超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
大魔導師に言われたままにエヌラスはルウィーの温泉宿の暖簾をくぐり、言われたとおりに名前を出した。すると本当に無料で一日だけ宿泊させてくれるらしい。ハンターの場合は代わりに宿からのクエストの達成報酬の何割かの代替え。その辺りの支払制度の整備も大魔導師が全部行っていた。しかし、温泉街のみで決して国政に対して声をあげることはしない。本当にルウィーの現状は眼中にないらしい。
熱い温泉に肩まで浸かり、身体の汚れと疲れを洗い落とすと途端に睡魔に襲われた。手ぬぐいで顔を拭くと、ルウィーの景色を眺める。
(……そういやここ、混浴か?)
ぼんやりと考えながら、エヌラスは浴槽の縁に身体を預けて身体を休めた。疲れが抜け落ちていくと同時に段々と眠気が強くなってくる。
眉間を押さえて風呂から出ると、身体を拭いて服に袖を通そうとして──自分の服がないことに気づいた。腰にタオルを巻いてどこに行ったのかと脱衣場を見渡す。
ネコルーが数匹、着替えを持って行進していた。
「……おい、そこのネコ。俺の着替えを何処に持っていくつもりだ」
「にゃ」
「にゃにゃ」
「にゃにゃにゃっ!」
「人類の言葉で喋れ!」
「「「ねこはいます」」」
「そうじゃねぇ!!!」
望む答えが返ってこないことにイライラしながらエヌラスはネコルーを追いかけようとして、自分がほぼ全裸であることに気づいて立ち止まる。どうするか躊躇している間に、走って逃げ出したネコルー達とすれ違うように大魔導師が暖簾をくぐってきた。
「よぉ、どうだバカ弟子。身体は休まったか?」
「俺の服をネコが持っていったんだが!?」
「私の命令だ」
「なぜに!?」
「浴衣はどうだ」
「風邪引くわボケェ!!」
「そら、ハウンドスーツ」
「用意がいいなぁクソ師匠が!」
「どうせお前のことだ、いつもの服装でひと月保たないと思っていた」
「いつ、持ってきた」
「つい最近」
「どうやって!」
「教会に殴り込んだ」
エヌラスは顔を覆う。本当に人が目を離した隙に何をするのかわからない。むしろ誰か止めなかったのだろうか。
「ブランとかに何も言われなかったのか」
「ひどい剣幕で怒鳴られたうえにハンマーで殴られたが、痛かったな」
「教会を占領しているとかいう敵は?」
「真正面から正々堂々と殴り込んで転送装置だけ利用した」
「もうそのまま壊滅させとけよ……」
むしろそこまでやって、何故野放しにしているのかが疑問だが大魔導師なりの考えがあるのだろうか。ハウンドスーツに袖を通しながら、エヌラスは身体の不調を確認する。
眉間を押さえる渋い顔に、大魔導師がデコピンで額を弾いた。割れるように痛む頭を押さえながら蹴撃を見舞う。片手で防ぐなり軸の足を払いながら一回転させ、エヌラスを床に背中から叩き落とす。
「酷いな。見るに堪えん。なんだ今の魔力の制御は。術式も杜撰だな。出会った当初がマシまであるぞ?」
「自分でも自覚してる……」
「過剰出力で力押しか」
「…………」
「違うか?」
「合ってるますです……」
「それを理解してるなら少しは制御に力を割け。それはそうとコーヒー牛乳飲むか」
「飲む……」
天井を眺めるエヌラスの顔面に、大魔導師はコーヒー牛乳を落下させた。キャッチしようとするがそのまま額に瓶の底が直撃する。
スコン、と間の抜けた音を立てたコーヒー牛乳の蓋を開けて飲み干した。
「お前、寝ていないな?」
「寝たら死ぬ」
「寝なくても死ぬぞ」
「どないせぇと……」
「寝ろ」
「いや、寝たら銀鍵守護器官が稼働停止するだろうが……」
「ワルキュリア、起きろ」
紫電が迸り、膝をついたままワルキュリアが顕現する。
「お前の近況報告は全部こいつから聞くことにする。少し散歩してこい」
「……うっす」
