※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.138 ルウィー防衛戦線・その1

 

 ──商業国家・ユノスダスより、遥か東の地へ。そこに犯罪国家・九龍アマルガムは位置している。その道中の寒冷地帯、並びに荒野。環境汚染地帯を弟子を背負ったまま大魔導師が歩く。

 吐息が白く染まれば。そこは極寒の地。永久凍土と化した九龍アマルガムの領土。他ならぬ自分がやったことだが、今にして思えばとてもくだらないことをしたものだ。

 呼吸すら危ういエヌラスを背負い直して、大魔導師は都市を目指して歩く。こうして誰かの命を背負いながら歩くのは、果たして──いつ以来だろう。それとも、これが初めてだっただろうか?

 それすら記憶が曖昧だ。

 俺は、いつからこんなにも孤独だったのか。

 白い吐息をこぼしながら、降り積もる雪の上を大魔導師が歩き続ける。魔術で飛んでしまえばまたたく間に終わる旅路ではあるが、背負った命が。今にも消え入りそうな魂の灯火が、恐ろしくて堪らない。どうしたらこの男は死なないのか、どうしたら生きながらえることができるのかを考えながら大魔導師は歩き続ける。

 霜柱を踏みしめれば、等身大の氷柱が無差別に貫いていた。無人となった建造物を、かろうじて人々が住み込んでいる地域のホットパイプを破壊して。

 背中で虫の息となった弟子が、掠れた声で呟く──師匠、と。

 

 嗚呼、この男は……幾度となく繰り返されてきた惨劇と悲劇を越えて。己の宿命を知った上で。それでもまだ、俺を魔術の師と仰いでいるのか。破門にした覚えがないが、それでも。

 忘れていたとしても、関係なく。自分がエヌラスにとって掛け替えのない命だったのだと。

 ずっと心を凍りつかせてきた。二度と動くことがないように、氷獄に閉じ込めたつもりだったが──馬鹿の熱量には、敵わないようだ。

 気づけば、九龍アマルガム都心近辺まで到着していた。近未来的な科学技術の発展した都心は、大半を電脳国家・インタースカイに依存している。しかし肝心なシステムだけは完全に独立していた。案の定、自分が国を離れているうちに無法地帯と化している。

 理路整然とした区画整備に、独立思考の自動人形達の暴走。それに加えて、ここぞとばかりに跋扈する裏組織や反社会的勢力の愚連隊。

 緩やかに手を伸ばし、意識を集中させる。指を一度鳴らせば、上層都市教会・公安局の半径三十キロが瓦礫と化した。重力爆撃。

 九分九厘が、何が起きたのかすら理解できないだろう。突然空が爆発したかのような衝撃に襲われたのだから。建造物が次々と崩落していく。その瓦礫に巻き込まれて下敷きになったり生き埋めになる市民達が大勢出るだろうが、瑣末事だ。大魔導師は見晴らしの良くなった都市を歩く。

 その姿を見た瞬間、腰を抜かして人々が離れていった。

 犯罪国家国王を勤めるには、国内最大の脅威であることが求められる。誰にも制御不可能な狂気を行使するだけの胆力、暴力が必須事項だ。

 

 地下帝国教会・廃病棟にエヌラスを担ぎ込むと、自動人形のメイド達が深々と頭を下げる中で一人だけ遅れて頭を下げて出迎える。

 金の髪を垂らして、やがて頭を上げるなり緩んだ笑みを向けてマリーが大魔導師の背中に担いだエヌラスに気づいた。

 

「おかえりなさい、大魔導師。エヌラス、どうしたの?」

「死にかけている。大至急医務室に連れて行くぞ」

「はーい」

 間延びした返事を聞きながら、大魔導師はエヌラスを医務室に寝かせる。

 処置は簡単だ。全身の冷凍睡眠状態を徐々に解除しながら魔術縫合と修復作業を開始する。右腕と左目だけは、もうどうにもならない。人間としてのテクスチャが剥がれた今となっては、もはや存在するだけで起爆剤だ。それも教会の強固な結界によって阻まれ、なんとか時間稼ぎ程度にはなっているが。

 魔人としての本質を無限の魔力貯蔵庫によって制御した上で、神格者としての権能を保持させる──そんな離れ業をこれまで保持できたのも、ひとえにエヌラスの強靭が過ぎる精神力の賜物だ。それすら身体を蝕みつつある現場に、大魔導師は最善を尽くす。

 

 一通りの施術を終えて、血で真っ赤に染まった手を見つめながら、呼吸器に繋がれて安らかな寝息を立てるエヌラスを見下ろす。ひとまずは、なんとか。だが、現状維持が精々。

 浅い呼吸。長い間隔に、小さな心音。意識不明の植物状態。安らかな寝顔を見て、こんな顔で死ねるのならコイツも本望なのではないか、とも考える。しかしそれは人としての心を逸脱していることを知っていた。

