超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──ギルドからのクエストを受注したブラン達はモンスターを討伐していた。凶暴化したモンスターが増えている、ということから大型討伐任務として従来よりも大人数で取り掛かっている。
ハンター協会から派遣されていた先遣隊がモンスター達を指定の狩場に誘導。それらを一斉に討伐するという作戦に参加したのはブラン達を含めて、十六名。
腕利きのハンターだけでなく、駆け出しハンターも参加している。噂のゴールデンコンビと共闘できるなんて光栄だ、などと称賛の声をあげながら身の丈程もある大槌を振り回していた。
ハンター達の装備は総じて大きい。身の丈を越えるものが主流だ。それだけの装備を整えてこそモンスターと対等に渡り合える。身を守る防具もモンスターの素材を扱った物が多い。中には鉄鉱石などを採掘して作る物もあるが。
「せぇやっ!」
シーシャの拳がモンスターの柔らかい腹部を叩く。身体をくの字に曲げたモンスターの頭部にブランがハンマーを振り下ろす。ロムとラムも魔法でモンスター達の行動を阻み、時折味方のハンター達のサポートにも回っていた。
グローブを詰めて、シーシャは嬉しそうな顔を見せる。
「ははっ、いいねぇ! これだけ強者揃いだとこっちも嬉しくなっちまうよ」
「言っている場合かしら? まだ来るわよ」
「オーケイ、オーケイ。いくらでも来な!」
ファイティングポーズを取るシーシャと、ブランに並ぶ数人のハンター達。
太刀を担いだ男性ハンターに、大槌を引きずるベテランハンター。両名は討伐したモンスター素材を用いた防具に身を包んでいた。そのあちこちに細かな傷や損傷が見られることから、歴戦の狩人であることが見て取れる。
「ハッハッハ! 流石はゴールデンコンビ、頼もしい限りだ!」
「…………」
大柄な体格に似つかわしい声量で大槌のハンターは胸を張る。それとは対照的に、太刀を担いだハンターはただ静かに太刀を鞘引いていた。それから遅れて、後輩と見られる女性ハンターが駆け寄ってくる。露出が多いものの、討伐難易度の高いモンスター素材による防具は男女問わず人気の逸品だ。
「せ、先輩方待ってくださいってば! 討伐速度早すぎですって、素材とかいいんですか?」
「剥ぎ取りは後回しだ後回し、どうせギルドから報酬が出る! そうらおかわりが来るぞ!」
「ひぃん……」
「あなたも大変そうね」
「うぅ、そうなんです。ゴールデンコンビと一緒に戦える良い機会だ、なんてお二人が張り切ってて……私も良い経験になるぞ、なんて無理やり連れてこられて……」
「わたし達も出来る限りサポートするわ。だから無理はしないでね」
「ありがとうございます!」
「ロムとラムも大丈夫? 危なくなったら下がりなさい」
「これくらい全然平気だもん!」
「う、うん……! お姉ちゃんも、一緒だから……」
次々と狩場に誘導されてくるモンスター達を討伐していく。しかし、最後の一匹まで立っていたのはブラン達を含めて十名に満たなかった。何名かは途中で戦線を離脱している。
大槌と太刀のハンターもまだ残っていた。片手剣を持っていた後輩ハンターも膝に手を当てながら息を乱して必死についてきている。
「はぁ、はぁ……」
「ゼェー、ゼェー……! これで最後の一匹だ、気を抜くなよ!」
「…………」
「アンタ達も無理しないで下がりなよ。流石のアタシもヘトヘトだ。帰ったら腹一杯食うよ!」
「厨房の人達が泣く様が目に浮かぶわ」
「ハンマーのおじちゃんも太刀のおにーちゃんも大丈夫?」
「ちょっと待て。俺がおじちゃんはともかく、こいつも似たような年齢でおにーさんは聞き捨てならないぞ! そもそもフルフェイスなのにどうしてだ!」
