超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──リーンボックス奪還作戦の決行。アルシュベイトとバルバロス、フリーの傭兵達は各地に展開して武装蜂起の準備を万全に備えた上で待機していた。
あくまでも陽動を含めた威嚇。市民に危害を加えることが目的ではない。ゴールドサァドを黄金の頂まで誘導することが目標だ。
夜明けを望み、アルシュベイトが時刻を確認してハンドサインで号令を下す。それを合図に、バルバロスから傭兵達に向けて作戦開始のメッセージが伝達される。
《うーむ、致し方ないこととは言え……人様の国で内乱を起こすことになるとはな……》
少々心苦しいものはあるが、一国の危機だ。九十割大魔導師が悪い。
各地に展開していた傭兵部隊がそれぞれ号砲を鳴らす。リーンボックス国内の緊張感が一斉に高まり、それは武装企業でキャロラインも把握していた。
箱崎チカもモーニングの紅茶を口に含みながら気乗りしない様子で頬に手を当ててため息を吐いている。
「はぁ……よもや、このわたくしが国内テロの片棒を担ぐことになるなんて……」
「ですが、守護女神はそれに賛同の意を示しました。話はそれでまとまっているはずですが?」
「それとこれとでは話が違いますわ」
「こちらもゴールドサァドへ対する意見の用意は整っています。あとはこの調子で失脚させてしまえば、問題はありませんね」
「やり方がとても政治的で恐ろしい……」
「企業ですので。駆け引きとはこういうものです」
キーボードを操作しながら、キャロラインは各地の傭兵部隊の動きを逐一確認していた。
「──聞こえますか、ツイーゲさん。監視衛星の映像もこちらへ回してください。業務委託契約をしている以上、そちらも最低限の仕事はしてくださいね」
《了解ビル》
取って付けたような語尾に特にツッコミなし。キャロラインは淡々と映像を確認していた。
リーンボックス各地で突如起きた傭兵達のクーデター。表向き、ゴールドサァド政権へ対する不満が爆発したという形だ。ソルジャー部隊が鎮圧へ向けられる。当然ながら交戦状態へ突入していた。教会からの動きはまだない。
次々とソルジャー部隊が動員されていくが、街道で襲撃を受けたりと容赦がない。流石は軍事大国の国王だ。奇襲に待ち伏せの一撃離脱で増援の足を遅らせている。
「流石ですね。社長がライバルと認めるだけはあります」
戦力の分散と情報の混乱。それらを目的とした動きに傭兵たちは最低限の攻撃だけを加えて次々と場所を変えてフットワークの軽さを活かしていた。
キャロラインがモニターで交戦区域を指定してそちらへ向けて導入する部隊の選定を行う。後々の事を考えれば機動力が高い機体が良いだろう。予算も決して余裕があるわけではない。
「では、チカ様。後ほどこちらから教会へ向けて送迎いたしますので、それまではどうぞおくつろぎください」
「そうさせて頂きますわ。紅茶のおかわりの方をいただけますか?」
「かしこまりました」
ソルジャー部隊と傭兵部隊の交戦開始から三時間後、ベールにも出動要請がかかった。随分と遅かったことに疑問を浮かべていたが、それでも教会から直々に派遣命令が下ったことによってこちらも本格的に動き出す事ができる。居合わせていたネプギアとニトロプラスも顔を見合わせて、静かに頷いた。
「いよいよか……」
「とはいえ、これはまだ前哨戦。決戦は黄金の頂です、あまり序盤から飛ばし過ぎませんように気をつけましょう」
「はい。わたしもできるだけサポート頑張りますね」
「ネプギアちゃんのエールだけでわたくしは紅茶三杯はいけますわ!」
「ベール。あなた今朝飲んだ紅茶の数覚えてる……?」
「記憶にございませんわ。ひたすらにネプギアちゃんを愛でていたので、うふふ。さて、そんなことはさておき、いきますわよ」
「準備は万全です」
「昨日の内にダッシュで買い物に出ただけはあるからね……」
