超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
グリーンハートとパープルシスター、ニトロプラスの三人を相手にしても一歩も引く気配のない剣姫にはほとほと驚かされるが、今は時間に余裕がない。新型の義体を使いこなすゼロワンの攻勢に押されながらもアルシュベイトは考える。
《……他に手がないか。ベール、ネプギア! ニトロプラス! ここは俺に任せて先に行け!》
「死亡フラグですわよ!?」
《案ずるな、すぐに追いつく!》
「死亡フラグですわよ!?!?」
《そう簡単に死ぬものか、俺にはまだやるべきことがある!》
「死にたいんですか!?」
《フラグは重ねて叩き折るものだ!》
なんだろう、この説得力。力強くサムズアップして見せる姿に顔を見合わせて、グリーンハートとパープルシスターの二人は剣姫から大きく離れる。
不退転の進撃。その強靭強固な戦闘行軍にはこれまで不可能とすら思われるものを可能としてきた。ならば今回も……、こちらも一刻の猶予もない。
「わかりました。ここは任せますわ!」
「ならアタシが残るわ。流石に一人分くらいは働くわよ」
「いいんですか、ニトロプラスちゃん」
「女神様の足手まといよりはこっちのほうがまだマシそうだし」
《うむ、それは心強い! ならば仕切り直しだ!》
長刀で打ち合っていたアルシュベイトとゼロワンが離れ、剣姫も刀を床に叩きつけるように刺して腕を組んでいた。
「応、そういうことだ! ベール、ネプギアは通ることを許可してやる! だがアルシュベイトは通さない! お前だけは今この場で全力を持ってぶん殴る!」
「……ねぇ、アンタ何をしたらあんなに怒られるの?」
《俺は国を空けていただけだったのだが――》
武装企業からの依頼を受けて、アゴウの資金援助の足しにでもなればと思っていたのだが、それがここまでの大事に巻き込まれることになろうとは考えもしなかった。
「思い当たる節、それしかないの?」
《うぅむ……御姫はことあるごとに怒るからな。戸棚の饅頭が期限切れになっていたから捨てても怒るし、勝手に寝室を片付けても怒る。それに着替えを畳んでおいても怒る》
「アンタは世話焼き女房か!」
ともかく、人一倍とんでもなくワガママハイスペックお姫様。
「それは貴様が悪いんだろうが! おれは自分のことくらい自分で出来るわ! だと言うのに貴様ときたら、あれをやっておいた、これをやっておいたと人より先に仕事をしおってからに! ズルいぞ! おれだって世話を焼きたいのだ! だというのに、おれの! 仕事が! ない! 暇を持て余す他にないのだぞ、わかるか貴様!」
《お、おおう……》
それ、今関係ある? ニトロプラスは口にはしなかった。なぜなら致死量でぶん殴られそうだったから。隣のゼロワンもなにか言いたげな挙動をしているが腰が引けている。
「えー、と。話がいまいち見えてこないんだけど。つまり、そこのお姫様は、このアルシュベイトに対して怒りを覚えているわけでしょ? 何が原因なの?」
「む、なんか貴様はエヌラスの奴に似ているな。それはそれでよし」
「……やっぱそいつ、出会ったら殺しとくべきかしらね」
《落ち着け》
「話を戻すと。単刀直入に言ってしまえば、貴様がいないと寂しいだろうが!」
間。
……。
…………。
…………マ?
