超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「い、今ちょっと言葉じゃ説明しきれないくらいトンデモナイ大事件起きてたよ!? 息をするように犯罪起きてたよ!? 人が大勢死んでたよ!?」
「いつものことだよ」
「こんな事件起きてたらプラネテューヌじゃ一週間は緊急報道だよ! なにこの市民テロ!」
「テロリストが市民なはずねぇだろ何言ってんだこの幼女」
「あっれー私がおかしいみたいな言い方おかしくなーい!? おかしくなくなくなーい!?」
「大体この程度BGMレベルで起きてる街だぞ?」
今こうして話している間に建物に火炎瓶が投げ込まれている。大炎上して人が転がり出てきたかと思えばタクシーに轢かれていた。しかも普通に停車して客を乗せて走り去っていく。
「いいか、大事件って言うのはこの街じゃ――ちょうどいい、ああいうのを言うんだ」
ああいうの――エヌラスが指さした方角。なにか、四足歩行の肉食獣がライトアップされたビルの壁面に張り付いていた。怪鳥のような鳴き声を上げている。明らかに自然の摂理から外れた生物が集団で人々を襲っていた。一般市民はそれから逃げようと必死に走る。
「あー、ありゃどっかの魔導プラントで事故でも起きたかな。人間が変質しちまったんだろう」
「大惨事だよね!?」
「世界大戦みたいな騒動の街で何言ってやがるお前」
「あ、うん……」
「見てください、あそこに人が取り残されてますよ! 助けないと――」
ネプギアに言われて、肉食獣の群れの中に取り残された市民が一人。いや、逃げようとすらしていなかった。ただ猛獣の中で佇んでいる。その風貌はまるで時代に取り残された錯誤な和風の浪人――そこで「ああ」とエヌラスがすぐに思い当たった。助ける必要はない。
「ありゃ大丈夫だ」
あっというまに、それこそ一寸の間を置かずして肉食獣の群れが一匹残らず寸断されていた。
群れに残されていた和風の人物の手にはいつの間にやら刀が二本。それも太刀である。恐るべき怪力であるがそれ以上に神速の一刀、一閃はネプテューヌ達ですら見えなかった。エヌラスでさえも。こと剣術の腕前に関しては大魔導師ですら一目置いていたというこの男が、ただの用心棒であるという恐怖――エヌラスは片手を挙げてその男を呼んだ。
「ブシドー!」
「……おぉ」
ブシドー。それは名前ではなく、愛称のようなものであった。彼自身が己の名に無頓着であるのをいい事にエヌラスが勝手にそう呼んでいたが、ブシドーと呼ばれるのを快く思っている。
「久方ぶりですな、国王」
歳は三十代だろうか。羽織った服の下から覗く鍛えげられた肉体は刃物のように強靭でしなやかな肉付きをしていた。ブシドーは見慣れない少女達に眉を寄せる。
「ああ、紹介する。こちらはブシドー、つっても俺が勝手にそう呼んでるだけだけどな。俺の剣術――超電磁抜刀術とかの師匠筋に当たる人だ」
「お見知り置きを、お嬢様がた」
「わぁ、本当にサムライって感じの話し方……あ、私はネプギアです」
「プルルートだよぉ~」
「私はノワール、よろしくねブシドーさん」
「私はネプテューヌ!」
「記憶しました。しかし……拙僧が口を挟むべきことではありませぬが、大魔導師様ともども
「ハッハッハ、殺すぞ」
「ははは、ご冗談を」
朗らかに笑う二人はまるで親子のように肩を叩いた。
「超電磁抜刀術などと剣術の外法でなければ、拙者に一矢届かぬ御仁。笑えぬ冗談にしか聞こえますまい」
「剣の道究めてたら冥府魔道に通じたアンタよりはマシだよ! なんだよわけわかんねぇよ、なんでただの日本刀で法則曲げる術式ぶった切るって馬鹿じゃねぇの!」
「それが我が剣術ゆえに」
「だからそれが訳ワカメってんだろうが!?」
「長らく国を空けていた模様ですが」
「ああ。何か変わったことは?」
「……別段、生憎とこの国にあっては毎日がこのような有り様でしてな」
「ちげぇねぇや」
『はっはっは』
“やってることはとんでもないけど、中身はただの良い人ね……”
ノワールが一安心していると、その背後でビルの窓ガラスを破って肉食獣の群れが現れた。その数は先ほどよりも遥かに多い。どうやら巣窟と化しているようだ。
「一寸ばかり、失礼を。仕事の最中でしてな。一刀で済ませます」
言うなりブシドーは腰を落として刀に手を伸ばし、整息する。
「心影流抜刀術――“
そして、光が走った。鯉口を切った音すら聞こえなかったが――ビルが袈裟斬りにされて倒壊していく。それに押し潰されて魔導肉食獣が土煙の中に消えていった。微動だにせずしてビルを一刀両断した腕前には無言の説得力がつきまとう。ネプテューヌ達は口元を引きつらせていた。本人はそれが当たり前のように涼しい顔。
ビルまで一体どれほどの距離が空いていたと思っているのだろう。少なくとも百メートルやそこらはあった。崩れ落ちるビルに背を向けて、改めてエヌラスと向かい合う。
「しかし、此度はなにゆえに帰国なされましたか」
「ちょっと私用で。高純度の黄金の蜂蜜酒が必要なんだ」
「と、申されますと……教会へ一度お戻りに?」
「そうなる。悪いがブシドー、彼女たちの護衛を任せてもいいか?」
「勿論ですとも。羽虫一匹近づけませぬ。国王の客人、その護衛を任されるとあっては身に余る光栄に存じます」
ネプテューヌ達は絶対の安心をブシドーに委ねて、エヌラスと共に教会へと向かう。
その道中で巻き込まれた事件の数は両手の指では足りないが、少なくとも今までがどれだけ平和であったかを噛みしめると同時に一刻も早くこんな国からは離れたい。そして二度と近づきたくないというのが本音だった。今ならば分かる。帰りたくないと言っていたエヌラスの気持ちが。
「うーし、着いた。おい大丈夫かお前ら?」
「やはり年端もいかぬ少女達にこの街は少々刺激が強すぎたのでは?」
「かもしれんな」
「いえ、そういうご趣味であるのは存じてありますが」
「はっはっは」
「ははは」
二人の間で剣呑な火花が散った。
「ふふ……まさか私の真横で人が死ぬとは思わなかったなぁ……」
「初めて見たよ、自爆テロ……凄惨だね……」
「あんな超魔導生命体がいるのね……」
「触手、すごかったなぁ~……」
茫然自失。心ここにあらず。町の活気と狂気と熱気に負けて心身共に疲労困憊のネプテューヌ達だったが、教会に辿り着いたとあっては気も休めることができよう。それなら――!
