超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ルウィーの首都に近づくにつれて、防衛設備の充実した拠点。チェックポイントとして設けられた関門では今も忙しなくオトモネコルーとハンター達が資源の確保と道具の運搬に大忙しだ。その中を怪我をした者たちを運ぶネコタクシーが行き交う。それに、ハンマー使いのハンターの姿があった。
ブラン達と食事の席を共にする太刀使いと片手剣使い。その同僚と思わしき者達が次々と挨拶を交わしてはそれぞれの仕事に向かっていく。
「……あなた達、有名人なのね」
「あのハンマーバカが迷惑かけているだけだ」
「はは、そうかい? でもあの大槌を振り回してモンスターを吹き飛ばしてくれていたおかげであたし達も存分に動けたよ」
「すぐ調子に乗るから、あまり褒めるなよ」
「……ネプテューヌそっくりね。それに、ハンマー捌きならわたしも負けてないわ」
「そーよそーよっ。おねえちゃんの方が凄いんだから!」
「うん……! 今日も、すごかった……」
静かに対抗心を燃やすブランに、ロムとラムが賛同する。その様子を微笑ましく見ていた片手剣使いのハンターが静かに笑みをこぼした。
「……まぁ、アイツ本職はハンマーではないのだが」
「えっ?」
「それであそこまでの腕を振るってたってのかい?」
「元々はボウガン使いだ」
「それがどうしてハンマー使いに?」
兜の口元だけを開けて、水分補給をする太刀使いが少しだけ唸る。
「……建前は、ルウィーの守護女神が振るうハンマーに憧れていた」
「ちょっと照れるわね……」
「? なぜそこで君が照れるのかわからないが……」
「それで、本音は?」
「昔、俺とアイツともうひとりでチームをよく組んでいた。だが、あるモンスター討伐の際にボウガン使いだったアイツは、仲間を見殺しにしてしまった。俺もそうだ。だから、その日からずっと狩りを続けている」
「……すまないね、そんなことを聞いちまって」
「かまわない。だから、俺もアイツも、一人分の席は必ず空けている」
「そのモンスターは、どんな相手なの?」
ブランからの問いに、片手剣使いのハンターも真剣な眼差しを太刀使いに向けていた。
「……当時、いや、今もか……目撃情報の極端に少ない、希少種と呼ばれる竜だ。“つがい”で見かけられることがよくあった」
「──もしかして、そのモンスターは」
「金と銀の翼竜だ。今でも手がかりを探している」
「だから先輩達、やけに難易度の高い討伐ばかりを……」
「最近は君のおかげで気を休めることができているけどな」
シーシャが顎に手を当てて、何かを思い出した様子で口を開く。
「……なぁ、アタシ達。名前を聞いていなかったけれど。もしかしてアンタ……あの伝説のベテランハンターコンビの“
「…………想像に任せる」
「噂には聞いてたよ。一人でドラゴン討伐とか、砦竜を討伐したとか、曰く付きの話を。ハンター始まりの地の生まれとかさ」
「……昔話が、尾ひれと背びれで飛び立ってるようなものだ」
「はは、そうか。でも光栄だね、そんな伝説と一緒に戦えるなんてさ」
ハンター。狩人が最初に生まれた地。それは辺境に在る、小さく寂れた村だった。ラステイションとルウィーの境界に位置する、緑豊かな土地と言われている。だが今となっては訪れる人もいない。そもそもその噂すら真偽が定かですら無い。
重工業が盛んなラステイションから狩猟業を生業とするものが追われ、行き着いたのはルウィーの過酷な環境。そして気づけば、街にはハンターを名乗る人達が溢れた。規則を設け、設備を整えて街に貢献していく内に協会……ギルドが設立される。その下で管理・運用される民間のハンター達。その中でも、最古参とされる者たちは一人で竜退治を可能とする──それが、黒鉄と蒼鬼と呼ばれる二人組だった。
「立てば城壁、構えば要塞、挑む姿は黒い鬼。なんて話もあるほどだけど、まさかアイツがね」
「誰だそんな恥ずかしい話を考えたのは……」
「さぁ? でもアンタも中々だよ。太刀を一度振るえば女神に並ぶ剣技の鬼、なんてさ」
「…………買いかぶり過ぎだ。少し席を外す」
腰を上げる太刀使い──蒼鬼が五人のテーブルから離れて、相方の様子を見に向かう。
残された片手剣使いの新米ハンターは両手でコップを持ちながら飲み干した。
「わたし、全然知りませんでした……たまたま、素材の収集クエストを受けてこなしていた時に大型モンスターに襲われて。助けてもらってからずっとお世話になりっぱなしで」
「やっぱ、放っておけないんじゃないかな? 根がお人好しなんだろう、あの二人は」
「でも、わたしが足を引っ張っているのなら……」
「いいじゃないか。傍にいてあげればさ」