「いや、ハンマー先輩ってアレじゃないですか……」
「……ふっ」
「おいお前今鼻で笑ったな!? 今鼻で笑ったなお前! 帰ったら覚えてろ、くっそぉぉ!」
地団駄を踏み、その怒りを込めて大槌を担ぎ上げながら最後の一匹に向けて先陣を切るハンターに、シーシャ達が続いた。
ドラゴンタイプのモンスターが尻尾を大きく薙ぎ払う。それを飛び越え、くぐり抜けてシーシャ達が自分の射程距離に相手を収めた。
巨体を支える脚部めがけて大槌の渾身の一撃を叩き込む。苦悶の声を上げながら反撃してくるモンスターから即座に離脱、それと入れ替わるように太刀を振り下ろす。浅い、だが、その僅かな切り傷に向けて大きく踏み込みながら突き込んだ。傷口を抉りこむ攻撃にモンスターが咆哮をあげながら振り払う。宙を舞う太刀使いは、納刀しながら受け身を取っていた。
「いい加減に──倒れやがれぇ!!」
ブランが大槌使いとは逆の足にハンマーを叩き込む。両足の衝撃に痺れて倒れ込むが、もがくように尻尾を振るう。それを飛び越えて、片手剣使いが打点の下がった頭部に向けて飛びかかると急所の目玉に切りかかる。流石に堪えたのか、大きな翼を広げて逃亡を図ろうとするドラゴンにロムとラムの魔法が直撃して撃ち落とされた。
肩を回し、大槌を引きずるように駆け出すハンターとブランが落ちてくる巨体を同時に殴りつける。その先には太刀使いが低く腰を落として気を集中させていた。
「……気刃、大回転切り」
「バカお前! 俺がい、うぉぉぉぉうっ!?」
抜刀、太刀が閃いたかと思えば風を巻き起こしながら大きく回転して振るう。一回転、二回転と踏み込み、制動すると静かに納刀した。しかし、ブランよりも踏み込んでいた大槌使いは太刀が巻き起こした強風に巻き添えを食らって転倒している。
それどころか得物を手放して吹き飛んでいた。モンスターの翼と尻尾だけを切断している。
片手剣使いとシーシャによる一撃がトドメとなって、モンスターはその場に崩れ落ちた。
静まり返る狩場に、ロムとラムの無邪気な声が響き渡る。
「やっぱりお姉ちゃんの敵じゃなかったわね!」
「うん……!」
「ふぅ……これで終わりみたいね、シーシャ。随分と厳しかったけれど、大丈夫?」
「アタシのお腹の心配してくれているのかい、ブランちゃんは?」
「勝手に食あたり起こしてて」
「あっはっは、手厳しいね。おーい、そっちはどうだい」
転倒した大槌使いが太刀使いに抗議していた。
「お前、気刃大回転斬りはあれほど周囲を確認しろと! 再三! 何度も!」
「確認した。何度も言われた。事故だ」
「踏み込みすぎた俺も悪いとは思うがそれはそれとして飲むぞ!」
「ああ」
「大丈夫みたいです、はい……」
喧嘩になるかとビクビクしていたロムとラムだったが、どうやらいつものことらしい。
「んじゃあ、激戦を制したハンター同士だ。せっかくだし一緒に食べないかい? これも何かの縁だ」
「おぉ! 流石ゴールデンコンビの大きい方だ!」
「……」
「しかし、小さい方は大丈夫なのか。その、年齢的に。飲んだり食ったりは」
無言でブランはハンマーを構えていた。それとなく片手剣使いの手を掴み、その場から太刀使いが離れる。シーシャも引きつった笑みを浮かべていた。
「い、いやぁ~、ははは。ブランちゃんはゴールデンコンビの大事な相棒だからね。もっと他の言い方はない?」
「しかし、そうは言われてもなぁ? 他にどう言えばいいんだ? 見るからにバインとストンの」
「テメェの魂もストンと落としてやろうかコラァァァッ!!」
「背骨がッ!!!!」
堪忍袋の緒が切れたブランの一本足打法によって大槌使いのハンターが地面を盛大に転がり回って壁に激突する。
「安心しろ、峰打ちだ」
「……ハンマーで?」
「峰打ち……?」
「殴打では……?」
