渡っていた。空中で弾丸を切り落としているのだろう。その後の打撃音、人間の倒れる音にまだ背後でエヌラスが戦っていることが目に浮かぶ。
魔導発勁を扱うのですら魔術回路を用いている。銀鍵守護器官で身体を維持しているのを攻撃に用いれば、そのぶん制御が難しくなるはずだ。それでも純粋に魔術を行使するのは制約がある。
「無理をなさらないように、とだけ伝えてください」
《すでに無理をしているので言うだけ手遅れかと》
「それもそうですね。では、早急にこちらへ向かってくるようにと」
スピカは通話を切ると、無人の格納庫を見上げた。地下へ向かったカルネに心配など微塵もしていない。
アレは性能だけを見るなら、自分よりも上だからだ。