超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
謎に包まれていた黄金の頂へ踏み入り、エヌラスは胸の軋むような思いで塔の中を走る。中は広大な宇宙空間が広がっており、どこまでも広がっていた。それは塔の外観からは想像もつかないほどのサイズで、浮遊している黄金の足場を頼りに駆け上がっていく。だが、やがて塔を守護しているモンスター達と遭遇し、止む無く撃退した。
倭刀だけで斬り伏せてから、ふと違和感に気づく。
もしもこの黄金の頂が、守護女神の教会と同じ役割を果たしているというのなら、何故モンスターが発生しているのか。ゴールドサァドがゲイムギョウ界の覇権を手にしたことで信仰が集まっているのなら守護女神の加護同様の効果でモンスターはいないはずだ。
ならば、ここにいるモンスター達は黄金の頂を守るために存在しているということになる。
エヌラスは舌打ちをひとつこぼしてから左右から襲いかかるリザードマン系統のモンスターを容赦なく蹴り飛ばした。
「なに考えてんだ、ケーシャのやつは……!」
『……私の推測ですが、恐らく彼女は傭兵組織と決裂したのではないかと』
「どういうことだ」
『私が到着した時には既に半数近くが倒れていました。残りも負傷者が多数。そして対女神専用兵器は奪われた状態でした。何らかの交渉を持ちかけてそれがうまくいかず、ケーシャさんに出し抜かれたと見るのが妥当ですね』
「……」
それだったらいっそ共倒れにでもなっていればいいものを。不機嫌さを隠そうともせずに八つ当たりで頂心肘を打ち込まれたモンスターが身体をくの字に折れ曲がらせて消滅した。
テレポーターと思わしき結晶に触れると、光に身体が包まれる。階層を移動したのか、今度は大広間に出た。だが相変わらず宇宙空間にぽつんと漂う心もとない足場があちこちに浮かんでいる。
「くそったれ、どこまで続いてるんだこの塔。これならキンジ塔のがまだマシだ」
あちらは物理的な足場が延々と続いているようなものだが、この空間を捻じ曲げて造られたような黄金の頂の内部は果てしない。頂上を目指すエヌラスの気概を削るかのように。
それでも、足は止めなかった。道を阻むモンスター達を蹴散らしながらエヌラスはケーシャを探して黄金の頂を駆け上がる。
不意に、不快感のようなものを覚えた。自分の神経を逆撫でするような感覚に宇宙を見上げる。
自分の本質が捉えた、信仰の結晶体のようなものだ──ゴールドサァドのクリスタルの気配。それに思わず頭を抱えてしまう。自分はこうも魔人としての性質に寄ってしまっているのかと。
気息を整えてからエヌラスは再び走り出した。
──こんなはずじゃなかった。
──こんなことをするはずではなかった。
──こんなことになるなんて、思わなかった。
事は数時間前に遡る。
ケーシャは、黄金の頂前に集まる傭兵組織の残党が持ち込んだ対女神専用兵器を譲渡された。それを使って守護女神ブラックハートを抹殺しろ、という命令と共に。
女神にとって生命線とも言えるシェアの供給を断つ特殊なウイルス弾を搭載した対女神専用兵器は傭兵組織にとっての象徴でもある二足歩行戦車の形をとっていた。それはかつて組織の創立者が設計したものと瓜二つだったからこそ、ケーシャの中で決定的な決断を下す。
銃を向けて、撃鉄を起こして引き金を引く。
女神は時代に必要とされる。だから自分達の手で守らなければならないものがある。
戦場は変わった。そう呟いたボスの横顔は、どこか寂しげだった。自分達の居場所がなくなっていくのはとても辛かったのだろう。だから、自分がそんな身寄りの無い傭兵達の家を作ろうとしたのだとも言っていた。
その理想は、とても眩しいものだと思った。だからついていこうと決めた。
筋がいい。いいセンスをしていると褒められて嬉しかった。どんなに辛い訓練でもこなしてみせた。
あの人の理想が。あの人の思想が。あの人の、ボスの思いが歪められていくのは、どうしても耐えられなかった。我慢ならなかった。そんな時だ。ブラックハートを目の当たりにして、惚れ込んだのは。
