超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
スピカとカルネの二人が用意したティーセットからは芳醇な紅茶の香りが漂い、応接室を彩る。ブシドーにだけは抹茶を差し出された。
「気遣い感無量。かたじけない」
胡座をかいて床に腰を下ろすも、やはり腰に差した刀だけは離そうとしていない。
スピカの後ろ腰にもホルダーに収められたクリスヴェクターがある。カルネも脇に差した朱い太刀は鞘に収められていた。
「あ、美味しい……」
「喜んでいただけたようで何よりです」
「それで――四人はどういう集まりなんだっけ?」
パカーンとカルネの頭がトレイで叩かれる。
「お客様ですよ、カルネ」
「別に気にしてないからいーよー、スピカ。私達もそっちの方が気楽に話せるし」
「だってさー、スピカ。もうちょっと気楽にいこうよ。エヌラス様だって久しぶりに帰ってきたんだし」
「そうは言われましても、カルネほど頭が悪くないもので……困りましたね」
はぁ、とため息を吐いて一言謝罪を挟んだ。
「……む、この茶葉……」
「あら、お気づきになりました? なんでも、ブシドー様が来訪されたら振る舞うようにとエヌラス様から言伝を預かっていた茶葉でございます」
「ふむ……悪くない。悪くないぞ……」
自然と頬が緩んでいたブシドーに、何とも言えない大人の渋さを感じてノワール達は顔を背ける。破顔するとあんなにも穏やかな顔をするのかと意外な一面を見た。
「……では、私達から茶飲み話を一つ。よろしいでしょうか」
「はい」
プルルートが茶菓子のクッキーに手を出して一口。頬に手を当てて喜んでいた。
「まずはエヌラス様とご同行いただいていること。従者として感謝させてください」
開口一番、スピカが深々と頭を下げる。
「あの方はご自宅を空けることが多く、その留守を預かっている身分である私達にはあの方の安否を知る術がありません。いつご帰宅なされるのかも。アダルトゲイムギョウ界が全面戦争の渦中にあるとあっては……もしかすれば二度と帰還されない可能性もあります」
「この世界がこうなった直後、全面戦争の火蓋が切って落とされ、それから一週間足らずで一度エヌラス様は他の国王全員同時に相手してますしねー」
「えぇ!?」
「ですが、ご帰還なされた時には自らの能力をほとんど失っておりました。その
それでも、ようやくひとつ取り戻したのだ。二挺拳銃の能力。クトゥガとイタカを。
「はいはーい。質問! エヌラスが変神するのにエッチするの必要なのっていつから?」
「そうですね、そちらは能力を失った頃からです。本人もその不調は確信が持てず私達で試しましたが、結果はイマイチでしたね」
「前戯はすごかったけどね~。本番はもっと――」
「ちぇいさっ」
カルネがカーペットに沈んだ。
「コホン。失礼を。それでユノスダス国王と一夜を共にしてからそのことに確信を抱いたようで難儀しておりました」
「あ、エヌラスってユウコとエッチしてたんだ……知らなかった」
しかし、そう言われるとあの二人の関係にも納得がいく。それでもウブな反応のユウコと違ってエヌラスは平気な顔をしているが。
「だからエヌラス、ユウコの国をあんなに必死になって……」
「いえ、あれはあの方の性分です」
「へ?」
間の抜けた声を挙げるネプテューヌに、スピカが困ったようにため息を吐く。
「妹君の一件から続けざまに、恋人。ひいては大魔導師様との件もありまして」
「エヌラス様、誰かを守ることに躊躇がないと言うか……誰かを愛することができなくなっちゃったのよねー……特定個人、というか誰か一人を」
「あの方も狂ってしまった一人なのです。そこをどうかご理解ください」
深々と頭を下げる二人に、ネプテューヌ達が顔を見合わせた。誰かを愛することができなくなったと言うのなら、あの蜜のような一夜はなんだったのだろう。そう言いたげに。
「不憫よの、国王も……哀れを通り越し、憐憫の情すら湧かぬ。アレは最早、己の心を預けることが出来るものがおらぬからな……己の手で、殺したのだ。愛憎必殺――それをもたらしたのは大魔導師様であった」
身を焦がすほどの愛があった。心を焦がすほどの憎しみがあった。それを諸共に自分の手で殺した。殺さざるを得なかったのだ――。
「今では、自棄になっておられる。その様ががむしゃらに思えてならぬのだ。一目見れば分かるとも。アレは死に場所を求める幽鬼、悪鬼の類と落ちぶれておる」
「それでも“諦めない”という信条がある限り、あの方の心が決して折れない限り、道を踏み外さない限りは歩き続けるでしょう」
「死に場所を求めながら、世界を救おうと戦ってるっていうの……矛盾してるわ」
