超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
魔術工房のエヌラスの自室は、特に必要な家具の指定はされていなかった。だが、スピカは九龍アマルガムにある部屋を知っているし、そこに用意されている設備を利用していないことも熟知している。だから最低限、部屋として機能するための道具しか置かなかった。
作業机とベッドしか用意されていない。余計な物が一切置かれていない空間は部屋と呼ぶのも怪しいところだが、エヌラスはそんなスピカの仕事を評価した。気が散らない。
何より、思い出が残らない簡素な部屋は居心地が良い。
シワひとつないベッドに押し倒されて、スピカは無機質な瞳でエヌラスを見つめる。施術した回路調整は良好なようだ。右腕を動かすために魔術回路と神経を接続していたが、今度はそれをほぼ全身に渡って手を加えている。第六感で五感を狂わせて錯覚させることにより以前と変わらない形に収めた。ただし、魔力供給を断った場合は最悪死に至る。細胞が壊死していく。
銀鍵守護器官が稼働し続ける限りは、まだ保つ。
「……」
「なんとか言えよ」
「いえ。見納めにならないように、目と頭に焼きつけておきます」
縁起でもない、洒落にもならないが、それが現実になりつつある。エヌラスも参ったように頭を掻いた。
「最後に抱くのがお前なんて、死にきれるかよ」
「根本的に発言がド畜生のクズで安心しました。では誰をご所望で?」
「…………」
「…………」
「言わなきゃダメか……?」
「ええ、ぜひ。参考までに」
何の参考にするつもりなのか。
疑問に思ったが、エヌラスは少しだけ考え、やがて名前を口にした。それを聞いてスピカは静かに頷く。そうだろうと思っていた、と。
「俺はそんなにわかりやすいか?」
「ええ、まあ。それなりには。では、ご主人様。どうぞ、朝までごゆっくり」
足を持ち上げて、陰部を露わにしながら微笑むスピカに向けて、エヌラスはそそり立つ陰茎をあてがう。そのままゆっくりと挿入していくと吸いついてくる膣のあまりの気持ちよさに身体が震えて、その反応を楽しんでいるのかスピカが頬を紅潮させてますます笑みを強くした。
「とても。気持ちよさそうですね。先程より」
「お前のおかげでな……」
「ふふ。死に目を見た甲斐、ありましたか。ご主人様」
「何度覗いたかわからん死の淵なんぞ、御免こうむる……! っていうかスピカ、お前……気持ちよすぎるだろココ……!」
「んっ……ふふっ、ご主人様専用、ですよ? ん、あ。動いてっ……!」
麻薬のような高揚感が背筋を駆け上がる。一方的な行為を受け入れるスピカの美貌が嬌声を漏らし、熱い吐息と共に求めてくる姿は興奮しないはずがなかった。昂ぶる劣情をぶつけ、情欲を吐き出すには十分すぎる材料だった。
唇を貪り、豊満な胸を揉みしだき、ひたすら快楽に溺れる。腰を叩きつけるように乱暴に扱ってもスピカは何も言わず身体を揺らしていた。
──そうして、何度目かの射精を終えてから、汗だくになった身体をスピカが舐め取っていく。舌を出して左胸の銀鍵守護器官を綺麗にして指でなぞった。
「……ハァ、ハァッ……! ごしゅじんさま……もう、おしまいでしょうか……?」
「流石に……キツイ……カルネのやつがあんなはしゃいでなかったらもう少し頑張れた……」
「あの愚妹は今日ご飯抜きですね……ちゅぶっ、はむっ……んんっ」
まだ根本に残っている精液を吸い上げて、スピカは喉を鳴らして飲み込んでいく。男根を握りながらエヌラスを見つめ、跨った。
主人を見下ろしながらも、笑みは崩さない。
「おやすみになられないのですか?」
「……俺が寝てる時はな、銀鍵守護器官も当然だが休眠させてる。そんなことをしたらどうなると思う」
「そうですね。指一本動かせなくなるかと」
「そんなことになったら、再稼働するまで俺は無防備になるだろうが……」
「ここは自宅で、それも私達がいるのですから、そんなことを気になさらなくても──」
「自分の家って実感がない」
心が休まらない。気が休まらない。帰る場所というのは、会って当たり前だ。しかし、エヌラスにとってそんな場所はどこにもなかった。忘れてしまうほど長い間戦い続けてきた。そのことにスピカが思い当たるまで、少しだけ時間を要した。
有って当たり前の物を、この人は何もかもを捨てている。少しずつ拾い直したのに、それがもう手遅れになりそうで。どこまでも報われない。
「……なんて顔してるんだ、お前」
「えっ?」