お近づきになれればと、淡い思いがあった。だから、ゲイムギョウ界がこんな風になったのも利用して接近した。自分の正体を隠して。
「…………」
どうすればよかったのだろう、未だに答えはでない。自分はどうすればよかったのだろう。
答えの出ない自問自答を繰り返して、縋るように奪った対女神専用兵器を見上げる。
あの人なら、何を思ってこの兵器を使うのだろう。女神に向けて銃を向けるようなことはしないはずだ。平和の抑止力として武装することを掲げていたはずが、いつの間にか自分達の武力に溺れてしまっている腐敗した組織になど、忠を尽くす気もない。だからこそ離反したというのに。
冷たい黄金の床に、膝を抱えて座り込む。こうして塞ぎ込んでいれば、全てがなかったことにならないだろうか。夢なら醒めてくれ。誰でも良い。誰か──
膝を抱えてすすり泣くケーシャが、不意に顔を上げて銃を突きつける。
黄金の玉座には黄金のクリスタルが埋め込まれており、そこは無人となっていた。だが、銃口とクリスタルの間に立つのは、黒尽くめの邪神。
「誰ですか」
「そうだな、強いて名乗れば元凶とでも言えばいいか。なに、舞台に上がるつもりのない黒子だ」
「……」
「正直な話、お前たちゴールドサァドが揃いも揃ってそんな体たらくではこちらも困る。だから少しばかり手を貸してやる。既にルウィーとリーンボックスでは多少なりとも、効果があったようだからな」
「何を、するつもりで……」
「お前は女神に傾倒しているようだから動きたくないのだろう? おあつらえ向きに、ちょうどいい玩具も持っているようだからな」
瘴気を手に纏い、卵のようなものを作り出すとそれを放り投げると対女神専用兵器の胸元へ吸い込まれて消えた。
「今のは……」
「まぁ、魔人の卵のようなものだ。少しばかり力を使うが、この程度の余力はある。お前が上手く制御しなければ……大変なことになるぞ?」
「待ってください! 一体、どういうことですか!?」
「何のために造られたか知らんわけでもあるまい?」
黒い渦の中へと姿をかき消す邪神に弾丸が届くはずもなく、虚空へと飲まれていく。ケーシャの目の前で沈黙していた対女神専用兵器が起動した。低く稼働音を鳴らして起き上がる姿を止めようと制御キーで強制停止させようとするが操作を一切受けつけない。
心臓の鼓動のように、人型戦車から心音が聞こえてきた。
もはや、目の前にいるのは人の手に負えない生まれたばかりの赤子同然の魔人と化している。鋼鉄の怪物が産声を上げて二本の脚で立ち上がった。目の前にいるケーシャに頭部ユニットを近づけて、親の顔を覚えるように首を傾げている。
ケーシャはそこで、これをどう扱うべきか考えた。差し出される頭部を撫でて、涙を流す。
これを手放せば、本能に従って守護女神を抹殺しに一目散に向かうだろう。自分の一声で。間接的にとはいえ、ノワールを苦しめる結果となる。ならばいっそ、自分の手で破壊してしまった方が良いのではないのかとも考えた。しかし、果たして戦車の正面装甲を撃ち抜けるだけの火力が自分にあるかどうか。弱点を狙うにしてもそれもどこにあるのか分からない。
(なんとかしなきゃ……これを、止めなきゃ……! 止めなかったら、ノワールさんが……!)
ふと顔を上げて、ケーシャの背後を見つめる対女神専用兵器につられて視線を向ける。
転送装置の結晶体が起動して、黄金の足場に降りる黒尽くめの魔人がいた。低く威嚇の声を上げる対女神専用兵器に敵意があると見て、しかしと悩む。
「ケーシャ! やっと見つけたぞテメェ!」
「エヌラスさん……」
「なんのつもりでこんなことしてんのかは、面倒くせぇからぶん殴ったあとに聞いてやる! でもってなんで動いてんだそいつは!」
「っ……」
一刻の猶予もない。他に方法がなかった──。ケーシャは、対女神専用兵器人型戦車をエヌラスにけしかけた。鈍重な足音を鳴らしながら肉食獣のごとく迫る鋼鉄の怪物に向けてレイジングジャッジを撃つが装甲に弾かれる。
「ごめんなさい、エヌラスさん──! でも、こうしなきゃノワールさんが……!」
「ああそうかよ! そういうことならそれ以上何も言うんじゃねぇ! アイツに危害が及ぶって言うんなら、コイツは今ここで俺がぶっ壊してやる!」