「え、本気で言っているの? たったそれだけ?」
「俺は本気で言っている!」
「……それだけで一国を陥落させられそうな作戦立案って、愛、重いわね」
《御姫は常に全力だからな……掃除をすると言ったら城全部やる。料理をすると言ったら全員分やる。仕事をしろと言えば全部片付ける》
「うんわかった。一言だけ言わせて――アンタら加減しろバカ」
これだから脳まで筋繊維でできているような体育会系は。ニトロプラスは心底呆れていた。だが自分も首を突っ込んだ手前、このまま引き下がるわけにはいかない。
《お、おう……それは、その、なんだ……すまなかった、御姫》
「今更謝罪したところでこの穴埋めはどうにもならんだろうがこのバカめが! どうしてくれる! 何だったら夜も寂しいだろうが、あのエヌラスですら今は瀕死の重傷。面会謝絶となっているのだぞ! 貴様、唯一無二の
《むっ、それを言われては俺も引き下がれん。言葉を交わすよりも》
「拳で語る!」
剣姫とアルシュベイトが無手で打ち合う。それを尻目に、ニトロプラスはゼロワンへ駆け出していた。付き合っていられるかあんなスポ根。こっちはまだまともだ。
「アンタも大変、ね!」
《慣れました》
慣れって怖い。レイジング・ブルマキシカスタムをリロードしながらニトロプラスは短機関銃の連射を避けていた。相手のリロードに合わせて距離を詰める。
緋太刀を振るい、長刀と火花を散らした。
その刀剣と銃器に、ゼロワンが複眼型網膜ユニットを調節する。
《……その銃と刀、どこで?》
「刀は拾った。銃は知り合いから」
《よく似た武器をエヌラスも使っています》
「あ、そう」
《
その言葉に、ニトロプラスが目を細める。
「ぴーしー大陸よ。ゲイムギョウ界には大罪人を追って来たの、アンタは軍事大国アゴウでしょ」
《こことは異なる次元に存在します》
「あ、そう。地元じゃ守護女神なんて存在しなかったから珍しいと思ったのよ」
《アダルトゲイムギョウ界にも、本来守護女神は存在しませんがね》
「…………ちょっとまって」
鍔迫り、一度は離れた二人が再び刃を合わせて顔を迫らせていた。
「じゃあ、あの御姫様は何なの?」
《奇跡の御神体、としかお答えできません。アルシュベイト様も神格者――つまりは、女神に匹敵する力を持ち得る者として一国を治めています》
「例のエヌラスってやつは」
《同様に。事情は異なりますが》
「……知ってること、洗いざらい話してもらうわよ」
大型跳躍ユニットで宙へ逃れるゼロワンに向けて、ニトロプラスはシューズの踵を合わせて仕込んでいた合当理を起動させて追いかけた。
《なに!?》
「お腹減るからあんまりこれ、使いたくないんだけど――!」
自分の熱量を消費して稼働させる合当理は長時間は使用できない。早々に決着を見込みたいが、速力は相手のほうが上だ。それでも旋回性能は身軽なニトロプラスにある。となれば、迎撃する手段は限られる。
「すぅ――、一意専心!」
緋太刀を収め、黒漆塗りの打刀を持ち出す。腰に帯びて柄を握り、集中。
距離を突き放したところでゼロワンが拡張装備を持ち出す。
《その間合いでは――》
「……残念ね。こちらの間合いよ」
大型支援火砲を向ける相手に、手元から紫電が奔っていた。
「
それは。その構えは、まさしく他でもないエヌラスが用いてきた超電磁抜刀。
「
光速の抜刀術。相手は避けられるはずがない――そう思い、放った必殺の一撃だったがゼロワンはそれを大型支援火砲を投げ出すことで間一髪、直撃を逃れた。今度はニトロプラスがそれに目を見開いている。
「――な、嘘でしょ!? あれを予見できたとかアンタどんだけ修羅場くぐってきてるの!?」
《それは、こちらも同じこと……》
回避には成功したが、それでも急激な機体の方向転換に間に合わせの接続部が悲鳴を挙げていたことでゼロワンは姿勢制御しながら着陸した。
右腕と右舷の跳躍ユニットが加電圧によって不調を訴えている。これ以上の戦闘継続は困難だ。
「ちょっと、答えてもらうわよ。あれを初見で避けられるやつなんていなかったんだから。まるで
《……知っているも何も》