あの後、大急ぎで街に繰り出して旅支度を整えた。ホテルを出て、ベールは遊撃隊として動く形で他とは別に動き出す。守護女神であることを隠しているが、その実力はソルジャー部隊でも一目置かれている。共に行動しているネプギアに関しても、相方という見解だ。
「まずは手近な場所で、それなりに適当にあしらう形で戦闘に参加しますわ」
「そのついでに、向こうと連携できればいいんだけどね」
向かった先は、ダイアルゼブラ荒原。相変わらずの閑散とした荒野に乾いた風が吹いている。瓦礫や破片の除去作業が進められていたとはいえ、それでもまだ放置されたままのジャンク品があちこちに見えた。もはや錆びて使い物にならないだろう。
これをアルシュベイトが一人で立ち回って壊滅させたのだから、末恐ろしい国王がいたものだ。
「ベール、あれ。あそこ」
ニトロプラスが指を指した方角。ソルジャー部隊と五人組の傭兵達が交戦していた。武器を手にして急ぎ、合流すると、入れ替わる形でベール達が残る。負傷していたソルジャー部隊は輸送車両に乗り込んで撤退していった。それを確認すると、槍の穂先を突き付ける。
リーダーとして部隊を率いていたのは、ジェラルドだった。武装企業から離反してフリーの傭兵として活動をしている、という体裁で企業と共犯という可能性を薄める目論見は成功していると言っても良い。やりすぎとも言うが。
《何かと縁があるようですね》
「そ、そうですね……すいません、また厄介になりますね」
《いえ。こちらも気心の知れた相手というのは助かります。社長代理は現在、監視衛星でこちらの動きを逐一確認していますので》
「不要な手加減は怪しまれる、ですか」
《そうなります。ご安心を、こちらも旗色が悪いと見たら即座に撤退しますので》
ベールがジェラルドの率いている傭兵を盗み見る。
両手に盾を持った重量級の機体、火力優先のタンク型。武装のバランスがとれた二機。それぞれ緑と赤のカラーリングをしている。
《では、始めましょうか──》
「数はこちらが不利ですが……そういうことでしたら」
ベールが少ない信仰で女神化する。普段よりも調子は出ないものの、それでも数の不利を覆せるだけの能力は発揮できる。それにネプギアも合わせて変身した。
「わたくしも、全力で迎え撃ちます。ネプギアちゃん。ニトロプラスちゃん、いきますわよ」
「はい!」
「正直ロボット相手はしたくないけど、好き好んでもいられないか」
荒野で火花を散らすグリーンハートとジェラルド。パープルシスターも同様に空中を自在に駆けながら援護射撃と魔法で確実に戦況を後押ししていた。
ニトロプラスは手にしているレイジング・ブルマキシカスタムで装甲にダメージを与えている。衝撃で足を止めている間に再装填をすると、今度は脚部に向けて発砲することで二人の連携を補助していた。
数の不利をものともせず、それどころか逆に優勢を維持しているグリーンハート達から一度大きく距離を取るとジェラルドは撤退を選択する。時間稼ぎも十分だろう。
『──聞こえますか、ジェラルド? 少々イレギュラーが発生いたしました』
《聞こえている。どうした》
『現在、各地に展開している企業の部隊ですが何者かの襲撃を受けています』
《……ソルジャー部隊ではないのか?》
『いいえ。単機のようです、そちらも十分に警戒を』
《了解した。ジェラルド、撤退する》
グリーンハート達にカメラを向けて、静かに警戒を促すと部隊を引き上げる。
長槍を振り回し、深く息を吐き出したベールが女神化を解除した。
「どうやら、そう上手く事は運ばないみたいですわね」
「ベールさん。それなら、わたしが先に移動して状況を確認してきますか?」
「ネプギアちゃんと離れるのは心細いですが、お願いできます?」
ふと、ベールのスマホが震える。相手は武装企業社長代理、キャロラインからだった。
「はい、もしもし。ベールです、どうかされましたか?」
《こちら武装企業代表取締役代理のキャロラインです。先程の話はお伺いしているとは思いますがこちらで確認できている詳細情報を共有しておきます》