のっそりと起き上がり、エヌラスは温泉宿を後にした。
ひとまず自分の目でルウィーの様子を見ておこうと思い立ち、歩き出したエヌラスの肩を叩いたのはルウィーの教祖、西沢ミナ。そして足元には一匹のネコルー。助手?なのか、頭にお揃いの帽子をかぶっていた。
「こんにちわ。お久しぶりですね」
「あー……どうも……ネコ、流行ってるのか……?」
「この子は見習いオトモで大魔導師に押しつけられました……」
「断っていいんだぞ?」
「だって断ったら保健所行きだって……可哀想で可哀想で」
どこだ保健所。ホロリと涙を流すミナに同情しつつ、あとで一発ぶん殴っておこうとエヌラスは決める。自分のパートナーとしての証拠として帽子を被せているらしい。
「どこもかしこもハンターだらけ。こっちはヤーナム・シティとは大違いで活気があっていいな」
向こうの活気とは違う賑やかさに心和まされながら、街の中を見て歩く。だが、憲兵と思わしき相手があちこちで目を光らせていた。現状、ルウィーを支配しているというアズナ=ルブの部下だろう。どういうわけか、温泉街の中にまでは入り込んでいなかった。そのことをミナに尋ねると、案の定、大魔導師が「温泉宿絶対安全宣言」をしたらしい。
──此処に貴様の兵が入り込んだら教会ごと消し潰す。
なお、有限実行済みである。
そしてエヌラスが来る前に魔人の襲来も遭ったらしく、現在は温泉街のハンター協会、アズナ=ルブ勢力、魔人の三つ巴の状態となっているようだ。こちらもこちらでだいぶ厄介な状況になっているらしい。
そしてゴールドサァドも不明なまま。エヌラスは頭を抱える。
「魔人の襲撃が遭ったって、大丈夫だったのか?」
「はい。大魔導師が撃退してくれましたので」
「撃退? 消滅とかじゃなくて」
「とても厄介な相手みたいです」
「ちょっと想像つかないんだが……」
大魔導師に厄介、とまで言わしめる相手など、それこそ剣姫くらいだ。
「こちらの魔法が通用しないみたいです」
「ルウィーじゃ最悪じゃねぇか」
「はい。なので大魔導師も少々手を焼いていました」
「……しかし、魔法無効化ね」
しかしあの大魔導師が、まさかその程度で手を焼くはずがない。エヌラスは何か違和感を覚えながらもルウィーを歩く。その隣にミナもついてきていた。
ハンター制度によって治安そのものは悪くない。しかし、やはり教会が気がかりなのかミナはあまり良い顔をしていなかった。
「教会、大魔導師が正面から殴り込んだって?」
「はい……もう、その……悪夢みたいな光景でしたね」
兵士達の制止の声も聞かず真正面からちぎっては投げちぎっては投げ、なんなら腕の一振りで蹴散らす様は等身大の怪獣映画さながら。しかも一日待たずに帰ってきた時には同様のことをした。相手も気の毒なことに。今ではすっかり教会に引きこもっているらしい。
ハンター達からの独占情報によると、最近はモンスターの凶暴化が激しいようだ。その討伐回数もクエストの発注も多くなっている。……まぁ、大魔導師はその過酷な任務が増える分、ハンター達も温泉宿を利用する回数が増えると考えているようだが。
「ルウィーのことは大魔導師やブラン様、ハンターの皆さんに、わたし達に任せて身体を休めていてはどうでしょうか。ラステイションからこちらに来たばかりでお疲れでしょうし」
「師匠がいるというだけで気が休まらねぇ……なにせ寝起きに人のことひんむいた挙げ句雪山に放り投げだすような人だぞ、修行の一環で」
「……ごくろうさまです」
「おいやめろ! 人のことをそんな哀れんだ目で見るんじゃねぇ、しみじみと」
目立った事件も今のところは起きていない。エヌラスはミナの提案どおり、温泉街を中心に行動することにした。幸いなことに大魔導師のおかげでハンター協会とはすぐに馴染めていた。自分もできることがあれば手を貸すとだけ口添えして。