超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ラステイションを走り抜け、黄金の頂を背にしてエヌラスはルウィーへ一直線に向かう。ハンドルを握っているだけでハンティングホラーは自律稼働していた。懐からドラッグシガーを取り出すと一本を口に咥える。
今もまだ、スピカとカルネの二人はノワールを足止めしているのだろう。きっとケーシャの正体を知っても上手く持ち直すはずだ。
森を抜け、山岳地帯を越える頃には日が傾いている。エヌラスは適当な場所で野営することにした。すでにルウィー領には入っており、山頂から街の灯りが見える。一気に抜けてしまってもいいが、目頭を押さえて深く息を吐き出した。
身体に無理をさせていたツケが回ってきている。仮眠を摂ろうにも意識を切れば銀鍵守護器官による再生が中断されてしまう。指一本動かせなくなるのはまずい。
(……夜を明かして、それからルウィーに向かうか。身体を少し休ませておかないとな)
大魔導師もいることだ。一晩くらいは大丈夫だろう──気のせいならばいいが、街の方から魔力光が見えた気がする。相変わらず何処に居てもマイペースを貫いているようで安心した。
日が落ちるのに連れて空気が一気に冷え込んでくる。ルウィーの首都は女神の加護のおかげで暖冬ほどの気温で包まれているが、人里を離れれば大自然の猛威が牙を剥いていた。本格的に冷え込む前にエヌラスは見つけた洞窟の中で火を起こす。
襲いかかってくるモンスターは適当に相手をして食えそうなのを見繕って火種にぶちこんだ。
ハンティングホラーに寄りかかって座り込んでいると、つい、まぶたが落ちてくる。
《大丈夫ですか?》
(……ああ、まだ何とかな)
チクリとした痛みが走り、眠気が一時的に醒めた。ワルキュリアが悪さをしたらしい。
身体の感覚が少し鈍いことに不満そうにしながらも、自分のゼロクリスタルを手元に召喚するとヒビが広がっていた。
漆黒の双角錐は淀んだ輝きを放ちながら浮かんでいる。掌に収まるほどのそれが、自分の全てだと考えると肉体の意義に疑問すら浮かんでしまう。思わず鼻で笑ってしまいながらすぐに戻した。
(この調子だと……あとの三人を相手するのは無理だな)
あくまでも客観的に自分の余力を計算する。ゴールドサァドに邪神の息がかかっているのならば確実に魔人が一人は付いているはずだ。ケーシャの場合は対女神専用兵器に魔人の卵を植え付けられていた。それが滑り込みだったとしても、他の国がどうなっているかまでわからない。D-Phoneでネプギアと連絡を取り合う。
《もしもし、ネプギアです。どうかしたんですか、エヌラスさん?》
「ああ、夜遅くに悪いな。リーンボックスはどうなってるか聞きたいんだが、大丈夫か」
《エヌラスさんの方こそ大丈夫ですか? なんだか、声に張りがないような気が……》
「ちょっと疲れてるだけだ、いつものこと」
《ダメですよ、ちゃんと休まないと。じゃあ、手短に報告しますね》
──リーンボックスでは現在、アルシュベイトが傭兵と協力して行動しているようだ。シロトラの妨害行動も度々直面しているようだが、その都度撃退しているらしい。目的はエスーシャのようだが意図は不明だ。そして、教会側と武装企業側の衝突も同時に起きているらしく企業間と緊張感が走っている。反女神派でありながらプレジレントの秘書を務めていたキャロラインが国内の不穏な動きを逐一監視しているのも原因のようだ。それがゴールドサァドの反感を買っているのだろうが、ベールは止めようにも動けない状況。助っ人と思わしき人物も自分の目的で行動しているためあまり期待はできない。
アルシュベイトにネプギアも連絡を取っているようだが、特に問題はなさそうだ。武装企業のバックアップも間接的に受けているから弾薬や推進剤の補給も出来ているらしい。一国一城の主が敗残兵まがいの状況に追い込まれながらも戦っている。それにエヌラスは自分を奮い立たせながら気合を入れ直した。
「──わかった。そっちも引き続き頼むぞ」
《はい。エヌラスさんも身体には気をつけて。それじゃあおやすみなさい》
「ああ、おやすみ……」
通話を切ってから、弱くなっている焚き火に薪を追加しようとして、なくなっていることに気づく。仕方なくエヌラスは重い腰を上げて薪を拾いに向かった。身体を休めるのは大事だが、眠くならないように少しでも身体を動かしていないと眠気に負けそうになる。
洞窟から出ると、満天の星空に銀景色が広がっていた。吐き出す息も真っ白だ。こうして極寒地帯に一人でいると修行時代を思い出す。
身体一つで雪原に放り出された当時は、それこそ本当に死ぬかと思った。ありがとう心優しい雪男の皆様。集落に迎え入れてくれてありがとう。おかげでいらないサバイバル技術だけは腐らせている。
肌が凍りつくほどの冷気から身体を守るために魔力で防護服を編む。外気とのクッションの役割を果たしてくれるので多少の悪環境下でも動けるようにしてから拠点からあまり離れない位置で乾いた薪を探す。湿気っていても電熱で乾かすので問題はないが。