「助かりますわ。単独犯のようですが……」
《機体色はロールアウトカラー、まぁグレーですね。そして、四枚羽のユニットを装着しているアンノウンです》
「他には、どういった特徴が?」
《恐ろしく機動力が高いですね。三次元的な戦闘能力は、女神様たちの空戦能力に劣らないかと。それと教会でも動きがありました。エスーシャが護衛を連れて何処かへ移動を始めています》
「アルシュベイトは今、どちらに」
《沿岸地域でソルジャーの大部隊を相手にしているようです。お尋ね者というだけありますね》
「ではそちらへ向かっているのでは?」
《いいえ。どうやら進行方向から察するに……黄金の頂へ向けて移動しているものかと》
「なんですって?」
《手間が省けた、と喜びたいところですが。残念ながら、現状ですとアンノウンの撃破に手間取っている状況ですね》
武装企業の機体と傭兵達を相手にしていることから、教会から派遣された機体と考えていいだろう。しかし、こちらの動きが読まれているような気がしてならない。そのことにベールは不安感を覚えながらも、まずはその正体を探るべくパープルシスターを向かわせた。
「では、こちらは」
《業務に励んでください、こちらも作戦を変更します》
事務的な返答をされたものの、それが自分に対する信頼の裏返しなのだとベールは汲み取る。
社長代理、とはいえキャロラインは反女神派の一員だ。だが、仕事に私情は挟まないのか黙々と機械のように業務に打ち込んでいる。
「ベール、話はまとまった?」
「ええ。わたくし達はこのまま各地の戦闘に参加ですわ」
「そう。それはいいんだけど……」
「はい?」
「……この先、ずっと徒歩で移動するの?」
「急がば回れですわ。のんびりと参りますわよ」
緊張感のないベールの言葉に、ニトロプラスはレイジング・ブルマキシカスタムのトリガーガードに指を掛けながら器用にガンスピンを繰り返していた。
「ま、いいんだけどさ」
──黄金の頂に展開していた傭兵部隊は、アンノウンの襲撃を受けていた。混乱する戦況に、しかし相手が単機であることを確認して火力を集中させる。だが、加速してから急上昇。機首を反転させて再び急接近してくる。
両手に構えた二挺の短機関銃から繰り出される嵐のような弾丸を一点に浴びて傭兵が沈む。
《ダメだ、速すぎる! 捉えられねぇ!!》
身を低く屈めながら腰部のブースターで旋回しながら滑るように離脱すると再び爆発的な加速と共にレーダーから機影を見失う。一撃離脱、その対応が遅い機体から確実に仕留めていく姿は猛禽類の狩りだ。
《嘘だろ、冗談じゃねぇ! 三分で十六体が全滅だと!?》
黄金の頂に展開していた部隊は、ほぼ壊滅している。何が起きているのか、キャロラインですら把握できていなかった。ただ自分達に牙を剥く謎の勢力が存在しているということだけ。
そして、最後の一機も目前にアンノウンを捕捉して──突如、レーダーからロストする。目視で捉える他にないが、それでも機動力が桁違いだ。
第四世代、その最高傑作であるナイルスの機体と遜色ない速度になんとかライフルを向ける。しかし、あろうことか相手はスライディングするように潜り込んできた。
踵から展開する小型のチェーンソウが唸りを挙げてライフルと激しい火花を散らして切断する。蹴り上げながら、逆の脚を振り下ろすと腕部の接続部分を的確に削ぎ落とした。サブマシンガンを逆手に持ち替えて、両手の前腕部から更にチェーンソウを展開すると最後の一機の胴体へ向けて容赦なく突き刺す。
正面装甲を引き裂きながら伝導ユニットを裁断し、機体の中枢神経である駆動系統を停止させると間もなくしてシステムダウンした。
《──テメェは……! なんなんだ…………──、》
《…………制圧完了。任務続行》
ノイズが走り、映像が途切れていく中で見たのは。
腰部に接続されたブースターの可動式四枚羽。主翼と副翼が前進翼から後進に、ノズルをすぼめて加速して去っていく灰色の機影だった。