超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──各地で傭兵部隊の壊滅が相次ぐ。その報告をバルバロスから聞きながら、アルシュベイトは顎に手を当てて唸る。
《こちらの動きが読まれているのでは?》
《それにしては妙だな。それならば俺を真っ先に狙うはずだが……ふむ、教会に近い部隊から撃破報告がされているとなると──それでも妙な話だ。昨夜から教会に何か動きはあったか?》
《いいや、監視部隊からは何も……》
《これ以上戦力を減らされるのも問題だな。俺が打って出るぞ》
《正気か?》
《当然だ。作戦を継続する! 最終的な作戦目標は変わらん、バルバロス。ここは任せたぞ!》
《……言っても聞かん御方だ。了解》
大型片刃刀を担ぎ上げて、跳躍ユニットの推進剤残量を確認する。作戦開始前に十分補給もしておいた。武装企業の後押しもあり、その配分量も調整されて燃焼効率と熱量が改善された新型推進剤が役立っている。
港より離れ、各所に襲撃に備えるように連絡。同時に、襲撃された場合は速やかにアルシュベイトに報告する旨も伝えておく。
ベール達の目撃情報も加えて、現在はダイアルゼブラ荒原近辺から移動中のようだ。
今回の作戦、もし失敗した場合のことは考えないものとする。そうなれば、焼け野原どころの話ではない。
一定の高度を保ち、飛行しつつ自由落下からの着地。その衝撃を膝で和らげてから再び跳躍ユニットで身体を飛ばす。
アルシュベイトは移動の最中、敵襲に備えながらも相手の正体を考えていた。
教会の監視、武装企業からの報告でゴールドサァドの戦力は側近二名とソルジャー部隊。切り札と思わしき機影はシロトラかとも考えるが、敵対関係のはずだ。協力するとは考えがたい。
《ふーむ》
となれば、完全にこちらの把握していない戦力。確実に機体のコアを破壊していることから、機体特徴を踏まえている。戦闘経験豊富、状況判断能力。部隊を撹乱するような動きに、アルシュベイトは唸っていた。
──そう考えていた矢先、教会からエスーシャが移動を開始したという報告。
武装企業からチカが向かっていたはずだが、入れ違いという形になる。
『いかがされますか──?』
《キャロライン、どう見る》
『そうですね。相手方が切り札を持ち出してきたものと見るのが妥当かと』
《だが、一大軍事企業であるそちらにも秘匿したまま開発が進められていた機体とは考えがたい。それも教会から》
『その通りです。どこからそのような物を用意したのか、理解しかねます』
《これ以上の部隊の損害は無視できん》
作戦プラン通りとは言い難いが、そこで一つキャロラインが分析結果を見て考え込む。
『お待ち下さい、アルシュベイト様。ひとつ不審な点がございます』
《聞こう》
『撃破された部隊の場所。出現場所は教会近隣から真っ直ぐに黄金の頂へ向かっています』
《随分と的確な電撃戦だな。こちらの狙いを把握しているかのような──》
『だとすれば、内密者が?』
《いいや、その線はない。こちらで直前までの行動記録、無線記録も全て把握している。ゴールドサァドと接触した履歴はなかった》
『そうなると、やはり新たな脅威ですか……厄介ですね』
《戦場に不測の事態は付き物だ。やれるようにやるしかあるまい!》
黄金の頂周辺から目撃された情報を最後に、パタリとアンノウンの情報が途切れる。アルシュベイトはソルジャー部隊を蹴散らしつつ、ひとまず教会へ向かう。しかし、拍子抜けするほど防御の手が薄かったことにますますアルシュベイトが首を傾げていた。
こちらが先手を打ったはずなのに、後手に回っている。だが、エスーシャが黄金の頂へ向かっているというのなら好都合だ。
《バルバロス、そちらはどうだ?》
『異常なし。ソルジャー部隊との小競り合いはあるが、それだけだ』
《アンノウンの目撃情報は》
『武装企業で捕捉出来ていないのなら、こちらにも無理な話です』
背後から銃声が聞こえる。どうやら交戦中のようだ。
《俺はこれからエスーシャを追跡し、黄金の頂へ向かう》
『随分とこちらの予定をかき乱してくれている相手は?』
《対処は任せる。だが、可能な限り損害を抑えてくれ》
アルシュベイトが黄金の頂へ到着すると、ソルジャーによる防衛部隊が展開されていた。それを包囲する形で傭兵部隊が再展開しており、中には武装企業の機体も含まれている。キャロラインがすぐに部隊を動員したようだ。
その中で、ジェラルドが部隊の指揮を執っている。本格的に攻め込むまでもなく、あくまでも威嚇射撃に留めて拮抗状態を作っていた。
《状況は!》
《現在、一進一退の攻防が続いています。とはいえ、こちらも社長代理より貴方の到着を待てと指示されていましたので》
《良し。俺はこれより黄金の頂へ強行突破する! 支援を頼むぞ!》
《了解しました》
ソルジャー部隊にも援軍が到着したようだ。傭兵達の包囲網を突破して合流したのはベールとネプギア、ニトロプラスの三名だった。ここまでの傭兵達を蹴散らしつつ、相手をするのも最小限に留めている。お互いに余計な被害を出さないように立ち回ってきたが、それでもアンノウンの情報は持ち合わせていなかった。静かに目配せをして、小さく頷く。
黄金の頂の固く閉ざされていた門は開かれており、エスーシャが入り込んだのは一目瞭然だ。
《総員、構えぇいっ!!》
「ソルジャー部隊の皆さん、衝撃に備えて防御の用意を!」
