超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「カルネ、もう少し飛ばせないのですか?」
「ご主人様だったら突き放してるところだけど、私じゃこれが限界!」
「仕方ありませんね……このようなことは本来控えるべきですが」
背中を預けるようにスピカはコントラバスケースを担ぎ上げながら振り返る。後方から追い上げてくるブラックハートめがけて一門の砲口が開いた。射出されるロケット弾にギョッとしながらも回避すると、塔を守護していたモンスターに着弾する。
「ちょっと、二人とも何のつもりよ!」
「いえ、虫がいたもので」
「それはわたしのことかしら!?」
「おほほ、そのようなことはちっとも」
はぐらかしながらスピカがライフルを構えて引き金を引いた。ブラックシスターの背後から飛びかかろうとしていたモンスターが撃ち抜かれて床でのたうち回る。しかし、第二射をブラックハートが大剣で弾いた。
「邪魔をするっていうなら容赦しないわ! ユニ、撃っていいわよ!」
「いいの?」
「エヌラスのバイクなんだから大丈夫に決まってるでしょ、そう簡単に壊れたりしないわ! なにボサッとしているの、逃げられちゃうじゃない!」
修理代の請求はどうしようか、なんてことを考えながらブラックシスターはX.M.Bでスピカを狙う。光弾と実弾が空中で衝突して相殺された。
自動人形にしたって、精密射撃にも限度がある。だがスピカの狙撃の腕前はそれこそ針の穴に通すような正確さだ。飛んでくる弾丸を撃ち落とす芸当、造作もない。
カルネがハンドルを切り、方向転換する。転送装置の結晶体に突撃すると二人の姿が消えた。その後に続いたブラックハートとブラックシスターが光に飲まれて思わず目をつむる。
転送された先の広い足場で二人が止まっていた。
「待ってくれてたなんてありがたいわね」
「あのままですとジリ貧でしたので、それならばいっそここで正面きって足止めをと考えました」
「……もう一度聞くわ。何のつもりでわたし達の邪魔をするの?」
「何のつもり、かと聞かれれば。ここには対女神専用兵器が運ばれているはずなので、貴方の安全のために」
「なら、それを破壊するためにエヌラスがここにいるんでしょう。どっちが大事なのよ」
「ご主人様ですね。メイドですので」
即答する。しかし、それでもスピカとカルネはその場から動こうとはしなかった。エヌラスの救助に馳せ参じようとしていたところにブラックハートがやってきた、だから止む無く応戦しているということだろう。
対女神専用兵器がどれほどの脅威かは分からない、だが負ける気などしなかった。何よりエヌラスもいる。そしてラステイションのゴールドサァドも。いずれにせよ、これ以上決着を先延ばしにするつもりはなかった。ここで全部解決してしまえば問題ない話だ。
「ならここで協力していくってのは出来ない話かしら」
「残念ながら」
カルネはハンティングホラーに跨ったまま、緋太刀の鯉口を切っている。背負った高周波ブレードも稼働させていた。
「通常の実力勝負においては、敗北は必至でしょうね。ですが今のお二人から感じられるシェアの総量を鑑みるに、ちょうどいいハンデかと。いい勝負になるかと思いますが」
「シェアがあっても女神に迫る勢いの性能なのに、言うじゃない」
「そのように造られましたので。そのようにしていただきましたので、ええ、ありがたいことに」
「そんなに女神が怖いのかしら」
「いいえ、ちっとも」
少なくとも大魔導師は守護女神を恐れてなどいない。ただ相手するとなると面倒の極みというだけで。エヌラスにしたってそうだ。守護女神を好敵手と認めている。
コントラバスケースを開き、スピカは結んでいたツインテールを解きながらピアノ線のように細い鋼糸を無数に手繰りながら銃器を自在に操る。
カルネは緋太刀を抜いて切っ先を突きつけていた。
「ご主人様の邪魔はさせませんよ、ノワール様、ユニ様」
「……そこを退きなさい。それが出来なければ痛い目を見るわよ」
「出来ない相談ですので痛めつけてくれて結構です。こちらを」
「取り逃がしたのは私のせいですが、謝りません! なぜならやっちまったものは仕方がないのです! 次回に乞うご期待!」
「しません」
「するわけないでしょ、反省しなさい」
「反面教師としては優秀ですね、カルネさん」
「総ツッコミ……」
ハンティングホラーが自動で変態していく。『
カルネが駆け出し、ブラックハートに斬りかかった。だが、飛翔して難なく回避するとハンティングホラーがカルネを乗せて追従する。
ブラックシスターの射撃を舞うように避けながらスピカの銃口が銃火を散らしていた。
同じ頃、エヌラスは対女神専用兵器から自分と同じ臭いを感じ取る。魔人の卵を埋め込まれれば差はあれど魔人としての自我を有する。そして、どうやらこの兵器は生まれたばかりだからか、ケーシャの意思に呼応して動くようだ。今は自分に向けられている敵意がノワールに向けられたらと考えるだけで寒気すら覚える。
