超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
前線拠点へなだれ込むモンスターの群れを、ハンターたちが総出で迎え撃つ。鳴り響く号砲に、あちこちで火球や魔法が飛び交っていた。
「大! 連! 続! 狩猟だぁぁぁあああぃぃやっほぉぉぉおおおおああああ!?!?」
黒鉄もまた、装備を切り替えてきているが大型モンスターに追いかけ回されている。突進を別なモンスターにぶつけて注意を逸らしていた。
蒼鬼は自分に視線を向けていないモンスターの首を太刀で一閃して確実に数を減らし続け、ブランたちも被害を出さないように立ち回っている。
拠点の中を駆け抜ける閃光。ワルキュリアの細剣が手負いにしていくが、致命傷とまではいかない。なにせ大自然の中で成長を続けてきたモンスターだ、生命力がタフにも程がある。仕留めるのなら確実に、一気にやらねばならない。
「さすがに、数が多いわね」
数の多さにブランも苦い顔をしていた。だが、混乱を極める拠点に冷たい風が吹く。ルウィーは雪国だ。気温が低いのは当然のこと。しかし──空気が凍りつく程の冷気はあまりに異常過ぎる。
誰もが悪寒に身体を震わせて、そして。
「邪魔だぞ貴様ら」
氷のような一言と共に、巨大な氷柱が無数に拠点内から生えた。鋭い先端が茨道のように拠点へ雪崩込んでくるモンスターの足を傷つけて侵入を拒む。
大魔導師が立っていた。手には棺桶に繋がれた鎖を握っている。凍りつく拠点内をぐるりと見回してから、白い吐息をこぼしていた。
「後は任せろ。こちらから打って出る。堂々と真正面から蹂躙して轢殺してくれよう」
「本気で言ってるの?」
「なんのためにこの俺が呪法兵装を担ぎ出したと思っている?」
呪法兵装──エヌラスの魔銃しかり、偃月刀しかり。それらは魔術師の杖という媒介の役割を果たすと同時に兵器である。とりわけ、高位の物になればなるほどに器物でありながら魂を有して独立している。
大魔導師が所有する呪法兵装──これまで、ただの一度も武器らしい武器など持ち出さなかったはずだ。黄金の弓も十字架も、槍も全て魔術の賜物。
それを、用意したと言っている以上は予想される惨劇は考えたくもない。
無造作に棺桶を持ち上げて、大魔導師はモンスターの行進の中へ向けて投げつけた。
「──起きろ。そして参れ。起動せよ“夢幻心母”」
棺桶が、鼓動する。心臓のように脈打ち、ひとりでに震え出していた。
あらゆる瘴気、邪気、呪詛、怨恨を釘で内留めたはずの葬り去られた兵器が、目を覚ます。
蓋の隙間から溢れ出す鮮血は酷い臭気を撒き散らしながらルウィーの大地を赤く濡らしていく。そして、内側から開け放たれた棺桶の中では触手が無数に蠢き、獲物を探していた。その奥、粘膜でテカテカと光る触手の隙間からこちらを覗く眼球があった。
ひとつ、ふたつ、みっつ──それもまた、無数に。目を合わせてはならないのだと、本能的に擦る前にモンスターめがけて貪欲に触手が這い出した。苦悶の絶叫をあげながら捉えられた相手は棺桶の中へ引きずり込まれていく。
骨を砕き、悲鳴を共に飲み込んでいく。棺桶に捕食されていくモンスター達は一匹や二匹ではない。飢餓状態へと陥っていた呪法兵装、無差別級対国家攻略決戦兵装は飢えた血肉を捕食することによって補っていた。
あれは、生きている。飢えている。餓えている。目につく全てを喰らい尽くすまで止まることはない。
物言わぬ棺桶が脈動する。球状の触手が飛び出したかと思うと、空中でピタリと制止した。丁寧に丁寧に磨かれた泥玉のように完全な真円形の呪法兵装が震え出し、底面に亀裂が走る。
余分な血液を吐き出して、ビシャビシャと濡らしていく。そこから生えだすのは、無数の触手だった。完全なる停止状態から、自ら捕食する状態まで“成長”している。
もはや、悪夢でしかない。ハンターですら腰を抜かす者がいた。ただひとり、大魔導師だけは犬の散歩のような気軽さで歩み寄っている。
ギョロリと、大きな一つ目が大魔導師の姿を射止めた。緩やかに近づくと、触手を伸ばす。その手を取りながら、口角を上げる。
「食事の時間だ。存分に喰らい尽くせ」
夢幻心母が、目を細めて
「死にたくなければ、さっさと街に戻れ。こいつはバカ弟子ばりに貪欲だぞ?」
触手に捉えられたモンスターがまた一匹、取り込まれて捕食されている。今度は大きな翼を広げていた。触手の一本が肥大化していくと、竜の頭が顎を開けている。