「そうね。あなたがいなかったら、きっと今頃遠くに行ってると思うわ」
「……──わかりました! わたし、今から後を追いかけます! 失礼しますね!」
席を立ち、頭を下げて慌ただしく片手剣使いのハンターが蒼鬼の後を追いかける。
「さて、アタシ達はもう少しのんびりしてようか。向こうはまだ保ちそうだし」
シーシャの言葉にブランが頷いた。
容態の急変したエヌラスのことが気にかかるが、大魔導師に任せる他にない。ふと、防衛拠点の中を見渡していると見覚えのある赤いメイド服の少女を見つけて目を丸くしていた。他ならぬフィナンシェ、見間違えるはずもない。
「フィナンシェ……? あなた、ここで何をしているの?」
「あ、ブラン様! よかった、ご無事だったんですね。実は……」
ルウィー教会に正面から堂々と喧嘩を売りにいった大魔導師に恐れをなしてアズナ=ルブの私兵は戦意喪失。現状の惨劇を目の当たりにして逃亡して、主犯者が行方不明。もぬけの殻となった教会をミナが管理運営する方向でまとまっている。手段はどうあれ、大魔導師のおかげで教会は取り戻せた。あとは目前に迫る大量のモンスターをどうにかするだけだ。
現在もハンター協会からは次々と援軍を送り込まれている。報酬額を気にして参戦しないものもいるが、ほぼ全員が参加しているようだ。
「──それで、わたしはブラン様達のお世話に」
「そうだったのね……あなたも大変だったでしょう?」
「いえ、気にしないでください。そのためのメイドですので。それで、逃亡したアズナ=ルブですが、隠れ家と思わしき場所も突き止めてあります」
こっそり、メイドとしての仕事をする傍らでアジトの場所をメモしてある。それはミナからルウィー軍に報告済みだ。そう遠くないうちに反逆罪で投獄されることだろう。
「ですので、首尾は万全です! 安心してください、ブラン様! 今は目の前の戦いに集中してください。サポートも皆さんの協力があります!」
「……本当にありがとう、言葉にならないわ」
──空から響く竜の咆哮にハンター達が一斉に身構えていた。見れば、最前線拠点になだれ込むモンスター達が進軍を阻まれて怒りに吼えている。その中を駆ける雷刃が軽やかに髪を翻しながら斬り込んでいた。
晴天にあって霹靂の如く。今も最前線拠点では、ハンター達がモンスター達と命の火花を散らしている。
防衛拠点・医務室。
傷だらけのハンマー使いのハンター、黒鉄は壁に立て掛けた愛用の大槌を眺めていた。全身に包帯を巻いて、兜の奥からじっと見つめている。
見舞いに来た太刀使いに片手を挙げて挨拶を交わした。無言で椅子に腰を下ろす。
「……」
「……」
言葉もなく、静かに時間だけが過ぎる。
「まだハンマーを使うのか」
「お前こそ。まだ太刀を使うのか」
「自ら危険に身を晒すことはないだろう」
「いいや。俺が隣にいれば、アイツを助けることができた。背中を見守るのはもう飽きたんだ」
「……」
「お前こそ。双剣を捨てて太刀を使っているじゃないか。いつまでそうするつもりだ」
「仇を討つまでだ」
「俺もだよ」
鼻で笑い、互いにそれきり押し黙る。
「……アイツは、来るか?」
「来るさ、必ず」
銀の翼竜。金の翼竜。つがいの双竜、夫婦竜。一説には、ゲイムギョウ界にあぶれるシェアエネルギーを取り込んだ奇跡の生態。
とても、人間では狩れるモンスターではない。だが、ハンターとはそういうものだ。
前人未踏の
最前線に立候補したハンターは、僅か二十名にも満たない。それに我先にと名乗りを挙げたのはこの異常事態に金銀の双竜が来ると睨んでいたからだ。長年の経験による、ハンターの勘でしかなかったが、何故か二人には確信がある。
壊れた装備を見つめて、破損した武器を見て。蒼鬼が重く口を開く。
「工房には、整備点検だけ任せてある」
「……」
「お前のボウガンだ。弾丸も揃えてある。調合分もセットで」
「…………」
「もう一度、使う気はないか」
「お前の双剣だが。工房に預けてある。太刀に加工し直してくれるそうだ」
「………………」
「かなりの値段がしたが、そこはほら。お互いの稼ぎがあるだろう?」
「お前──」
鼻で笑い、互いに立ち上がる。
そして、拳を振り上げて──。
「「何勝手なことをしてくれてんだお前はぁぁぁぁっ!!!」」
──そして。互いに拳を顔面に打ち込んでいた。
廊下で立ち聞きをしていた片手剣使いのハンターから、涙が引っ込む。
なにしてんだこの人らは、と。いい話だったはずなのに、どうしていきなり殴り合いになるのかわからなかった。
「なぜ止める!?」
「重傷だからですよ!?」
「なんで止めた!」
「いや重傷だからですってば!?」
どうやら、この二人には自分がいないとダメらしい。改めてそう思いながらも、一日でも早く追いつこうと決心した。