大型恐竜を思わせる鈍重な歩行で接近してくる鋼鉄の塊は、それだけでエヌラスを蹴散らすには十分な質量だった。なるべく威力を受け流すために自分から後退し、舌打ちをひとつ。
(どうする……こいつじゃそうダメージは与えられないだろうが……)
やるにしても練気功が必須だ。魔導発勁なら駆動系に損害を与えることはできるが、相手はそれだけではない。物は試しにエヌラスは頭部ユニットに接続されている機銃を捌きながら接近して脚部のシャフトを切断する。右脚が動かなくなったことでバランスを崩すが、すぐに持ち直した。
植え付けられた卵の位置はちょうど胴体の中央部。機体の中枢だ。しかし、そこまで刃を押し込もうにも刀が先に折れてしまうだろう。そうなればいっそ一刀のもとに切断してしまう方が早い。
「……」
ケーシャを盗み見る。どうすることもできずに、ただこちらを見守っているようだ。手を出してくる気配はない。それなら目下、集中するべき相手はこの対女神専用兵器だけで済む。エヌラスは整息すると、倭刀を納刀する。
超電磁抜刀術にまで至らずとも、鉄を裂くだけの抜刀速度には至る。むしろその方が今は身体の負担が少ない。一撃で仕留めるにしてもその前に相手の動きを封じなければ。
機銃にレーザーカッターと多彩な武装を搭載しているだけに接近も容易ではない。
両脚の断鎖術式を起動させて“電導”を回しつつ、目であるレドームを蹴撃で破壊する。抜刀と共に左脚のシャフトを切断し、レーザーカッターの基部を返し刃で斬り落とした。
この調子ならば破壊も不可能ではない──そう考えた矢先に、卵が脈動する。心臓の鼓動と共に対女神専用兵器に異変が生じる。破損した部位を修復しながら形態を変化させていた。
頭部ユニットがくちばし状に変形し、なだらかな曲線を描く一体型の腕部が両肩から生える。変態は止まらず、脚部も肉食獣のような逆関節のまま装甲が剥がれ落ちた。丸みを帯びた身体を震わせて過剰な装甲を払いのけると、エヌラスへ向かって脚を突き出す。倭刀で受け止めると腕が痺れるほどの衝撃に襲われて床を転がった。
「こんな芸当できるのはアイツしかいねぇよな……」
横目でケーシャを睨みつけるが、目の前で起きていることに驚愕している。もはやこの兵器は人類の手に負えないレベルの代物だ。自己進化と自己学習を備えた鋼鉄の魔人は、此処で破壊しなければそれこそ女神を抹殺しかねない。
機銃を掃射してくる対女神専用兵器に接敵すると、今度こそエヌラスは脚部を切断した。大腿から下を失い、バランスを崩した相手に再び接近しようとするとしなやかな鞭が振るわれる。それは尻尾だった。バランサー代わりの鋼鉄の尻尾を振りながら立ち上がり、流れ出していた白い液体が止まる。そして失ったはずの脚部が再生していた。
「そんな……なんで……」
「……」
思い出すのは、これまで死に物狂いで追い詰めてきた無貌の邪神。他ならぬ、自分がなるはずだった絶望の象徴。
単身でも脅威だが、何より厄介だったのが魔人を量産する能力。これまでに力を相当削ぎ落としてきたからこそやらなかったことをやっている、ということはそれだけ余力がある。つまりは回復しているということか。それも今回は以前と違ってこちらが機神を失っている状態だ。
余力を残す、などという選択の余地がますます無くなったエヌラスは深く息を吐き出す。
「スピカのやつには感謝しねぇとな……調整して貰ってなかったら、こいつはできなかった」
魔導発勁を用いた体術ないし、抜刀術の中でも極めたものを“八極”と呼ぶ。これらはヌルズを追っていた次元の旅路において出会ったとある剣士達から修めたものだ。気息、発勁、剣術、その全てが強さの測りとされる価値観において、エヌラスの武術は外道外法の極致とまで称された。
無造作に一歩踏み出すエヌラスに、思わずケーシャが呼び止めようとする。
震脚。地面に脚を打ち下ろして、倭刀を構える。
「絶剣無式・八極──!」
鉄を裂く倭刀。頭部、尻尾、腕部から脚部に至るまでエヌラスが渾身の気力を込めて両断していく、その刃が微かに輝いて見えるのは、同時に“紫電”鬼哭掌を打ち込んでいるからだ。刃を閃かせるたびに体内の電気信号を電磁パルス攻撃レベルにまで引き上げて叩き切っている離れ業に、鋼鉄の魔人も自己再生が追いつかない。しかし、自己学習機能が刃を装甲で受け止める。
柄頭に掌をあてがい、エヌラスは口腔から白い吐息を漏らした。
「“麒麟青雷”」
一息に突き立てた倭刀を巡り、紫電が放出される。
──鋼鉄の魔人の上半身が消し飛ぶ。熱風と共に中枢である卵状の心臓をエヌラスが無造作に斬ると、呆気なく消滅して残された下半身が崩れ落ちた。
刃を基点とした、紫電による空間焼滅。対象に鬼哭掌を刃に乗せて打ち込み、それらを一挙に手繰り寄せて小型の結界魔法によって昇華させる。無限熱量の劣化版だが、こちらは周囲の環境を変えることなく被害が最小限で済む。だが、そのぶん自分へ負荷を強いる。整息を繰り返して内傷を銀鍵守護器官で治療するが、エヌラスの臓腑は確実な悲鳴を上げていた。
これほどまでしなければ魔人は打ち倒せない。これまでも、これから先も。魔人に奇跡は微笑まない、ならば一切を正面から全霊で打ち崩すのみだ。