《撃てぇぇぇっ!!》
傭兵と武装企業の機体による混合部隊から一斉に放たれる銃火器を魔術で防御していたソルジャー部隊は身動きを封じられ、その射線を妨げないようにアルシュベイトが助走を付けてから跳躍ユニットで頭上を飛び越える。一度見送り、それからベール達は顔を見合わせて頷いた。
「きゃーいけませんわー敵に侵入を許してしまいましたわー。わたくし達で迎撃しませんとー」
「恐ろしく棒読みなんだけど、大丈夫なの?」
「そういうわけですのでお先に失礼いたします皆様! これ以上敵の侵入を許してはなりませんわよ! ここが正念場、なんとか堪えてくださいませ!」
ソルジャー部隊がポカンとする中、それでも今は自由に動けるベール達に任せるしかない。
「不安しか無いが、任せたぞー!」
「ええ! さぁ行きましょうネプギアちゃん。ニトロプラスちゃん! そこの侵入者、お待ちなさーい!」
アルシュベイトの後を追いかけてベールが駆け出す。それに続いてネプギア達も黄金の頂へと突入した。
「よ、よーしお前ら! 此処で踏ん張るぞ! 頑張れー!」
銃声が鼓膜を叩き、耳鳴りがしそうなほど響く。色々と腑に落ちない点はあるものの、今はこの局面を耐え忍ぶしかない。
《撃ち方止め、各自突撃用意──!》
ジェラルドの号令に、傭兵達が身構える。
『ジェラルド聞こえますか? 緊急事態です』
《どうした》
『現在、アンノウンと思わしき反応がそちらへ急接近しています。かなりの速度です』
《接敵までどれほどの時間だ》
『もう間もなくです。貴方が撃墜されるとは考えがたいですが、十分気をつけてください。こちらも部隊に招集命令を出しておきます。それまで、なんとか持ちこたえてください』
《最善を尽くす!》
『──アンノウン、戦闘領域に突入!』
ジェラルドがレーダーにおぼろげに映る灰色の機影を視認する。
複眼の頭部カメラ。大きく張り出した肩部装甲に、腰部の跳躍ユニット。四枚羽の後退翼を広げて前進翼へ変形させると速度を落として着陸する。
《敵影確認、作戦開始──!》
《
黄金の頂内部へ突入したアルシュベイトは、ベール達の到着を待っていた。異様に静かな空間を見渡す。まるで無限に広がっているかのような場所に、懐かしさを感じていた。
「うふふふふ、あはははは、お待ちになって~」
《うむ、俺は此処だ! 想定外の事態はいくつかあったが、結果オーライとしよう!》
「アルシュベイトさん。チカさんは?」
《武装企業へ聞いてみなければわからんな。だがソルジャー部隊も大半はこの塔へ集結させられているようだ。傭兵達も戦況次第では早々に撤退するように指示を出してある》
「本当に今日中にはなんとかなりそうな勢いね」
《当初より、そのつもりで動いていたからな。入念な下準備が功を奏したというべきか》
大魔導師の一言がなければ、もう少しこちらも丁寧な立ち回りとやり方があったというのに。本当に敵でも味方でも大迷惑な相手だ。
「しょぼん……」
「ど、どうしたんですかベールさん?」
「ツッコミが無いのが寂しいですわ……」
「確かに、エヌラスさんだったら──」
──こんな状況下でふざけてる場合かテメェベールこの野郎! 人に物頼む態度か!
「……ぐらいは、いいそうですけれど」
「そうですわね」
《エヌラスの容態は気がかりだが、こちらをなんとかしないことには始まらん。エスーシャを追うぞ、ベール。ネプギア。ニトロプラス》
「わかりました。それにしても、このタイミングでどうして此処に先回りする動きをみせたんでしょうね」
《ふむ。確かに不可思議ではあるが、こちらとしては作戦の前倒しという結果となった》
大幅な時間短縮に感謝しながら、アルシュベイトが先陣を切り塔の中を進む。
中にはモンスターの一匹もいなかった。離れた足場から足場へ飛び移りながら深部に。
転送装置を起動させ、階層を移動すると何者かが一際大きな足場で待ち構えていた。
何者だ? 網膜ユニットで人影を拡大して……拡大して……拡大、して──アルシュベイトは全てを察すると同時に、新たな疑問に襲われた。
突然頭を抱える機人に、ベール達が気にかける。
「どうかしましたか、アルシュベイト?」
《…………俺は悪い夢でも見てるのだろうか》
「ロボットなのに夢を見るの? 電気羊とかの?」
《たまに崖から落ちる夢を見たりするが》
「あれ、身体がビックリするからあんまり見たくないのよね。その気持ち、分かるわ……ってそうじゃなくて。なんでそんな生々しい夢見るのよアンタ、ロボットなのに」
《ロボットではなく機械人類だ。そんなことよりも、ベール。かなりマズイことになった》
「どうかしましたか」
打って変わって、すっかり尻込みしたようなアルシュベイトの言葉にベールが気持ち真剣な面持ちで長槍を構えた。
《あそこに──》
言葉を遮るように、声が張り上げられる。遠くにいるというのに、その声はハッキリと耳に届いた。ハツラツとした怒号に空気が震える。
「来ーるーのーが、遅いッッッ!!!! 貴様何処で何をして油を売っていたぁっ!!!」
「…………」
それは、他でもなく。
アルシュベイトにとって天敵であり、抑止力であり、恋愛対象であり、敬愛すべき女神に他ならぬ、軍事国家アゴウ守護女神。
剣姫が、腕を組んで威風堂々と仁王立ちをしていた。傍らには日本刀が地面に突き立てられている。完全に、臨戦態勢でベール達を待ち構えていた。