超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
銃声に次ぐ銃声。爆撃に次ぐ爆撃。物量を前にして形勢不利と感じ取ったが、態勢を立て直した今では、彼にとってただの雑魚の集まりだ。
「……?」
その超人的な視力と聴力を戦闘の為に研ぎ澄ませていたが、甲高いノイズが走る。
――女の悲鳴。声の高さからしてまだ幼いようだ。銃撃と爆撃の轟音の最中でその声を聞き取れたのは奇跡に近い。
その瞬間、何か彼の中で吹っ切れたものがあった。
「なんだ? 後ろからか」
「早くあの男を片付けて俺達も愉しみに行こうぜ?」
「ああ、そうだな。進軍だ!」
バチリ――。彼らの前には紫電を走らせて構えをとっている目標がいた。
それは、必殺にして光速。幾度と無く同胞たちを葬ってきた、回避不可能の一撃の予備動作。理解していても尚、避けることが叶わない死刑宣告。
男の声が、心臓に突き立てられる。血の通っていない絶対零度の殺意として。
「
「……た、退避ィィィィィィッ!!」
既に遅い。進軍していた前線部隊が閃光の中で消し飛んだ。大きくたわんだ木々が根っこをひん剥いて倒れる。
悪鬼が、そこには佇んでいた。紫電の走る手に、血の付いていない刀を握りしめて空いた左手には装飾の施された荘厳な銀のリボルバーが握られている。
地面に出来上がる“砲撃の痕”を一瞥して、消し炭になった破片や肉片の確認すると悲鳴のあった方へと一目散に駆け出していた。地を這う獣ですらそこまでの速度で走りはしない。
自分を掻き立てる焦燥感の正体が掴めず、苛立ちながら彼はひたすらに走った。
両手を押さえこまれ、仰向けに押し倒されたネプギアの胸には男の手があった。ノワールの胸も素肌を晒されて陽光の下で血色の良いハリのある胸が男の掌で弄ばれている。
「私にはないものだから羨ましくもなんともないんだからね!」
「まぁまぁ」
「なだめたって私にはないんだから! って、アレ!?」
「じゃあこっちで」
「おし、おしり!? そっち!? いやー、やめてー! 貞操の危機だけど後ろの危険はもっとダメー!!」
貧相なスタイルのネプテューヌだけはパーカーの下から潜り込んだ手に尻を揉みしだかれていた。それに嫌がる素振りを見せながらも、今も拘束されてされるがままにされている。暴れるネプテューヌの前では今まさに妹のネプギアが貞操を奪われそうになっていた。跨る男が我慢できずに、ベルトを息を荒くしながら緩める。
「おい、前線部隊から連絡が途絶えたぞ。こんなことしてる場合か?」
「まぁまぁ」
「大丈夫だろ。どちらにしろ長生きできないなら今のうちに楽し――」
言っていた男の頭が、文字通り消し飛んだ。下顎を残して、上半分が隣に立っていた兵士の全身に吹きつけられる。ベッタリとくっついた血糊と中身が垂れる光景にいよいよもってネプギアは気を失いかけた。吐き気すら覚える出来事の連続に、だが頭の冷静な部分が第三者の介入に歓喜の声を上げる。
人型機械や無人機、兵士達が一斉に警戒態勢へ移行して構えた先から先ほど見かけた黒ずくめの悪党が走ってくる。その左手に握られているマズルスパイクを取り付けた分厚い鈍重なマグナムリボルバーは人間ではなく狩猟に用いられるべき口径で弾丸を撃ち出す。マズルフラッシュが閃けば、次の瞬間には人型機械の胸部が轟と音を立てて装甲をぶち抜かれて吹き飛んでいた。そも、片腕で扱うべき銃器ではない。一発、二発と弾丸は然るべき暴力性で物言わぬ機械を轟沈させていく。
「
兵士達が突撃銃を一斉に放つ。その弾幕の中を悪夢のようにすり抜けてくる。それは右手に持つ倭刀となめらかな体術によって。順手から逆手に持ち変えながら重心を巧みに操りながらマグナムリボルバーの排莢すら片手間にやってのけている。
その悪魔のような青年と、ネプテューヌとノワールの眼が合う。