 マリーは、そんなエヌラスの傍らに腰を下ろしてジッと寝顔を見つめている。

 何も言わずに集中治療室を離れようとする大魔導師の背中に、静かに声が響いた──。

 

「ねぇ、大魔導師。エヌラスにとっての私って、なんなのかな?」

「……唐突に、どうした」

「んー、なんかね? なんでかわからないけれど、今の姿を見ていると、ものすごく胸がきゅーっって苦しくなるの。私、エヌラスが好き。大好き。だけど、こんなに悲しくってつらい気持ちは……なんでだろう? いつか死んじゃうって知ってるし、分かってるよ?」

 犯罪国家で生きていく上で、その死生観は無情に儚いものだ。手を繋いでいた隣人が姿を消して無残な死を遂げるなど常なのだから。誰もが、いつ死ぬかわからない恐怖に怯える。だが、この国を離れて生きていく場所がない者達は仕方なくその恐怖に耐えて生きていく。そのせいか男も女も胆力がある。図々しいというかなんというか。

 マリーには、以前の記憶がない。だがそれでも、魂が惹かれ合っている。罪悪感から目を背けていたエヌラスのことなど気に留めない様子で、眠っている頭を撫でていた。

 悲しそうに目を伏せ、首を傾げている。

 

「不思議な人」

「……お前もだいぶ、人間にしては変なやつだがな。今までどうやってこの国で生きていたのか甚だ疑問でならないくらいだ」

「? 普通に生活してたよ」

 普通とは。

 

「困ってる人がいたら助けてー、危なそうだったら離れてー、子供達と遊んだり」

「路銀はどうしていた?」

「働いたり、お手伝いしたり、どうしてもって言う時は死んじゃった人のお財布から」

 ……普通とは???

 

「お前の働き口があるとは思えないが」

「えーひどーい。酒場で歌ったりしてたんだよー?」

「……歌えたのか?」

 むー、と。頬をぷくーっと膨らませていたマリーが、エヌラスの頭を撫で続けていた。

 

「ねぇ、大魔導師。エヌラス、いつ起きるかな?」

「さぁな。わからん」

「このままずっと、寝たきりなの?」

「……どうだろうな。だが、こいつが安静にしていたことなど、ただの一度もない」

 全身の魔術回路が焼き切れ、焦げ付いていたのを修繕・改修して再設計したことから魔力が暴走する心配はない。しかし、それでもゼロクリスタルの崩壊は免れられない。徐々に崩れていく身体と心が、果たしてどこまで持つか。代替品となる物を用意してやれればいいが、そう都合よく準備していない。

 ……大魔導師は無造作に自らのシェアクリスタルを取り出す。これを代わりに使ってやれば、この男は生き返るだろうか。だがそれは、犯罪国家国王としての権威を放棄するということだ。神格者としての自分を捨てて、野に放たれる一介の魔術師。それも悪くないかもしれない、だが──それをエヌラスは、絶対に許さないだろう。

 

「使わないの?」

 マリーの素朴な疑問が、胸を打つ。鼓動を押し潰すかのような少女の言葉に、大魔導師はシェアクリスタルを収納した。

 

「まだ、やるべきことが残っているからな。マリー、エヌラスを任せた」

「はーい、ご奉仕しまーす」

「俺は支度を済ませ次第、また此処を離れる」

「気をつけていってらっしゃい」

 一国の主に対して、そんな呑気なことを言えるのは犯罪国家どころかアダルトゲイムギョウ界中を探してもマリーくらいのものだ。

 

 

 

 ──ルウィー前線拠点・第一防衛ラインにて。

 

「オッホホッホホホッホッホッホッホ!!wwww」

 ハンマー使いのハンターが、奇声を上げながら大量に雪崩込んでくるモンスターを前に逃げ惑っていた。十や二十ではない、三桁、それどころか無数に押し寄せてくる猛獣を前にもはややけくそで笑っている。

 大太刀を全身で振り抜き、大回転気刃斬りから納刀、即座に駆け出しながら頭上で振り回して眼前のモンスターに黙々と斬り掛かる太刀使い。

 

「いや無理だよ! 絶対に無理だよ! こんなん討伐できたら苦労してないわ! 万年それなりの上位ハンターとしてルウィーに君臨してきた俺たちですらこんな量のモンスター相手したことないってーの! なぁ狩り太郎!」

「うるせぇぶっ転がすぞ」

「ファーーーーやってらんねぇぇぇどぉりゃあああああっ!!!」

 丸薬を噛み砕きながら、雄叫びを上げながらハンマーを振り回すとモンスターの頭を強烈に殴りつける。一匹、二匹とまとめて吹き飛ばして力を溜めながら突撃していった。

 その様子を少し離れた場所から眺めていた片手剣ハンターは他のチームのサポートにと大忙し。

 当然、ブランとシーシャ、ロムとラムの四人も最前線でモンスター達を相手している。

 