「はい、ノワール様の仰る通りでございます。自己矛盾と自己嫌悪の板挟みの中で、かつて友と呼んだ者達と刃を交える。とても正気の沙汰とは思えません」
「だから、さ――」
「ですので、どうか」
スピカとカルネが深く頭を下げる。それは、主人の安全を第一に願う従者の鑑として。完璧なまでに作法に則った一礼であった。
今、主の心を支えているのは少なからず目の前にいる彼女たちなのだから。彼女達だけが主人を救えるのだ。
「エヌラス様を」
「私達のご主人様を」
『どうか、よろしくお願い致します』
「……改まって言われるまでもないよ。ねー、ネプギア、ノワール、ぷるるん」
「そうね。もうここまで来たらとことん付き合うつもりよ」
「はい。むしろ、私達の方がお世話になっちゃってるって言うか……」
「助けてもらってばっかりだからぁ~、いいよ~」
「……ありがとう、ございます。感謝の極みですわ」
「ウルッときちゃった……やだ、もう」
目尻に浮かぶ涙を拭って、二人が改めて会釈する。
「では、今夜はとっておきの晩餐を用意いたしますわ」
「楽しみに待っちゃっててねー。残したら承知しないよ!」
「ホント!? それじゃー楽しみに待ってるね!」
「お茶のおかわりや茶菓子のおかわりはございますか?」
「そうね、じゃあ紅茶のおかわりお願いできる?」
「かしこまりました」
「それと、もしよろしければお屋敷のご案内もさせていただきますが……」
紅茶のおかわりを注ぎながらスピカの進言は願ってもない。ネプテューヌ達は頷いた。
「では、カルネ。ご案内の方をお願いします」
「はいほーい。じゃあスピカはご飯の用意お願いね。こっちも案内終わったら行くから」
――エヌラスは執務室で溜まりに溜まった書類の山と向き合っていた。その量たるや尋常ではない。向こう一年は書類整理にかかりきりになるのではあるまいかという書類地獄を前にして頭痛がするも、一枚一枚確認してサインしていく。その内容は八割方が被害報告。近況報告。街の状態に関するもの。内政に至ってはほとんどノータッチだった。犯罪国家。それは要するに合法的な手段では成り立たないからこそ、他国では非合法とされる手段すら用いて経済を回すということ。それがいつしか「犯罪をしても良い」という認識で広まってこのような状況となってしまっている。だが、これはこれで良いものだ。毎日千単位で人が死んでいるが概ね問題はない。生きた人間よりも死体の方が有用性がある、とはエヌラスの言葉。
「ん、第八区画の転換炉の不調か……」
転換炉――要するに焼却炉のようなものだが。肉体的、物質的だけでなく霊的にも肉体の持っていた質量を別なモノに変化させて有機溶媒として活用している。絵面だけなら地獄絵図だが食料として振る舞われ、飢餓問題の解消にも一役買っていた。勿論、振る舞われている側の難民には一切情報を伏せている。
九龍アマルガムは、危ういバランスで奇跡的な均衡を保っていた。魔術結社同士の衝突。マフィアの抗争。正面衝突。秘密結社の儀式による被害や自動人形の暴走や違法改造によって起きる人的被害はそれこそ未曾有の大事件だ。それがランチセットのドリンクばりに気軽さで執務室に放り込まれてくる。ぶっちゃけ知ったこっちゃねぇ。
市民の起こす暴動や国民の起こす事件は放っておけば市民同士、国民同士で解決する。要は。自分のケツは自分でどうにかしろ、ということ。正直それで成り立っている。国王がアレコレ禁止令出したところで自国の経済の首を締めるだけで何一つ得をしない。もちろんそれらを取り締まる自治体も存在する。ブシドーがその一人だ。
幹部構成わずか七名。末端構成員は数知れず。
誰が呼んだか、対魔導超常管理自治団体『アサイラム』――その幹部達がひと暴れするだけで九龍アマルガムが傾く。とはいえまともに働いているのはブシドー程度だが。それですら日々の食事の為に最低限の仕事をするだけで、残りはもっぱら剣を究めようと精を出している。
エヌラスは書類にサインを繰り返し、一息入れた。一山の中腹辺りまで減らして、身体を慣らす。凝り固まった部位がゴキバキと折れてるんじゃねーのって音をあげているが気のせい気のせい。時計の類は置いていない為、腹時計だけが唯一の頼り。師、曰く『時の流れに身を任せると時の流れに肉体と精神は支配される』とのこと。時間超越とか出来るのテメーだけだよ、とは何度思ったことやら。その為、エヌラスの部屋には時計は置いていない。
執務室にノック音が響いた。入ってくるのは三人の自動人形のメイド達。
「失礼しま~す、ご主人様ぁ。書類です」
「失礼するッスよーご主人。書類追加ッス」
「失礼を。ご主人様、こちら本日分の書類をお持ちしました」
「ぬわぁぁぁぁぁん疲れたぁぁぁぁんもぉぉぉぉう!!!」
ドサッ。ドサッ。バッサァ!
追加で持って来られた書類の山が三つほど増えた。