炎の息吹を撒きながら、阿鼻叫喚地獄へと様変わりしていく拠点を呪法兵装と共に群れを押し返していく大魔導師を見送って、ブラン達は大きく息を吐き出して胸を撫で下ろしていた。
「アレが味方でよかったとは思わないわ……」
敵でないだけマシ、という程度だ。
あっという間に静寂が訪れる拠点の中は、凄惨な被害状況となっている。半分くらい大魔導師のせいだが。
「とにかく、こっちはなんとか乗り切れたわね」
「おーい、黒鉄、蒼鬼ー。無事かー?」
シーシャが呼びかけると、瓦礫の下から生えてきた手がサムズアップしていた。
二人をなんとか掘り出すと、ひとまず被害状況を確認する。怪我人は多数。ネコルー達も無事なようだ。
「死ぬかと思いました」
「死んでいればよかったと思う」
「よし、叩き殺してやる」
「やってみろ、叩っ斬ってやる」
「お二人ともっ!!」
「「はいっ!」」
片手剣使いのハンターに叱られて背筋を正す二人を見て、緊張感が抜けたのかシーシャが笑う。それにつられて、拠点の中から笑い声が広がっていった。
なんとか、生き残れた。それだけで今は喜ぶべきことだ。
それも束の間の安息──拠点を飛び越える大きな影に、誰もが顔を上げた。
二匹の翼竜が、拠点を飛び越えて直接ルウィーの首都へ向かって飛んでいく姿を見た瞬間、ブランが青ざめる。
「──シーシャ!」
「ああ、どうやらまだ終わってないみたいだね! 急ぐよ、みんな!」
その翼竜の希少種はこれまで、たった二度しか観測されなかった。ハンター協会でも僅かな目撃情報に留められていた存在。遭遇したハンターは、僅か三人だけ。それも一人が死亡し、知る者は二人。すなわち、黒鉄と蒼鬼。
ゲイムギョウ界を治める四人の守護女神と同様に、モンスターの生態系を治めている不老長寿の生態。その頂点に位置する、御神体のような存在。
金の鱗を持つ翼竜と、銀の鱗を持つ翼竜がルウィーの温泉街に襲来していた。火球を吐き出し、羽ばたきひとつで家屋を倒壊させるほどの被害を出しながら、咆哮を轟かせる。
応戦するハンター達が自分達の武器で二匹を迎撃しようとするが、鱗に弾かれて尻尾で薙ぎ払われていく。まるで歯が立たない。
周囲を見渡していた二匹が鼻を鳴らすと、ある方角を見つめていた。そして、その場から飛び立つと一瞬遅れて氷塊が降り注ぐ。
ルウィー教会からミナが魔法で援護しようとしたが、避けられたことに驚いていた。
そのまま二匹はあざ笑うように飛び立っていく。まるで災害だ。飛び立つ災厄は、まさに伝承にある通りの竜。
拠点を飛び越して、直接街に襲いかかってくるとは思いもしなかった。
温泉街の被害に、大魔導師がまた怒るだろうな、そう考えると憂鬱でしか無い。
「はぁ……」
とはいえ。
ルウィーの問題も収束点に向かいつつあった。押し寄せていたモンスターの群れは今となっては大魔導師が呪法兵装と共に押し返している。あとは時間の問題だろう。
ラステイションもケイからの話では女神政権に盛り返しつつある、とのこと。
となれば、残るはリーンボックスとプラネテューヌだけが気がかりだ。特に、これといって変化のないプラネテューヌは気にかかる。イストワールが上手いこと舵取りをしているからだろう。
まぁ元々女神が仕事しているのかしていないのか分からないようなお気楽脳天気な国だからそれも当然か……。そんな失礼なことを考えながらも、ミナはメガネを直した。
「モンスター観測所の皆さんが、あの二匹のことを追跡してくれているとは思いますが……」
しかし。あれを、ただの人間の延長線上であるハンターが討伐できるとは考えられない。
そうなれば、一刻も早く守護女神ホワイトハートの信仰の回復が急務となる。
「これからまた、忙しくなりますよ」
ニャー?
帽子をかぶったオトモネコルーの頭を撫でながら、ミナは静かに癒やされていた。
──リーンボックスでは、アルシュベイトがバルバロスと共に各地での戦闘に乱入してはかき回している。
その後をソルジャー部隊が追跡しようとすると武装企業の提携ロボット達が理由をつけて妨害していた。現政権と、一大軍事企業の対立。それは水面下ではあるものの、確かにゴールドサァド政権の失墜を意味している。それでも対抗策を練ろうとしないエスーシャに対する不満を抱きながらも人々は従うしかなかった。
ベールとネプギア、ニトロプラスの三人はギルドの仕事を片付けながらも教会の情報を探っている。なんとか忍び込めないか、どうにかエスーシャの気を引けないか、あれやこれやとホテルの一室で何度も会議を繰り返すが解決策は出ていなかった。