「くそ、次から次へと! ほんっとうにキリがねぇな!」

「怪我人は無理せず下がりな! 後ろの拠点から交代でハンターを要請して!」

「すまないゴールデンコンビの大きい方、俺達は下がらせてもらう」

「なに、気にすることはないよ。怪我が治ったらまた頑張って貰えればいいからさ!」

 気さくに挨拶を交わしながら、シーシャの拳がモンスターの頭部を強烈に打ち据えていた。屈み込み、天を衝く打ち上げによって翼竜が沈む。

 

「ふ、ふええ……みんな、沢山怪我してる……!」

「大丈夫大丈夫、この程度で音を上げるやわなハンターなんていないからさ!」

 

「ぐわああああ超いてええええ!! よくもやってくれたな火事場特攻どぉりゃああああ!!!」

 

「……いないから大丈夫さ!」

 あの野郎、あとでぶん殴ってやろうか。シーシャは笑顔で拳を震わせながら見ないふり。

 そろそろ交代の時間だ。時間を確認した瞬間、稲光が駆け抜ける。押し寄せていたモンスター達をまたたく間に沈めながら、ワルキュリアが直刀を構えていた。

 

「お待たせしました! 孤独のワルキュリア、推参です!」

「言ってて悲しくならない?」

「ちょっぴり寂しさ覚えてます……でも大丈夫です。私にはネコちゃん達がいますので!」

「ネコ?」

 そんなの何処にいるのだろうか? 首を傾げたブランだったが、足元からひょっこりとネコルーが現れる。手には小樽を持っていた。そこかしこから現れたオトモネコルー達が一斉に樽を持ち上げると、坂道から転がし始める。

 爆薬をこれでもかと詰め込んだ小樽による絨毯爆撃。しかも穴を掘り進んできたことでバケツリレーによるピストン調合、完成品を次から次へとモンスター達の頭上に降り注がせていた。絶え間ない爆撃に襲われて、モンスター達の進行速度が大幅に激減する。

 

「どうですか!」

「どうしてそこであなたが自慢げにするの……?」

「え、ダメでしたか。ネコちゃんのネコちゃんによるネコちゃんのためのにゃんこ爆撃大作戦」

「ルウィーの地形が変わりそうな勢いなんだけれど」

「本当は大きいタル爆弾を使おうとしたんですけど、それは流石に教祖様からストップ宣言されちゃいまして……」

「当然でしょ」

「なのでこっそり持ってきちゃいました☆」

「おい」

 かわいらしく舌を出しても許されない。怒り心頭のブランがハンマーを担ぎ上げていた。今すぐその爆弾を解体しないとお前が星になるぞと無言の警告を出しながら。

 

「待ってくださいよ! これは、その、いわば切り札的な運用方法でして! 前線拠点を放棄して撤退する際はここ諸共モンスターの進行を阻むという大事な役目があるんですよ!」

 えっさほいさとネコルー達が特別調合の火薬を詰め込んだ成人男性の背丈ほどもある大きなたる爆弾を拠点のあちこちに設置していた。

 確かに、この前線拠点にこだわることはない。なんなら間に合わせの急突貫工事で作り上げた最低限の設備が整った防衛拠点だ。施設ならば後ろの拠点の方が充実しているのは、事実。

 ブランは少しだけ考える。この前線拠点もそう長く持たない。撤退する時に、敵の進行を阻む手段は確かに必要だ。それで少しでも時間稼ぎができると同時に勢いを削ぐことができるならば、有用性は十分。

 

「……仕方ないわね。ただし、絶対にわたし達がいる間に使わないでよ」

「やった。爆殺許可が下りました! これで思う存分爆発できますね!」

「爆発オチとか最低よ?」

「安心してください、モンスターしか爆殺しませんので! さぁ、ここからは私がお相手しましょう! 後続のハンター達と皆さんは交代して休憩してください!」

「ええ、わかったわ。あなたも気をつけてね」

 ブランがシーシャと顔を見合わせて頷く。ロムとラムを引き連れて、前線拠点から離れる。

 しかし、その横をハンマー使いのハンターがネコルータクシーによって情けない姿を晒しながら通過していた。

 太刀使いと片手剣使いのハンターもゴールデンコンビに合流すると、後続のハンター達に任せて下がっている。

 

「言わんこっちゃない。だから今回火事場装備はやめろとあれ程……」

「火力大正義! 俺はこれで行く! って聞きませんでしたもんね……」

「あなた達、友達は選んだ方がいいわよ……」

 あまり人のことは言えないが。

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