ぼんやりと思考を休めながら過ごしていると、夜が明けていた。エヌラスは焚き火の後を散らしながらルウィーの街を目指してハンティングホラーを起こして走らせる。結局到着したのは昼前だったが、たまにはドライブ感覚で走るのも悪くなかった。
ルウィーの事情はロムとラムから聞いている。今ではハンター制度というものが導入され、狩人職業が主流となって切り盛りしているらしい──のだが、それに一役買うのが温泉協会。日頃の疲れを癒やすために露天風呂や岩風呂や砂風呂と、銀景色を望みながら酒を呑むのも流行っているとか。それもこれも全部大魔導師がルウィー温泉協会観光大使に任命されて好き放題やって整備しているかららしいが、本当に軸のぶれない。人として軸はぶれているが、風呂の一点に関しては大真面目だ。
到着してからすぐにハンティングホラーを自分の影の中に納車する。地面に潜り込むように消える大型自動二輪を見て街にどよめきが走るが、元々そういう機能だ。猟犬としての性質を併せ持っているからこそできる収納術は場所を取らなくて済むため大助かりしている。
(温泉街は……あっちの方か……)
ハンター達が思い思いの装備をしてギルドに向かう姿とすれ違いながら、エヌラスは恐らくいるであろう方角に向けて歩き出していた。
案の定、いた。
肌寒いルウィーの街中で、着流しで、何故か屈み込んでネコルーの群れとにゃーにゃー言い合った話し込んでいる。いやほんとアンタ何してんだ。寝不足でとうとう幻覚見始めたか、いや幻覚じゃねぇわ現実だわコレ頭痛くなってきた。エヌラスはこめかみを押さえてわざとらしく、これみよがしに重い溜息をつく。
「……毎回顔を見る度に言わなきゃならんのか俺は。何してんだ、大魔導師」
「にゃむふん。なんだ、お前か」
「今の何語だ」
「ネ語。ずいぶんと弱っているようだが、大丈夫か」
「あんま大丈夫じゃねぇな。訳あって寝てねえし。寒くねぇのかよ」
「冷えたら風呂に入ればいいだろう?」
「よーしわかったこのクソ馬鹿野郎、風呂で溺死してろ」
「やかましいわ汗臭いバカ弟子め。風呂入って休め」
顔を合わせるなり睨み合う二人を横から睨みつけるのはブランとシーシャだった。両手に食材を抱え込んでいる。今ではすっかりルウィーのゴールデンハンターコンビとして名を馳せている。
「なんだ、珍しい顔がいるじゃないか」
「久しぶりね、エヌラス」
「ん? ブラン。それにシーシャも。本当に、お前たちの顔見るの久しぶりな気がするな。ロムとラムは一緒じゃないのか?」
「ええ。午後からクエストに出るから、その前に二人に受注してもらってるの」
心なしか嬉しそうなブランの微笑む顔に、エヌラスもつい頬が緩んだ。寝不足と疲労も相まって目眩に襲われ、ふらついた身体を大魔導師が支える。足元に集まっていたネコルー達も心配そうににゃーにゃー鳴いていた。
一目見て不調を見抜いたのだろう。温泉宿に向けて背中を押した。
「さっきも言ったように、まず風呂に入れバカ弟子」
「金持ってきてねぇぞ」
「私のフリーパスを使うがいい、名前を出せば無料だ」
「あんたどんだけこの温泉街の権力掌握した!?」
「聞きたいか?」
「いや結構だ、聞きたくねぇ……風呂で骨休めてくる……」
暖簾をくぐるエヌラスを見送ってから、険しい表情でシーシャを睨みつける大魔導師は自分の顎に手を添える。
「知り合いだったのか」
「ああ。まぁね」
「ほう……? アイツもずいぶん手が広いことだな」
「見境なしってのはいただけないけどね」
「そう見えるか? 不思議なことにエヌラスが目をつける女にハズレはないぞ。それこそ花園でタップダンス踊って一輪も手折らないくらいにはな」
「そりゃまたずいぶん凄まじい技術の持ち主で……」
苦笑するシーシャだが、大魔導師の射抜くような視線から逃げるようにブランを引き連れて荷物を置きに自分の部屋に向かっていった。
「……さて」
袖に腕を入れて、再び屈み込んでネコルー達に指示を出す。
秘境の温泉で協力してくれた一匹が、何か恩返しをと仲間を引き連れて街に来た。まさに猫の手も借りたい状態の温泉街ではネコのお手伝いさんとしてすっかり馴染んでしまっている。基本的に大魔導師の命令で動くが、それ以外は気ままに過ごしているようだ。
「さっき話した通り、今回は魔人の襲撃に備えてルウィーを警備してもらいたい。各所にツーマンセルで配置、何か異常があれば信号弾。わかるな?」
にゃっ!
一斉に手を挙げて、小さな筒を掲げる。大魔導師手製の発煙筒だ。クラッカーと同じ要領で空に向けて紐を引くと狼煙が上がるという仕組みで、低コストだけに量産が容易となっている。ハンター達にも出回っているほどだ。
「持ち場で異常があれば赤。それ以外は緑だ。いいな。散開」
一斉に駆け出して街中に散り散りになるネコルーを見守り、大魔導師は肩をすくめる。
「…………しまった。何もすることがない」
強いてやることと言えば──バカ弟子をひたすら弄り倒してやるくらいか。
……さて、どうしてくれよう。
一人、ルウィーで暇を弄ぶ大魔導師はいつもとやることが変わらなかった。