教会と思わしき病院の前には死体が山積みにされていた。比喩表現ではなく、文字通り人が積み重なっていた。一様に銃で撃たれ、刃物で切られて絶命している。苦悶の表情を浮かべて血生臭い液体が溢れかえっている。
『ギャアアアアアアァァッ!?』
ネプテューヌ達は絶叫した。その悲鳴を聞いて、物陰から飛び出す人影が二つ。ブシドーが歩み出て腰から刀を抜いた。
それは銃弾。それは凶刃。二つの猛撃を前にして一歩も引かず、それどころか片手で全ていなすと、木の葉のようにパラパラと真っ二つに両断された銃弾が足元に転がった。空中でスカートを翻しながら回転して着地するのは、ロングスカートのメイドだった。もう片方はミニスカートのメイドであり――それにはブシドーも見覚えがあったのか刃を下げる。
バヨネット一体型クリスヴェクターを二挺、両手に構えたロングスカートのメイドが目を白黒させながら頭を下げた。
ミニスカートのメイドは赤い太刀を担ぎ、エヌラスの顔を見て頭を垂らす。
『おかえりなさいませ、エヌラス様』
「せめて来客の顔を確認してから斬りかかれよ!? 撃てよ!?」
「大変申し訳ありませんでした! てっきり少女趣味の変質者が物見遊山に来たのかとばかり!」
「誠心誠意喧嘩売ってんだなテメェ!?」
「ご心配ありませんわ、エヌラス様。私どもにやられるような程度の輩であればとっくに殺してますしこのロリコン」
「ははは、テメェ後で覚えとけ」
「いやしかし、相変わらずの手並み。惚れ惚れする」
ブシドーが一言褒めると、ふたりのメイドは会釈した。
「恐悦至極でございます、ブシドー様」
「ありがたきお言葉」
「ったく、この最高傑作のポンコツどもめ。久しぶりに顔出したらこれだ、ヒデェと思わねぇか」
よく見れば、二人共関節が人間のソレとは違って球体のようなものが埋まっている。球体関節――
「えと、このお二人って……ヒトじゃないんですか?」
「俺が作った最高傑作の自動人形だよ。ほれ、自己紹介」
「はい。私がエヌラス様の最高傑作の一人、スピカでございます」
半袖にロングスカートのメイドが深々と頭を垂らす。ツインテールが揺れていたが、その手に持っている物騒極まりない得物は何かと聞きたかったが怖くて誰もツッコめなかった。
「それで、私がエヌラス様の趣味の最高潮の逸品。カルネです」
「テメェその誤解を招く発言撤回しねぇとぶっ壊すぞ……!」
長袖にミニスカートのメイドは程よい膨らみの胸を張って自慢するように腰に手を当てる。銀色のポニーテールが揺れていた。しなやかな足は程よい肉付きで白いガーターベルトを着用している。そのカルネを上から下まで見てから、エヌラスを見て「あぁ……」と心底残念そうにネプテューヌ達が頷いた。
「やっぱりロリコン……」
「ちげぇ! 大体戦闘用だ!」
「あ、もちろん致すこともできるわよ」
「テメェはその手つきをやめろ!」
太い棒をしごく代わりに、朱い太刀を擦ってみせるカルネの頭をエヌラスが殴る。
「イッタァ~~イ! 殴らなくてもいいじゃん、ご主人様!」
「うっせ! テメェは口を開けばあーだこーだと人を陥れようとしやがって!」
「え、お口で致したいの? いくらでもどうぞ?」
「いっぺんぶっ壊して作り直してやろうかなこいつ……!」
「やぁん、壊れるほど激しくだなんてエヌラス様ったら~」
「この最高傑作のポンコツ野郎が!!」
自分の作品に頭を悩ませる造物主が一人。主をからかって小悪魔のように笑うカルネをスピカが鎮圧した。
「た、大変申し訳ございませんエヌラス様! 妹がいつもいつも本当のことですが大変無礼を!」
「テメェもな、丁寧な言葉づかいの中でナチュラルに人を罵倒すんのやめろよ……」
性能は最高級だが、中身まではそうとはいかなかったらしい。