「なんで、そんな泣きそうな顔してるんだって聞いてるんだよ。スピカ」
「──ああ……、私は今、そんな顔をしていますか?」
「そういうところがポンコツだって言ってるんだよ。ほらこい、撫でてやるから」
頬を撫でて、エヌラスはスピカの頭を抱き寄せる。子供をあやすように背中に手を回して抱き締めながら、頭を撫でる。
まぶたを閉じれば、人の温もりが心地よい。自分が全てを捧げても後悔はないと、心の底から信じている。それが神の悪戯による運命だったとしても、スピカは幸福に満ち足りていた。
「…………」
「…………すぅ、すぅ……」
やがて、落ち着いた寝息をこぼすスピカの頬に口づけをして、エヌラスはベッドから抜け出す。とても幸せそうな寝顔を見せるのは初めて見た気がした。
普段は落ち着き払っているが、それは心を他人に決して許さないからだ。だから、主人として認めてくれてからもスピカは中々気を休めてくれない。奉仕、という言葉で態度を濁らせる。徹底して自分の手綱を他人に握らせようとはしなかった。
そんなスピカが初めて、こうまでしてくれたのは純粋に嬉しいと思う。
「……ご苦労さん」
エヌラスは両手の魔術刻印を起動させて二挺拳銃を枕元に置いた。
高周波ブレードの調整作業を終えた頃には外が明るくなり始めている。浴場の様子を見に行くとカルネは掃除を終わらせたまま全裸で寝ていた。このダメイドめ。自動人形だから風邪は引かないだろうが、それにしたって無防備な姿に呆れ果てるしかない。
魔術工房を出て、しばらく歩く。ドラッグシガーを一服しながら冷えたラステイションの空気を吸い込み、ふと視線を上げた。
黄金の頂。忌々しくも憎らしくそびえ立つ四本の塔を睨み、エヌラスはハンティングホラーを自分の影から喚び出した。
風防ガラスを撫でて、それから待機させる。
「こっからは、自分の足で行く。あの二人についてやってくれ」
無言で旋回すると、静かに魔術工房の前にスタンドを立てて車体を傾けた。
《GOOD LUCK》
ただ一言だけエヌラスの背中に投げかけて。
「ああ。あればいいな」
そして、軽身功で駆け出す主人の背中を見送る。
ラステイションにそびえる黄金の頂、その正門前。エヌラスが到着した頃には既に戦闘の痕跡が残るばかりだった。
おびただしい数の血液に、倒れている兵士達はどこか見覚えがある。傭兵組織の残党達だ。
その惨状の中心に立ち尽くして、血の滴り落ちる細剣を手にした軍服の少女がいた。
振り返った顔には返り血が付いている。それどころか、全身血まみれだった。何をしたのか、誰がやったのかは言うまでもなくわかる。
「……来たんですね、やっぱり」
「お前──何してるんだ」
「見ての通りです。ですが、半分近くは私が来る前にこうなってましたけど」
「残りの半分は?」
「私がやりました」
その言葉を聞いた瞬間、エヌラスはワルキュリアの頬を殴りつけた。
「なんで、手にかけた! ただの道具であるはずのお前が!」
「……他に手段がありませんでした。貴方の身体を保たせる方法が」
「そうだとしてもだ!」
「なら貴方を見殺しにしろと? それはできません」
「だったら、それはお前がやるべきことじゃないだろうが。お前は、俺が使う道具だろうが! 大魔導師から譲られた武器だ! だからこれは、俺がやらなきゃならないことだろ! なんでお前が殺さなきゃならねぇんだ、チクショウが……!」
「これまでラステイションで人を殺さなかったのは、守護女神のためですか」
「ノワールは守護女神だ。どんな理由があろうと、自分の国で人を殺したくはないだろう。だから俺もそうしていた……だけど結局、俺は魔人だ。誰かを犠牲にしなきゃ生きていくことも出来ないらしい」
手を差し出して、凛とした瞳で表情を変えないままのワルキュリアを睨んだままエヌラスは手を握る。
「約束してくれるか。これ以上、勝手に人を殺さないと。それは俺がやることだ。お前の手を、汚すな」
「……わかりました。それが、貴方の覚悟なら従います」
稲光と共に姿が消えたかと思えば、手には細剣が渡されていた。柄を握りしめて、身体を満たす充足感に嫌悪を抱きながらも深く息を吐き出す。
正門が開かれているということは、ケーシャがいる。ラステイションのゴールドサァドが、黄金の頂の中へ入ったということだ。対女神専用兵器もここにはない。ということは、両者がこの奥にいると見て間違いない。
エヌラスは、黄金の頂の中へと駆け出した。自分が数え切れないほど抱え込んできた傷跡をえぐられるような感覚と共に。