「お、おーい! 助けてー!」
「あれだけの人数をどうやって……!?」
不意に、足を止めた青年が横っ飛びで森の中へ身を隠した。銃弾が木々に阻まれる。その間に装填を済ませるつもりだ。そうはさせまいと人型機械がアンダーバレルにマウントしたグレネードランチャーの引き金を引く。次々と絨毯爆撃のように撃ち込まれるグレネードが引き起こす爆炎を背に、青年は丸腰で突っ込んできた。
「“
両手に再転送されたのは、また銃だった。
右手に持つのは兇悪な赤の大型自動拳銃。
左手に持つのは荘厳な銀の回転式拳銃。
「防御陣形、展開急げ!」
『了解!』
正面に展開するのは大型の防御魔法陣。単独ではなく複数人によって展開される防御力は相当なものに違いない。彼らは青年の攻撃に備える。あの猟銃から放たれる威力と、一度火を吹けばどれだけの被害が出るかも。しかし、青年は引き金を引かなかった。
ネプテューヌとノワールは、見た。青年が笑うのを。
「“
刹那。青年の脚に紫電が奔り、土煙と共に姿が掻き消える。地面には穿たれた跡が出来上がり、狼狽する兵士たちとは別に人型機械と無人機は機首を上へ向けていた。
《敵機、直上!》
「飛び越えただと!?」
突き出される両手に握られた鋼鉄の凶器が規格外の暴力を叩きつける。
大型自動拳銃から吐き出される弾丸が爆炎を巻き起こす。回転式拳銃から吐き出される弾丸は冷酷に目標を撃ち抜く。青年は着地するまでの十秒足らずで両手の弾倉を空にして着地するなり、倭刀とマグナムを召喚してネプテューヌ達を押さえている男たちへ真っ直ぐに駆け寄っていく。
男たちは既に戦意を失っていた。だがそれでも情け容赦無く青年は男の一人を切り捨てた。まだ笑っている。暴力に酔いしれる暴君の笑みだった。暴虐ぶりに目を背けたくなるが、ネプギアは目を離せずにいる。
「うひゃ!?」
「う、動くなよエヌラス! 助けにきた少女がどうなってもいいってのか!?」
ネプテューヌのこめかみに拳銃が当てられていた。その冷たい感触がゲームや非現実的なものではなく、目の前に突き立てられる現実の壁をあっさりと超えてくる。
ここにきて人質を取った男が、動きを止めた青年――エヌラスに、笑みを浮かべた。その左手が光に包まれる。そこに握られているのは、やはり白銀のリボルバー。その銃口があらぬ方向を向いている。
“綺麗な色……”
ネプギアがその銃に見惚れていると、何の躊躇もなく引き金を引いた。その直後、何もない地面に突き刺さるはずの弾丸が、ありえない軌道で直角に曲がったかと思うと男の額に風穴を開ける。引き金を引きさえすれば絶対必中の魔弾は命を奪う――その性能に絶対の自信を誇るからこそ、青年は相手を一瞥すらしなかった。
ドサッ。男が倒れてからも青年は動かずに周囲を警戒している。時折上空を見上げ、耳を澄ませていた。
「――――はぁ……」
そして、安全が確認できると両手の武器を転送する。腰に手を当て、口をへの字に曲げて頭を掻き、不機嫌そうにしていた。その顔には明らかに後悔の念が見て取れる。
「……助けるんじゃなかった」
無慈悲に、心底後悔した呟きだった。まるで無一文で終電を逃したような絶望的な顔をする青年にネプギアは身体を起こす。
ノワールははだけた服を直して駆け寄る。ネプテューヌも無事を確認すると妹に抱きついた。
「大丈夫? ネプギア」
「は、はい……」
「よかったー。私より先に大人の階段上っちゃうのかと心配だったよ~。それにしても不埒な人達で失礼しちゃうよね。こういうのは普通主人公たる私からでしょ」
「お姉ちゃん? 私結構本気で危なかったんだけど……」
「やっぱここは『私が妹の身代わりになります』くらい言うべきだったかなぁ。どう思うノワール」
「あの状況じゃどんな選択肢選んでも無駄だったと思うわよ」
それより今は、お礼を言うのが先だ。