「うむ、アレはエヌラスの奴も全く同じ技を使っているからな」
「――――はぁあああぁぁぁあああ!? 意味わかんないんだけどぉぉぉおおお!?」
ニトロプラスの絶叫が響き渡る。それは怒りからくるものだった。
「アレで撃墜する自信あったんだけど……」
《なんなら俺も出来るぞ》
「おれも似たような技はできるな」
「アンタらは黙ってなさいよ! もう驚かないわよ、何なの! アタシの地元じゃないんだから機人変神の集まりしてんじゃないわよ! あー、もーやってられないわ! こんな馬鹿げた喧嘩なんてお開きよお開き! パーティー・イズ・オーバー! 馬鹿騒ぎもここまでよ馬鹿! いつまで惚気の乱痴気騒ぎやってるつもりなのよ一国一城の主とその女神ともあろうものが!」
「お、おぉぅ……頭ごなしに怒鳴られるとは……」
《なんだかキレ方がアイツそっくりで懐かしい気分になる》
「いいから正座ぁ!!」
ブチギレたニトロプラスの怒号に、アルシュベイト、剣姫、ゼロワンの三人が並んで正座する。機人にとって関節部にかかる負荷が高いのでなるべく長時間維持したくない体勢ではあるが、相手の怒りを治めるには従うしかなかった。
「そんっなくだらない理由でリーンボックスにまで攻め込んできた挙げ句にゴールドサァドと協力して時間を無駄にしたわけ、アタシ達の!? 一国の未来がかかっているこの状況下で!? 大概にしなさい、サァドインパクトでも起こしたいってなら話は別だから今ここで切腹して! 介錯は任せておいて、慣れてるわ。痛みは一瞬よ」
「よくわからんがすまんかった」
「そう思うならちょっとは周囲の被害を考えろ!」
「そうは言われてもな。協力者という体で情報を引き出して肝心のものを提供したのだから帳消しということにならまいか?」
「な ら ん わ よ!」
「難しい……」
《その、なんだ。ニトロプラス。御姫も反省している。説教は程々に頼む……》
「アンタが言えた義理か!」
《俺とて大魔導師の催促がなければもっと方法を選んでいた》
「――なんて?」
《……? 方法を選んでいた?》
「違う。その前」
《
その名前に、なにか思うところがあるのか。ニトロプラスは目を細めていた。
「……黄金の闇。黙示録の獣。稀代の魔術師。前代未聞の大罪人……誰が呼んだか、大魔導師。ぴーしー大陸から忽然と姿を消した、覇道論者」
《?》
「アタシの知っている人物像なら――“神を造ろうとした男”として、存在を消されたはずよ」
「…………その話こそ、詳しく」
腰を浮かせようとした剣姫だったが、アルシュベイトの緊急回線に話が遮られる。
《失礼する。こちらアルシュベイト、どうした》
『――、ベイ――アルシュ……――』
《通信状況が悪い。繰り返せ》
『―――サッ――…………こちら、武装企業。キャロラインです――本社、……強奪――』
《何があった。要点のみ述べろ》
『――シロトラ――……乙女――……強奪――注意を――………………』
ノイズが酷い。だが、キャロラインが告げようとした言葉を繋ぎ合わせると答えは出てくる。
「どうした」
《恐らく、武装企業本社をシロトラが襲撃した。何かを強奪したようだが……こちらも警戒しておくべきだろうな》
「はぁ……次から次へと。本当にゲイムギョウ界は飽きないわね。アタシの前で次喧嘩したらジャンクにするわよ」
《肝に命じておく。ひとまず謝罪を。俺が悪かった》
「だがおれは謝らない! 全部こいつが悪い!」
《そうですね、アルシュベイト様が悪いと思います》
《今回の一件は俺に非があるものとして受け止めよう》
「なら、さっさとベール達を追いかけるわよ。これ以上時間を無駄にしてられないんだから」
ニトロプラスの言葉に、剣姫達は頷いた。
相手は執政に興味がないとはいえ、現リーンボックスの統治者ゴールドサァドの一人であるエスーシャだ。二重人格であることはアルシュベイトも知っているが、そう都合よく話が進めばこちらも苦労しない。
シロトラが姿を現した以上、確実にこちらの妨害をしてくるはずだ。
武装企業本社から強奪したものが何であれ、守護女神の天敵であり女神抹殺を掲げた狂信者は放っておけない。