「なんか言ったか」
疑問符を浮かべる片手剣使い、太刀使い、シーシャの三人が一斉に首を横に振った。
──祝勝会と称した打ち上げに、クエストに参加していた十六名全員が席を共にする。宴会状態となる温泉宿の食堂だが、ハンター達にはよくあることだ。山盛りの料理がテーブルを占領し、手元には飲み物をキープ。身軽な装備でグラスを持ち上げて乾杯すると談笑しながら早めの夕飯を平らげていた。
その賑やかさに惹かれたのか、様子を見に来たエヌラスがテーブルの山盛り料理を見て驚いている。シーシャが気さくに片手を挙げて挨拶を交わすと、その場にいたハンター達にも軽く紹介していた。
「──とまぁ、そういう経緯があって知り合ったんだ。エヌラスともよろしく、みんな!」
「あー、なんかよくわからんがそういうわけでよろしく……どうなってんだ、ブラン」
「わたしに聞かれても困るわ……」
「そうだせっかくだしエヌラスも参加しなよ! お姉さん、こっちにジョッキひとつ追加で!」
「酔ってる?」
「既に大ジョッキ四杯目よ……」
相当なハイペースな模様。他のハンターを見ても似たような調子で飲み食いしている。肉体労働だから人一倍腹も空くのだろう。ブランはロムとラムと一緒にジュースを飲みながら料理に手をつけていた。ハンター達に混じって生活して学んだことは、全員後先考えずに食事をする。だから一人は確実に介護役が必要になることだ。
エヌラスの前になみなみと注がれた麦酒が置かれる。しかし、当人はあまり良い顔をしていなかった。
「いや、俺は遠慮し」
「飲めないのかい?」
「……挑戦と受け取っていいな?」
「合意と見ていいね?」
突発的に開催されるフードファイトにハンター達が沸き立つ。飲めや食えやの大騒ぎに、しかし大魔導師もちゃっかり混じっていた。──その結果、どうなったかは言うまでもない。
テーブルに青い顔で突っ伏すシーシャが恨めしそうにエヌラスを睨みあげていた。
天井近くまで積み上げられたハンタープレートの皿を全て平らげた上に、ジョッキを空にしてテーブルに叩きつけてエヌラスが立ち上がる。
「……アンタの胃袋、どうなってんだ……?」
「店ひとつ潰してから俺に挑むことだな、ごちそうさん!」
宴会場が盛り上がり、次々にエヌラスの肩を叩いて囲んでいた。シーシャも青い顔をしながらフラフラと立ち上がる。
「シーシャ、大丈夫かしら?」
「流石にちょっと食いすぎたね……夜風に当たってくるよ、ブランちゃん。すぐ戻ってくるから」
「そう。吐いて汚さないようにね」
「あーははは、そんな事件もあったね……」
食い過ぎ飲み過ぎで中身をぶちまける事件がハンター達の間で起きることもたまにあったが、大魔導師が温泉街を管理してから発見された場合──装備一つで辺境に放り出される。微妙に街の灯りが見える程度の場所、しかも真夜中に限って起こる神隠しじみた罰則はハンター達の間に恐怖の対象として瞬く間に広まった。
エヌラスは自分の口を押さえながら、壁際で静かに佇む大魔導師に視線を投げかける。
(味気ない料理を延々と食べるって、意外とキツかったな……)
ワルキュリアから不調を聞いているのだろう。いつもと変わらない表情だが、やはりどこか不機嫌そうにしていた。
「エヌラス。話がある、ちょっと来い」
「そんなわけだから、席外すわ。んじゃブラン、またあとでな」
「ん、それじゃ……」
小さく手を振って大魔導師と店を後にするエヌラス。その姿が見えなくなってから、ハンター達の好奇心の視線が自分に向けられていることに気がついた。
「……なにかしら?」
「つかぬことをお聞きしますけれども、ブランちゃんはあの人とどういったご関係で」
「へ……?」
質問攻めに顔を真赤にしながらも、ブランは早く助け舟が戻ってこないかと祈るばかりだった。